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2010.04.25

ワシントン・ポスト紙の普天間基地問題リーク報道、雑感

 24日付けワシントン・ポスト紙のジョン・ポムフレット(John Pomfret)氏署名記事「Japan moves to settle dispute with U.S. over Okinawa base relocation(在沖米軍基地移転問題で日本が米国との不和解消に乗り出す)」(参照)は、鳩山政権が、現行案である米軍普天間飛行場の辺野古移設案を一部修正して米国側に伝えたと報道した。伝達は、23日のルース駐日米大使と岡田克也外相の会談によるものとのことだ。
 日本国内でも話題になった。報道には、朝日新聞「辺野古案「大筋受け入れ」 岡田外相が発言と米紙報道」(参照)や日本経済新聞「普天間「現行案修正で受け入れ」外相が米大使に伝達 米紙報道」(参照)などがある。
 米紙報道に対して即日に鳩山首相は否定した。産経新聞「現行案受け入れ「事実ではない」 普天間WP紙報道を首相が否定」(参照)より。


 鳩山由紀夫首相は24日午後、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題に関し、岡田克也外相が23日のルース駐日米大使との会談で現行案(沖縄県名護市辺野古沿岸部への移設)を大筋で受け入れると伝えたとの24日付米紙ワシントン・ポスト(電子版)の報道について「事実ではない。辺野古の海が埋め立てられるのは自然に対する冒涜(ぼうとく)だ。現行案が受け入れられるなどというような話はあってはならない」と否定した。ただ、岡田氏とルース大使の会談があったという事実は認めた。視察先の群馬県大泉町で記者団に答えた。

 また岡田外相もワシントン・ポスト紙報道を否定した。NHK「外相“米紙報道 事実でない”」(参照)より。

これについて、岡田大臣は長崎県佐世保市で記者団に対し、ルース大使とは頻繁に意見交換しているとしたうえで、現行案を大筋で受け入れる方向だと伝えたという報道の内容については「そういう事実はない」と否定しました。また、記者団が「政府として現行案やその修正もゼロベースで検討しているのか」と質問したのに対し、岡田大臣は「今検討している案は必ずしもそうではない」と述べました。そのうえで岡田大臣は、25日に沖縄県で県外や国外移設を求める県民大会が開かれることについて、「重要な集会を控え、今回の報道はきわめて遺憾だ」と述べました。

 鳩山首相および会談の当人である岡田外相からも否定の声明が出たことで、日本政府としてはワシントン・ポスト紙報道を否定した形になった。
 真相はどうであろうか?
 鳩山氏の言明については他の発言においてもそうだが真意を理解することは難しく、理解努力は不毛であることも多いので、岡田外相の発言から再考してみたいのだが、補助線となるのは、この件についての北沢防衛大臣の発言である。毎日新聞「在日米軍再編:普天間移設 首相、現行案否定「辺野古の海埋め立ては自然への冒とく」」(参照)が参考になる。

 これに対し、岡田氏と北沢俊美防衛相は、米紙の報道内容をそろって否定したものの、現行案微修正を含めた辺野古移設には含みを残す違いを見せた。
 岡田氏は24日、長崎県佐世保市内で記者団に、「首相が言っておられるように(現行案おおむね受け入れを表明したとの)事実はない」と否定。ただ、現行案に対する自身の考えを問われると「ゼロベースで議論している。それ以上に申し上げることはない」と述べるにとどめ、ルース氏との会談内容も明らかにしなかった。
 また北沢氏は同日、長野市内で記者団に「現行案へ戻るということはあり得ない」と述べた。一方で「どこまでが修正かということがあるから(岡田、ルース両氏の会談の)中身をしっかり聞かなければいけない」とも述べ、現行案の微修正に含みを持たせた。

 岡田外相の「ゼロベース」と北沢防衛大臣の「どこまでが修正か」を考慮すると、おそらく現鳩山政権側の認識としては、現行案に戻したのではなく、加えた修正によってまったく別の案になったという認識なのだろう。しかしそれは米側には若干の手直し程度に理解されたのかもしれない。
 この修正案は沖縄側からも米国と同様に見えていたようだ。ワシントン・ポスト紙とは異なるソースで24日付け琉球新報「辺野古沖合案を指示 平野氏、関係省に」(参照)が報道している。

平野博文官房長官は、米軍普天間飛行場移設問題で現在検討中の政府案について、名護市辺野古へ移設するとした現行の日米合意案を沖合に移動させた修正案で最終的に決着を図ることを念頭に関係省に指示していたことが23日、複数の政府関係者の話で分かった。現行案の沖合修正に受け入れ姿勢を示してきた仲井真弘多知事にも趣旨を伝え、25日の県内移設反対の県民大会に参加しないよう求めていた。

 この報道にはさらに奇っ怪とも思える追加がある。

ただ鳩山由紀夫首相は官房長官案に反対の姿勢を貫いており、周囲が強く現行修正案での決着を促しているという。

 それが本当なら、鳩山首相の考えとは別に平野博文官房長官が動いていたことになる。そんなことがありうるだろうか? 普通の政府ならありえないが、全体の構図を見ると、鳩山首相の思惑とは別に民主党政府が動いていると見たほうが整合的だ。
 あえて極論すればこれはすでに小規模なクーデーター状態であり、もう少し踏み出していえば、民主党の実質的な最高権力者は小沢一郎幹事長であるから、小沢氏の暗黙かもしれないが是認を得ていると見てもよいかもしれない。もちろん、そこまで踏み出して言えるかについては、かなりの留保をしなければならないが、逆に見てもある程度整合性はある。高速道路問題でもそうだが、選挙に影響する問題であれば政府の政策決定手順ですらちゃぶ台返しを行う小沢氏が、政権の行く末を決める状態にまで悪化している普天間問題に表向きなんら関与していないこととは、この筋の読みに沿う。
 あるいは、小沢氏は平野博文官房長官に暗黙の是認を与えているのではなく、この問題で鳩山首相に詰め腹を迫り、現政権自体をいったんちゃらにしてもよいと想定しているのかもしれない(鳩山氏の思惑はその捨て石としての自覚かもしれない)。もちろんその場合、小沢氏自身も形の上では引っ込むだろうが、院政こそが小沢氏の本来の政治手法である。その先には日米安保の見直しという彼の持論が輿石東参院議員会長や福島瑞穂社民党党首らのイデオロギーと連繋して展開していく可能性もゼロではない。むしろ、徳之島集会といい今日の沖縄集会といい、まるで政府内でスケジュールを組んだかのような手回しよい反基地運動の展開とこの動向は整合的ですらある。
 今回のワシントン・ポスト紙の報道には、米側の思惑という謎もある。単純な話、このようなリークをすれば、鳩山政権側が認めるわけはないという前提がある。むしろ、鳩山首相から否定の言辞を導くための策略であると理解するほうが妥当だ。読売新聞記事「「鳩山政権とは交渉しない?」米紙報道で憶測」(参照)は、この策略を、米側としては鳩山政権との交渉拒絶のメッセージとして読んでいる。

 「岡田外相がルース駐日米大使に現行計画の主要部分を受け入れる意向を伝えた」とする24日付の米紙ワシントン・ポストの報道は、25日に沖縄で県内移設に反対する大規模な大会が開かれる直前のタイミングだった。
 地元の反発は一層高まっており、政府関係者は24日、「米国は鳩山政権に何度も煮え湯を飲まされている。鳩山政権と交渉するつもりはない、というメッセージで、情報が流れたのではないか」との見方を示した。

 今日行われた沖縄での反対集会を鳩山政権側があたかも沖縄の民意であるかのように、米側の交渉に持ち出すのを拒絶するために、このタイミングでリークしたということなのだろう。タイミング的な文脈は外せないが、そのような策略であったかについては読みが難しい。拒絶というより、留保の線引きのようなものではないか。
 私の考えでは、米側は政権交代後の数か月は、可能な限り鳩山政権の要求に折れる用意でいた(参照)。米側の譲歩の前提は、鳩山政権が日本市民の強い支持で成立したことへの民主主義的な礼儀であっただろう。しかし、米側としては、ある程度想定はしていたとはいえ、その後、民主党政権が東アジアの安全保障に関われるだけの安定政権ではないと見るように変化してきたのではないか。
 日本では、普天間基地問題についての5月期限がいかにも米側の忍耐の限界のようにも理解されているが、米側としては、参院選挙後の日本市民の国家意識を待っている状態だろう。米側としても、同盟問題における一度のちゃぶ台返しは忍耐しても、今後もそれが続くようでは対処を変えなくてはならない。
 ワシントン・ポスト紙の記事でもう一つ論点がある。国内ではほとんど報道されなかったが、中国の軍事拡大について言及があった。読売新聞による紹介記事「「岡田外相の発言」米ワシントン・ポスト紙要旨」(参照)が僅かに触れていた。

 4月中旬、中国海軍の艦隊が日本の近くの公海で最大級の演習を行い、中国軍のヘリコプターが日本の海上自衛隊の護衛艦に異常接近する事例があり、こうした出来事も日本政府に方針の修正を迫った可能性がある。

 原文ではこうなっている。

Other events might also have pushed Tokyo to modify its tune.

他の事件で、鳩山政権も普天間問題の主張を修正するようになったのかもしれない。

In mid-April, warships from China's navy conducted one of their largest open-water exercises near Japan. China did not inform Japan of the exercise, and during one of the maneuvers a Chinese military helicopter buzzed a Japanese destroyer, prompting a diplomatic protest from Japan.

4月中旬、中国海軍の軍艦団が日本近海公海で最大規模の軍事演習を実施した。中国はこれを日本に通知していなかったうえ、軍事演習では中国軍ヘリコプターが日本の駆逐艦すれすれの飛行をしたので、日本は外交上の抗議をした。

The base plan was worked out in part to confront China's expanding military by deploying U.S. forces in Japan more rationally and building up Guam as a counterweight to Beijing's growing navy. Under the plan, 7,000 Marines would move from Japan to Guam.

米軍の基本計画は、軍事拡張する中国に対抗して、米軍を日本に合理的に配備し、グアムを中国海軍拡大を防ぐ重石とするものだった。この計画にそって、7千人の海兵隊員が日本からグアムに移転することになっている。


 ワシントン・ポスト紙の報道としては、日本が中国海軍の脅威に晒され、泡を食って、辺野古移転の現行案を持ち出したのではなかというのである。
 その可能性はあるだろう。ただし、それにしても、なぜこうよい都合で中国海軍が日本にその脅威を示してくれたのだろうか。
cover
文藝春秋
2010年 05月号
 タイミングを別にすれば、日本海域変更について中国軍が日本国民を慣らしておくという思惑がある。中国海軍は米国太平洋防衛第一列線(フィリピン・台湾・日本の軍事的勢力線)内に軍事的な空白があれば、必ずそこを押し進んでくる。岡本行夫氏の言葉を借りればこうだ。文藝春秋5月号「ねじれた方程式「普天間返還」をすべて解く」より。

南ベトナムから米軍が引くときは西沙諸島を、ベトナムダナンからロシアが引いたときは南沙諸島のジョンソン環礁を、フィリピンから米軍が引いたときはミスチーフ環礁を占拠した。
 このパターンどおりなら、沖縄から海兵隊が引けば、中国は尖閣諸島に手を出してくることになる。様子を見ながら最初は漁船、次に観測船、最後は軍艦だ。中国は一九九二年の領海法によって既に尖閣諸島を国内領土に編入している。人民解放軍の兵士たちにとっては、尖閣を奪取することは当然の行為だろう。先に上陸されたらおしまいだ。


 そうなった際は、日本は単に無人の尖閣諸島を失うだけではない。中国は排他的経済水域の境界を尖閣と石垣島の中間に引く。漁業や海洋資源についての日本の権益が大幅に失われるばかりではない。尖閣の周囲に領海が設定され、中国の国境線が沖縄にぐっと近くなるのだ。

 もちろん、それが戦争に結びつくわけではない。まして米国が中国と戦争するメリットはないに等しい。
 中国軍拡大の問題は、この間、アジア諸国にも影響を出している。特にこの海域にかかわる台湾にとっては日本以上に死活問題であり、対応を進めている。毎日新聞「台湾:一転再開 北京射程のミサイル開発」(参照)の報道が一つの顕著な例である。

 台湾の馬英九政権が、北京を射程圏内とする1000キロ以上の中距離弾道ミサイルと巡航ミサイルの開発をいったん停止に踏み切ったものの、再着手へと方針転換したことがわかった。台湾の国防・安全保障関係者の話や、国防部(国防省)高官の議会証言で明らかになった。
 ◇日米間の摩擦に危機感
 開発停止は、中台関係改善を公約とする馬政権の対中融和策の一環だが、公表されていなかった。再着手は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡る日米関係のギクシャクぶりへの台湾側の懸念や、中国の海軍力増強で有事の際に米軍の協力が得られにくい状況への危機感と受け止められている。


 馬政権は当初、中国の首都・北京を射程圏とするミサイル開発で中国を刺激することは避けたい考えだった。また、開発停止の背景には沖縄海兵隊を含む在日米軍の「抑止力」があった。安全保障の問題を専門とする台湾の淡江大学国際事務・戦略研究所の王高成教授は「日米安保条約は冷戦終結後、アジア太平洋の安全を守る条約となった。条約の継続的な存在は台湾の安全にとって肯定的なものだ」と指摘する。
 一方、開発停止からの方針転換が明らかになったのは、楊念祖・国防部副部長(国防次官)が先月29日の立法院(国会)で行った答弁だった。

 類似の動向は他のアジア諸国でも静かに日本を見捨てる形で進行していくのではないだろうか。

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コメント

辺野古移転の理由は、
こちらをご覧になればよいと思います。
守屋武昌氏(元防衛事務次官)が90分間語って折られます。

http://www.videonews.com/on-demand/0471480/001417.php

投稿: a | 2010.04.25 23:41

正直言って、マスコミが民主党とのパイプをまるで育てていないこともあって、既存のマスコミ報道で結論を読むと当たる気がしないのです。
かといってそこを深読みすると陰謀論っぽくなるのですが・・。マスコミが最後の規制産業というか1940年体制にがっちり組み込まれてきたというか・・。
これも政権交代をせずお上と自民党にまかせてきた国民が払う民主主義のコストでしょうか・・。

投稿: lc | 2010.04.26 12:49

普天間基地は北朝鮮に移設するのがベストだと思います

投稿: 投資屋 | 2010.04.29 03:42

アメリカ軍は、グアム島に移転する気は、無いようだ。しかし、普天間基地を日本本土もしくはアメリカ本土に移転させるべきです!アメリカ人、日本本土国民も「安保ただ乗り」を、やめるべきです

投稿: ツインカムターボ | 2010.08.02 03:20

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