米国不良資産救済プログラム(TARP)はまずは成功した
ブログではポールソン砲とおちょくったものだったが、米国の不良資産救済プログラム(TARP: the Troubled Asset Relief Program)は成功したらしい。私には経済の詳細はわからないし、なぜか邦文ニュースでは今ひとつ要領を得ないのだが、世界経済の危機と言われた危機に米国の経済政策は適切に対処してみせたということのようだ。
10日付けウォールストリート・ジャーナル記事「米政府の救済コスト予想が大幅縮小」(参照)はこう言及している。
ほんの数カ月前にはゾンビのように見えた企業が息を吹き返し、金融危機の間にライフラインとして注入された資金の返済に向かうなか、救済コストの予想額は以前の試算のごく一部まで縮小している。不良資産救済プログラム(TARP)、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦住宅局(FHA)による融資保証、連邦準備理事会(FRB)による住宅ローン担保証券(MBS)の買い取りやコマーシャルペーパー(CP)市場てこ入れの資金を含めた費用は890億ドル(約8兆2900億円)になりそうだと財務省当局者は語る。
関係筋によると、同省当局者らは政府管理下にある保険会社アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)でさえ1年以内に公的資金を返済できる可能性があるとみるなど、楽観の度合いを強めており、同社に対する80%の出資を引き揚げる方法を議論している。AIGは510億ドルに達するとみられる資産売却などで、公的資金を返済する見通しだ。
もちろん明るい話ばかりではなく、こういう言及もある。
しかし、多くの専門家は、より広範な政治・経済的影響の大きさは、直接の救済コストの比ではないと語る。米が景気停滞を脱却には何年もかかる公算が大きく、政府の債務は膨らみ、税収は失われ、金融危機の影響で政治的混乱が増幅するという。
たとえば、米政府は金融市場や住宅市場に対して今も支援を続けざるを得ない。また、支援先企業の自立という明るい傾向にも大きな例外がある。1259億ドルの直接注入を受けたファニーメイとフレディマックは、数年にわたり国庫に依存しそうだ。両機関に対する政府の信用枠は無制限だ。
それにしても日本のバブル崩壊後のような悲惨なことにはならないように見える。
より端的な評価を示したのは、1日付けのワシントン・ポスト「No one likes TARP, but it's working」(参照)だった。日付は四月馬鹿といったところだが、内容はそうではない。
In short, for all its shortcomings, TARP has fulfilled its chief purpose: to stem the panic-induced collapse of a banking system that -- contrary to much conventional wisdom -- was indeed salvageable without total nationalization. The only fair measure of TARP's costs is in comparison to the costs of the averted collapse. And by that measure, it was a bargain.手短に言えば、多くの欠点を抱えつつ、TARPは主要な目的を達成し終えた。パニックが引き起こす銀行システムの崩壊を食い止めた。しかも、賢い対応とされてきた慣例に反して、銀行を完全国有化することなく救済したのだ。TARPの損失を公平に検討するなら、崩壊回避の損失との比較になる。その観点からすれば、安価で済んだよい取引だった。
日本の大手紙は米国の経済危機に銀行の国有化しかない、素早くすべて国有化せよと論じた。だが今となって見れば、TARPの成果として、完全国有化の回避が挙げられている。
銀行の国有化は、税であったり、低金利の押しつけであったりして国民の利益を損失させる。日本はそれを行ったが、米国はTARPによって回避できたということなのだろう。
もちろん、日本でも可能だったはずだというほど単純な話ではないにせよ、米国の経済政策ははるかに日本より健全だったとは言えるのではないか。日本はといえば、迷走のあげく、巨大銀行をさらに国有化してしまった。
ワシントン・ポスト社説の結語は示唆に富む。
There is another lesson here: TARP was a bipartisan policy. Conceived by a Republican administration, it passed Congress with votes from both parties and has been implemented mostly by a Democratic administration. When the country faced imminent disaster, political leaders suppressed ideology and partisanship -- and acted, in the national interest. If only they could apply some of that same spirit to problems before they reach the crisis stage.ここにはもう一つの教訓がある。TARPは超党派的な政策だった。共和党が考案し、議会を二大政党で通過させ、その大半を政権交代後の民主党政権が実施した。国家が差し迫った災害に瀕したとき、政治指導者はイデオロギーと党派制を抑制し、国益の視点で活動した。政治に危機が迫るときには問題に同様の対応ができればよいのだ。
米国はブッシュ政権下で策定されたTARPを政権交代後のオバマ政権が踏襲した。両党が協調して経済危機に立ち向かった。日本でいうなら、麻生政権の経済政策を民主党がきちんと引き継ぐか、あるいはこんな時期に、危機も考慮されていない古びたマニフェストをごり押しする政権交代とやらを我慢するべきだった。実際、民主党が取ってきたまともな政策は、「自民党麻生政権のゾンビと化した民主党鳩山政権: 極東ブログ」(参照)で述べたように、麻生政権の政策を引き継ぐだけだった。
彼我の差は泣けるほどである。経済危機に立ち向かう政治家・経済担当者の気迫これほど違うのかと思う。いや、それが能力の差ということなのではないか。
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コメント
>彼我の差は泣けるほどである。経済危機に立ち向かう政治家・経済担当者の気迫これほど違うのかと思う。いや、それが能力の差ということなのではないか。
↑いや、たぶん、国民から借金しているか、外国から借金しているかの違いでもあろうかと思います。
それに、東南アジアの通貨危機でも、韓国の通貨危機でも、IMFがひどいことをしてますから、アメリカは、自分が弱り目になったときの海外からの報復を、心の底から恐れているのだろうと思います。
投稿: enneagram | 2010.04.20 15:08