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2010.02.05

[書評]「CO2・25%削減」で日本人の年収は半減する(武田邦彦)

 いわゆるという限定が付くが、反環境問題で話題の論者、武田邦彦氏の近著「「CO2・25%削減」で日本人の年収は半減する(武田邦彦)」(参照)を勧められて読んだ。

cover
「CO2・25%削減」で
日本人の年収は半減する
武田邦彦
 以前、ベストセラーということで武田氏の「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」(参照)をざっと読んだおり、ペットボトルのリサイクルやダイオキシンについての見解は、大筋で武田氏の視点が正しいのではないかと思った。が、温暖化問題については、ジャンルが多少ずれているような印象を持った。その後、同書はネットでも話題になり、反論や武田氏へのバッシングもよく見かけた。現在出版界では武田氏はドル箱的な著作家の一人でもあり、最近の動向はどうなんだろうか。また本書のコンセプトである日本の経済成長阻害の問題や、さらにこのブログでも「クライメイトゲート事件って結局、何?: 極東ブログ」(参照)で扱ったクライメート事件なども言及されているようなので、そのあたりに関心を持って読んだ。
 書籍として読みやすく面白い本ではあった。ただ、本書のテーマである、鳩山イニシアティブがもたらす日本経済発展阻害については、率直に言うとやや大局的過ぎ、経済学的な視点が足りないように思えた。本書で述べられているのは、国家の経済発展には必然的に二酸化炭素の排出増加を伴うという原理性である。この原理的な主張は鳥瞰図的に見れば私も正しいと思うし、中国の対応やその他の国の対応を見てもこの原理は前提になっている。あまり大っぴらに語ることは好ましくない風潮が日本にはあるが、国際社会上はごく常識の部類だろう。
 では、災厄的ともいえる鳩山イニシアティブによって、日本の経済発展は半減し、標題のように国民の年収も半減すると予想できるかというと、そこが本書の妙味ともいえるのだが、日本政府側や民主党政権側の言い逃れのロジックをきれいによくなぞっていて示唆深い。
 私が本書を読んで、「ああ、なるほどね」と思ったのは、いろいろきれい事が言われていても、鳩山イニシアティブは、結局は排出権取引で片付く問題であり、テーゼ的に言うなら、本書にもあるように、「ロシアから排出権を1兆円で買う」ということに落ち着きそうだ。比較的簡単な落としどころの伏線はあるもんだなと思った。もちろん、そのあたりが真実かどうかは今後、他の動向と併せて関心を持つ必要はある。
 本書では前半、日本に環境問題報道には問題があるとし、特にNHKが槍玉に挙がっていた。私はこの問題に対するNHK解説委員の各動向をそれなりに継続的に見ているので、必ずしもNHKが一枚板ではないことは知っている。それでも、日本の環境問題報道に疑問に思うことはある。本書では最近の事例としてクライメート事件の報道の遅れを取り上げていたが、確かにあの遅れはなんだろうという点では同意できるものだった。
 関連した余談になるが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル:Intergovernmental Panel on Climate Change)は、第4次評価報告書(Fourth Assessment Report)記載の「ヒマラヤ氷河が2035年までに消滅する」という予測がまったくのでたらめであることを認めて最近謝罪したが(参照)、実際にその地域の問題に、「黒色炭素(Black Carbon:ブラックカーボン)の地球温暖化効果: 極東ブログ」(参照)で言及したブラックカーボンが関与しているという話題(参照)については、ほとんど日本国内報道では言及を見ない。そもそもブラックカーボンの言及すら少ない。ちなみに、本書でもブラックカーボンについての言及はない。
 本書後半では、各種エネルギーの考察が一巡あり、人によってはそれぞれに反論もあるのだろうが、簡素にまとまっていてわかりやすかった。原発の安全性や天然ガスとメタンの関係など、私もそうかなと思って読み進めた。
 最後に余談に属するが、そして本書でも余談としているが、以下の話は面白かった。日本の二酸化炭素排出の増加率0.78%について。

 余談だが、この年率0・78%増加という数字について、本書を担当した文系編集者が計算し、私に質問を投げてきた。「計算すると先生の書かれている数字と違っていてわからなくなっています」というわけだ。
 文系編集者の答案は、次のようなものだった。
《・ 13トン(2007年排出量)÷ 11.4トン(1990年排出量)= 1.14
 ・ 17年間のCO2増加率は、14%
 ・ 14% ÷ 17年 = 0.82%
 ・ 0.78%にならない?

 私の書籍の批判には、このようなところのものが実に多い。文系理科系を併せても95%以上は同じような計算をしているものだ。理科系でも、10%くらいしか正答はないから情けないことだ。

 本書にはずばり正答は書いてないけど、どこが間違っているかはその後にフォローされている。が、その後。

 担当の文系編集者は一応、自分の頭で考えようとしたことを評価して温情的に採点すると、20点である。理系でもレベルが低くなっているので、めげることはないが、こういうところにも落とし穴が潜んでいることを覚えていてほしい。

 そうだろなと思う。担当の文系編集者さんもよくがんばりました。
 こうした傾向は若い人に限らない。昨今の日本では、理系でも乗数効果を知らずに財務相が務まり、各国の経済要人と渡り合うことができるようになった……たぶん。

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コメント

こういうことですか?
(1+0.78%)^17=

投稿: はーい | 2010.02.05 19:25

もし、バイオテクノロジーで、高付加価値製品を高生産性で産生させる単細胞藻類とかジャイアントケルプとかひじきとかホンダワラとかが開発されたら、世界中が、「二酸化炭素が足りない」って言って大騒ぎすることになるのではないかしら。そうなれば、排出権ではなく、二酸化炭素や(二酸化炭素製造目的の)液体酸素がいいお値段で取引される商品になる可能性もあります。

また、そういう時代には、ものすごく二酸化炭素吸収力の大きい(ということは収穫量のきわめて大きい)トウモロコシとかサトウキビとかも育種されて、世界中もう「がんばれ製鉄業、電力産業」という事態になっているのではないかしら。

でも、そんな時代には、製鉄業も電力産業も、あまり石炭や重油を消費しない産業に形態変化していたりするかもしれません。自動車も、車載燃料電池で駆動するようになっているかもしれないし。

そんな時代になると、ロシアも天然ガス商売しやすいから、また、国際的に地政学的諸条件が大変化すると思います。

二酸化炭素排出の問題も、そのうち、ローマクラブの警告みたいな話になるような気がしています。

投稿: enneagram | 2010.02.06 09:34

その本を読んでいないので詳しいことはわからないのですが、
1.14^(1/17)は、
http://www.wolframalpha.com/input/?i=1.14^(1/17)
で分かるように、1.007737...という無理数で、すなわち約0.77%ですね。
引用された文脈が正しいとすると、武田さんの計算も間違いということになります。
とはいえ、もとの有効数字がそもそもどーなっているのか、
13トン、11.4トンというのも、1,293,409ギガトンあたりが、日本の2006年CO2排出量の相場であるらしい(Wikipedia)ので、意味不明な数字です。
あくまで例え話の文脈だとしても、13.0トン、11.4トンと、有効数字を揃えるぐらいしてもらわないと、乗数効果以前に理系の思考から逸脱しています。

投稿: | 2010.02.08 17:16

エクセルで
1.0078^17=1.1412
となりました。
ケタが切られているので
正確ではないですが、
そこまで数学的に厳密にしなくても・・・

投稿: takada | 2010.04.27 11:36

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» 最近、finalvent さんが [「温暖化の気持ち」を書く気持ち]
温暖化における黒色炭素の影響について記事を書いていらっしゃるのをよく目にします。昨日もこちらの記事を書かれていました。 [書評]「CO2・25%削減」で日本人の年収は半減する(武田邦彦)-- 極東ブログ http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/02/co225-a7... [続きを読む]

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