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2010.03.29

トルコが脱世俗国家へと変貌しつつあるようだ

 国内報道がまったくないわけでもないが、多数の死者が出たり政変が起きたりということでもないため、それほど注目されないにも関わらず、現代世界を考える上で意外と重要な事件として、このブログで書き落としていたのが、2月のトルコの出来事だった。このブログでは折に触れてトルコ情勢に言及してきたが、やや予想外とも言える今回の帰結については言及しておこうと思いつつ失念していた。
 事件は2月22日、トルコ警察が、2003年のクーデター計画に関与したとして元司令官を含む軍幹部を50人以上突然拘束したことだ。背景には、イスラム政党「公正発展党(AKP)」と世俗派との対立激化がある。トルコは建国の父アタチュルクによって政教分離の世俗国家として成立し、軍は彼の伝統を引く世俗改革の筆頭となってきた。
 今回の拘束にまつわるクーデター計画だが、2003年のことでもあり、AKPが仕掛けた政争と見る向きもある。2月25日にはエルドアン首相と軍トップのバシュブ軍参謀総長が会談し、軍としてはクーデター計画を全面否定した。
 今回の事件で、従来穏健イスラム政党と見られていたAKPも、かなり強行な手段に出たという印象もある。が、2007年に政権についてからこれまですでに、別クーデター容疑で軍人や知識人を200人以上も拘束しているので、まったく突然の事態とも言い難い。私としては、むしろ軍が対抗的に暴発しなかったことのほうがやや意外でもあった。同時に、トルコは変わったのだという思いを深くした。
 AKPが変貌した内実には、長年にわたるイスラム国家志向の政治指導者フェトフッラー・ギュレン氏の活動の成果がある。検察はトルコにおいては従来は軍同様世俗派の牙城でもあったが、ギュレン氏の同調者も増えているようだ(参照)。
 この変化が意味することは、トルコが従来のような、西側諸国に親和的な世俗国家からよりイスラム色の強い民族国家に変貌する可能性が高まることだろう。もっとわかりやすく言えば、トルコの欧州連合(EU)加盟はもうなくなっただろう。つまり、死刑廃止などを含めEU加盟のための国内整備は頓挫するだろう。「アルメニア人虐殺から90年: 極東ブログ」(参照)で言及したアルメニア虐殺についても、従来のような融和の模索は変わっていくかもしれない。
 その兆候もある。最近の出来事としては、17日に予定されていたエルドアン首相のスウェーデン訪問も、スウェーデン議会がアルメニア人虐殺を決議したことの抗議としてキャンセルされた。その前の4日には、米下院外交委員会が同種の決議を採択し、反発したトルコは駐米大使を召還している。
 トルコの変化は米国に対しては、反米色を強めていくだろう。湾岸戦争でも米軍に結果的に友好であったトルコ軍の方針も変わっていくだろう。北大西洋条約機構(NATO)については、AKPは方針に変更はないと言明しているが、やはり変化は出てくるのではないか。米国としても、この事態に及んだことを理解し、米下院本会議ではアルメニア人虐殺の決議採決を放棄した。
 AKPの変化は、トルコ内政の大きな民族問題であるクルド人問題にも難しい影を落としている。AKPはクルド人については開放政策を採ってきたが、これが裏目に出たというべきか、トルコからの独立を目指すクルド労働者党(PKK)を活気付け、トルコ国民の多くから嫌悪を招きつつある。加えて、従来はEU加盟の御旗で少数民族への対応もしてきたが、その要請も消えてきている。
 現下トルコでは、AKPは司法の世俗派の勢力を削ぐために憲法改正を目指している。23日共同「トルコ政府、改憲案を発表 政権基盤の強化狙う」(参照)より。


2003年の政府転覆計画をめぐり政府と軍の緊張が高まっているトルコのエルドアン政権は22日、政党解党手続きの厳格化、国家に対する犯罪に関与した場合には軍士官も一般法廷で裁くことを可能にすることなど政権基盤の強化を狙ったとみられる22項目の見直しを含んだ憲法改正案を発表した。AP通信などが伝えた。

 現状のAKPは憲法改正に必要な国会定数の三分の二を確保していないので、国民投票に持ち込まれることになる。結果がどうなるかはわからないが、おそらく民主主義的な手続きで、非世俗的国家への道をさらに歩み出すのではないだろうか。

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コメント

不思議に思わざるを得ないのが、なぜトルコがイスラム化しているか、ということなんですよね。

熱狂的信者というのが、トルコの大多数を占めるわけでもない。それどころか一部の記述を見ると少数派に過ぎない。

じゃあ、これは何なのか。宗教的右派と外部勢力との対決の融合といったら、我々の目には、米国におけるブッシュ(子)大統領と同様に見えるわけです。

まあ、トルコの地政学的地位について、EUと縁を切ればどうなるかは、ディプロマシーを何回もやっている切込隊長の方が詳しいわけで、彼の意見を代弁して言わせてもらえば、「正気か?」としか言いようがないですね。

投稿: F.Nakajima | 2010.03.30 23:59

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