キルギス、バキエフ政権崩壊、雑感
キルギス政権が崩壊した。このところ中国のウイグル経由のガス・パイプラインの動向(参照)を見ながら、このパイプラインがキルギスを迂回していることを考えていた矢先だったので、驚いた。

昨年7月23日、同国のクルマンベク・バキエフ(Kurmanbek Bakiyev)大統領が再選された後、7月29日、首都ビシケクで野党陣営の反政府デモが鎮圧された事件があったが、私は選挙不正は好ましいことではないとはいえ、バキエフ大統領派「輝く道」は議会の八割を維持しており、今回の北部での暴動も同様に治まるのではないかと楽観視していた。また、昨年からいろいろ揉めてきた同国の米軍基地撤去もここに来て現実的な線で落ち着いたことも楽観視の理由だった。しかしもはや楽観視できない状況になっている。
7日夜(日本時間8日未明)、ダニヤル・ウセノフ(Daniyar Usenov)首相は内閣総辞職に同意する文書に署名し、野党指導者でもあるローザ・オトンバエワ(Roza Otunbayeva)元外相が臨時の国民政府を樹立を宣言した。今後半年以内に新憲法を起案し、大統領選を実施するとのことだ(参照)。クーデターの成功から察するに軍と治安部隊も野党勢力下に入ったと見てよいだろう。
バキエフ大統領はビシケクから脱出し、自身の勢力下でもあり大統領公邸のある南部オシュに逃亡したと報道されている(参照)。キルギスは南北対立が根深くあり、今回の政変も南北対立と見ることもできるかもしれない。だとすれば、南部側からの再攻勢があるかが懸念されるが、現状の軍の動向からすると恐らくないだろう。
政変の原因だが、結果論的に言えば、バキエフ大統領下の圧政や汚職というより、経済危機の影響だろう。ロシアと米国を天秤に掛けながら援助を得てきた政権だが、比重を傾け始めたロシア経済が停滞し、キルギスへの援助も弱くなった。ロシアの失政と見られないわけでもない。今回の事態の変化によって直接大きくメリットを得る外部勢力も想定しづらいので、政変を外部から画策するといった陰謀もなかったのではないか。
とはいえデメリットの側からすれば、米国の痛手となりそうだ。とりあえず実質的な存続のめどがたった米軍基地だが、野党勢力は閉鎖を求めているようだ。キルギス内の米空軍基地は、アフガニスタン駐留米軍の支援拠点でもあるので、米国の対アフガニスタン戦に大きな影響が出るだろう。
今後の動向だが、率直なところ皆目わからない。キルギスに経済的な好転の見込みがない以上、依然ロシアと米国に援助を求めるしかないだろうが、どちらに転びそうだという予測も立たない。中国としてもここは上海機構の手前、新政権の安定を求めるだろうが、それほどの口出しはしないだろう。ただ、キルギスへのロシアの影響が大きくなれば、ウイグル経由の天然ガス・パイプラインへの懸念が高まる。
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コメント
旧ソ連の中央アジアは、どこも躓いておりますね。
旧ソ連の「植民地」統治がひどくまずかったのでしょう。
大英帝国の植民地だったところが回復してくるまで、第二次世界大戦後50年近くかかってますから、旧ソ連の「植民地」が何とかなるのは、2050年に近くなってからなのかもしれません。
投稿: enneagram | 2010.04.09 09:26
ロシアにも米国にも、よくよーく考えたらそんなに金が無いのですヨ。お金ありませんから、キルギスに頼まれたからって偉そうに兵隊を送りこむのは、なんとか避けたいと考えていることでしょう…。歴史に学べば、他国から、助けてください〜、治安維持してください〜、って泣きつかれても、手を出さないほうがいい、っていうのは、はっきりしてますからねー。占領した!侵略した、とか嘘つかれて、後々までたかられるのがオチ、派兵してあげたっていつまで居てあげたらいいのやら、その間兵の食い扶持はロシア持ち、辛いねえ、かわいそうだねえ。
カザフスタンだって可哀想ですよ。例えば3万人の難民を受け入れたら、キャンプとはいえ食事や医療など保護を与えなくてはならず、1人あたり100万円にしたって、3億円。10万人なら10億、1人あたりが200万なら20億円かかります。増税につながりますよね。
投稿: アメリカもロシアも | 2010.06.16 13:55
非公開コメントでいいのですが!ソ連の植民地とか書いてる人、キモいです。
ソ連は、今の中国共産党と比較すると、かなり上手くいってたんですよ。逆なんです、上手くいってたからこそ、独立させられた後、自分たちでどうやって食い扶持を稼いだらいいのか、わからなかった。資源も資産も無い土地しか持てなかった国が、途方にくれるの、容易に想像つきますよね。
投稿: はいはい、植民地 | 2010.06.16 14:01