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2010.03.31

四月馬鹿が二日前倒しだったらよかったのに

 今年は四月馬鹿が二日前倒しに来たのだったらよかったのにと思った。亀井静香金融・郵政担当相(国民新党代表)の改革案が3月30日に民主党閣僚懇談会で決まったからだ。
 ネットでよく言う、「日本終了」というギャグが浮かんだ。ツイッターを覗いてみると多少憤慨している人もいるが、東京都の有害図書規制ほどの話題にもなっていないようで、それほどの危機感をもって受け取られてもいない。ああ、終わりの風景の始まりってこんな静かなものかなと落胆したが、憤慨してもどうとなるものでもないだろう。
 私がひどい話だなと思ったのは、菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相が鳩山首相一任したことのほうだ。鳩山首相についてはもう是非も問うまい。お母様に略奪婚の尻ぬぐいをしてしまう人を国の長につけてしまうのはまずかったなというくらいだろうか。しかし、菅氏や仙石氏はもう少し大人だろうと思っていた。あるいは大人過ぎて記憶力もなくなってしまったのかもしれない。政党というものの一貫性も考えられないものなのか。この二人が黙り込めば、騒げる小者もいないだろう。民主党は結果的に政策を議論する能力がゼロになった。
 改革案とやらの内容だが、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額を現行の倍の2000万円に引き上げることが着目されている。これで地方銀行はだいぶ整理されるだろう。彼らにしてみれば「万策つきた」(参照)というところだ。
 1000万円以上の預金はペイオフ対象にならないとしても、事実上国家運営の銀行なのだから倒産はありえず、暗黙の保証が付く。地銀のかなう相手ではない。こういうのを英語で"It's unfair. "という。国家がunfairなら普通は国民の大半からの信頼は失うはずだ。そうして社会主義国家の多くは終了したが、アジアのほうでは残った。アジアにある日本も終了しないかもしれないが、終了できない隣国のような国家になるのだろう。
 改革には、かんぽ生命保険の加入限度額を1300万円から2500万円に引き上げることも決まった。2005年の民主党案では簡保は廃止とされていたことを思うと隔世の感があるが、それを言うなら今回の発表をした大塚耕平内閣府副大臣も当時はこう言っていたものだった(参照)。


「官から民へ」の郵政改革の目的を達成するためには、預け入れ限度額を引き下げ、そもそも国民から集めるお金の量を減らしてしまえば、政府にたくさん渡そうと思っても渡せません。


 公社であれ、国有株式会社であれ、そこに集まるお金が増えれば、政府に渡るお金の量も増えざるを得ません。言わば、「官から民へ」の逆、つまり「民から官へ」の万有引力の法則です。
 想像力をたくましくして考えて頂ければ幸いです。引力圏から離脱する時には、強力な力が必要です。強制的に規模を縮小することこそが、「民から官へ」の引力圏から離脱するパワーです。それが、預け入れ限度額の引き下げにほかなりません。
 国有株式会社をつくるという不思議な「民営化」で、あとは「政府出資の特殊会社」の自主性に任せるという万有引力任せの改革では、ますます多くの国民のお金(リンゴの実)が核(政府)に引き付けられます。

 その通りのことがこれから起きるようになるだろう。
 政府保証付きの国有の、ゆうちょ銀行とかんぽ生命に資金が集まれば、国債を買い増すことになる。結果、郵政が昔通りの国債買取の御用機関に戻る。政策投資銀行との融合も法螺話ではなくなる。
 国債金利は金融商品の中で最低利回りだから、利幅を取るには民主党のようにunfairな仕組みを作るしかないが、それでも利幅を取るにはさらに規模を拡大するしかない。規模を拡大すればさらに利幅を求めなくてはならない。
 民間の銀行や民間の投資がこの巨艦に刃向おうと思うなら、邪魔なものとして排除されるだろう。だがこの巨艦は、戦中日本の戦艦大和のようなものだ。いずれ海に沈むことになる。せめてその前に米国から世界貿易機関(WTO)提訴でもあればよいが、またぞろ国粋主義的な鬼畜米英論にもなるくらいなものだろう。
 なぜか今のところ注目されていないようだが、今回の法案では、郵政グループ内での取引にかかる消費税の免除も盛り込まれているままだ。菅副総理兼財務相が当初は懸念していたものだ。これもつまり、国家が率先して、国税のunfairを実行しようというのである。税をなんと心得ているのかと思うが、そういえば鳩山首相の税の意識を思えば、緩みきって当然なのだろう。
 とはいえ、当面はむしろこれで民主党も食いつなぐだろう。後の千金のことである。参院選も郵政関係の100万票は固めた。民主党はむしろ安定したのである。
 ウォールストリート・ジャーナルのジェイムズ・シムズ(James Simms)氏コラム「日本の郵政改革の後退」(参照邦訳参照英文)はこう言っていた。

Naturally, the changes will help ease Tokyo's financing concerns.

今回の変更で政府の金融面での不安は緩和される。


 しかし、これには戦艦大和の運命のように限定が付く。

That is until Japan's growing ranks of retirees begin to cash in those insurance policies and draw down their savings.

しかし、これも増大する定年世代が保険を現金化し、貯蓄を取り崩し始めるまでだ。


 亀井静香金融・郵政担当相はもとより鳩山首相もその日を見ることはないだろう。菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相も同じだろう。私ですら見ることがないかもしれない。なので私が心配することでもない。大塚耕平内閣府副大臣はその日を見ることがあるだろうが、そのときはまたころっと意見を変えていることだろう。心配はいらない。
 ジェイムズ・シムズ氏のコラムはこう締められている。

Make no mistake, Japan will eventually have its pound-of-flesh moment.

日本は間違いなく、最終的に致命的な代償を求められる瞬間を迎えることになる。


 邦訳は意訳である。"pound-of-flesh"というのは、「1ポンドの肉」ということである。なぜ、「1ポンドの肉」なのか、シェークスピアに馴染まない国では理解しづらい。理解しても、どうしようもないのかもしれないが(参照)。

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コメント

一度破綻するしかないでしょう。

投稿: | 2010.04.02 13:26

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