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2010.02.24

地球温暖化防止には気象観測所を増やしたらどうかという間違った提言について

 地球温暖化を防止するにはどうしたらよいか。温室効果ガスの削減が望ましい。「黒色炭素(Black Carbon:ブラックカーボン)の地球温暖化効果: 極東ブログ」(参照)で触れたようにブラックカーボンの低減も重要だ。ブラックカーボンは二酸化炭素に比べ大気中にとどまる時間が短いとはいえ恒常的に排出している現状は率先して改善されなければならないし、対策費用に対して効果は比較的高い。これに加え、意外な地球温暖化防止の方法が見つかった。気候観測所を減らすことである。
 この提言は、グラフから簡単に読み取れるだろう。「科学と政策研究所(Science & Public Policy Institute:SPPI)」から1月23日に公開された、「ウエザーチャネル(the Weather Channel)」の共同創設者で初代気象学ディレクターのジョセフ・ダレオ(Joseph D'Aleo)氏と「サーフェイスステーション・オーグ(SurfaceStation.org)」の創設者であり気象学者のアンソニー・ワッツ(Anthony Watts)氏共著の報告書「Surface Temperature Records: Policy Driven Deception?」(参照・PDF)によると、地球の温暖化と観測所の数は反比例の関係にある。

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棒グラフがGHCNで観測された平均気温、折れ線グラフが観測所の数

 地球温暖化が加速する1990年代以降、気温の観測所の数が激減している。グラフを一見する限りでは、観測所数の低減が地球の温暖化をもたらしているようにも見える。
 なぜなのであろうか。地球温暖化についてはまだまだわからないことが多いが、このデータからは、観測所の数を1990年代以前にまで増やすことで、温暖化防止が実現できるのではないかという期待がもてそうだ。

 そんなわけないです。
 すいません。悪い冗談でした。
 以下は真面目な話。

 いや、悪い冗談というのは、観測所を増やせば地球温暖化が防止できるという話であって、グラフ自体には冗談は含まれていない。このグラフを含めダレオ氏とワット氏の報告は科学的になされている。つまり、地球温暖化の統計の背後に、観測所の低減という事実は存在すると指摘している。
 しかし、有効な観測所を残し、旧態依然の不正確な観測所を統合しても、別段観測に問題はないのではないか、観測所の数は地球温暖化統計に意味ある影響を与えてはいないのではないか。そう思う人もいるだろう。またまた質の悪い地球温暖化懐疑論なのではないか、そう思ってついでバッシングしたい気持ちを持つ人もいるかもしれない。
 が、そうでもない。
 話は、先のSPPIの報告書に詳細があるが、ニュース報道的には10日付フォックス・ニュースのジョン・ロット(John Lott)氏による「The Next Climate-gate?」(参照)が要点をまとめているので紹介しよう。ただし、公平を期して言えば、フォックス・ニュースは温暖化懐疑論を面白おかしく取り上げることが多いので、その側面が注目されるということはある。気になる人は原典にあたるとよいだろう。


In a January 29 report, they find that starting in 1990, the National Oceanic and Atmospheric Administration (NOAA) began systematically eliminating climate measuring stations in cooler locations around the world.

1月29日発表の報告書で、ダレオ氏とワット氏は、1990年から、米国国立海洋大気圏局(NOAA)は世界の寒冷地における気候観測所を組織的に削減しはじめた。

Yes, that's right. They began eliminating stations that tended to record cooler temperatures and drove up the average measured temperature.

本当にそうなのだ。NOAAは低気温になりがちな観測所を削減し、観測された平均気温を釣り上げた。

The eliminated stations had been in higher latitudes and altitudes, inland areas away from the sea, as well as more rural locations. The drop in the number of weather stations was dramatic, declining from more than 6,000 stations to fewer than 1,500.

削減された観測所の所在地は、高緯度で高地、また海から離れた内陸であり、より非都市部の地域であった。観測所の低減は6000カ所から1500カ所へと劇的なものだった。


 ということで、観測所は地球気温を効率良く計測するために削減されたものではない。もっとも、地球が温暖化しているというデータを捏造するために削減されたわけでもない。
 ここで疑問もあるだろう。地球温暖化の基礎データは重層的に採集されているのではないだろうか。ところが、そうでもないらしい。そこが今回の報告書の興味深いところでもある。

All three terrestrial global-temperature datasets (National Oceanic and Atmospheric Administration/ National Climatic Data Center, NASA Goddard Institute for Space Studies, and University of East Anglia) really rely on the same measures of surface temperatures.

NOAA、米航空宇宙局(NASA)ゴッダード宇宙研究所、イースト・アングリア大学という3つの地球気温データ源は、実際には、同一の地表気温測定に拠っている。

These three sources do not provide independent measures of how the world’s temperatures have changed over time. The relatively small differences that do arise from these three institutions result from how they adjust the raw data.

これらの3つの情報源は、歴年の地球気温変化の状態について、独立した計測値を提供してはいない。3つの組織に比較的小さな差異があるのは、生データの調整手法によるものだ。


 NOAA、NASA、アングリア大学の3ソースについては、出所はほぼ同じと見てよく、ダレオ氏とワット氏の指摘は当てはまるようだ。もちろん、これにも異論もあるだろう。
 ダレオ氏とワット氏の報告は、別の視点からも興味深い考察を促している。「どうやらあと20年くらい、地球温暖化は進みそうにない: 極東ブログ」(参照)で、BBCによる地球温暖化の話題を紹介したが、そのなかでこの10年間地球は温暖化していないという話があった。この問題については各種の議論があるが、今回の報告では、観測所削減によるのではないかという指摘もある。

One of the major ones questions has been the divergence in temperature data recorded by satellites in space and down here on the ground.

大きな問題の一つは、衛星から計測した気温と地表測定の気温に差異があることだった。

That difference was very small when satellites first started being used during the 1980s but has grown over time, with ground observations showing a rise in temperature relative to the satellite data.

1980年代に観測を始めたころはその差は小さいものだったが、年を重ねるにつれ大きくなった。衛星観測より地表観測が比較的高くなったのである。

The urban warming effect may not only explain this, but also why land warming has been so much greater than ocean warming.

この都市部での温暖化効果のみでは説明が尽くせないし、なぜ海洋温暖化が地表より進むのかも説明しづらい。


 ダレオ氏とワット氏は、この疑問の根は観測所数による錯誤ではないかと想定している。
 いずれにせよ、観測所の削減は、地球温暖化データを取得したいがための捏造というわけではなく、単に科学的方法論の適切さへの科学的な批判と受け止めたほうがよい。
 さらにいえば、今回のダレオ氏とワット氏の報告によって、そのまま地球温暖化が間違いであったという結論に結びつくわけではない。この点はきちんと留意したいし、政策の決定はまた別のプロセスになる。
 政策という点では、22日付ワシントン・ポスト社説「Climate insurance」(参照)の2つの原則が参考になるだろう。

The first is to acknowledge a level of uncertainty in the predictions and make the case for taking out an insurance policy, as would any prudent homeowner.

第一は、予測における不確実性の水準を認めつつ、思慮深い自宅所有者のように、事態に備えて保険をかかるという指針を持つことだ。



And all the more so when -- and this is the second key point -- the action that would have the most beneficial effect with regard to climate change is in the national interest anyway.

さらに重要なのは、これが第二になるのだが、気候変動に関するもっとも有益な対応は、とにかく国益にかなうということだ。


 ワシントン・ポストの指摘は米国に対してのものだが、日本により当てはまるとも言えるだろう。

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コメント

FOX Newsは反オバマであればなんでもよいので、真剣に地球温暖化を考えているとは思えません。もし、オバマが反地球温暖化であるなら、逆の説を唱えていたのではないかと思います。米国では、特にリベラル系報道機関を中心として、地球温暖化に盲従する傾向があるので、FOXの反リベラルに拍車をかけているのでしょう。

いくつもある陰謀論のなかで、本当かもしれないと私が思っているのが、この地球温暖化が『うそかもしれない』というのと、911の『アメリカ政府が関与(もしくは実行)していたかもしれない』の二つです。

地球温暖化については、Michael CrichtonのState of Fear(恐怖の存在 (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25) (文庫))が非常に雄弁に語っています。(邦題が『恐怖の存在』というのは、恐れ入ります。もともとは、『おびえている状態』という意味と『人を怖がらせて(支配する)国家』の二つの意味があります。この記事のように観測地点が恣意的(都会化による気温上昇)やデータのごまかしがある可能性もありますが、南極氷コアなどでもここ200年くらいはゆっくり気温が上昇していることは確かなのではないか。ただ、それがCO2であるのか、それも石油石炭消費であるのか、さらにそのCO2の削減のために巨額の費用をかけなければならないものか、こう三段階進めると、立証責任は全然果たされていない、そう思います。State of Fearでは後からみればトンデモ科学としか思えないものも当時は真剣に信じられていた例を引いて、そのトンデモ科学を使って人を怖がらせ、メディアを通じて誤った行動へ駆り立てている様が描かれています。非常に説得力があります。

911においても、例えば、Alex Jonesなら5分引きで話を聞いてしまいますが、Steven Jonesなら、納得せざるを得ない。データも、解釈も固く固く作られています。特に彼は米国人として、犯罪事件としてちゃんと911を調査せよ、と主張しているわけですが、テロとの戦いにお相伴してきた我が日本でも、ちゃんと小泉首相がアフガン戦争に参加するときに言っていた『ブッシュ大統領が内密に見せてくれた証拠でビン・ラーディンが犯人であると確信した』というのを開示しなければならないのではないか、そう思います。大量破壊兵器と同じく、そんなものなかった、などある可能性もありますが、自衛官の方々を職務であるとはいえ危険地帯に言ってくれというためには、その位の責任があるのではないか。

さて、
Steven Jonesはここを主催していて、
http://stj911.org/index.html

彼の言いたいことを端的にまとめると、ここで読めます。
http://journalof911studies.com/volume/200609/WhyIndeedDidtheWorldTradeCenterBuildingsCompletelyCollapse.pdf

投稿: buvery | 2010.02.25 07:02

最新の観測点のデータだけを用いて、過去のデータを整理すればいいだけの話ではなくって?

投稿: | 2010.02.25 12:58

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» ちょっと感動的なグラフを見つけました。 [「温暖化の気持ち」を書く気持ち]
finalvent さんの記事です。 地球温暖化防止には気象観測所を増やしたらどうかという間違った提言について -- 極東ブログ http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/02/post-dab8.html 感動したのは、その記事の中のこちらの画像 http://homepage3.nifty.com/fi... [続きを読む]

受信: 2010.02.25 18:30

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