フィナンシャルタイムズ曰く、日本の夜明けは間違いだったぜよ
エープリルフールのネタを晒しておくのもなんだが、日本の政治的な状況は冗談よりひどいことになってきていて話題に詰まる。こうなれば毒皿喰わんか的状況だ。ついでなんで、先月28日のフィナンシャルタイムズ社説「Japan’s false dawn(日本の間違った夜明け)」(参照)にも言及しておこう。ようするに、フィナンシャルタイムズ曰く、日本の夜明けは間違いだったぜよ、である。
よく言うよな、昨年の選挙前は、「フィナンシャルタイムズ曰く、こりゃギャンブル : 極東ブログ」(参照)だったのだが、と思うに、このくらいでないと英国的な政治感覚は身につかないなのかもしれない。
改心したふうのフィナンシャルタイムズ社説だが、すでにgoo ニュース「日本の夜明けは勘違いだった」(参照)として翻訳が上がっている。
日本国民が昨年8月の選挙で自民党を政権の座から追い出した時、その主な目的は、50年間にわたる自民党の権力独占を終わらせ、民主党にチャンスを与えることだった。国をぬかるみから引っ張り出してもらうため、有権者は民主党にチャンスを与えたのだ。
しかし、日本の有権者には実はもう一つ別の思惑があるのではないか。内外のアナリストたちは揃ってそう勘ぐっていた。もうひとつの思惑とはつまり二大政党制の誕生だ。これまで受け身に徹していた有権者に、政治思想的に競い合う政党のどちらかを選ぶという、本物のチャンスを与える仕組み。期待以下の働きしかしない政権を(半世紀よりも短い周期で)追い出す機会を、有権者に与える仕組み。そういう仕組みの誕生を、有権者は期待していたのではないか。当時はそう思われていたのだ。
いわゆる「お灸」論だ。
しかし、フィナンシャルタイムズ社説もこの先で、しかし二大政党を担うべき自民党がぼろぼろになってしまったと匙を投げる。が、その割に結論は自民党にがんばれとエールを投げているようでもある。
この状況を簡単に解決する手軽な方法などない。しかしもし自民党がここでシャンとするならば、民主党も否応なくしっかりするかもしれない。そうすればせめてもの出発点にはなる。There are no quick fixes to such a state of affairs. But if the LDP could get its act together, it might just force the DPJ to do the same. That, at least, would be a start.
前段がなくgooの翻訳だけだと"such a state of affairs"の語感が伝わりにくい。また、"get its act together"は、「シャンとする」というより、自民党内ごたごたはやめれ、の含みだろう。"such a state of affairs"は何か。前段はこうある。
しかし日本の経済力が心許ないことになりつつある時、とりわけ台頭する中国などの大勢力に打撃を受けている時、そうした政党の在り方は、断固とした決断力あふれる行動をとるには不向きだ。But it is not conducive to decisive action at a time when Japan is drifting economically and buffeted by greater forces, notably the rise of China.
中国の台頭により、日本は経済的な方向性を見失っている。中国からの荒波の影響を受けている。これが現在日本が直面している問題であって、それには「民主党役に立たねー」ということが日本の状況である。フィナンシャルタイムズは毎回愉快なネタを提供してくれるだけではなく、きちんと日本の問題も見抜いている。
話が後方検索みたいになっていくが、なぜ日本がこんなひどいことになったのか。
政治思想がくっきり鮮明化することを期待する人もいたが、それは日本には不向きなことなのかもしれない。文化が違うからだなどという説明の仕方は要注意だ。しかし、日本がほかの民主国家と比べて人種や宗教の分断、ひいては階級の分断さえ少ない、合意重視型の国であることは間違いない。日本において政党は、社会福祉 vs 健全財政、近隣諸国との友好 vs 強固な日米同盟――などといった明確な政治思想の違いをもとに成り立っているというよりは、個人的な人間関係や、力と金の取り引きをもとに成り立っているのだ。それはそれでいいだろう。Japan may be ill suited to the sort of ideological clarity that some hoped for. One should be wary of cultural explanations. But it is true that Japan remains a consensual society where divisions of race, religion and even class are smaller than in many other democracies. Political parties are less about clearly defined ideologies – social welfare versus fiscal rectitude, a “good neighbour” policy versus a strong US alliance – and more about personal relationships and the brokering of power and money. That’s fine so far as it goes.
日本特殊論といった文化的な説明や、日本単一民族論といった妄言はどうでもいいとしても、"a consensual society"という傾向は日本にあり、政治的な力学の大きな要因でもあるだろう。いや日本の内部からすれば、国民的合意なんてものはまるでない、民主党はただあらぬ暴走しているだけと見えなくもない。
それでも日本の政党という点で見るなら、政治思想なんてものは皆無だ。自民党にも民主党にもなんの政治思想もない。あるのは、元大蔵事務次官斎藤次郎・日本郵政社長と民主党小沢幹事長と亀井静香郵政・金融担当相といった"more about personal relationships and the brokering of power and money(個人的な関係と権力や金のブローカー的お仕事)"で成り立っている力学だけだ。自民党から民主党へ政権交代したが、そこは何も変わっていない。しいて違いがあるとすれば、カネと権力に関係なさそうに装っていた社民党も同じ仲間だったねというだけのことだ。
どうしたらよいか。マスコミが好きな清廉潔白な政治や、リーダーシップ論に逃げ込むのではなく、理路としては、きちんと市民が政治にまさに政治思想を求めるしかない。さしあたって私は、小さな政府を要求していきたい。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
すいません、最後のそれ、間に合いますかね?
ネット上では半分はこうなるんじゃないかと囁かれて、
だから民主党は止めとけという空気だったのに、
実際は圧勝した挙句この地獄でしょう。
しかも、混乱が始まってからもうかなり時間が経ちます。
別エントリのコメントでもありますが、
もう一般国民に政治を任せるのは駄目なんじゃないでしょうか?
自分だけ生き残れればいいと思っているのが大多数なんだから、
そんなのに政治が出来るわけないじゃないですか。
そんな風に思います。
投稿: rabi | 2010.04.02 22:28
逆に、これから自民党に入党しようとする人は、どんな目論見を持っている人だったら成功するのでしょうね?
投稿: てんてけ | 2010.04.02 23:57
この混乱を見て、有権者も馬鹿ではないから、良い勉強をするんでないでしょうか。これを仕掛けたメディアは、どう落とし前をつけるのかな。
投稿: charlestonblue | 2010.04.05 10:02
> 有権者も馬鹿ではないから、良い勉強を
「自分だけは違う」と気取るつもりはないんですが、私はこの前提を信じるだけの根拠を持っていません。メディアは落とし前を付けない、このままグダグダが続く、というのが私の当分の予想です。その先に何があるのかあまり考えたくないけど、もう自分と家族の生き残りを考えるだけで精一杯かも。
投稿: | 2010.04.06 12:48
> 有権者も馬鹿ではない
民主に入れた人の目論見は知りませんが、
現状を見てるとバカにしか見えませんな
投稿: trs117 | 2010.04.06 19:48