« リシャルト・カチョロフスキ(Ryszard Kaczorowski)元ポーランド大統領 | トップページ | 韓国海軍哨戒艦「天安」爆沈、その後 »

2010.04.13

タイ流血衝突

 10日、タイの首都バンコクで、反政府デモ勢力と治安部隊が衝突し、ロイター通信の日本人カメラマン村本博之さんを含め21人の死者と900人近い負傷者を出す流血の惨事となった。私はここまでの事態は想定していなかったのでやや驚いた。
 抗争の背景には、現アピシット首相を支える、対外勢力とも結びついた既存財閥及び官僚、都市中間層、さらに王室もこちらに近いと見られる既存勢力の黄色の派、民主化市民連合(PAD)に対して、タクシン元首相を支持する新興財閥勢力に地方農民や都市貧困層を加えた赤の派、反独裁民主戦線(UDD)との利害対立がある。が、そこまでは従来通りで、なぜ事態がここまで悪化したについては十分な説明にはならない。
 おそらく過激な動向への変化には、バンコク週報「戦術を巡りUDD内で対立か」(参照)が指摘するように、UDD内の分裂から戦術変更が関係しているのではないだろうか。


 UDD首脳部は、ベテラン政治家のウィラ氏やチャトゥポン・タイ貢献党議員らのグループ、カティヤ陸軍少将やパンロップ・タイ貢献党議員らのグループ、非合法組織・タイ共産党の幹部だったスラチャイ氏やチャクラポップ元首相府相らのグループで構成される。
 現在の反政府デモを陣頭指揮しているのはウィラ氏らのグループだが、平和的な手段に固執する同グループは、カティヤ少将やスラチャイ氏らが過激な手段に訴えるべきとの主張を変えないことから、この2つのグループと決別することになったようだ。

 日本側の公開された報道からはよく見えてこないし、仮定に仮定を重ねる議論は危険だが、この「過激な手段」に銃器類の使用も関係しているかもしれない。現実問題として、銃器類が使用されたために惨事が発生した。
 普通に考えれば、中国の天安門事件でも明白なように、銃器類を使用するのは政府側であり、今回もアピシット政権側が強行な行動に出たか、末端が暴走したかにも思える。ただ、暴走と見るにはやや広範囲な印象もある。また、アピシット政権が強攻策に出て鎮圧できると見なすメリットは、状況から考えると少ない。
 政府側の報道では、銃器類の使用がUDD側であることを仄めかしている。産経新聞系IZA「タイから消えた「ほほ笑み」 軍とデモ隊衝突、21人死亡 負傷者800人超に」(参照)より。

 一方、政府のパニタン報道官は11日の記者会見で、衝突では政府が持っていない武器や催涙弾が使われたと指摘。デモ隊に奪われた銃器類もあるという。調査委員会を設置し、メディアなどから映像の提供を受けた上で詳細を調べるとした。

 現状では、政府側に銃器使用がなくUDDのみ使用したとの想定はできない。だが、UDD側に銃器を使った闘争への変化があれば、問題を見る枠組みは変わってくる。
 毎日新聞社説「タイで日本人死亡 真相究明が最優先だ」(参照)では亡くなった村本博之さんの死因解明を次のように政府側に求めている点で予断を含んでいるようにも思われる。政府側からの対応はそれ自体政治的な色合いを持つだろう。

この密接な両国関係を考える時、村本さんの悲劇の経緯は極めて重要だ。撃ったのは誰か。流れ弾か意図的なものか。意図的な銃撃ならばその狙いは何だったのか。こうしたことをぜひとも明らかにする必要がある。タイ政府の誠実な対応を強く求めたい。

 今後の推移だが、今朝の大手紙社説がこぞって民主主義的な解決を求めるとし、選挙管理委員会の主張も踏まえ、アピシット政権側に選挙のやり直しを求めるというふうにも受け取れる主張をしていたが、選挙を実施すれば恐らくタクシン派、つまり、UDD側が勝利することになるだろう。アピシット政権としては、その趨勢がある内は、「民主主義」的な流れには変わらないだろう。
 加えて今回は、恒例でもあった国王の仲裁も、国王の高齢化や権力の複雑さから難しいようだ。また、対外的な勢力による介入的な動きもないようだ。さらに気になるのは軍の動きだが、全体としては現状冷静な対応しているように見える。
 アピシット政権が取り得る最適戦略は、ある種の引き延ばしではないだろうか。それ対して、UDDがどこまで強攻策を維持できるかという均衡がある。強攻策は現状ではアピシット政権を追い詰める成果となっているが、ある地点からは孤立化に向かうだろう。
 おそらくUDDの強攻策がタイ国民的に受け入れがたいという妥協点でアピシット政権の妥協も含めての現政権継続となるのではないか。

|

« リシャルト・カチョロフスキ(Ryszard Kaczorowski)元ポーランド大統領 | トップページ | 韓国海軍哨戒艦「天安」爆沈、その後 »

「時事」カテゴリの記事

コメント

今タイで起きていることは、数年後の日本で起きることかもしれません。

東京で都市暴動が起こる可能性はあるかもしれません。今の行き詰まりが来年くらいまでにずいぶん解決されなければ。

投稿: enneagram | 2010.04.14 07:16

釈迦に鉄砲

投稿: | 2010.04.14 09:46

>今タイで起きていることは、数年後の日本で起きることかもしれません。
それはありません.自衛隊が自民党支持者に武器をながしますか?
自民党政権が,あるいは民主党政権がタクシン政権のように自国民の大量殺戮をしたかあるいはしますか?

投稿: | 2010.04.14 20:57

>今タイで起きていることは、数年後の日本で起きることかもしれません。

ねーよ。

なんかもうタイもキルギスも「ユース・バルジ」の一言で説明つけちゃえば、いいんじゃねーか?

投稿: | 2010.04.15 15:52

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: タイ流血衝突:

« リシャルト・カチョロフスキ(Ryszard Kaczorowski)元ポーランド大統領 | トップページ | 韓国海軍哨戒艦「天安」爆沈、その後 »