普天間飛行場撤廃失敗の背景にあるもの
もう少し待って完全に誰の目から見ても、福島社民党党首ですらも明白にわかる事態になってから書いてもいいかとも思ったが、昨年7月のエントリ「民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう: 極東ブログ」(参照)で推測したとおり、民主党の沖縄問題の取り組みはもう破綻したので、少し書いておこう。
推測が若干外れたとすれば、民主党は、普天間飛行場を撤廃し沖縄に返還することを約束していた自民党よりひどいなということだ。もっとも、民主党の場合は辺野古に恒久基地は作らないとも言えるのだが、反面、民主党政権が続けば、現普天間飛行場が事実上恒久米軍基地となるである。なぜそうなるのか、たいした話でもないが触れておいたほうがよいだろう。
これは簡単な問いなのだ。今日付の日経新聞社説「結局は普天間存続なら深刻な失政だ」(参照)がやや迂遠に述べているが、ようするに、危険極まりない普天間飛行場が撤去されるのか?ということだ。民主党政権の答えは、YESではないNOなのだ。
米軍普天間基地の移設をめぐり、月末の政府案の決定に向け、様々な案が検討されている。いずれも米側や移設先の合意を得る見通しは立っていない。結局は普天間の継続使用となれば、鳩山由紀夫首相の失政となり、責任は重くのしかかる。
政府は(1)キャンプ・シュワブ(名護市)陸上部に約600メートルのヘリ離着陸帯(ヘリパッド)を建設する(2)固定翼機などが離着陸可能な滑走路のある県外の島に機能を移転する――とする案を軸に検討中だ。北沢俊美防衛相が26日に沖縄県庁で仲井真弘多知事と会談し、伝える見通しという。
普天間基地の機能の5割超を県外に移設するのがこの案の狙いのようだ。しかし固定翼機用の基地が県外に見つからない限り、普天間基地は存続するようにみえる。
別の言い方をすれば、「分散移転」(参照)というのが卑劣な詐術だ。米軍基地機能の分散は自民党時代だってやっていたのである。民主党で求められた違いというのは、大田元知事がなんども述べていたように目に見える違いを出すことだった。それは普天間飛行場を撤去することだ。なによりこの問題の原点は普天間飛行場を撤去することが目的だったのだ。
それが、「普天間基地の機能の5割超を県外に移設する」というのは、五割残るということだ。機能が残るであって五割の面積に縮小されるというのではない。つまり、普天間飛行場は民主党政権下で撤廃されないということだ。民主党政権のおかげで危険な米軍基地が市街地に残るのである。
そしてこれは恒久化するだろう。いや、五割の機能が減らせたらさらに削減してゼロにしていくこと努力の目的だというだろうか。嘘である。残りの五割の意味を考えればその嘘がわかる。
理由は現普天間飛行場には有事やそれに近い事態にオスプレイを配備するためだ。この計画はおそらく今日、岡田外務省がルース米国大使と話した核心でもあっただろう。今日付の朝日新聞記事「普天間、県内段階移設案を検討・提示へ 合意困難な情勢」(参照)に若干曖昧だが書かれている。
岡田克也外相は26日にルース駐日米大使と会談し、同様の検討状況を説明するとみられる。岡田氏は月末に米国を訪問し、ゲーツ国防長官らにも改めて説明する方針だ。
移設案は、まずシュワブ陸上部に、500メートル四方のヘリポートを建設し、そこに普天間に常駐するヘリコプターを暫定的に移す。ただ、近く配備予定の垂直離着陸輸送機MV22「オスプレイ」の離着陸に支障をきたすため、この段階では、普天間の継続使用も必要になると見られる。
そのうえで、米軍ホワイト・ビーチのある勝連半島の沖合に人工島を造成し、滑走路や港湾施設を建設する。これには環境影響評価を一からやり直す必要があり、実現には10~15年かかるとみられるため、完成した段階で基地機能を全面的に移す計画だ。
また、普天間に常駐するヘリコプターの訓練の移転先としては徳之島や九州の自衛隊基地などが候補地に挙がる。
問題の核心はオスプレイの配備なのである。朝日新聞は規定事項のようにさらりと書いているが、これは今月になってから防衛筋からだだ漏れしてきたことで、政府は明確な説明もしていない。このことは、毎日新聞「在日米軍再編:普天間移設 アセスのやり直しも 防衛相ら「オスプレイ配備」」(参照)でも指摘されていた。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、政府内に浮上しているキャンプ・シュワブ(同県名護市)陸上部への移設案を巡り1日、米海兵隊ヘリの後継機となる垂直離着陸機MV22オスプレイの配備に言及する発言が防衛省幹部から相次いだ。同機配備は現行計画に明示されておらず、現在進められている環境影響評価(アセスメント)のやり直しにつながる可能性もあり、新たな難題を抱えたと言えそうだ。
オスプレイ配備が在沖米軍どのような意味を持つかという計画が実は、普天間飛行場移転問題の背景にあり、それらが詳細をコントロールしていた。オフィシャルな議論がなくだだ漏れ先行なので北沢防衛相もぼけを演じているが、ただのぼけなら日本の安全保障上の危機だろう。
陸上案の滑走路の長さを巡っては、首相官邸内では500メートル前後が、防衛省内では1500メートル前後が検討されている。北沢俊美防衛相は1日の衆院予算委員会分科会で「滑走路が500メートルや1500メートルという議論は将来的なオスプレイ配備が念頭にあっての議論かなと推測する」と述べた。
長島防衛政務官や前原国土交通相にも自明のことであった。
長島昭久防衛政務官は同日、東京都内の会合で「オスプレイは12年10月から24機、沖縄に随時導入されることになっている」と明言。その上で「現行案と決めてもオスプレイの話が一切入っていない」と指摘し、アセスをやり直す必要性があると言及した。
官邸内で検討される500メートル案は県外への訓練移転などがセットだが、防衛省幹部は「オスプレイを使う場合500メートルでは短い」と指摘。前原誠司国土交通相も2月26日の記者会見で「滑走路は1300メートルから1500メートルくらいはいる」としており、オスプレイの配備に関して米側との調整が難航することも予想される。
普天間飛行場機能移転という詐術をオスプレイ用1500メートル滑走路という観点から整理すれば、シュワブ陸上に設置する新滑走路は直接この問題には関連はない。普天間飛行場から平時のオスプレイを隠蔽するためと、民主党主席とも言えそうな小沢幹事長も言明した沖縄県外移転という御旗のために、とりあえず県外にオスプレイ用練習場を作る必要はある。そして朝日新聞記事にあるように、将来的にもし可能なら、じんわりとホワイトビーチ沖に持ってきたいという希望なのだろう。それが実現したとして、辺野古がホワイトビーチになるくらいの差しかない。その差にどれほどの意味があるというのだろう。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
今になって思うに、政権野合衆としては、最初から普天間飛行場も沖縄の負担軽減も、どうでも良かったのかもしれませんね。
これは、沖縄の土建利権を自民党から奪うことを目的に騒ぎをでっちあげただけで、きっとその目的は果たせたのでしょう。
後は基地自体は何処にあろうと、それで誰がどう困ろうと、どうでもよいのかもしれません。
落とし前は、かるーい帽子の鳩さんが遠いお空に消えておしまい、と。
永久私物化革命たる政権野合とそのドンの、繁栄は続くよどこまでも。
千代に八千代にさざれ石の巌となるころ、めでたく日本の国民も口うるさい今の奴らとは別の人々と入れ替わる「国民チェンジ」が完成と。
投稿: KUrukuruBAKA | 2010.03.27 00:04
普天間とオスプリの関係については、私ごときですら過去に何度も触れてたくらい、軍オタのレベルなら周知の情報。
ただ、普天間と滑走路の問題は、オスプリとは関係なく、海兵隊ヘリ部隊を運用するためには、まずヘリそのものをフェリー(空荷で移動)して搭乗員は輸送機やチャーター便で運ぶか、もしくは C-17 で機体も搭乗員も空輸しなきゃならない。
つまり、ヘリ部隊を運用するためには大型輸送機を運用できる滑走路が必要なので、結局オスプリ抜きでも普天間は危ないことに変わりはないのですけどね。
投稿: himorogi | 2010.03.27 00:25
自民党政権の辺野古案もあのまますんなり進んでいたかというとそれも疑問に思うので、その意味で政権交代があろうとなかろうとこの話はどのみち始めから「詰んで」いた話なのでしょう。
自民党はさすがにその辺老獪だったので素知らぬふりで時間稼ぎをしてたのを、それを横から「詰んでない」と言い張って、さんざん盤面をひっくり返したり、「駒を戻せ」とかできもしない無茶を言った挙句、やっぱり「詰んでました」という話を、まぁ、5月にはされるんでしょう、我らが宰相殿は。
いや、勿論、米軍のトランスフォーメーション戦略の都合で、これ以上の時間稼ぎができなくなっていたことが、一連の流れの発端ではあろうと思いますが。
それでも、相手側からギャラリーまで、全員胸くそ悪い気分に突き落とした責任が、現政権のど素人外交にあることは明白なので宰相殿への同情はしません。
この責任を宰相殿ご本人が取り切れなければ、国民全員で何らかの形で取らされる羽目に至るのでしょう。
何となく、官房長官辺りの首ひとつでお茶を濁そうとして、内外から総スカンを喰らうさまがうっすら浮かぶのがまた溜息を誘うのですけど。
ことここに至っては、これをどう歴史的教訓として国民の資産としてゆくかを考えるしか、もはやこの話に何かの意味を見出すことはできません。
……まぁ、「ヤバそうな話は、とりあえず塩漬けにして先送りしろ。その内、どこかのバカがうっかり蓋を開けて責任取ってくれるから」という自民党的教訓ばかり積まれるのが関の山、という予感もひしひしとしますが。
投稿: 義忠 | 2010.03.27 04:56
そもそも、日本に、普天間飛行場を県外に移設させる実力を持つ政権を、成立、確立することができるんですかね?
実力の担保もないのに、空手形を振り出すのが好きな社会党が政権与党になれば、与党になってから公約違反するだけですよ。
まあ、約束を反故にしたのは、クリントン元大統領だけれど、もう、彼は権力者ではないしね。
沖縄県民から社民党が見放されれば、これもよい失敗の経験かもしれません。
投稿: enneagram | 2010.03.27 10:02
妄想です。
既にオバマとハトはEメールで毎日文通しており「普天間⇒グアム全面移転」は、がっつり合意できていると。もちろん費用は全て日本政府もち(笑)
共同声明「日米安保50年記念すべき年に、かつて戦禍にあった沖縄の負担を減らす決定が出来たことは光栄である」。オバマとハト、がっちり握手! ありえないか(笑)
投稿: tom-kuri | 2010.03.27 19:06
自民時代に辺野古沿岸部への移転が合意された時点では、普天間は全面返還が前提となっていました。それを粛々と進めていれば(あくまで国内の反対派を鎮圧するだけと言う話であれば)、その後米側の事情が変わろうとも知らぬ存ぜぬで押し切れたはずで、その意味では塩漬け先送りではなく一応の解決になっていたのです。もちろん政府がそれを毅然と言い切れるかどうかは別の話ですが。
ところが今度の民主党政権は、反自民の思想が先立ちすぎて自らその手札を捨ててしまったわけですね。これはちょっと、従来のなぁなぁ体制でやりくりしてきた範囲を越えてしまってるんじゃないかと思います。
投稿: grun | 2010.03.27 21:15