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2010.04.07

トルコ・アルメニア問題の背景にあるナブッコ

 トルコとアルメニアの関係が改善の方向に向かうかに見えた、昨年10月の両国の国交樹立と、関係発展の合意文書の調印だが、その後、頓挫している。批准の見込みもない。これにナブッコの問題が関係しているようだ。
 トルコとアルメニアの関係のもつれについて、トルコ側背景の一端については、先日「トルコが脱世俗国家へと変貌しつつあるようだ: 極東ブログ」(参照)でもふれたが、やっかいな「アルメニア人虐殺」(参照)問題がある。現状蒸し返しのようにも見えないことはない。アルメニア側も一度はトルコに歩み寄ったものの譲りがたい思いがあるようだ。批准についてもアルメニアから率先して行いたくはないとしている。
 7日付けの"Radio Free Europe / Radio Liberty"というサイトでは、アルメニアのサルキシャン大統領は、「トルコとの歴史認識のすりあわせなどナンセンスだ」という見解を報じている(参照)。アルメニア側は相当に硬化している。
 トルコとアルメニアの関係悪化をどうするか。ニュースを見ていくと、両者の間に欧州連合(EU)が入り、和解推進を求めている動向がうかがえる(参照)。フランスに訪問しているトルコのエルドアン首相に、フランス、サルコジ大統領がアルメニアとの対話を呼びかけているという報道もある(参照)。トルコとアルメニアの関係については、EUとしての問題意識も強い。
 EUが和解に入る動機は、ニュースからはっきりとは見えてこない面もあるが、ナブッコが関連しているようだ(参照)。

 ナブッコ・ガスパイプライン・プロジェクトは、カスピ海沿岸国の天然ガスをアゼルバイジャン、グルジア、トルコ経由で欧州に輸送するEU主導のエネルギー構想である。重要なのはこの供給ルートが完全にロシアを迂回することだ。欧州がエネルギーでロシアにグリップされないための安全保障という側面が強い。ちょうど原油に対するBTCパイプラインの天然ガス版とも言える。ただし、原油は港を得れば、後はシーレーンが確保されればコモディティ化するの対して、天然ガスの場合は、消費地に直結する必要があり、より地政学的な問題が関与してくる。
 ナブッコ・プロジェクトは2011年着工、2014年の稼働を目指しているが、80億ユーロに上ると見られる建設費調達のめどは立っていない。加えて、その重要ルートに、このトルコとアルメニアの問題が関連してきていた。直接現在のアルメニア領土内ではないが、「パチコフ: 極東ブログ」(参照)でふれたアルメニア人住民に関わるナゴルノ・カラバフ紛争の問題である。
 昨年秋までは、トルコとしてもアゼルバイジャンの友好国として、アゼルバイジャン領内に存在する、アルメニア系住民「ナゴルノ・カラバフ共和国」の問題の和解を目指していた。もともと民族的な背景として、アゼルバイジャンの多数民族を占めるアゼリー人はトルコ系であるということがある。
 しかし、アルメニア側は、虐殺問題に加え、「ナゴルノ・カラバフ共和国」問題でも譲らない状態になってきたようだ。これがまたトルコを硬化させる影響にもなっている。結果、ナブッコ・プロジェクトが安定せず、EUがやきもきしているという構図のようだ。
 ナブッコ・プロジェクトだが、当初からロシアは不快なものと見ており、昨年の5月、妨害の意図から、アゼルバイジャンから天然ガスの全量買取りを提案している。トルコの硬化はロシアにとってメリットがある。
 またこの地域の地図を見るとわかるが、イランもまたアゼルバイジャンから天然ガスルートを求めており(参照)、トルコへの入り口がイランとなれば、欧州がエネルギー面でもイランにグリップされかねない事態にはなりうる。

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コメント

天然ガスの相場は、現在低迷しており、LNGスポット価格はガスプロムのEU向け販売価格を下回っています。

で、この状況下で、ナブッコパイプラインプロジェクトは、流動的な状態です。最大の原因は現在の天然ガス価格の低迷により、ここにパイプラインを通しても採算に合わない可能性が高いこと。それより先に、バクーの採掘が軌道に乗っておらず、未だにこのパイプラインで送るべきガスが採掘されていないことです。

実際、EU側はナブッコに対しては冷淡です。各国政府機関からの融資は全く見られません。民間資金は集まらないため、資金のめどはたっていません。

投稿: F.Nakajima | 2010.04.08 00:12

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