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2010.03.03

[書評]その科学が成功を決める(リチャード・ワイズマン)

 世間にあふれる自己啓発本で書かれている内容、例えば、マイナス思考はやめてポジティブ・シンキングにしようとか、成功するためには成功したイメージを思い描こうとか、そういう話は本当なんだろうか? 本当ってどういうこと?

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その科学が成功を決める
 そういう自己啓発の要点について科学的に実験してみたら妥当性がわかるんじゃないか? ということで、その観点から既存の各種心理学的・社会学な実験論文をまとめたところ、自己啓発本のエッセンスの大半が、ハズレです、というのがわかる痛快な本だ。つまり、ポジティブ・シンキングしても事態は改善しないし、成功した自分をイメージしても成功しない。それどころか、逆効果のようだ。
 本書の目次を見ても自己啓発本の要点がスパスパと切られていくのがわかる。自己啓発はあなたを不幸にする、面接マニュアルは役立たず、イメージトレーニングは逆効果、創造力向上ノウハウはまちがいだらけ、婚活サイトに騙されるな、ストレス解消法にはウソが多い、離婚の危機に瀕している人への忠告はあてにならない、決断力には罠がある、ほめる教育をすると臆病な子供になるなどなど。うへぇ。
 私も自己啓発本は好きなほうだが、根っからの天邪鬼なんでそう真に受けてもいない。なので、それがバシバシと否定されていく展開は小気味良くも感じられる。あはは、こんな自己啓発を真に受けてやつは常識ないなあアハハといったものだ。ところが。
 実は、こっそりここだけの話だが、これは大切だと思っていた自分の人生の金科玉条もあっさり否定されていた。これにはうなったな。そ、そうなのかぁ? 実験の仕方に問題があるんじゃないかと動揺したのである。この本読んで、私みたいに動揺しちゃう人もいるだろうから、ご注意を。ところで、その金科玉条は何かって? 恥ずかしくて言えませんよ。
 かくして本書は破邪の本、魔王退散、アンチカツマーナムナム……といった話ばっかしというと、そんなことはない。奥義は白紙なのじゃ、みたいにカンフーパンダ(参照)のノリはなく、実験的に効果のある金科玉条がきちんと巻末にまとまっている。打ちのめされた私は、ええい、フリーの時代じゃ、奥義を全部引用しちゃうぞとも思ったが、それもなんなんで書店などで立ち読みしてくださいませ。たぶん、買ったほうがよいと思うが。
 で、奥義が簡単に読めるというのが、実は本書の一番のコンセプトだ。それがオリジナルタイトル「59 Seconds: Think a Little, Change a Lot (Richard Wiseman)」(参照)からわかる。つまり、役立つ自己啓発の要点を知るには、59秒もあればいい。ちょっと考えるだけで、人生に大きな違いが出るというわけだ。要点は、1分以内にわかるようになっているし、それを知ると知らないとでは人生に大きな差になるよというのだ。そうかな? まあ、そうだな。
 本書は、書籍としては、以前「[書評]脳は意外とおバカである(コーデリア・ファイン ): 極東ブログ」(参照)で紹介した同書と似たタイプだ。実際かぶっているところも多い。また、まだ書評を書いてないけど、「経済は感情で動く  はじめての行動経済学」(参照)など人間のありがちな間違い行動を研究した行動経済学ともかぶっている。その他、「絶対使える! 悪魔の心理テクニック」(参照)とか内藤誼人氏の著作や「心の操縦術」(参照)の苫米地英人氏の著作なんかともかぶるところがある。ああ、読んでいるのがバレて恥ずかしい。
 というわけで、この手の本自体が、地球温暖化懐疑論鑑賞と同じく酔狂の一環としてまったり好んでいる私からすると、四章の「実験結果3 暗示の効果で創造力を高める」で、「先に受けた刺激が後の行動に影響を及ぼすこの”暗示効果(プライミング)”が、さまざまな状況で起きることがわかっている」とある、プライミングを暗示効果と訳してしまうのは、痛いところだ。
 訳者もわかって割り切って訳したのだろうと思うが、プライミングは暗示効果とは違うし、違うところに要点がある。本書ではイメージ・トレーニングは効かないとしながら、反面暗示効果は創造力を高めるというのは、普通に読んでしまうと矛盾しかねない。プライミングについては、先の「脳は意外とおバカである」に詳しい解説もあるし、「[書評]サブリミナル・インパクト 情動と潜在認知の現代(下條信輔): 極東ブログ」(参照)で扱った同書にも関係するが、潜在意識のコントロールの問題だ。
 実は本書も、いわゆる奇手の自己啓発書として読まなければ、意識の矛盾に対してどのように潜在意識を制御するかというテーマが背景に潜んでおり、そもそも本書が参照する各種の奇異な実験は、行動経済学のように人間の誤謬行動のパターンの解析ということもだが、人の意識活動にどれだけ潜在意識が関与しているかという点に主眼があり、これはたいていは進化心理学として流布されてしまうが、ヒトという生物の種固有の行動パターンの研究の一環になっている。 本書が竹内久美子氏の「遺伝子が解く! 男の指のひみつ」(参照)の話題とかぶってくるのもそのあたりに接点がある。
 そうした点から見て、本書で私が一番興味深かったのは、行動経済学的でもあるが、集合知が機能しない各種の事例であった。中でも「集団は暴走する」は経験的にわかっていても、しんみりと納得する。

 人種偏見をもつ人々が集まると、個人でいるとき以上に人種問題について極端な決定を下すようになる。見込みのない事業に投資したがる実業家が顔をあわせると、破綻が目に見える事業にさらに金をつぎ込んでしまう。暴力的な若者が徒党を組むと、ますます凶暴になる。強い宗教的、政治的理念をもつ者同士が集団を作ると、考え方が極端になり暴力的になりがちだ。この現象はインターネットにも出現する。

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コメント

ああ、読んでみます!特に、最後の一文に感動しました。

自己啓発って、何か嫌だなぁと、昔から何となく思ってた。・・・だって、この地球上には、65億人の人間がいて、動物がいて植物もあって、いやその外にさらに広大な宇宙が広がっているのに、「自己」を啓発することだけに拘ってるのが、何かウソ臭いなぁって。

そういう私も、どっちかというと文系人間なんですがw。・・・「科学」入門本としてもとても面白そうです。ご紹介どうもありがとうございます。

投稿: ジュリア | 2010.03.03 23:59

私も読みました。

思ったほど「成功法則」を否定していないように感じました。

検証を主とした自己啓発本というところでしょうか。

投稿: 本のソムリエ | 2010.04.04 13:59

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