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2010.01.26

名護市市長選挙と普天間飛行場移設問題

 24日に実施された沖縄県名護市長選では、普天間飛行場代替基地を同市辺野古に受け入れないとする稲嶺進氏が当選した。事実上の辺野古案への拒否(ヴィトー:veto)となった。皮肉に聞こえるのを恐れるが、総合的な地方行政ビジョン問うべき首長選挙であるべきはずが、結果的にヴィトーに集約されてしまったのはあまり好ましいことではない。
 補足すると、ヴィトーの本来の指針からすれば辺野古受け入れ拒否の上に市政ビジョンを築くということになるはずだが国政側がぶれている。すでに平野博文官房長官の「(選挙結果を)斟酌しなければならない理由はない」(参照)や北沢俊美防衛相の「沖縄の皆さんに、政府が本来決めるべき選択をあまり過重に任せる風潮は良くない」(参照)、さらに鳩山首相の「ゼロベースで国が責任を持って5月末までに結論を出すとしているから、そのことは必ず履行する」(参照)も辺野古案を排除しないという含みがあり、民主党政権側から意外にもこのヴィトーを受けることの躊躇が出ている。名護市の市政ビジョン形成は国の動向で左右されたままの状態だ。もちろん、稲嶺氏が落選しても同じことではないかと言えばそうだが、いずれにせよ、民主党政権側が今回のヴィトーをきちんと受け入れるなら市政ビジョンはすっきりしたことだろう。
 この問題の行方だが、昨年7月の時点で「民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう: 極東ブログ」(参照)で触れた以上の展開を予想するものはない。が、しいて言えば、三点可視になった部分はある。
 一つは、鳩山政権が昨年夏に想定していた以上に迷走していることだ。選挙前に想定していたマニフェストの欠陥はことごとく当たっているような実感もあるが、その当たり方は的中というより、そこまでひどいかという落胆を伴うものだ。顕著な例はマニフェストで削減額の最大項目であった「ガソリンの暫定税率廃止」である。ある意味、これは最初から空文であり、マニフェスト違反でよかったと言えないこともないのだが、問題はそこではなく、決定プロセスにあった。端的にいえば、合議的なプロセスもマニフェストもへったくれもなく、小沢氏の独断ですべてが最終的に覆ったことだ(参照)。くどいが、小沢氏の判断は結果からすれば正しいとも言えるものであり、小沢氏が民主党の屋台骨であると言えないでもない。そして、この独裁的な決定権を事実上持つ小沢氏が、辺野古移設問題でもNo!と言っているから(参照)、連立与党がとりあえずまとまっているかに見える。ただし、この小沢氏の論点は辺野古移設反対に留まらず、「軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンスは第7艦隊で十分だ」(参照)という見解に結びついているにもかかわらず、民主党内ではその合意はまったくといってほど取れていない。
 二つ目は、その屋台骨の小沢氏の動向がまったく不明になっていることだ。小沢疑惑の今後の動向は見えない。とはいえ、現職民主党国会議員の元秘書を含め秘書三名が逮捕されている現状、政治的な責任を回避することはできない。小沢氏が抜け落ちれば、民主党は、各種の問題を放置したまま空中分解しかねず、その可能性は国政にのみならず、米国にも被害が及ぶ。難しいトレードオフを多方面に強いている。
 三点目は、以上の経緯を踏まえても米国が軟化していることだ。軟化の理由は、日本の政治の不在に対する米側の絶望感だが、加えて、高まる中国問題や、オバマ政権も鳩山政権のように内部できしみが発生しいることがある。オバマ政権も鳩山政権ほどではないが行方が危うい。端的に外交だけに絞っても、日米同盟や北朝鮮問題よりも、イラン問題やパキスタン問題が喫緊の課題であり、日本問題にまで頭が回らない。現状、オバマ政権としては建前としては、辺野古案に固執しているかのようだが、内部ではすでにこの案は疑問視されている。従来辺野古推進派とも見られていたアーミテージ元国務副長官もすでに辺野古移設案の代替案が必要だという認識を示している。16日事実通信「普天間決着「悲観的」=行き詰まり想定し代案検討を-アーミテージ氏」(参照)より。


【ワシントン時事】アーミテージ元米国務副長官は15日、ワシントン市内で講演し、米軍普天間飛行場移設問題について「建設的な決定がなされるか悲観的だ」と述べ、日本側から米政府が受け入れ可能な移設案は提示されないとの見方を示した。その上で、「軍事上の要請を十分満たした代案も考えなければならない」として、移設が行き詰まった場合を想定した措置について検討しておく必要性を指摘した。
 アーミテージ氏はこの後、記者会見し、鳩山政権が移設問題の決着期限とした5月までに方針決定できるかどうかについて、7月に参院選を控えていることを理由に「疑わしい」と言明。「実際は6月か7月になるかもしれない」との見通しを示すとともに、米政府はそれを「承諾する以外に選択肢はない」と語った。(2010/01/16-10:57)

 台湾有事に備えるには沖縄にヘリポートが必要だとの論もあるが、アーミテージ氏の言う可能なかぎりの「軍事上の要請を十分満たした代案」に新在沖海兵隊飛行場の必要性がどの程度あるかについては、明確な議論はない。というか、この問題は、現行の普天間飛行場でかなりクリアできるので、その意味では、辺野古移設がすべて頓挫しても米側としては現在の普天間飛行場の確保でなんとかなる。
 この点は誤解されてもしかたがないかと思うが、強行派と見られる、辺野古移設推進として動いた米側の知日派には、なんとかあの危険な普天間飛行場の撤去したいという道義的な思いがある。それに新基地としてのうま味がないとは言わないせよ。
 論理的に見れば、鳩山政権の課題は、辺野古移設の可否ではなく、普天間飛行場を撤去して、米側が要求する「軍事上の要請を十分満たした代案」の推進である。現行では、鳩山氏の発言からもそれを志向しているので、5月までの検討を注目したい。
 ただ、この問題の全構造は政権交代前からわかっていたことでありながら、事実上の野党的な無策であった出遅れ感は大きい。民主党が政権についてからこの問題の遅延を行ってきたのも、無策・無責任の惰性の結果であったと見るほうが正確だろう。であれば、その先にあるものへの期待は少ない。
 鳩山首相は、野党時代の常時駐留なき安保論は首相在任中には主張しないと述べた(参照)。素直に考えれば、普天間飛行場代替に全力を傾けることになるはずだが、この間の鳩山氏の動静を見てきて、彼にそれができると信じる者は少ないだろう。最後はまた力業で小沢氏が決定するかだが、小沢氏は在日米軍を否定する考えを持っており、もし決定するなら、社民党に近い方向に向かうだろう。そうした場合、日本の安全保障がどうなるのかというのは当然ながら民主党の方針というより、小沢氏のビジョンに従うことになり、であれば氏の持論である国連軍に日本が軍事寄与することになるのだろう。そうしたビジョンに国民がどれだけ合意するだろうか。それ以前に連立民主党政権が納得するのだろうか。考えていけばいくほど、ヴィジョンとしては正しいとしても、現下の日本の安全保障問題とは結びついてはこない。

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コメント

実質的には何も決められないまま、ズルズルと引き伸ばして5月の期限をむかえることになるのだろう。
そしてたぶん、その先も…。
仮に新たな移設先が決まったとしても、現行案より移設に時間がかかる。
ということは当分のあいだ現状維持ということ。
沖縄にとっては最悪の結果ですな。

投稿: | 2010.01.26 15:22

現職民主党国会議員の元秘書を含め秘書三名が逮捕されている現状、政治的な責任を回避することはできない。

というのは適当ではないと思われます。これでは小沢氏周辺を逮捕すれば彼を政治的に排除できるということになりませんか?

小沢氏が民主党の幹部に相応しいかと言えば疑問ですが、この対応も大久保秘書裁判の行方と金沢秘書発言の信憑性を見れば、何らかの意図は排除できないと思います。

投稿: 小沢嫌いだけどね | 2010.01.26 17:40

>平野博文官房長官の「(選挙結果を)斟酌しなければならない理由はない」

ちょっと話がづれちゃうかもしれませんが、この官房長官の酷さも相当なものですね。これ以前にも色々な批判はありましたが、今回の失言は極まったと言うか…政権のスポークスマン役の官房長官の発言をなぜか国民の側がそれこそ「斟酌」すれば、今の段階で選択肢を狭めたくはない、米国との関係もあるから、って事が言いたいんでしょうが、それにしたってスポークスマンとして呆れた言葉の選び方です(この場合、普天間問題の賛否とこの発言の酷さの評価はまた別問題だと思います。早い話冷静に読み返せば、どういう立場でもこの発言は呆れかえるでしょう)。ここ最近の自民党政権の官房長官が河村町村とややおとなしめ無難だったのと、安倍福田が小泉政権の官房長官時代にそれなりに国民の評価があり、その後の総理への道があったことなんかとの比較の問題もあるのでしょうが、鳩小沢の金銭問題の影に隠れがちですが、鳩山政権の急激な失速の原因の少なくない部分をこの労組官僚上がりの官房長官が占めてると思います。

投稿: | 2010.01.27 01:35

平野官房長官の発言は、噴飯ものだとおもうけれど、この問題の最大の原因は、故橋本龍太郎首相が、移設の話が出来るようになった段階で責任を持って話をきちっとつけておかなかったことだったと思っています。クリントン大統領から、普天間移設の言質だけとって終わりだったからね。

橋本首相の時代に普天間からどこへ移設するかきちっと決めておけば、今問題にするのは、実施方法や実施速度だけですんだはず。また、社民党がへんな蒸し返しをしたら、おかしな話をしているのは社民党だということが国民に納得できるはず。

社会党と連立組んで、社会党の村山首相のあとに連立政権の首相にさせてもらった人(自民党代議士)だからね。何するにしても見識が欠けているよ。

死んだ人の悪口をあまり言うのはいやだし、無意味だけれど、その時点で自分たちが社会党と連立していながら中途半端にしたらこういう事態になる可能性をまるで想定できなかったとしたら、ひどく想像力が欠如しているということですよ。

民主党の対応を非難するより、故橋本首相の仕事の中途半端さを指摘したいですね。この件については。

投稿: enneagram | 2010.01.27 09:47

>鳩小沢の金銭問題の影に隠れがちですが、鳩山政権の急激な失速の原因の少なくない部分をこの労組官僚上がりの官房長官が占めてると思います。

↑ よくぞおっしゃってくださいました。私も同じ意見です。信じがたいひどい官房長官です。現官房長官は。

投稿: enneagram | 2010.01.27 09:50

 なぜ現知事や前市長が当選できたのか、なぜ今回の選挙で反対を表明した候補が勝ったのかとか、今回の選挙の得票数差の意味を考えると、内地の活動家やはてブコメンテーターのように勝った負けたと選挙結果と自身のイデオロギーだけではしゃげないと思うんですけどね。

 基地が存続するにしろ、撤廃されるにしろ、どちらにしても沖縄の人たちは重い荷を背負わなければいけないわけで、国家の安全保障問題だけでなく沖縄という地域の社会と経済をどうするのかという問題も同時に考えないといけないことなのだと思います。その辺を誰も語らないところにこの問題の形骸化と論じる人間の無責任さを感じてしまいます。

投稿: 康芳英 | 2010.01.27 19:47

自民党が自分たちは共和党だという姿勢を堅持していたのなら、安倍・福田・細田の小泉家歴代三女房が平野さんを可愛がる、という"ドリームマッチ"が楽しめたのでしょうけどねぇ・・・。
三人とも転びバテレンみたいなものだから・・・。

投稿: KU | 2010.01.28 19:58

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