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2010.04.26

民主党鳩山政権はなぜ失敗したのか

 民主党鳩山政権はなぜ失敗したのか。いや、まだ失敗していないという意見もあるかとは思う。普天間飛行場の撤去の問題でも、あっと驚くような展開があるかもしれない。いやすでに鳩山政権にはなんどもあっと驚いているのだが、端的に言って、ここまでひどい事態は想定できなかったという驚きのほうだった。どうしてここまでひどいことになってしまったのか。民主党の政治手法そのものに原因があると思う。
 鳩山首相のリーダの資質に問題がある、といったことを大手紙やマスコミは指摘するが、私は、構造的な問題が一番大きいと思う。構造というのは、政調を置かなかったことだ。
 この問題は、高速道路新料金制度を巡るごたごたのなかで前原国交相が明確に指摘した。TBS「前原国交相、政策決定過程の再検討を」(参照参照)より。


 6月から始まる高速道路の新しい料金制度にからみ、前原国土交通大臣は政府与党の政策決定について、あり方を再検討すべきだという考えを示しました。
 「システムの問題として、政策調査会がないことが、こういった問題につながるのだと思う」(前原誠司 国交相)
 前原国土交通大臣は高速道路の新しい料金制度について、党側の要望によって見直す、見直さないと方針が二転三転したことについて「政策調査会があればわざわざ政府と党の首脳会議で個別政策について話すことはない」と指摘しました。
 また、前原大臣は「小沢幹事長が政府に注文をつけるのも政策調査会がないことに起因しているのではないか。もう一度、政府と党の間で政策調査会の是非を議論していただけるとありがたい」と述べ、政策調査会の復活も含め、政策決定のあり方を再検討すべきだという考えを示しました。

 民主党が政調を設置しなかったのは、同ニュースでも触れているように、族議員が跋扈する自民党政治への反省からだった。

 民主党は自民党政権時代、族議員が介入することで政策がゆがめられてきたという問題意識から、小沢幹事長の主導のもと、政策決定を政府に一元化する方針を掲げ、党の政策調査会を廃止しました。

 政調を置かないことが政治改革につながるのだという意見は、民主党の元立法スタッフだったトバイアス・ハリス氏など、政権成立後ですら強く支持していた。ニューズウィーク日本版ブログ「民主党の政調復活は時期尚早だ」(参照)より。

 2月17日、民主党の生方幸夫副幹事長や田中真紀子元外相ら衆院議員有志が鳩山由紀夫首相と小沢一郎幹事長に対し、「政策研究所」の新設を要請した。昨年9月の政権交代を機に廃止していた政策調査会に代わる党独自の政策立案機関を求めたかっこうだ。
 しかし鳩山も小沢もこの提案を即座に却下。民主党政権に欠点はあるものの、「政策決定の内閣一元化」に真剣に取り組んでいることははっきりさせた。
 政府の役職に就いていない一般議員が、政策面で一定の役割を担いたいと嘆願せざるを得なかったのは、政策決定プロセスを変えようとする鳩山政権の努力が----少なくとも与党の関与を減らすことに関しては----奏功している証拠だ。官僚ではなく政治家主導の「イギリス型政治」への移行で失うものが最も大きかったのが、彼ら一般議員だ。


 今後もこのままでいくべきだ。鳩山政権が日本の直面する問題を解決する際には、内閣の背後で独自の政策を作成したり、売り込んだりする議員の存在を心配することなしに政策を策定しなければならない。
 党内に新しい政策立案機関を作れば、アンチ鳩山政権の官僚に情報をリークする手段を与えることになる。これは内閣を弱体化させ、民主党議員の分裂も招きかねない。鳩山政権が閣僚たちを党の方針に従わせることに苦労している現状を考えれば、政策立案機関の設立は事態をさらに混乱をさせるだけだろう。

 しかし、事態は逆になった。政調の不在が民主党議員の分裂を招いている。なぜ民主党の政策決定一元化が機能しなかったのか。答は、高速道路新料金制度を巡るごたごたを見れば明白である。
 政策決定は政府ではなく、党側の最高権力者小沢一郎幹事長に集約されており、彼が矛盾した二律背反の要望を出しているからだ。これも前原国交相が指摘しているとおりだ。NHK「国交相 民主党要望は二律背反」(参照)より。

高速道路の新たな料金制度をめぐっては、民主党側が、近距離での利用者にとって実質的な値上がりとなり、政権公約で掲げた高速道路の原則無料化の方針と違うとして修正を求め、政府側と党側の意見の違いが表面化しました。これに関連して、前原国土交通大臣は、閣議のあとの記者会見で、「去年の末に民主党から、高速道路の建設を促進するために見直しを組めという要望をいただいて、今回法案を提出した。当然ながら料金割引の財源を高速道路の整備に充てると、割引は減ることになる。要望しておきながら料金が上がってはいけないと言うのは、二律背反のことを言っているわけで、われわれは方針どおり進めさせていただきたい」と述べ、現時点では高速道路の新たな料金制度は見直さず、予定どおり6月から実施する考えを強調しました。

 小沢氏としては、選挙に勝つためにはなんでもするという明確で一元的なポリシーを持っているのだろうが、国民が影響を受ける政策としては支離滅裂な状態になる。
 今となっては、政調の不在は、小沢独裁のための装置でしかない。政策決定は政府に一元化するとの建前から、政務三役が民主党側と政策会議で検討しても、機構上、党との合意にはならない。このことが、現在小沢氏の暴走を止めることを不能にしている。
 当初はそうではなかったはずだ。政府に一元化される政策決定は国家戦略局が担うはずではなかったか。しかしすでに国家戦略局は実質不在である。
 さらにその根には、マニフェストの実質的な不在がある。すでにぼろぼろになってしまった民主党のマニフェストだが、そもそも的確に練り込まれたものではなかった。NHK時論公論 「政権公約と与党の責任」(参照)で影山日出夫解説委員は、民主党の理想の元になったイギリスとの対比をこう述べている。

 マニフェスト発祥の地とされるイギリスでは、政権公約そのもの、とりわけ根幹に関わる部分が途中で修正されるということはあまり例がないということです。イギリス政治に詳しい専門家の話を聞きますと、理由の1つは、政権公約の作成にあたって徹底した党内論議が行なわれていることです。与党・労働党の場合、政府と党が一体になった検討チームが政策分野ごとに作られ、選挙まで2年間かけて繰り返し議論が行われます。原案は外部に公表され、専門家の意見も聴取した上で、最後は党大会で採決に付されます。
 このようなプロセスをたどっているので、公約の実現可能性については事前にきちんとしたチェックが入りやすい。党内のコンセンサスが出来ているので政策を実施に移す段階で政権の中がガタガタすることも少ないというのです。
 これに対して、民主党が衆議院選挙で示した政権公約は、一部の関係者の手で作られました。中身がオープンになったのは投票日の1か月前。早く手の内を見せると選挙にマイナスだからという理由でした。党内には財源案に不安があるという声もありましたが、選挙戦の流れの中に呑み込まれてしまいました。今回も、前提となるべき去年の予算編成の総括が行われないまま時間が過ぎ、先月になってようやく党の体制が出来ました。政策調査会が廃止されたため、この作業のために急きょチーム編成が行われたのが実情です。

 民主党のマニフェストは一部の関係者が密室で短時間に作り上げたものでしかなく、そもそもが矛盾をはらんでいた。なにより予算編成の総括ができなかったツケが現在に回っており、これに政調廃止も関係している。
 民主党側のマニフェストがダメな代物であることは選挙前にこのブログでも指摘したが、外部的な指摘ではなく、民主党内の時系列で見ても明白になる。2005年では、民主党は次のようなマニフェストを掲げていた。「民主党:岡田代表がマニフェスト重点項目「日本刷新・8つの約束」を発表」(参照)より。

■1〈ムダづかい一掃!サラリーマン狙いうち増税なし〉
 衆議院定数80の削減、議員年金廃止、国家公務員人件費の2割削減等、3年間で10兆円のムダづかいを一掃します。

岡田代表「まず『隗より始めよ』だ。国会議員がまず自らの身を切るところから始め、歳出削減の努力をする。同時に、国直轄の公共事業の半減や公務員人件費削減では国民の皆さんにも犠牲を強いることになる。国民の覚悟がなければ歳出削減はできない。理解と協力を求めていく」


 2005年から2009年になってもマニフェストは練り込まれていなかった。実際に政権を取ってみたら、ムダづかい一掃はできなかった。事業仕分けは、その捻出額を見ればほぼ失敗であったことは明白である。現在第二弾として継続されている事業仕分けは、猪瀬直樹氏が指摘しているように(参照)、特殊法人から12兆円引き出せると誤認した枝野行政刷新相の辻褄あわせのパフォーマンスであろう。
 増税なしも逆になった。菅財務大臣は「増税しても使い道によっては景気が良くなる」と増税を語り出している。

■3〈コンクリートからヒト、ヒト、ヒトへ〉
 公立学校改革に着手し、月額1万6000円の「子ども手当」を支給します。

岡田代表「仕事との両立がかなわない、あるいは経済的な理由で、産みたくても産めないと言う人たちの悲痛な声が、与党にはきこえていないのではないか。月額1万6000円のこども手当は、ヨーロッパの水準から見ればけっして高いものではない。われわれは財源の裏付けも持って、この制度を必ず実現することを約束する


 2005年では、子ども手当は「財源の裏付けも持って」として月額1万6000円と明記されていた。実際に財源を当たってみると、それより劣ることになったが、2005年ではまだ実情に近い数値でもあった。
 今回のマニフェストでなぜ財源論が消え、しかも給付額が増えたのだろうか。その説明を私は探したが、小沢幹事長がえいやと決めたという噂くらいしか出てこなかった。

■8〈本物の郵政改革~官から民へ〉
 郵貯・簡保を徹底的に縮小し、「官から民」へ資金を流します。
 郵便局の全国一律サービスは維持します。

岡田代表「小泉首相の郵政民営化法案はきわめてあいまいで実現不可能だ。郵便局のネットワークを維持するという話と、100%郵貯・簡保を民営化し、民間が自らの判断で採算の合わないところは当然撤退できることになることは明らかに矛盾する。この矛盾について、小泉首相は全く説明していない。同時に、同じ法案を出しても参議院でもまた否決されることは明白。首相は、参議院でどうやって可決させるのか具体的な道筋を国民に明らかにする責任があり、そうでなければ(法案成立の公約は)絵に描いた餅にすぎない」


 郵貯問題はまったくの逆になった。
 2005年の民主党マニフェストを評価していた人なら、2009年の民主党マニフェストを理解できるわけなかっただろうし、民主党を支持してきた人なら、郵政改革が完全に反故にされた時点で、民主党を支持できるはずもない。
 政調の意図的な不在と国家戦略局の不在は、マニフェストの矛盾によってさらに増幅されてしまった。
 鳩山首相は嘘つきであるとも批判される。しかし、政策面に限れば、それ以外のものを求めることは構造的にも無理があった。

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コメント

他の人も指摘するかもしれませんが、
>>郵政改革が完全に保護にされた時点で
反故ですよね?

投稿: てんてけ | 2010.04.26 17:49

てんてけさん、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.04.26 18:14

終風先生、民主党がどれほど駄目で、支離滅裂で、政策破綻しているか、なんてことを、どれほどしつこく、詳細に解明しても、すごく非生産的ですよ。

それより、なぜ、不世出と言っても過言でない、卓越した実力を有する大女性歌手の坂本冬美の大成功がこれほど遅れたのか、とか、なぜ、いまになって坂本冬美がこれほど成功し、注目を集めているのか、とか、そういう話を詳細に原因究明していくほうが、未来に対して、ずっと生産的だろうと思われます。

投稿: enneagram | 2010.04.27 11:01

書く人の立ち位置で意見が分かれる、参考にはならない。

投稿: | 2010.04.27 11:24

マニフェスト選挙なんか掲げるからいけないんであって…
マニフェストなんて、現状を踏まえた上で、それに対してどう対抗策を打ち出せるかで競うものではないですか?
しかし、時の政権が(地方行政もそう)情報を出さなくて、実態をいわばパンドラボックスにしてしまっているから、いざ、中に入ってみると想定していた現実との差がありすぎて、思うように動けない。そりゃそうだ。
マニフェストなんて単なる空論に過ぎないということ。
マニフェストが活用できるようになるにはもっと開かれた政治→そんなの無理だね┐(´-`)┌

投稿: ravat | 2010.04.27 11:36

要するに、政策が政局の道具でしかないってことでしょ?

投稿: | 2010.04.27 12:50

 民主党について

 民主党の失敗はすべて甘い見通しにあると思います。

税収がここまで下がるとは思わなかったとか、素人みた

いな政権です。そもそも先が見通せるなんて思っている

こと自体が間違ってるし、それで大風呂敷を広げたのだ

から、危ない政権です。

野党なれで不確実性に対する経験がなく、その概念がほ

とんど無いに等しいので、パニックに陥り自滅していく

可能性が高いと思います。

リスク管理が出来ない人たちに政権をたくすのはリスク

が大きすぎると思います。

投稿: ちひろ | 2010.04.27 13:49

小泉があんなやり方で郵政選挙で300取った反作用としかいいようがないと思ったりします。
その後の政権があのgdgdで、国民の疲弊が表になったのと小沢就任後の路線との歩みがあった。

単純に無駄と財政赤字を減らして福祉を充実してほしいのが国民の「二律背反」した望みなので、検察審査会の結果と同じく「この国民にしてこの政治あり」というのを体現しただけでしょう。

投稿: lc | 2010.04.27 18:07

そもそも民主党は政権交代が目的の人工政党ですからね。ただそれだけを理由に有象無象が寄せ集まっていたような状況を改善する事なく目的を達成してしまったので、党内がバラバラなのはある意味必然だったのでは。

投稿: Cyhyraeth | 2010.04.28 14:29

何の為の事業仕分け?民主党のしている事は国民の地方の生きる権利を奪うやり方でしかなく.こんな馬鹿な事を続けるのなら鳩山さんのあいまいな発言や小沢さんのお金に関する事を解決して.そしてまず議員の改正をしてから行うべきだ。地方分権で国会が外交と防衛に専念すれば仕分けと言う無駄な作業は必要はない、それとも国会議員で在り続けたいのなら話は別、それなら民主党解散すべき!

投稿: ただお | 2010.04.29 00:19

赤字だ借金だそして無駄をはぶくと民主党は言っているが元々自民党が作った借金だと批判する民主党のやり方は働く意欲を無くし学生の働く意欲を無くし国民そして地方の生きる権利を奪うもの。何故無駄と言う言葉だけでいろんな事業を切るのか。先ずは地方に権限を移動させれば国の役割が決まって来て財源が確保しやすくなるのに権力だけで二大政党と言うなら民主党には期待しない。

投稿: ただお | 2010.04.29 10:43

政調を設置すべき意見はごっもともだと思います。設置しなくても考えに考えたうえで民主党議員には発言をしてほしいと思います。

 民主党の中心にいる議員でこれですから、悲しくなってきます。

 このままだと口先だけの党と国内だけでなく国外の信頼も完全になくしていくのではないかと心配です。

 また来ます!!
 


 

投稿: hotsushi | 2010.04.29 14:33

民主党に期待した国民が馬鹿だった。事業仕分けで10分20分の説明でどう分かるのか会社研修会でも半日かけなさいと国からの指示があるのに今レンホウ議員がテレビに出ていますが寝言は寝てから言えと思う日本は潰れます。民主党は国民の生きる権利さえも奪うやり方僕は許さない。事業仕分けをする時間があるなら事業の開発を考えろこの仕事がない苦しい時に地方を苦しめるな馬鹿野郎。

投稿: ただお | 2010.04.29 17:55

民主党さん事業仕分けもいいけど仕事の出来る環境、会社が採用しやすい環境を提供して下さい。仕分けをされた人の今後の支援は有りますか?仕分けしていて人が解雇されても知らん顔はないと思います。解雇された人の次の仕事を探してあげて始めて効果があると考えます。

投稿: ただお | 2010.04.29 18:21

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