パンの話
人類が初めてパンを作ったのは7000年くらい前だと言われている。そして初めてパンを私が作ったのは40年くらい前。小学六年生か五年生。学研の教育雑誌「科学」の付録にパンを作るキットが付いていた。「科学」はこの春に終了したが昨年までパン作りのキットは継続していた。あれで初めてパンを作った子供も多いんじゃないか。
私のキットに小麦粉が付いていたか覚えていない。科学少年だった私は顕微鏡も持っていたので発酵する酵母の状態を調べたことは覚えている。確か丸い発泡スチロールの簡易な容器だったと思うが、その中で元気な酵母の力で小麦粉は膨らんでいった。さてと、ここでオーブンなんてものはない。
雑誌「科学」もそこは承知の上。昭和な時代である。蒸せ、と。なるほど。さつまいもをふかす要領で蒸した。パンは、できたと言っていいのだろうか。餡の入っていない饅頭はできた。後に中国の花巻(参照)というものを知るようになるが、餡なし饅頭ができてしまったことで、悔しいとは思わなかった。なるほどこうすればパンはできるんだとわかったことのほうが嬉しかった。イースト入れればいいんだ。
中学生のころか高校生のころか、無水鍋というものが流行した。昭和50年代である。調べてみると、今でもあるようだ(参照)。厚手のアルミの鍋で、ダッチオーブンをアルミでなんとかしてみましたといったような代物。無水というくらいで水を使わない。蒸すんじゃないということ。要するにオーブンの代用品である。当時はご馳走だと見られていたローストチキンもできる。パンも焼ける。無水鍋の売り文句にもそんな話があった。
少年の私は早速スーパーマーケットで箱入りのドライイーストを買った。箱の裏には簡素にパンの作り方が書いてある。適当に真似すればパンはできるだろう、らんらんらん。やってみるとできた。餡の入ってない餡パンである。らんらんらん。かくして私の人生に手作りパンが寄り添うことになった。
そもそもの動機は科学実験である。それほどパンが食いたいというものでもない。パンはうんざりするほど食べていた。国鉄の駅には国土交通省令でミルクスタンドの設置が義務化されていた時代だ(嘘です)。パンを囓って牛乳で流し込んで満員電車に乗るのが昭和という時代だ(本当です)。いや今でもちゃんと秋葉原駅のホームにある。パンと牛乳の店。新宿駅のはいつから無くなったのだろうか。
青春を超えてパン作り実験は続く。そもそも人類はそんなに難しいパンを作っているわけはないという仮説のもとに、いろいろ試した。天然酵母どころではなく、空中から酵母の採集もやった。できるものだった。後にアンデルセンでパンを作っている人にその話をしたら感動していた。
自分としては自然に独自のパン・ド・カンパーニュはできるようになったし、一人暮らしを始めたころには鍋焼き方式は完成していた。パン生地を使えばパイのようなものもできるので、パンプキンパイを作り、職場のおばさんに配って喜ばれた。今度はクッキーを焼いてねとか言われた。分野が違うんだが。
粉から作るパスタとイタリアパン 北村光世 |
旅先ではできるだけパンを食う。感動したパンはマルタ島のだった。パン・ド・カンパーニュに似ているが、違う。素朴で、これがパンなのかというしみじみとした味がした。あれはどうやって作るのかと、マルタに近いイタリアのパンとかも調べた。関連で「粉から作るパスタとイタリアパン 楽しく作っておいしく食べる(北村光世)」(参照)が面白かったので、この手の話に関心のある人にはお勧めしたいが、どうやら絶版になってプレミアム価格が付いている。
プロのための わかりやすい製パン技術 |
今でもパンは自分で手作りする。でも、たいていはベーカリーマシンを使い、自分で捏ねたりはしなくなった。酵母もあれこれということはなく、サフのドライイーストを使う。ブリオッシュを作るのは以前は抵抗があったけど、東京暮らしになってから作ることがある。つまり、ちょいとしたお菓子も作ることもできる。もうクッキーだって焼いちゃうし。
パンを作ることは、私にとっては米を炊くのと変わりない。ただ、以前は米を電気釜で米を炊いたが今は鍋で炊き、パンは以前は鍋で焼いていたが電気パン焼き器で焼いている。
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コメント
ただいま、先日ご紹介いただいた「サンドイッチ」の本研究中。
で、「粉から作るパスタとイタリアパン」は現在「復刊ドットコム」で投票中ですな。
投稿: とおりすがり | 2010.05.01 22:40
エジプトで、小麦粉をこねて放置しておいたらできたのがパン生地の起源で、大麦に水を浸して放置しておいたらできたのがビールの起源なのではなかろうかとおもいます。
たぶん、ある意味でパンとビールは親類関係の食品なのではないかと考えます。
そういう意味では、日本酒となれずしも親類関係の食品なのかもしれません。
今後の発酵産業の未来は、酵母と稲のゲノム解析の結果をいかに有効利用するかにかかっています。もしかしたら、シロイヌナズナのゲノム解析結果も利用しないといけなくなるかもしれません。
投稿: enneagram | 2010.05.02 07:57