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2010.02.17

ウラン濃縮にいそしむイラン動静

 11日イランの革命記念日にアハマディネジャド大統領は、新たなウラン濃縮作業で目標の濃縮度20%のウラン製造に成功したと述べたらしい。ざっと日本での報道を振り返ると、11日付け共同通信「イランが濃縮度20%ウラン 革命記念日で大統領演説」(参照)や11日付け日経新聞記事「イラン大統領「ウラン20%濃縮成功」 欧米諸国、一段と警戒」(参照)がある。この宣言に対して、米国、ロシア、フランス3カ国は国際原子力機関(IAEA)にイランのウラン濃縮活動は正当化できないと書簡を送った(参照)。欧米ではこれが大きな話題となっていた。が、日本ではそれほど大きな話題にはならなかったようだ。
 アハマディネジャド大統領は今後濃縮度80%のウランも製造できると述べた。普通に考えれば核兵器開発の宣言にも聞こえるが、日本の隣国がかつてそうであったのとは違い、核兵器開発を明言したわけではない。そのせいか、日本の反核団体から抗議の声が上がったという話も聞かない。
 日本の大手紙社説では、私の記憶では、12日に朝日新聞のみが「イラン核疑惑―安保理の結束が試される」(参照)としてこの問題に触れたが、日本の問題とは切り離された印象の、やや他人事感が漂っている。


 イランは濃度3.5%の低濃縮ウランを保有している。アフマディネジャド大統領はこれを20%まで濃度を高めてウラン燃料にすると発表した。核兵器用には90%以上にまで高める必要があるが、そこへ向かいかねないとの懸念が国際社会で広まっている。

 結論を先にいえば、朝日新聞のこの冷やりとした視点は間違っていない。その後の論評も的確である。

 昨年6月の大統領選挙で、アフマディネジャド大統領の対外強硬路線を批判する改革派候補を支持する動きが広がった。長引く経済制裁と国際的孤立は国民生活に打撃を与えている。政権基盤に弱みを抱えるアフマディネジャド氏は国民の不満をかわすため、国際協調に進もうとしたが、保守派の批判で強硬策に逆戻りしたようだ。

 アフマディネジャド大統領自身のイランでの立ち位置の問題が強く反映しているといってよい。ただし、彼の立ち位置は不安定ゆえに弱いのかというと、不安定だからこそ軍事的な独裁へ向かう危険性を孕みだした。
 クリントン米国務長官もアフマディネジャド大統領の不安定さを認識している(参照)。加えて、多少面倒くさい陰影もある。16日産経新聞記事「クリントン米国務長官、対イラン制裁強化で包囲網強化狙う」(参照)より。

イランによる20%の高濃縮ウラン製造開始を受けて、クリントン米国務長官は14、15の両日、ペルシャ湾岸の親米アラブ産油国カタールとサウジアラビアを訪問し、対イラン追加制裁への理解と支持を求めた。長官は15日、サウジのアブドラ国王、サウド外相と会談したが、サウジ側は「段階的な措置ではなく、即効性のある措置が必要」(サウド外相)と主張、イランの核開発に強い懸念を示した。

 日本ではあまり指摘されないが、イランのイスラム教であるシーア派は、中近東地区非シーア派諸国にとって脅威になっている。露骨にいえば、米国は非シーア派イスラム諸国に対してシーア派イランからの脅威を防ごうと提唱する、いわば分断戦略でもあり、同時に、イスラエル問題での宥和的な要素も含んでいる。ガザ問題などもイランの代理戦争的な意味合いがあると見られているからだ。
 実際のイランの脅威という点では、率直なところ、それほど問題はない。イランのウラン濃縮技術自体はまだまだ未熟で、今回のアハマディネジャド大統領の声明も専門家からはただのフカシと見られている。それでも、放置しておけば核不拡散条約(NPT)をナンセンスなものに変容させかねないが、米国がイラン攻撃をするといった事態にはならない。むしろ、米国としては、イスラエルの暴発をどう欧州やサウジを中心としたイスラム諸国を巻き込んで押さえ込むかという問題になっている。言うまでもなく、イランに親和的でやたらと足並みを乱してくれる中国も問題だが現状、そこに焦点を当てて中国問題をさらにこじらせすわけにもいかない。
 この間、ニューヨークタイムズ(参照)やワシントンポスト(参照)など高級紙の対イラン主張を見ると、オバマ政権に対してイラン制裁を強化すべきだという意見が目立つ。ちょっと驚いたのは13日付けワシントンポスト「It's time for U.S. to consider targeting Iran's gas imports」(参照)でガソリンの禁輸措置が提言されていることだ。産油国であるイランにガソリンの輸入禁止というのも不思議なようだが、イランには原油の精製能力が足りないためだろう。ちなみにこの制裁がそれほど効果的とも思えないのは同記事でも言及されている。
 で、どうなるかなのだが、朝日新聞の展望とは異なり、恐らくそれほどどうという展開もないだろう。ただ、イランの弱点は内政の不安定さにあるので、数カ月後にイラン国内で不可解な突発的な動乱でもあれば、いろいろと背後のお仕事が実を結んだのかなという陰謀論みたいな感想も否定しづらくなる。

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コメント

"米国、ロシア、フランス3カ国は国際原子力機関(IAEA)にイランのウラン濃縮活動は正当化できないと書簡を送った"
核保有国が言ってもまったく説得力が無い。。鳩山首相が税金払えというのと同じですね。イランが自壊したらアメリカはまたいちゃもんつけて占領するのかなぁ。

日本は感情的には拒否したいですが、周辺諸国とのパワー・バランスやアメリカのプレゼンス低下を考えると、核武装しないと今度は中国の属国にされてしまいます。"見たくないから見ない、気がついても言わない、言ってもきかない。そして破局を迎える"、そんな言葉を思い出しました。

脱線ですが、イランといえばサヘル・ローズちゃんはかわいいです。

投稿: crikey | 2010.02.17 20:51

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