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2010.02.23

[書評]医薬品クライシス 78兆円市場の激震(佐藤健太郎)

 書名「医薬品クライシス 78兆円市場の激震」(参照)は刺激的だ。78兆円規模の医薬品市場に激震が走るというのである。いつか。2010年、つまり、今年だ。帯に大書されているフレーズ、「2010年、もう新薬は生まれない」が象徴的だ。

cover
医薬品クライシス
78兆円市場の激震
 帯ではまた「崇高な使命、熾烈な開発競争、飛び交う大金、去っていく研究者」として激震が語られている。だが単に危機を煽った書籍ではないことは、著者佐藤健太郎氏が二年前まで現役の熟練創薬研究者であり、この数年の動向を踏まえていることからわかる。
 なぜ、激震が及ぶのか。私としては二点で理解した。一つは、創薬のハードルが年々高くなってきているということだ。効果のある新薬を生み出すのはノーベル賞受賞より難しい。しかも、医薬品に付きものの副作用に対する安全性にも厳しい目が向けられている。
 二点目が、2010年に関わる。これまで製薬会社のドル箱であった医薬品の特許期限が今年を中心にバタバタと切れ、安価な後発医薬品に追われるようになることだ。創薬の製薬会社の利益確保が格段に難しくなる。
 しかし、ここで医薬品市場ではなく、医薬品を使う側の市民の視点に立つなら、一見話は逆のように見える。成分が同じであるがゆえに効果が同じと見られる後発医薬品が安価に購入できるなら、利用者の負担も減るし、国家の医療費負担も減ることで税の圧迫が抑えられる。確かに、その側面はある。が、反面には、個々には利用者の少ない難病患者のための医薬品開発がより難しくなる現象もある。本書は、医薬品にまつわる各種の側面をバランスよく捉えている。
 本書は、医薬品市場と創薬の現場について焦点を置いているものの、一般の読者にとって興味深いのは、創薬とはなにかという解説だろう。化学者はどのように医薬品を創造するのか。また、創薬の世界にも流行があるといった話は、普通に科学に関心をもつ市民にとっても知的に興味深いところだろう。
 むしろ、書籍としては医薬品市場や創薬の話というより、またクライシスという危機についてよりも、現代の医薬品を総括的にわかりやすく語った点で広い読者層に読まれるべきだろう。ふんだんに散りばめられた各種のエピソードも興味深い。個人的には、遠藤章先生の執念の話や、思わず社内でボツになりかけたハルナールの話などは、もっと知られてよいようにも思えた。

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コメント

1999年に出版されたピーター・ドラッカー著「明日を支配するもの」の中で、すでに、1990年代に入って、製薬産業は、成長産業から成熟産業に移行してしまい、医療業界は、収益源になるすべての分野を進出対象にしなくてはならなくなった、という記載がありました。

いわゆる、「奇病」とされているような疾患に対処する新薬については、公的な助成や税制上の優遇措置を与えてでも対処しなくてはいけないと思いますが、現在の医療業界にとって、新薬や、手術手法の開発が、どのくらい医学上の「決め手」になっているのか、疑問が感じられるケースは少なくないと思われます。

「新薬」というのは、FK-506のように、発見時は抗生物質で、後に移植手術用の免疫抑制剤としての効能が発見される、なんていう場合も少なくないようです。

私は、以前から喫煙しませんし、ここ半年間はほとんど飲酒しておりません。喫煙や飲酒をしなくても、心理的、社会的健康が維持できる居住条件や労働条件を社会的に成立させていく努力のほうが、現代の医療には強く求められているように思われます。

あとは、あんまり、辛味甘味を過剰摂取しないようにするとか、動物性たんぱく質は、畜産物からだけでなく、海産物からも摂取するとか。

なんか、医食同源みたいな話をすると漢方医学めいてきますか、漢方医学は、基本の正しいところを言い当てていると思います。私自身、漢方医学のお世話になった経験があるので、これから医者になろうとする方々には、脈診、舌診、腹診は、できるようになってほしいものだと思っています。

投稿: enneagram | 2010.02.24 11:31

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