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2010.01.20

ハイチ大震災

 日本時間13日6時53分(現地時間12日4時53分)、ハイチで起きたマグニチュード7.0の地震から1週間が経った。当初曖昧だった惨状もその後、刻々と明らかになってきている。震源は首都ポルトープランスの南西約15キロ、震源の深さは極めて浅く、約10キロである。


ハイチ地震震源

 ハイチはドミニカに接し、キューバにも近い。つまり、米国に近い位置にある。


ハイチの近隣国



中米におけるハイチ

 13日付けの読売新聞記事「ハイチの地震、専門家が事前に警告」(参照)では、この地震が予想されていたことを伝えている。


 【ワシントン=山田哲朗】米地質調査所(USGS)によると、ハイチの北方海域には、北米プレートとカリブプレートの境界があり、カリブプレートが東に年約2センチ・メートル動いている。
 プレートが押し合う場所にある日本列島と同様、プレートの力によって断層が生まれやすく、地震の多発地帯だ。
 ハイチには東西方向に走る大きな断層帯が2本あり、今回の地震は、南方の「エンリキロ断層」と呼ばれる横ずれ断層の東寄りの部分で起きた。
 この断層の付近では、1751年と70年を最後に、大きな地震は起きていなかったという。USGSの地震学者らは2008年、一帯の岩盤にひずみがたまっており、この力が一度に解放されれば最大でマグニチュード7・2の大地震が起きると警告していた

 具体的にどのような研究であったかについては、「Seismology of Haiti Earthquake」(参照)が詳しい。元になった論文「Interseismic Plate coupling and strain partitioning in the Northeastern Caribbean (2008)」(参照PDF)はオンラインで無料に読むことができる。


調査されていたハイチ断層

 地震が予想されていたならなんらかの対応はできなかったか。私の印象に過ぎないが、2つの理由で難しかっただろう。(1)予想されていても2年後であるとまでは予想できなかった、(2)対応ができる社会環境になかった。
 当然ながら問題は(2)になる。15日付けニューズウィークの寄稿記事「Averting Disaster」(参照)でもそこに焦点を当てていた。


The most shocking thing about the disaster in Haiti was not that it was so sudden, violent, and horrific in its human toll. It's that the damage was so predictable. Seismologists warned that the country was at risk as recently as two years ago. Haiti is also the latest in a string of nearly annual megadisasters extending back through the past decade, calamities claiming tens of thousands of lives more because poverty and the forces of nature met with foreseeably tragic consequences.

ハイチ災害において最も驚愕すべきことは、けして、それが突然であること、暴力的であること、犠牲者の惨状ではない。この被害が予測可能であったことだ。地震学者は2年前ほどの近年にこの国に警告を発していた。また過去10年間の大災害を並べてみると、ハイチでは、毎年のように大災害が近年に並ぶ。貧困と自然災害が予測可能な悲劇的結果と相まって数万人もの死者をもたらす惨事もそうだ。


 記事には個別の災害への言及はないが、例えば、2004年のハリケーン「ジーン」では、死者600人、行方不明者1000人に及んだ。2008年のハリケーン「ハンナ」でも500人近くの死者を出した。2008年には地震もないのに授業中に学校の校舎が倒壊し50人が死亡した。なお、日本でも民主党政権の事業仕分けで高校無料化に伴い、小中学校の耐震補強予算が削られている現在、地震時には日本でも同様の惨事が想定される。
 自然災害はあるがハイチという国家の問題もあることは明らかで、その歴史についてもいろいろと込み入っている。日本共産党の機関誌赤旗は16日の記事「ハイチ地震 未曽有の被害なぜ 米国の干渉で最貧国に」(参照)といった記事でざっくりとまとめてしまっているが、未来に目を向けたとき米国をバッシングして済むお話でもない。
 15日付けワシントンポスト社説「Averting chaos in Haiti」(参照)が指摘するように、ハイチは米国の支援なくしては存立できない。

More than 1 million Haitians, about a third of all adults, currently receive cash from relatives living abroad, most of them in the United States; those funds account for between a fifth and a third of Haiti's gross domestic product.

ハイチの成人人口の三分の一に相当する100万人もが、現状海外からの現金仕送りを受けている。その大半は米国からである。この仕送り額は、ハイチの国内総生産の五分の一から三分の一にまで及ぶ。


 災害援助や復興事業も大切だが、具体的に在米ハイチ人の就労を促進する課題を米国は担わされてきており、この問題が米国での報道に微妙な陰影を与えている。

Yet the Obama administration has balked at helping tens of thousands of Haitians currently here illegally by granting them temporary legal status, which would enable them to get work permits.

にもかかわらずオバマ政権は米国内の数万人もの不法滞在ハイチ人に、一時的な法的地位を与えることたじろいでいる。彼らに地位を与えれば、米国における就労が可能になるにもかかわらずだ。


 このあたりの機微は14日付けニューヨークタイムズ社説「Help Haitians Help Haiti」(参照)が詳しい。

Advocates for Haitian immigrants, whose diaspora is centered in Miami, have waged a long and fruitless campaign for protected status, arguing that remittances by Haitians in the United States are a vital source of aid --- more than $1 billion each year. Now that Haiti has suffered its worst disaster in centuries, the argument for a temporary amnesty is overwhelming.

マイアミを居留地とするハイチ移民の支援市民団体は、年間10億ドルに及ぶ在米ハイチ人の送金に生死を分ける重要性があるとして、彼らの法的地位獲得の運動を行っているが、実を結んでいない。ましていまや、ハイチは数世紀間に類を見ない最悪の災害で苦しんでいる。一時的であれ恩赦を与える議論は圧倒的と言える。

It was not enough for the administration to announce this week that the Department of Homeland Security would halt the pending deportations of the 30,000 or so undocumented Haitians. Burdening a collapsed country with destitute deportees would be a true crime. But all that does is leave the potential deportees in limbo, unable to work without fear.

今週になってオバマ政権は、米国国土安全保障省から、懸案だった3万人ほどのハイチ不法移民追放を停止するとしたが、それだけでは十分ではない。困窮した祖国喪失民に崩壊した国家の重荷を負わせるのは、まさしく犯罪であろう。こうした対処では、祖国喪失民を辺獄に置き去りにし、恐れなく労働することを不可能にする。


 ハイチ地震災害の復興には、日本を含めた諸外国の協力も必要だが、現実問題としては、米国はハイチ移民をより積極的に受け入れていくという方向を取らざるをえない。
 そしてそれが何をもたらすかは、もういちどハイチが置かれている地域を眺めると、うっすらともう少し先の未来も見えてくる。

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コメント

ニューズウィークの「Averting Disaster」の訳ですが、
> tens of thousands of lives

は、「数万人もの命」ではないでしょうか?
細かいことですが、、

投稿: さーふ | 2010.01.20 23:12

1950年から2000年までに、世界全体で、人口が3倍に増え、経済成長は10倍だったそうです。

世界中で、10倍の経済成長などとてもできなかった地域で、人口は3倍なんてものではなく膨れ上がったわけで、ハイチの地震での混乱も、原因はこの辺だろうと思います。

これからの経済格差は、教育格差を原因とするでしょうから、この点を何とかしないと、人間の尊厳の社会的問題は、グローバルな南北だけでなく、各国の国内で「南北」問題を深刻化させると思います。

この事件についていえば、湾岸戦争のときに、世界が一致して、テロや侵略を許さない国際的な行動を取れたので、それに習って、これを機会として、せめて、ある国家が統治能力、人権擁護能力、危機管理能力を喪失したとき、グローバルな社会は、その国の国家主権についてどういう取り扱いをするべきかという問題を考えることを、世界中の国際法学者たちに共有してもらいたいと思います。

正直言って、災害や人権蹂躙に対しては、国家主権がどうのといっていられない事態が、今後多発すると思われるからです。

投稿: enneagram | 2010.01.21 12:11

さーふさん、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.01.21 13:38

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