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2010.02.16

二番底は避けられたか

 政権交代後、鳩山政権が慌てて麻生前政権の残した成長戦略に舵を切り直したことが功を奏したのか、昨年10月から12月の国内総生産(GDP)の実質成長率が4.6%増となった。二番底の危機感は薄らいだ印象はある。が、GDPデフレーター前年同比マイナス3%とデフレは進行しているので、名目GDPの伸び率で見ると年率0.9%である。
 景気が上向いた理由は、日本を取り巻く諸国の経済成長にあるだろう。中国は雑伎団的な成長率を進めているし、ヘリコプター・ベンの米国も伸びている。為替も先ほど1ドル90円を切ったが、これまでのところ安定している。とはいえ、税収の落ち込みから見てもわかるように昨年のピークには及ばない。景気が回復したという実感は伴わない。
 海外ではどう見ているかというと、フィナンシャルタイムズが小言を言っていた。昨日の社説「Japan’s fleeting glimpse of growth(日本は束の間の経済成長を瞥見する)」(参照)である。今回の好調はちょっとしたまぐれに過ぎないという雰囲気は標題からも感じられる。
 フィナンシャルタイムズは、まず、菅財務省がこれでぬか喜びをしないように、また日本の経済統計はすぐに修正されるからそれほど当てにならない、と釘を刺し、たとえ統計値が正しいとしても、日本のリーマンショック後の落ち込みが異常であり、もち返すといっても輸出増回復による対外依存であると指摘している。
 また、麻生政権下のバラマキ型経済成長戦略も評価しつつも、やはり日本経済の最大の問題はデフレだとしている。そのあたりの論点が重要なので、原文を追ってみよう。


The bad news is the outlook for future private demand. Deflation is becoming entrenched: prices are 3 per cent lower than a year ago and in accelerating decline. Japan’s corporations continue to staunch possible demand by locking up savings. Dividends are a measly 3.5 per cent of GDP. In Germany, where operating profits are comparable, they are four times larger.

凶報は将来的な民需の展望にある。デフレが定着している。物価は昨年より3%低落し、さらに急速に下降線を辿っている。日本企業は、内部留保を高めることで可能な需要をいまだ手控えている。配当はGDPのわずか3.5%にすぎない。営業利益で比較できるドイツは、その四倍も大きい。


 デフレが進行しているため、企業にとってもっともよい投資が箪笥ならぬ内部留保になってしまっているのだが、配当の悪さについてはフィナンシャルタイムズの言ってることもわかるものの、トヨタの事例などを見てもなかなか、ドイツと比較というだけでの対応は難しいだろう。
 それでも、政府がきちんとデフレ対策をするなら状況は変わるはずであり、その点をフィナンシャルタイムズも結語で指摘していく。

Though fiscal policy may be Mr Kan’s most accessible tool, what Japan really needs is vigorous anti-deflationary monetary policy and reforms to make companies less tight-fisted. Achieving those would be a real triumph.

菅氏にしてみると財政政策が扱いやすいだろうが、日本が真に必要としているのは、企業が糞づかみしている手を緩めさせるための強力な金融政策と改革である。金融政策と改革の達成が真の勝利となるだろう。


 末文の「勝利」は、省略したが冒頭に今回のGDP成長を勝利とするなという修辞との対応であった("He must, however, curb any temptation to be triumphalist.")。
 財政政策はいわゆるバラマキだが、フィナンシャルタイムズがいうほど菅財務相がその手を使うようには見えない。亀井金融担当相がさらに暴れまくるか、どっかから菅氏が好む煽てをぷうぷう吹き込むかでもしないと無理だろう。なにより財政政策の裏では消費税が控えている。というか、どうも消費税のほうが菅財務相の念頭にある。菅氏にしてみると、再配分による人気で権力を維持することが重要で、日本の経済成長は実質的には念頭にはないように見える。
 フィナンシャルタイムズが菅財務相に勧めているのは、金融政策と改革だが、それが何を意味するかは明確には書かれていない。が、前者はいわゆるリフレ政策と見てよいだろう。そしてデフレ下での有効な金融政策なのだから、いわゆる非伝統的な手法というものが想定されるだろう。改革についても、明瞭にはわからない。いわゆる日本の構造改革のことだろうか。
 率直にいえば、現在の民主党および菅財務相の方向性としては、なんらデフレ阻止の金融政策と改革の方向は見えない。GDPは好調という大本営の裏で、もうしばらくはじりじりと日本はデフレに沈んでいくしかないだろう。
 というところで、白川方明日銀総裁が今日の衆議院予算委員会で、2001年から06年の量的緩和政策について総括している(参照)。

 白川総裁は5年間の量的緩和の経験について「金融システムの安定維持には大きな効果があったと評価している。内外のデフレの歴史を振り返ると、ほとんどが金融システムが不安定化したときに、デフレの怖さが顕在化している」としたが「人々の支出活動を刺激し、その結果、物価が上がっていくということになると、この効果は非常に限定的だった」と指摘した。

 量的緩和政策は金融システムの安定には効果があったが、デフレ退治には効果はあまりないというご見解。

 また「量を潤沢に供給する用意はあるが、量だけで(緩和度合いを)判断するということについては必ずしも納得していない」と述べた。
 実質金利については、日本と欧米の長期金利と物価上昇率を比較したうえで、日本だけが高いということはないと指摘した。
 金融政策については「金利は下げるところまで下げて、かつ、現在の低い金利情勢、極めて緩和的な金融情勢を粘り強く続けていくことを明確にしている」と強調した。

 いちおう低金利は維持するが、それ以上には当面金融政策に変化はなさそう。

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コメント

菅副総理、物価上昇率「1%程度望ましい」 インフレ目標導入を視野
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/100216/mca1002161327023-n1.htm

投稿: だんtheだん | 2010.02.16 19:16

http://workhorse.cocolog-nifty.com/blog/cat1313695/index.html
初歩の経済学的モデル上は量的緩和は効果ないよ、というような主張があるわけですが。白川総裁の「安定に寄与はしたけどデフレ根治にはならなかったよ」というコメントは、心理的な効果しかなかったよという意味があるとも取れます(そう言ってしまうと次に量的緩和したときに心理的な効果すら無くなるので真偽は永遠に不明でしょうが)。

finalventさんは、(金融政策としての)リフレリフレと繰り返し述べられていますが具体的にはどのような手法を考えられてるのか見解をお聞きしたいところ。私の場合はヘリコプターマネーかそれに準じる方法(一律月ン十万円のベーシック・インカムとか)くらいしか思いつかないのですが。

投稿: t | 2010.02.16 20:31

今が二番底そのものなのに東京にいる政治家はそう思わないのか・・・いやいやいや、これは困ったぞ。

FTも分かっていないようだけど、今の日本の場合、金融政策は景気を調整出来ません。
市中金融に通貨を増やしても需要そのものが不足してんだから企業は金を借りようとしない。
大企業にいたっては内部留保して自己資金比率を高めてんだから話にならない。

金融政策を機能するようにしむけるには財政出動で公共事業を大幅に増やして実需用を無理矢理生むしかありません。

現状では、先ず財政政策があり、すると金融政策が機能し始めると思っていれば良い。

それにしても今日の大新聞の見出しには腹が立った。
名目GDPが伸びない状態で実質GDPがあんなに大きくなったんだからデフレそのもじゃんか。
商品が売れなくて価格が下がって誰かが仕事を失ってく飢え死にしたか凍え死にした、そういうことだ。
でも、なんだよ、大新聞様の記事は?
相当な悪意が無いとああ言う見出しは付けられないんじゃないかな。

やっぱり日本を救うのは耐震建築の普及、道路・橋の工事の充実、新新幹線網の設置じゃないかなぁ・・・

投稿: 田舎から | 2010.02.16 21:11

>金融政策を機能するようにしむけるには財政出動で公共事業を大幅に増やして実需用を無理矢理生むしかありません。

>やっぱり日本を救うのは耐震建築の普及、道路・橋の工事の充実、新新幹線網の設置じゃないかなぁ・・・

↑ ご意見に同意します。

でも、頼るはお上ばかりなり、では日本の偉大な民間は情けない。

江戸時代なんて、角倉了以たちみたいな豪商が、自分の財産資本でインフラ作って東廻り航路、西廻り航路を開拓したんです。あれほど規制の厳しい、武士階級という官僚が何でも支配していた時代に。

アメリカの鉄道の建設が、最初は民間会社主導だったのに対して、日本の鉄道なんていうのは、みんな国営の民間払い下げか民営化か事実上官営だから、明治以降、民間が気が小さくなっているんだろうな。

いまこそ、日本の世界の誇る流通業者や物流業者に、起債でも何でもして、流通向け物流向け都市インフラ整備に乗り出していただきたいところです。お上が用意してくれたインフラの近くや大工場移転跡の広大な空き地に駐車場を整備してショッピングモールをこさえているだけでは、あまりにも能がありません。

まあ、民間もこれから今まで官業だった分野の進出にもっと立ち上がらないといけないと思いますよ。どの企業も、日本航空の轍を踏みたくないと思ったら。あそこは、お上に甘えっぱなしだったからね、「社会的責任」を言い訳にして。

投稿: enneagram | 2010.02.17 11:24

tさんへ。インフレターゲットを2%として、長期国債の買いオペをすればよいのだろうと思います(短期国債ではなく)。「「高橋財政」に学び大胆なリフレ政策を――昭和恐慌以上の危機に陥らないために」(http://www.toyokeizai.net/money/markett2/detail/AC/35689fedf75412894af836a82624835d/page/1/)の提言に賛成しています。同記事でも言及されていますが、財政法第5条の問題がありますが、そここそ政治主導で対応可能です。ただし、この政策をフィナンシャルタイムズ(FT)が賛同しているという意味ではなく、FTとしてはさらなる量的緩和かなとは思いますが。

投稿: finalvent | 2010.02.17 17:49

リンク先の記事のポイントは *財政政策とセットなった* 長期国際の日銀引受だと思うのですが。財政出動で需要を作る、でも財政政策単体だと金利上がっちゃってブレーキかかるから金融政策で金利下げましょうというもので、これを金融政策単体のリフレと捉えるのは誤りでは?(高橋経済政策を、単なる財政政策だったと捉えるのが誤りなのと同様に)。
finalvent氏の、FTからの引用の仕方を見ると金融政策のリフレ単体でいいじゃんというニュアンスを感じます。日銀が長期国債買えるようにするべきだという主張自体には賛成しますが。

インタゲについてはこちらの記事ですかね。
http://workhorse.cocolog-nifty.com/blog/2004/07/7_.html
この記事の、リフレのためのインフレターゲット反対論の大前提は政府・日銀はデフレを起こす動機はないということのようです。まあ、陰謀論気味に団塊以上の引退世代向け選挙対策で政府はデフレ誘導をしている!という主張もなくはないので、そういう視点なら全くの無意味ではないでしょうが…

投稿: t | 2010.02.17 22:12

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