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2010.02.08

ギリシャ財政悲劇は笑えない

 5日に閉幕した先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)には、二つの注目点があった。一つは、経済学の基本でもある乗数効果も知らない菅直人財務相が、「すわっ泥酔」と思われるような発言をしないか、ということだった。懸念を見越して日銀出身の大塚耕平副金融相が同行した。冷やりとさせられたのは、ガイトナー米財務長官との会談だった。菅財務相は「ボク、一年生なのでよろしく("Kan introduced himself as a 'freshman' on financial topics")」と切り出したことだった(参照)。大学一年生で学ぶ乗数効果はまだ苦手なんだ、ボク、ということ。それで務まるのか日本の財務相。大丈夫。ジョークは飛ばしたものの結果的には慎重な発言に終始し、本人がジョークになるのは避けられた。本当によかった。
 ネタはさておき本来の注目点は、菅財務相が飛ばしたジョークのほうにある。8日付け読売新聞記事「G7デビューの菅財務相、ジョークで笑い誘う」(参照)より。


 菅財務相は会議で、ギリシャの財政悪化問題に関連し、「ギリシャという名前がジャパンではなくてよかった」とジョークを飛ばし、会場の笑いを誘った。
 ラガルド仏経済相は会議後、「ウイットが効いていて面白かった」と菅財務相に話しかけたという。

 ちなみに笑いのポイントはラガルド仏経済相の皮肉の効いた、おフランス風のエスプリのほうだ。日本の財政状況を知ってますよ、自虐ギャグですよね、ということ。
 とはいえ、当面の課題はギリシャだ。ユーロ参加時の上限に対してすでに四倍にも膨れあがったギリシャの財政赤字問題は、ポルトガル、スペインに飛び火している。4日のニューヨーク株式相場は1万ドルの大台を3カ月ぶりに割り込んだ。投機筋の圧力も受けている。投資家は新規発行のギリシャ国債の買いに殺到した。ドイツ国債の利回りの倍だ。親方日の丸ならぬ、親方欧州連合(EU)と見られている。
 欧州中央銀行(ECB)トリシェ総裁は、G7閉幕後、ギリシャの財政赤字問題について、2012年までに国内総生産(GDP)3%以下とする目標達成は可能だと述べた(参照)が、スウェーデン銀行賞受賞のジョゼフ・スティグリッツ、コロンビア大学教授者は、欧州共同体(EU)が早急にこれらの国の財政支援を行う必要があるとの認識を示した(参照)。
 どうなるのか。経済面だけで考えれば、スティグリッツ氏の意見のように支援するしかないだろうと思うが、問題は政治なのかもしれない。
 ニューヨークタイムズ「Euro Debt Crisis Is Political Test for Bloc」(参照)は政治危機として見ている。

Anxiety about the health of the euro, which has spread from Greece to Portugal, Spain and Italy, is not simply a crisis of debts, rating agencies and volatile markets. The issue has at its heart elements of a political crisis, because it goes to the central dilemma of the European Union: the continuing grip of individual states over economic and fiscal policy, which makes it difficult for the union as a whole to exercise the political leadership needed to deal effectively with a crisis.

ギリシャに端を発し、ポルトガル、スペイン、イタリアと伝搬してきたユーロの健全性への不安は、単に負債や格付け機関、不安定な市場の危機といったものではない。問題の核心は、政治危機にある。というのは、これは欧州連合(EU)の根幹的な矛盾なのだ。参加国は経済と財政政策を継続的な権限を持っており、それが効果的な危機対応に必要な政治的指導力をEUが行使することを難しくする。


  私が誤解しているかもしれないが、EU参加国の経済を均質に健全化することで全体を改善するといったことは、危機対応にはならないということなのだろう。 各国政府の独自性が、EU全体の経済指導力を削いでいる。
 逆にEUに参加せず、やや反EU的なスタンスだった英国のテレグラフでは3日付け社説「Dealing with a budget deficit: a Greek tragedy」(参照)で事態を嘲笑気味に飛ばしている。
For countries constrained by membership of the euro, the shock absorber that currency depreciation and cutting interest rates can provide is not available, so the full force of the crisis measures will impact on domestic institutions, in terms of tax rises, pay freezes and other measures likely to foment unrest. The option of leaving the euro is considered untenable by a political class which has staked so much on being an integral part of the European project, a dream that threatens to become a nightmare for its people.

ユーロの縛りを受けた国では、通貨切り下げと金利削減によって、財政のショック緩和ができない。だから、危機対応の圧力は国内の各種制度に及ぶ。つまり、増税、賃金凍結、さらには社会不安を醸し出す手段にも及ぶ。ユーロ離脱という選択肢は、ヨーロッパの一員と見なされたとこだわってきた政治支配層には受け入れがたいだろう。だが、その夢はギリシア国民には悪夢となる。


Short of domestic insurrection, the Greeks will not leave the euro. However, they are about to suffer the consequences of an EMU that has been flawed from the beginning --- underlining the wisdom of successive British governments in staying outside.

国内動乱でもあれば別だが、ギリシャはユーロを離脱しないだろう。たとえ、もともと問題だらけの経済通貨同盟 (EMU)の帰結に今後どれほど苦難が待ち受けようとしてもだ。同時に、このことは傍観者に留まった英国政府の賢明さをも示している。


 このあたり、欧州から王家を押しつけられた近代ギリシア史を思い浮かべると、英国の底意地の悪さのようなものがじんわり伝わってこないでもない。
 話を経済に戻せば、ギリシャ財政の問題は対外債務によっていること、ユーロの縛りを受けていることにある。その点、日本の財政赤字は国内で消化されているし、日銀が本気になればリフレ政策も可能だ。
 こうした問題を世界の経済政策者集団の一年生になった菅財務大臣はどう見ているか。こう言っている(参照)。
「日本の財政状況について伝えた。もっと話題になるかと思ったが、どちらかといえば、ギリシャの問題が多く意見交換され、結果として日本の財政赤字そのものを問題にするやりとりはなかった」

 わかってないよね、この人、全然。

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コメント

>結果として日本の財政赤字そのものを問題にするやりとりはなかった

あるわけないっすよね(笑)

>日本の財政状況を知ってますよ、自虐ギャグですよね、ということ。

ラガルドが面白がったのは、管さんが一般会計の財政赤字を引き合いに出したこと自体がナンセンスで馬鹿馬鹿しかったから。
日本とギリシャを並べて自虐的に振る舞うこと自体が頓珍漢なのだ。
ラドガルは「ぎゃはは、そんなの有り得ねー」と腹をかかえたろう。
そもそも特別会計を含むと日本の財政はバカみたいな大黒字である。
日本が財政赤字だと思っているのは一般会計しか見ない素人(去年までの私も)か、嘘つきの緊縮財政論者である。

日本は財政難ではない。財政が歪んでいるのだ。

>日銀が本気になればリフレ政策も可能だ。

おっと。さすが。
日銀は広義の政府に含まれるから、市中の国債を日銀が買い取れば償還したのと同じことになる。
だったら国債なんて日銀が買いきって燃やしてしまえばよい。

たき火だ、たき火だー!

投稿: 田舎から | 2010.02.09 01:27

>田舎からさん
それも政治的な問題ですね。
制度的にできても政治的(対外的)に許されるのかどうか。
日本が米国や中国みたいな国だったらなあ。

投稿:   | 2010.02.09 17:31

許されますよ。
日本の政治家にたき火が良いと助言したの、ステリグリッツだもん。
ダボス会議に招かれたケケ中がパネラーとして良い気になっていたら、会場から日銀の国債直接買い付けで債務問題なんか一喝処理しろとつっこまれてやんの。
ケケ中、ざまあみろ。

慶応経済なんて今や三流。
受験生の親御さんがいたら子供の進学先は十分考えよう。

投稿: 田舎から | 2010.02.09 20:20

「これは欧州連合(EU)の根幹的な矛盾なのだ。参加国の経済と財政政策を継続的に牛耳ることは、」
だと、後の文意と矛盾します。

ここは、
「各国政府が(EUの)経済や財政政策を超える権限を有し続けることは、」
とすべきです。

よって、
>私が誤解しているかもしれないが、EU参加国の経済を均質に健全化することで全体を改善するといったことは、危機対応にはならないということなのだろう。

この文章も不適当かと。

投稿: F.Nakajima | 2010.02.09 22:58

F.Nakajimaさん、ご指摘ありがとうございます。ご指摘の解釈が正しく、訳文と本文を訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.02.10 12:52

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