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2010.01.31

[書評]朝青龍はなぜ強いのか? 日本人のためのモンゴル学(宮脇淳子)

 岡田英弘先生と宮脇淳子氏の著作の大半を私は読んでいるが、本書「朝青龍はなぜ強いのか? 日本人のためのモンゴル学(宮脇淳子)」(参照)については迂闊にも知らないでいて、先日勧められて読んだ。

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朝青龍はなぜ強いのか?
宮脇 淳子
 既に他の著作で書かれている内容も多いが、宮脇氏の体験談や女性から視点などが面白かった。読んでためになる、体系的な知識が増えるというタイプの著作ではないが、副題に「日本人のためのモンゴル学」とあるように、日本人なら知っておくといいのだろうなと思われることが随所にある。例えば、中露と微妙な距離を取りつつ安全保障を図るモンゴルの外交。モンゴルは、上海協力機構に近隣国が加盟するなか、オブザーバーではありながら加盟していない。

 モンゴルが正式加盟しないままでいる理由は、二〇〇六年上海での首脳会議で「政治体制や価値観などの違いを口実に内政干渉すべきでない」と宣言に盛り込むなど、上海機構が反米連合の色彩を強めているからである。絶妙の位置取りと言えよう。

 他方、中露と距離を置きつつ親米というのではないが、米国とも協調している。

 アメリカとの関係はといえば、二〇〇三年三月に始まったイラク戦争の際、同年十月国連で「イラクへの多国籍軍派遣や復興計画を巡る決議」が全会一致で採択される以前から、モンゴルは英米ほか三十五ヶ国とともにイラクへ軍を派遣した。
 イラクに派遣されたモンゴル軍は、九千百人(予備役十四万人)の兵力のうち百三十人にすぎなかったが、現在も少ない数ながら駐留を続けている。アフガニスタンにも軍を派遣している。軍事予算は、国家予算の三・三%程度であるが、だからこそモンゴルは国連の安全保障に注目し、PKOに積極的に参加したり、アメリカとの関係を強化して自国防衛を確保している。

 もちろん、これは米国側からもモンゴルを使ううま味というのもあるし、いろいろどろどろした問題がないわけではない。が、小国ながら、あるいは小国だからか、自国の安全保障の意識は明瞭にある。
 日本はどうか。日本はモンゴルをどう捉えているか。モンゴルへの対外経済支援の半分以上は日本が占めているのだから、日本としてもモンゴルを結果的には重視していると言えるし、モンゴルも二〇〇七年には国連の安全保障理事会非常任理事国の立候補を辞退し日本の改選を応援することで日本の顔を立てている。この結果が、日本提起の北朝鮮制裁にも有効に働いた。
 本書は標題どおり「朝青龍はなぜ強いのか?」についても触れている。理由はモンゴル相撲の背景があることや、強い男を生み出すモンゴルの文化などだ。率直にいえば、このあたりの説明だが、文化の話は面白いがそれを朝青龍に結びつけるあたりは酒飲み屋の談義の粋を出ない。
 モンゴル相撲と対応させて日本の相撲の歴史についても言及があるが、なぜか両者の史的関係については触れていない。少し残念なところだった。日本の相撲の歴史といえば、偽書でもあり神話にすぎない古事記は別として、日本書紀、垂仁天皇七年に野見宿禰の當麻蹶速と相撲(捔力)したとあるが、宮脇氏も触れているように、結果は野見宿禰が當麻蹶速を殺傷するに至ったことからも、「日本においても、モンゴルと同様、相撲の起源は、武術の一種であったことは明らかである」としている。
 野見宿禰の武術についてはその筋ではいろいろ愉快な話があったり柔道の起源のようにも語られているが、私はこれはまさにモンゴル相撲ではないかなと思っていた。もちろん、垂仁天皇七年というのはありえない年代だし、騎馬民族説を採るわけでもない。が、そう思うようになったのは、沖縄暮らしで琉球角力を知ったからだ。
 琉球角力なのだが、私が見た印象では朝鮮のシルムである。他、沖縄の綱引きも朝鮮のそれと似ている。朝鮮から琉球に庶民文化の伝搬があったのかはよくわからない。シルムの起源もよくわからないが、これはモンゴル相撲が起源ではないだろうか。いずれにしてもこのあたりの歴史がもう少し本書で言及されていたらと思った。
 その他、へぇ知らなかったなと興味深く思ったのは、現代モンゴルで女性の学歴が高いことだ。朝青龍の母親は国立大卒だが父親は運転手とのこと。白鵬も母親は国立大学卒だが、父親は大卒ではない。朝青龍の夫人もドイツ留学を呼び戻して結婚したほどのインテリであるとのこと。なぜそうなのか。宮脇氏の説明では男は肉体労働でも食っていけるが女子は難しいのでまず高等教育を受けさせるということだ。
 そういえば、昨今朝青龍の品行がまた話題になっている。私は仔細を知らないがざっと見聞きした範囲では朝青龍の非は明らかであるようには思えたし、もう少し日本人に配慮してくれたらなと思わないではない。が、どちらかというと私は、宮脇氏のようなさっぱりした朝青龍擁護論が好きだ。

 日本相撲協会から二場所の出場停止処分を受けてモンゴルに帰った朝青龍は、ふたたび元気になって来日した。鬱になったのは嘘だったのではないか、というマスコミあるが、私はモンゴル人ならときどき草原に帰りたくなるのは当たり前だと思う。
 日本に留学しているモンゴル人だけでなく、首都ウランバートルに住んでいるモンゴル人ですら、仕事のために仕方なく町で暮らしていると思っているらしい。
 夏休みにモンゴルに行くと、大臣も中央官庁の役人も大学教授も会社の社長も誰一人ウランバートルにはいない。みんな故郷の草原でゲル(テント)生活をしている。こちらのほうがモンゴル人のほんとうの暮らしだと考えているのだ。


 日本の大相撲にモンゴル力士を受け入れたのは、意識しなかったのかもしれないが、日本のためにまことに喜ばしいことだったわけだ。日本人もモンゴル人を見習って、少しくらいの違いには寛容になって、人生を楽しもうではないか。世界は広いのだ。

 はいはい。

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2010.01.30

ニューヨークタイムズ曰く、戦後生まれの日本人は安保の価値をわかっとらん

 鳩山政権による普天間飛行場移設問題に、比較的寛容な態度を示してきたニューヨークタイムズが、また寛容なご社説を述べているので、「ほらご覧、米国様は辺野古移設を強いてなんかいない。日本の報道がおかしいのだ」みたいな愉快な議論の足しになるかもしれないので、28日付け「Japan and the American Bases(日本と米軍)」(参照)に触れておこう。
 ニューヨークタイムズの寛容な基調は今回もこんな感じだ。


It took the United States and Japan a decade to negotiate a deal that would reduce the number of American troops on Okinawa and reposition those that remain. Japan’s new prime minister, Yukio Hatoyama, is refusing, so far, to commit to the agreement, and the Obama administration is being less than patient.

日米は10年かけて在沖米軍削減と再編成を交渉した。が、日本の新首相、鳩山由紀夫は現時点までのところ、その合意を拒んでいる。そして、オバマ政権はけして寛容ではない。



The Pentagon got off to a bad start by insisting that Tokyo abide by its commitments.

米国国防総省は、鳩山政権は日米合意を遵守しなければならないと主張することで、まずいスタートを切ってしまった。



We hope the Obama administration shows flexibility and patience when two senior officials visit Japan for security talks this week.

我々ニューヨークタイムズとしては、米政府高官二名が今週安全保障を巡って日本を訪問するに際して、オバマ政権が柔軟さと寛容を示すことを求めたい。


 文脈には先日の、事実上の辺野古移設ヴィトーとなった名護市市長選挙への言及もあるので、明示されていないものの、辺野古案はやめたらどうよ、という含みはある。そのあたりは、「名護市市長選挙と普天間飛行場移設問題: 極東ブログ」(参照)で言及したアーミテージ元米国務副長官の考えと同じで、ぶっちゃけて言えば、米国ではこの問題の意見の相違というのはそれほどはない。
 ニューヨークタイムズはオバマ政権に沖縄米軍問題で寛容を示せとした後、こう話が続く。

They should encourage Mr. Hatoyama to prove his commitment to being an “equal partner” by offering solutions. And the United States must make a more compelling case for stationing troops in Japan. (There are another 20,000 American troops stationed elsewhere in Japan or just off the coast.)

訪日米高官は、「対等のパートナー」たらんとする鳩山氏の決意が解決策の提示をもって証明されるよう励ますべきだろう。他方、米国は在日米軍についてより説得力のある説明をしなければならない。(さらに2万人もの米兵が日本各地及びその近海に駐留しているのだ。)


 鳩山さん解決策をちゃんと出してねと釘を刺すのはよいとして、在日米軍の存在理由をきちんと米国が鳩山政権と日本人に説得できるのだろうか。その部分は米国の問題もであるというわけだ。ニューヨークタイムズとしてもそこを強調する。

The alliance is more important than the basing agreement. But the longer the agreement is in limbo, the more it stirs questions about the future of the alliance. There are worrying signs that many of Japan’s new leaders and its postwar generation don’t understand the full value of the security partnership.

日米同盟は基地移転合意よりも重要である。しかし、その合意を地獄間近の辺獄に放置する時間が長ければ、日米同盟の未来について疑念が沸き起こることになる。日本の新しい指導者の多くや、戦後世代の日本人は、同盟による安全保障の価値を十分に理解していないという、懸念すべき各種兆候がある。


 戦後生まれの日本人は安保の価値をわかっとらんなと、ニューヨークタイムズは嘆くのである。さらに、戦後生まれアンポハンタイ・トーソーショーリ(参照)の全共闘世代が爺婆化して憂慮すべき事態が起きているとも言うのだ。
 ふと、今日付の毎日新聞記事「鳩山首相:施政方針演説 「抑止力」の語句を削除 日米同盟めぐり社民が反対」(参照)が思い浮かぶ。

 鳩山由紀夫首相が行った29日の施政方針演説で、日米同盟に関して原案に盛り込まれていた「抑止力」の語句が削除されていたことが分かった。25日に首相官邸で開かれた基本政策閣僚委員会で社民党が要求したためで、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を巡って駆け引きを繰り広げる民主、社民両党の姿が浮き彫りになった。
 基本政策閣僚委には首相、社民党党首の福島瑞穂消費者担当相、国民新党代表の亀井静香金融・郵政担当相の与党3党党首らが出席した。席上、福島氏が「抑止力」の語句を外すよう要求し、民主党側は「東アジア共同体を日米関係より前にもってきており、(対米配慮から)日米同盟を評価する言葉として外せない」と反論。意見交換のほとんどがこのやり取りに費やされた結果、外すことになった。

 ニューヨークタイムズは実際何を憂慮しているかというと、社説からははっきりとはわからない。

A half-century of American protection remains a bargain for the Japanese. In much of Asia, it’s seen as an essential balance against a rising China and a defense, if needed, against North Korea.

半世紀間もの米国による日本防衛は日本にとってもお得なもののままだ。アジアの多くの国では、台頭する中国とそこからの防衛にとって欠かせないバランスとして、在日米軍のプレゼンスが理解されている。また必要があるなら、北朝鮮からの防衛にも欠かせないものである。


 日本国内の反安保傾向、さらに言えば、反米感情とも言ってもよいものがなんであるかについて、ニューヨークタイムズは言及してないが、片務的にも見える日米同盟については、「お得でっせ、損得考えなはれ」というわけだ。損得ねえ。日本のおちゃけ社会派ブロガーことChikirinさんとかは、「アメリカが逃したくないのは、あまりに潤沢に日本政府が払ってくれる、相当額の軍事支援費にすぎない」(参照)と理解しているみたいだけど。
 さらにニューヨークタイムズは「お隣さんの顔色もうかがいなはれ」と「あー、お隣さんいうたかてそっちじゃあらへん」ということなのだろう。
 現状の米側の動向は、ジャーナリズム的な部分から見れば、辺野古案でなくてもしかたないのではないかということだ。これを上手に、沖縄県外移設に結びつけることができれば、なんと言われても、「労働なき富」にまみれていても、結果的にだが、鳩山首相の勝利だともいえるだろう。そうなるだろうか。
 その勝利の分水嶺は、略奪婚の始末をおかーたまにお任せしちゃうお坊ちゃんの判断よりも、ニューヨークタイムズが言うように、日本人が日米安保の価値を理解するかにかかっている。
 で、どうか。まあ、無理なんじゃないか。この問題を日本人は、沖縄問題と理解しても、あるいは朝日新聞みたいに日米友好とかで理解していても、日米安全保障問題だとは思っていない。

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2010.01.26

名護市市長選挙と普天間飛行場移設問題

 24日に実施された沖縄県名護市長選では、普天間飛行場代替基地を同市辺野古に受け入れないとする稲嶺進氏が当選した。事実上の辺野古案への拒否(ヴィトー:veto)となった。皮肉に聞こえるのを恐れるが、総合的な地方行政ビジョン問うべき首長選挙であるべきはずが、結果的にヴィトーに集約されてしまったのはあまり好ましいことではない。
 補足すると、ヴィトーの本来の指針からすれば辺野古受け入れ拒否の上に市政ビジョンを築くということになるはずだが国政側がぶれている。すでに平野博文官房長官の「(選挙結果を)斟酌しなければならない理由はない」(参照)や北沢俊美防衛相の「沖縄の皆さんに、政府が本来決めるべき選択をあまり過重に任せる風潮は良くない」(参照)、さらに鳩山首相の「ゼロベースで国が責任を持って5月末までに結論を出すとしているから、そのことは必ず履行する」(参照)も辺野古案を排除しないという含みがあり、民主党政権側から意外にもこのヴィトーを受けることの躊躇が出ている。名護市の市政ビジョン形成は国の動向で左右されたままの状態だ。もちろん、稲嶺氏が落選しても同じことではないかと言えばそうだが、いずれにせよ、民主党政権側が今回のヴィトーをきちんと受け入れるなら市政ビジョンはすっきりしたことだろう。
 この問題の行方だが、昨年7月の時点で「民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう: 極東ブログ」(参照)で触れた以上の展開を予想するものはない。が、しいて言えば、三点可視になった部分はある。
 一つは、鳩山政権が昨年夏に想定していた以上に迷走していることだ。選挙前に想定していたマニフェストの欠陥はことごとく当たっているような実感もあるが、その当たり方は的中というより、そこまでひどいかという落胆を伴うものだ。顕著な例はマニフェストで削減額の最大項目であった「ガソリンの暫定税率廃止」である。ある意味、これは最初から空文であり、マニフェスト違反でよかったと言えないこともないのだが、問題はそこではなく、決定プロセスにあった。端的にいえば、合議的なプロセスもマニフェストもへったくれもなく、小沢氏の独断ですべてが最終的に覆ったことだ(参照)。くどいが、小沢氏の判断は結果からすれば正しいとも言えるものであり、小沢氏が民主党の屋台骨であると言えないでもない。そして、この独裁的な決定権を事実上持つ小沢氏が、辺野古移設問題でもNo!と言っているから(参照)、連立与党がとりあえずまとまっているかに見える。ただし、この小沢氏の論点は辺野古移設反対に留まらず、「軍事戦略的に米国の極東におけるプレゼンスは第7艦隊で十分だ」(参照)という見解に結びついているにもかかわらず、民主党内ではその合意はまったくといってほど取れていない。
 二つ目は、その屋台骨の小沢氏の動向がまったく不明になっていることだ。小沢疑惑の今後の動向は見えない。とはいえ、現職民主党国会議員の元秘書を含め秘書三名が逮捕されている現状、政治的な責任を回避することはできない。小沢氏が抜け落ちれば、民主党は、各種の問題を放置したまま空中分解しかねず、その可能性は国政にのみならず、米国にも被害が及ぶ。難しいトレードオフを多方面に強いている。
 三点目は、以上の経緯を踏まえても米国が軟化していることだ。軟化の理由は、日本の政治の不在に対する米側の絶望感だが、加えて、高まる中国問題や、オバマ政権も鳩山政権のように内部できしみが発生しいることがある。オバマ政権も鳩山政権ほどではないが行方が危うい。端的に外交だけに絞っても、日米同盟や北朝鮮問題よりも、イラン問題やパキスタン問題が喫緊の課題であり、日本問題にまで頭が回らない。現状、オバマ政権としては建前としては、辺野古案に固執しているかのようだが、内部ではすでにこの案は疑問視されている。従来辺野古推進派とも見られていたアーミテージ元国務副長官もすでに辺野古移設案の代替案が必要だという認識を示している。16日事実通信「普天間決着「悲観的」=行き詰まり想定し代案検討を-アーミテージ氏」(参照)より。


【ワシントン時事】アーミテージ元米国務副長官は15日、ワシントン市内で講演し、米軍普天間飛行場移設問題について「建設的な決定がなされるか悲観的だ」と述べ、日本側から米政府が受け入れ可能な移設案は提示されないとの見方を示した。その上で、「軍事上の要請を十分満たした代案も考えなければならない」として、移設が行き詰まった場合を想定した措置について検討しておく必要性を指摘した。
 アーミテージ氏はこの後、記者会見し、鳩山政権が移設問題の決着期限とした5月までに方針決定できるかどうかについて、7月に参院選を控えていることを理由に「疑わしい」と言明。「実際は6月か7月になるかもしれない」との見通しを示すとともに、米政府はそれを「承諾する以外に選択肢はない」と語った。(2010/01/16-10:57)

 台湾有事に備えるには沖縄にヘリポートが必要だとの論もあるが、アーミテージ氏の言う可能なかぎりの「軍事上の要請を十分満たした代案」に新在沖海兵隊飛行場の必要性がどの程度あるかについては、明確な議論はない。というか、この問題は、現行の普天間飛行場でかなりクリアできるので、その意味では、辺野古移設がすべて頓挫しても米側としては現在の普天間飛行場の確保でなんとかなる。
 この点は誤解されてもしかたがないかと思うが、強行派と見られる、辺野古移設推進として動いた米側の知日派には、なんとかあの危険な普天間飛行場の撤去したいという道義的な思いがある。それに新基地としてのうま味がないとは言わないせよ。
 論理的に見れば、鳩山政権の課題は、辺野古移設の可否ではなく、普天間飛行場を撤去して、米側が要求する「軍事上の要請を十分満たした代案」の推進である。現行では、鳩山氏の発言からもそれを志向しているので、5月までの検討を注目したい。
 ただ、この問題の全構造は政権交代前からわかっていたことでありながら、事実上の野党的な無策であった出遅れ感は大きい。民主党が政権についてからこの問題の遅延を行ってきたのも、無策・無責任の惰性の結果であったと見るほうが正確だろう。であれば、その先にあるものへの期待は少ない。
 鳩山首相は、野党時代の常時駐留なき安保論は首相在任中には主張しないと述べた(参照)。素直に考えれば、普天間飛行場代替に全力を傾けることになるはずだが、この間の鳩山氏の動静を見てきて、彼にそれができると信じる者は少ないだろう。最後はまた力業で小沢氏が決定するかだが、小沢氏は在日米軍を否定する考えを持っており、もし決定するなら、社民党に近い方向に向かうだろう。そうした場合、日本の安全保障がどうなるのかというのは当然ながら民主党の方針というより、小沢氏のビジョンに従うことになり、であれば氏の持論である国連軍に日本が軍事寄与することになるのだろう。そうしたビジョンに国民がどれだけ合意するだろうか。それ以前に連立民主党政権が納得するのだろうか。考えていけばいくほど、ヴィジョンとしては正しいとしても、現下の日本の安全保障問題とは結びついてはこない。

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2010.01.25

[書評]ヒトラーの秘密図書館(ティモシー・ライバック)

 文藝春秋の今月号でも紹介記事があったが、新刊の「ヒトラーの秘密図書館(ティモシー・ライバック)」(参照)を読んだ。内容に間違いがあるというのではないし、トンデモ本ということでも、まるでない。が、一種、微妙に、変な本であった。

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ヒトラーの秘密図書館
 読みながら、こういう本って他にあるだろうかと、なんどか思った。書かれている事実や考察は、普通に興味深いのだが、ふと、奇妙に、なんか変だなあ、という印象を残す。おそらくそれは通念としてのヒトラーと絶妙にズレた何かを読み解くことが可能なエピソードに満ちているからだろう。さらにそのズレは、およそ読書家というものの本質に関わるものであるように思えてくる。読書家を密かに自認する人ならば、自虐的な意味を込めて、本書は必読書である。読むと、痛いよ。
 邦題は「秘密図書館」になっているが、オリジナルタイトルは「Hitler's Private Library: The Books That Shaped His Life(Timothy W. Ryback)」(参照)であるように、個人図書館というか個人蔵書というくらいの意味である。ただし、その蔵書数は1万6千冊とも言われているように図書館といった風格はある(大半はヒトラーが名声を得てからの献本ですべて読まれているわけではないようだ)。現在はその蔵書の大半は散失しているが、それでも著者ライバック氏は、ヒトラー個人が読み、傍線や書き込みをした書籍を世界各地に探し求め、可能な限り追体験として読み解きながら、ヒトラーの思想形成過程を探るとして本書をまとめた。オリジナル副題「彼の人生を形作った書籍」はその意味からだ。
 私もそうだが、ヒトラーのような怪物がこの世に生まれ出るには、どのような悪書を読み、影響を受けたかと思う。そういう興味から本書を手に取る人も少なくないに違いない。もちろん、知人の家に行って書架を覗き込むような好奇心もあるとしても。
 読後どうだったか。ヒトラーの思想形成における悪書の影響が理解できたか。なるほどと納得する人もいるだろうが、私は違った。ますますヒトラーという怪物がわからなくなった。いや、わかったことも多い。現在でもよく見かける青年のように、デザインや芸術への嗜好を持ちながら、きちんとした学歴を持たず学歴コンプレックスを持ち、それでいて本を読むのが大好きという一人の青年としてのヒトラーは、外的にはしだいに独裁者となるのだが、それでもなんというのか、終生変わらない凡庸な読書家であったということだ。名作を読んでは感動し、自分の突飛な考えを補強してくれる書籍を愛読する。現在でもいそうな軍事オタクのように軍記物を読み、「ムー」のようなオカルトなんかも読む。哲学は気取って読むが、さして理解もできない。たぶん、何より静かに本を読むのが好きな人だったのだろう、ヒトラー君は、というのが一番、しっくりくる。
 表紙の写真はヒトラーが36歳の時のもので、彼の著書「わが闘争」が書かれた年代だ。この奇書の背景についても本書は詳しい。年代からでもわかるが、若い時代の習作といった程度のもので、ここからその後の彼の思想をすべて読み取ることは難しい。
 本書は学術書ではない。また標題から想像するほどヒトラーが読んだ多くの書籍が扱われているわけではない。光が当てられているのはごく数冊であり、それらが、青年ヒトラーから56歳で自殺に至るまでの年代のエポックとして語られている程度だ。その意味では、ちょっと変わった視点からのヒトラーの伝記といった仕立てにもなっている。
 興味深いのは、これも当然と言えるだが、あの反ユダヤ主義というかアーリア人主義がどのようにして形成されたのかという点だろう。本書に描かれる青年ヒトラーにはそうした傾向はなかった。30歳を過ぎ、年上のメンターというのだろうか師匠筋からその考えを吹き込まれてから傾倒したようだ。
 傾倒後はそれを補強する書籍を彼は読みまくっていくのだが、そこで強い影響を与えたのが、ヘンリー・フォード(Henry Ford)の「国際ユダヤ人(The International Jew)」であった。そう、自動車会社のフォードの創業者である。アントニオ・グラムシがフォーディズムと呼ぶ原型の、あのフォードの創業者は、骨の髄から反ユダヤ主義者であった。フォードが偽書「シオン賢者の議定書」をもとに書いたこのトンデモ本は、当時16か国にまで翻訳され、ヒトラーもそれを読んだ。いうまでもなく、世界中の人が読んだその一人に過ぎなかった。
 さらに反ユダヤ主義の影響を与えたのが、米国の歴史学・人類学者マジソン・グラント(Madison Grant)による「偉大な人種の消滅 ヨーロッパ史の人種的基礎(The Passing of The Great Race; or, The racial basis of European history)」であった。同書はこの時代の国際的な優生学との関係もあるが、いずれにせよ、米国の学者であり、その時代の米国のある社会理念を反映していた。
 あまり単純化してはいけないのだが、ヒトラーの反ユダヤ主義を補強をしていた知識は、その時代の米国の思想であった。米国史において思想を見ると、つい建国の理念やその後の人権問題やら自由といった問題に目が向くが、実際の米国民とその歴史につよく影響を与えていた大衆的な思想史、また科学を装っていた時代の限界などは、ヒトラーのナチズムと合わせて今後の研究課題となるかもしれないような代物だった。
 ヒトラーに影響したドイツ思想については、従来、アルトゥル・ショーペンハウアー(Arthur Schopenhauer)やフリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche)などが示唆されていたものだったが、本書はその影響の少なさをむしろ述べている。ドイツ思想でヒトラーに影響したのは、むしろ実存主義の祖とも言われるヨハン・ゴットリープ・フィヒテ(Johann Gottlieb Fichte)であった。言われみれはそうかなとも思えるが。
 この他、ナチズムの時代とローマ・カトリックの関係でも興味深い逸話が描かれている。それらも、印象では奇異な挿話のように見えるかもしれないが、案外、そうした各種の異質な挿話のディテールのなかに、歴史がこの怪物を生み出した本当の理由が眠っているようにも思えた。

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2010.01.24

小沢一郎民主党幹事長被疑者聴取

 昨日小沢一郎民主党幹事長被疑者聴取が行われた。その後小沢氏の会見も行われたが、この過程でとりわけ新しい事実が発覚したり、事態が進展したというものでもなかったが、一つだけ気になる点があった。任意聴取ではなく、被疑者聴取であった点だった。
 今日付の赤旗記事「小沢幹事長を被疑者聴取/土地疑惑関与が焦点/本人「秘書任せ」と否定/東京地検」(参照)がこの点を一番前面に打ち出していた。


 小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」による土地取引をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京地検特捜部は23日午後、小沢氏を任意で被疑者聴取しました。事件は、政権最大与党の現職幹事長が捜査当局の聴取を受けるという異例の事態に発展。本人関与の解明が最大の焦点となってきました。同日夜、都内のホテルで会見した小沢氏は、聴取は黙秘権を告知された上でのもので、供述調書2通に署名したことを明らかにしました。

 被疑者聴取については毎日新聞の解説記事「質問なるほドリ:事情聴取って、どういうもの?=回答・北村和巳」(参照)がわかりやすい。

 Q 事情聴取は必ず応じないといけないのかな。
 A 出頭や証言を強制されることはありません。憲法は「自己に不利益な供述を強要されない」と定めており、捜査も対象者の意思を尊重する「任意」が原則です。通常は「参考人」として話を聴きますが、罪を犯した疑いが強い人や告訴・告発された人は「被疑者」とされ、聴取を始める前に「話さなくても良い権利(黙秘権)」を告げて任意で事情を聴いていることを明らかにします。告発された小沢幹事長はこちらのケースです。毎日新聞は、逮捕が確実な人の事情聴取を「取り調べ」と表記することがあります。

 ということで、小沢氏は「罪を犯した疑いが強い人や告訴・告発された人」であり「被疑者」であった。被疑者とはなにかだが、手元の広辞苑を引くと次のようにある。

犯罪の嫌疑を受けた者でまだ起訴されない者。容疑者。

 ウィキペディアは不正確な情報も多いが次のように説明している。

 被疑者(ひぎしゃ)とは、捜査機関によって犯罪を犯したとの嫌疑を受けて捜査の対象となっているが、まだ公訴を提起されていない者のことをいう、司法手続及び法令用語である。
 一般に用いられる容疑者(ようぎしゃ)は「被疑者」のいい換えであり、司法手続及び法令用語としては「被疑者」が用いられる[1]。

 「容疑者」は一般的な用語で、実際上は報道機関が定めるものだが、法的な意味での「被疑者」と同義に見てよいだろう。つまり、小沢氏は、小沢容疑者と記しても、輿石東民主党幹事長代行に怒られることもない。ちなみに、産経新聞社は22日付朝刊大阪版の記事で一箇所「小沢容疑者」と誤記してしまったが(参照)、一日半後であればそれほどの問題もなかっただろう。
 とはいえ現状では、小沢容疑者は形式的な意味合いしかない。今日付の読売新聞記事「小沢氏の共謀が焦点、土地疑惑の解明詰め」(参照)の説明が日常的にもしっくりくる。

 そのうえ今回の事情聴取は、「被告発人」として黙秘権を告げたうえで行われ、2通の調書が作成された。
 これは、事情聴取の直前に、陸山会の政治資金収支報告書の虚偽記入について小沢氏が元事務担当者の石川知裕衆院議員(36)らと共謀している疑いがあるとして、市民団体から告発状が出されたこともきっかけとなっている。刑事告発を受けた捜査機関は、容疑が事実かどうか捜査する義務が生じ、告発された人は、形式的に容疑者として扱われることになる。


 しかし、今回の黙秘権の告知は、形式的なものにとどまらない可能性がある。
 15日に逮捕された石川容疑者がその後の特捜部の調べに、土地代金に充てた4億円を収支報告書に記載しない方針などを、同年10月下旬に小沢氏に報告し、了承を受けたと供述しているからだ。この供述が事実なら、小沢氏が共犯の容疑に問われる可能性がある。
 「容疑者として聴取した理由を刑事告発としたのは一つのテクニックで、特捜部は実質的な容疑があると考えている可能性がある」。ある特捜部OBは指摘する。

 日常的な「容疑者」の意味合いで重要になるのは、小沢氏の場合、「元事務担当者の石川知裕衆院議員(36)らと共謀」しているかいないか、その共謀の有無である。そこを検察側がクリアする条件は、疑惑の土地代金に充てた4億円を石川氏が収支報告書に記載しないことへの、小沢氏の了承の有無である。では、その有無はどのように判断されるかというと、石川容疑者の供述調書が基になる。同記事では、「供述している」とあるが、法的に有効な供述調書として成立しているかどうかが重要になる。
 そこはどうか。今日付の東京新聞記事「共謀立証なら立件も 地検特捜部、徹底捜査へ」(参照)はこの点についてこう報道している。

 共謀が立証されれば小沢氏も立件対象に含まれるのは間違いない。立証には虚偽記入について、小沢氏の指示や関与を認める石川容疑者らの供述や、その供述の裏付けが必要となる。石川容疑者は既に虚偽記入を認めているとされるが、検察側による供述調書の作成を拒んでいるとの情報もある。

 現状、今回の小沢疑惑で局所的に問題になるのは、この点、つまり、石川容疑者の供述調書をすでに検察側がもっているかどうかだ。私は、今回の検察の動向から、検察はすでに持っているのではないか、あるいはその点についての焦りはないのではないかという印象を持っている。もちろん印象に過ぎないが、昨日の小沢氏の会見を見ていると、民主党大会のときのような小沢氏本人の信念というより、弁護士が用意した書き割りを小沢氏が不安げにこなしているだけに見えたのだが、そのあたりの対応ではないか。
 昨日の小沢氏の会見では、この点、つまり、虚偽記載については小沢氏は関知していないと主張しており、またその供述調書も上がっていることになるが、石川容疑者の供述調書があれば、法的なプロセスとしては検察の意向通りに進むだろう。
 この局所問題だが、顛末の可能性としては3つある。(1)石川氏・小沢氏ともに無罪、(2)石川氏有罪(小沢氏無罪)、(3)石川氏・小沢氏ともに有罪である。
 昨日の小沢氏の会見からは、1と2のスコープを持ちながら、実質的には2の線での終息を図っていると大方は見るだろう。俗に言う、トカゲの尻尾切りである。が、刑事上は秘書だけが責を負うとしても、小沢氏の政治責任は免れない。その意味では、政権与党の民主党の対応としても、事実上のチェックメイトになっているのではないかと思うが、民主党にはその認識はないようだ。
 小沢氏側の関与の決め手は必ずしも必要ではないだろうが、それでも、小沢氏側で物的な決めとなりうるのは、2点ある。(1)疑惑の土地購入にあたり、原資の4億円を現金で石川容疑者に渡した後、銀行融資書類に小沢氏自身が署名している。(2)3年前の小沢ハウス疑惑の際、記者会見で自身の所有ではないとした署名付きの「契約書」を提示し、小沢氏自身がこの土地購入経緯を熟知していたことを示したが、この「契約書」が作成日の点で偽装の疑いがある。当然、偽装であれば小沢氏本人が関わっていた証拠のようなものに意味合いが変わる(犯人が追い詰められて墓穴を掘るといった刑事コロンボのお話みたいだが)。
 この2点について、検察側が今後どの程度詰めてくるかはわからない。
 ただし、現下のこれらの小沢疑惑の局所の問題については、つまり、小沢氏による疑惑の土地への関与の有無だが、小沢氏を立件するスコープを持ちながらも、政治資金規正法違反という限定性を持つ。ゆえに、局所的な問題だと言える。もちろん、政治資金規正法違反が微罪だという意味ではないが。
 連立与党である社民党党首の福島瑞穂消費者・少子化担当相は「これが政治資金規正法の事件なのか、贈収賄事件までいくのか、今の報道だけではすべての証拠を見ているわけではないのでわからない。消極的な意味でなく、しっかり捜査の行方を見守っていきたい」(参照)と述べていたが、実際上の問題点は、政治資金規正法を越える点にある。
 そしてそこにこそ検察側の難所がある。現下問われている各種の疑惑(最終的には鹿島につながる小沢王国の権力基盤の解明であろうが)は、小沢氏の野党時代に根を持つもので、当然、氏には職務権限がなくまた大半は時効であり、原理的に福島氏が弁護士らしく暗黙に見切っているように、疑惑の土地に水谷建設からの「裏献金」があっても、贈収賄事件として扱うことは検察にはできないだろう。
 あまり良い趣味ではないが、検察対小沢氏ということであれば、局所戦においては、検察が確実な地歩を固めつつあるものの、最終的な絵を仕上げる決め手はまだ欠けた状態であり、であれば、ようやく大きな戦いの端緒についたとも言えるかもしれない。
 もちろん、事は誰もが想像するように、話の展開によっては、現状の民主党政権を事実上吹き飛ばす可能性がある。日本の安全保障にも関わる巨大な問題になりかねない。そこを避けるために、より強い何かが作用するかもしれない。そう言ってしまえば陰謀論のようだが、そうではなく、国民が、もう止めてよ、検察様、小沢様と音を上げるかもしれないという意味だ。

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2010.01.22

「愛は花、君はその種子」と「The Rose」

 映画「おもひでぽろぽろ」(参照)は気になっていたが、DVDで見たのは最近のことだった。最近? いつだろうかと振り返ってみると2005年だったので、もう何年か経つ。

cover
おもひでぽろぽろ
 映画「おもひでぽろぽろ」は、主人公岡島タエ子が私に近い年でもあり、個人的にいろいろと思い出すことがある。ただ、彼女は1982年に27歳というから私より2つ年上なのか、この2年の差は大きくて、私自身の世代感覚と違うところもある。
 1955年から1959年くらいの、ここの年代生まれが、世代的に団塊世代から新人類世代への移行の空白の世代になるが、タエ子はどちらかというと団塊世代近くの側にいて、その分、映像的にも高畑勲の感性がそちらに寄り添っているようには思った。私は新人類側に近い。まあ、その話は別のエントリで書くかもしれない。
 映画「おもひでぽろぽろ」のエンディング映像は、衝撃的というのでもないが、淡々と見てきた最後になって、号泣した。なぜ自分が泣いているのかはそれなりに理解はしたものの、その感情の不意打ちには自分でもたじろいだ。映像もだが、歌「愛は花、君はその種子」(参照YouTube)の影響もある。都はるみの歌唱もすばらしい。

やさしさを押し流す
愛、それは川

魂を切り裂く
愛、それはナイフ

とめどない渇きが
愛だと言うけれど

愛は花、命の花
君はその種子


 「愛は花、君はその種子」には、Amanda McBroom作詞作曲の原曲「The Rose」があって、日本語の歌は高畑勲の訳詞だということになっている。
 「The Rose」(参照YouTube)は、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)をモデルにした同題の映画のエンディングの歌(参照)で、同映画で歌っているBette Midlerのものが有名だが、最近では、手嶌葵のカバー(参照)や、ソンミン(SunMin)のカバー(参照)もよく聞くようになった。
 「The Rose」は「愛は花、君はその種子」の原曲だから、歌詞も似ているのだが、このところ、なんどか手嶌やソンミンの歌を聴きながら、高畑の訳詞が誤訳だというのではないが、オリジナルの「The Rose」の歌詞(参照)とは違うものだなという感じがしてきた。自分の訳を添えてみる。

Some say love, it is a river
That drowns the tender reed

愛について、それは柔和な草を
水に沈める川だと言う人がいる

Some say love, it is a razor
That leaves your soul to bleed

愛について、それは魂から血を
滲ませるカミソリの刃だという人もいる

Some say love, it is a hunger
An endless aching need

愛について、それは空腹であり
終わりなく痛む切望だという人もいる

I say love, it is a flower
And you, its only seed

愛について、私は、それは花だと言おう
そして、君は、それを種でしかないと言うけど
そして、君がその唯一の種


 愛とはなにか。それを川やカミソリの刃や飢餓に例える人がいるが、詩人は、それらの意見をまったく否定はしないものの、それは花なのだと言う。
 詩人は誰に向かって、愛は花だというのか。いろいろと愛を例える人たちにではなく、Youと呼ばれる人にだ。このYouは「あなた」なのか、一般的「人」なのか。たぶん、詩人にとっての「あなた」であろうと思うし、結論から言えば、ジャニス・ジョプリンに模した薔薇(the Rose)という女性だろう。
 英詩であれれと思ったのは、"And you, its only seed"のところで、これは、"And you say love, its only seed"の略だろう。「君はその種子」ということではない。追記 コメント欄でご指摘いただきました。ここのところは誤解していました。「君はその種子」で正しい。
 そして英詩の構造上重要なのは、このitが、とりあえず「愛」を意味しているということだ。とりあえずというのは、ハイデガー的な言い方ではないが、「愛」が「種」の比喩という詩の言葉によって新しい存在とへ開示される、ある未定な状態でもあるからだ。
 高畑の訳詞では、この後にこう続く。

挫けるのを 恐れて
躍らない きみのこころ

 訳詞なので意味が含まれているとも言えるのだが、これからこの世界に開示される神秘としての「愛」のテーマとの関わりは読み取りづらい。
 が、オリジナルは、ここで、その展開が、「愛」と「種」を指すitでつながっている。あえて、つなげて訳してみよう。
 その前に、seedのイメージが重要になる。日本人は、種は芽生えるものとして最初からイメージしているが、ロングマンなどを引くとわかるが、"a small hard object produced by plants, from which a new plant of the same kind grows"とあるように、小さくて堅い殻に覆われて、縮こまった存在、という含みがある。

It's the heart, afraid of breaking
That never learns to dance

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、殻を割ってダンスを学ぼうとしない心

It's the dream, afraid of waking
That never takes the chance

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、目覚めて好機を掴もうとしない夢

It's the one who won't be taken
Who cannot seem to give

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、取られたくなくて与えようともしない人

And the soul, afraid of dying
That never learns to live

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、死ぬことを恐れて生きることを学ばない魂


 くどい訳だったけど、「あなた」の堅い殻に縮こまった種を、つぎつぎと比喩している部分だ。
 ついでなので最後まで。

When the night has been too lonely
And the road has been too long

夜がこれまでずっとさみしいとき
そして、道がこれまでずっと長いとき

And you think that love is
only for the lucky and the strong

そしてあなたが愛は
運のいい人や強い人だけものだと思うとき

Just remember in the winter
Far beneath the bitter snow

冬のつらく深い雪の下を
すこしばかり思い出してみて

Lies the seed
That with the sun's love, in the spring
Becomes the rose

あなたが愛だとしたその種はそこに居て
春の太陽の光のなかで
バラの花になる


 英詩の全体構造では、愛を定義していくのでもなく、愛が自明でもない。そうではなく、あなたと呼ばれる人が、愛を小さく堅い殻に閉じ込めていた種だとしていたことに対して、それが太陽のような愛によってバラの花に変わるのだということを伝えている。
 と、同時に詩のプロセスで、flowerはthe Roseになる。the Roseの定冠詞は、特定の何かを指しているのであり、ジャニス・ジョプリンのような「あなた」が太陽の愛に包まれてこの世界に現れたことを意味している。

おまけ。

「バラの花」 終風訳詩

草花を飲み尽くす
愛は川なのか
心に血を流す
愛はヤイバなのか
満たされることない
愛は願いなのか
愛は花だと私は言う
君はかけがえの種

踊ろうとしない心が
堅い殻に閉じこもる
チャンスを掴まないまま
種はまどろみつづける
与えることが怖くて
その実を結ばない
生きようとしない心は
死ぬことに怯える

さみしいままの夜
辿りつかない長い道
不幸や弱さに
くじけてしまうとき
雪の日を思ってみて
埋れていた種は
春の光の愛で
バラの花になる

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2010.01.21

フィナンシャルタイムズ曰く、鳩山が小沢の首を切ればいいじゃん

 愉快なフィナンシャルタイムズの日本政治の時間です。今回は19日付け「Ozawa destruction」(参照)。destruction、ディストラクション、なんでしょね、破壊、破滅、怖いですね。良い子は英語を勉強してインターネットの情報を読んでいけませんよ。では、さよなら、さよなら…
 というのもなんなので、また耳を傾けてみよう。「Ozawa destruction」は「小沢の崩壊」ではなく、「小沢の破壊行為」といった意味合いだ。


Not for nothing is Ichiro Ozawa known as “the destroyer”. The man who engineered the electoral destruction of the Liberal Democratic party, something he had been plotting for nearly 20 years, could easily end up performing the same service for his own Democratic Party of Japan.

小沢一郎はだてに「ザ・デストロイヤー」として知られているわけじゃない。この男は自民党選挙破壊の技術保持者でもあり、彼がこの20年間画策してきた成果は、今度は彼が所有する民主党にもたやすく適用され尽くすことになるだろう。


 日本でよく言われていることを外人さんも聞いてみましたふうのことではある。この出だしのあと、小沢氏の秘書(元秘書を含め)3名の逮捕と金権政治にさらりと触れて、現下の民主党の問題をこうまとめる。

The stench around Mr Ozawa is damaging a party that has presented itself as clean, policy-based government. That is why Mr Ozawa must either prove his innocence or withdraw from the scene.

小沢氏が漂わせる悪臭は、政治主導で清潔だとかのフリをしてきた民主党を腐らせつつある。だから、小沢氏は自身の無罪を証明するか、政治の場から引退するかしなければならない。


 小沢氏の疑惑の資金団体から2008年7月11日に50万円ほどだが受け取った山口二郎北海道大学教授ですら、当然お代分くらいは小沢氏を援護してみるものの、「そのためには、小沢は土地購入に関する資金の流れにやましい点はないことを積極的に立証しなければならない」(参照)と言うしかない状況になっている。ちなみに、翌日は寺島実郎氏にも同額。仲良し、友愛。
 そこでフィナンシャルタイムズはどう託宣するか。鳩山が小沢の首を切ればいいじゃん。なーんだ、コロンブスのゆで卵じゃん。

If Mr Ozawa quit – or, better yet, were fired by Yukio Hatoyama, the indecisive prime minister – the DPJ might gain a new lease of life. It certainly needs it. It has many other problems, not least a second political funding scandal around Mr Hatoyama himself.

小沢氏が辞任するか、それとも、もっとよいことだが、鳩山由紀夫が小沢氏の首を切ることができれば、まあ、この優柔不断な首相ではあるのだが、民主党も再出発の機運を得るかもしれない。いやマジ小沢の首切りが必要なんだってば。他の問題も山積みだし、すくなくともそれに続く、鳩山氏自身を巡る資金疑惑も控えているのだから。


 原文中の "It certainly needs it."は直訳すれば、「それ(小沢氏の解任)が確かに求められている」ということ。かなりきつい主張になっていて、小沢一郎を辞めさせることが民主党再生の道だという文脈上の意味になる。
 日本人の私からすると、政局的にはそうかもしれないけど、これは問題の事業仕分けが必要なところで、小沢疑惑は司法の問題であるし、鳩山氏の問題は司法的には終わって氏の頭のなかでは政治的にも終わったと誤認しているけど、こっちは政治の問題。つまりみんなで考えよう、鳩山さんが首相でいいのかよ問題。いずれにしても、国民にとって現下重要なのは、予算の成立。民主党がどうたらということは、国民にそれほど問題になるものでもない。
 それにしても、なんで、民主党はこんなことになってしまったのか、とフィナンシャルタイムズは見ているか。

The DPJ has got off to a poor start. It has dithered on foreign policy, annoying its allies in Washington who, to be fair, have been even more clumsy in adapting to a new government in Tokyo. But domestically, too, the DPJ has faltered. It has got into a tangle over fiscal policy, hastening the departure of Hirohisa Fujii as finance minister. The DPJ has also become beholden to minor coalition partners, who have hijacked policy areas such as financial regulation.

民主党は出だしからヘマだった。外交に迷走し、オバマ政権を困惑させた。まあ、公平にいうならオバマ政権も鳩山政権に慣れるのにヘマこいたほうが大きい。民主党の内政はというと、これもまた、ぶれまくった。経済政策はグダグダになり、藤井裕久財務相の辞任を早めた。しかも、金融緩和政策などの政策を乗っ取った、連合小政党にキンタマ握られているありさまだ。


 外人さんのせいか、藤井爺さん疲れたわい問題の背景はあまりご存じないようだし、米国にちょっと居丈高に振る舞うのは英国的ユーモアの部類。
 結末は細川政権をぶっ壊したのは小沢氏だったな(遠い目)といった懐古のあとに、それでも民主党にエールを送っている。何故?

Last year’s victory of the DPJ was a good thing for Japan. History must not be allowed to repeat itself.

昨年の民主党の勝利は日本にとってよいことだった。歴史は繰り返すというが、そうさせてはならない。


 政権交代ギャンブルやってみとか言っていた手前、そうバックれ見せているのか、本当に、小沢抜きの民主党政権を望んでいるのか。本音のところは、世界金融に日本が関わるシーンがないと読めませんな。では、さよなら、さよなら、さよなら。

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2010.01.20

ハイチ大震災

 日本時間13日6時53分(現地時間12日4時53分)、ハイチで起きたマグニチュード7.0の地震から1週間が経った。当初曖昧だった惨状もその後、刻々と明らかになってきている。震源は首都ポルトープランスの南西約15キロ、震源の深さは極めて浅く、約10キロである。


ハイチ地震震源

 ハイチはドミニカに接し、キューバにも近い。つまり、米国に近い位置にある。


ハイチの近隣国



中米におけるハイチ

 13日付けの読売新聞記事「ハイチの地震、専門家が事前に警告」(参照)では、この地震が予想されていたことを伝えている。


 【ワシントン=山田哲朗】米地質調査所(USGS)によると、ハイチの北方海域には、北米プレートとカリブプレートの境界があり、カリブプレートが東に年約2センチ・メートル動いている。
 プレートが押し合う場所にある日本列島と同様、プレートの力によって断層が生まれやすく、地震の多発地帯だ。
 ハイチには東西方向に走る大きな断層帯が2本あり、今回の地震は、南方の「エンリキロ断層」と呼ばれる横ずれ断層の東寄りの部分で起きた。
 この断層の付近では、1751年と70年を最後に、大きな地震は起きていなかったという。USGSの地震学者らは2008年、一帯の岩盤にひずみがたまっており、この力が一度に解放されれば最大でマグニチュード7・2の大地震が起きると警告していた

 具体的にどのような研究であったかについては、「Seismology of Haiti Earthquake」(参照)が詳しい。元になった論文「Interseismic Plate coupling and strain partitioning in the Northeastern Caribbean (2008)」(参照PDF)はオンラインで無料に読むことができる。


調査されていたハイチ断層

 地震が予想されていたならなんらかの対応はできなかったか。私の印象に過ぎないが、2つの理由で難しかっただろう。(1)予想されていても2年後であるとまでは予想できなかった、(2)対応ができる社会環境になかった。
 当然ながら問題は(2)になる。15日付けニューズウィークの寄稿記事「Averting Disaster」(参照)でもそこに焦点を当てていた。


The most shocking thing about the disaster in Haiti was not that it was so sudden, violent, and horrific in its human toll. It's that the damage was so predictable. Seismologists warned that the country was at risk as recently as two years ago. Haiti is also the latest in a string of nearly annual megadisasters extending back through the past decade, calamities claiming tens of thousands of lives more because poverty and the forces of nature met with foreseeably tragic consequences.

ハイチ災害において最も驚愕すべきことは、けして、それが突然であること、暴力的であること、犠牲者の惨状ではない。この被害が予測可能であったことだ。地震学者は2年前ほどの近年にこの国に警告を発していた。また過去10年間の大災害を並べてみると、ハイチでは、毎年のように大災害が近年に並ぶ。貧困と自然災害が予測可能な悲劇的結果と相まって数万人もの死者をもたらす惨事もそうだ。


 記事には個別の災害への言及はないが、例えば、2004年のハリケーン「ジーン」では、死者600人、行方不明者1000人に及んだ。2008年のハリケーン「ハンナ」でも500人近くの死者を出した。2008年には地震もないのに授業中に学校の校舎が倒壊し50人が死亡した。なお、日本でも民主党政権の事業仕分けで高校無料化に伴い、小中学校の耐震補強予算が削られている現在、地震時には日本でも同様の惨事が想定される。
 自然災害はあるがハイチという国家の問題もあることは明らかで、その歴史についてもいろいろと込み入っている。日本共産党の機関誌赤旗は16日の記事「ハイチ地震 未曽有の被害なぜ 米国の干渉で最貧国に」(参照)といった記事でざっくりとまとめてしまっているが、未来に目を向けたとき米国をバッシングして済むお話でもない。
 15日付けワシントンポスト社説「Averting chaos in Haiti」(参照)が指摘するように、ハイチは米国の支援なくしては存立できない。

More than 1 million Haitians, about a third of all adults, currently receive cash from relatives living abroad, most of them in the United States; those funds account for between a fifth and a third of Haiti's gross domestic product.

ハイチの成人人口の三分の一に相当する100万人もが、現状海外からの現金仕送りを受けている。その大半は米国からである。この仕送り額は、ハイチの国内総生産の五分の一から三分の一にまで及ぶ。


 災害援助や復興事業も大切だが、具体的に在米ハイチ人の就労を促進する課題を米国は担わされてきており、この問題が米国での報道に微妙な陰影を与えている。

Yet the Obama administration has balked at helping tens of thousands of Haitians currently here illegally by granting them temporary legal status, which would enable them to get work permits.

にもかかわらずオバマ政権は米国内の数万人もの不法滞在ハイチ人に、一時的な法的地位を与えることたじろいでいる。彼らに地位を与えれば、米国における就労が可能になるにもかかわらずだ。


 このあたりの機微は14日付けニューヨークタイムズ社説「Help Haitians Help Haiti」(参照)が詳しい。

Advocates for Haitian immigrants, whose diaspora is centered in Miami, have waged a long and fruitless campaign for protected status, arguing that remittances by Haitians in the United States are a vital source of aid --- more than $1 billion each year. Now that Haiti has suffered its worst disaster in centuries, the argument for a temporary amnesty is overwhelming.

マイアミを居留地とするハイチ移民の支援市民団体は、年間10億ドルに及ぶ在米ハイチ人の送金に生死を分ける重要性があるとして、彼らの法的地位獲得の運動を行っているが、実を結んでいない。ましていまや、ハイチは数世紀間に類を見ない最悪の災害で苦しんでいる。一時的であれ恩赦を与える議論は圧倒的と言える。

It was not enough for the administration to announce this week that the Department of Homeland Security would halt the pending deportations of the 30,000 or so undocumented Haitians. Burdening a collapsed country with destitute deportees would be a true crime. But all that does is leave the potential deportees in limbo, unable to work without fear.

今週になってオバマ政権は、米国国土安全保障省から、懸案だった3万人ほどのハイチ不法移民追放を停止するとしたが、それだけでは十分ではない。困窮した祖国喪失民に崩壊した国家の重荷を負わせるのは、まさしく犯罪であろう。こうした対処では、祖国喪失民を辺獄に置き去りにし、恐れなく労働することを不可能にする。


 ハイチ地震災害の復興には、日本を含めた諸外国の協力も必要だが、現実問題としては、米国はハイチ移民をより積極的に受け入れていくという方向を取らざるをえない。
 そしてそれが何をもたらすかは、もういちどハイチが置かれている地域を眺めると、うっすらともう少し先の未来も見えてくる。

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2010.01.19

小沢氏の民主党大会での説明は嘘だったか

 今朝の産経新聞一面を読んで、久々に、「まいったな、これは」と思った。
 小沢疑惑が騒がれているわりには、報道では年末年始ごろのリーク情報から進展しておらず、現状では普通に考えたら、弁護士でもある福島瑞穂社民党首の言うように「これが政治資金規正法の事件なのか、贈収賄事件までいくのか、今の報道だけではすべての証拠を見ているわけではないのでわからない」(参照)といったところで、であれば小沢議員逮捕という筋は、「まあ、ないだろう」というのが妥当な見方だ。そもそもカネに色は付いてないのだから、小沢氏個人のカネであろうがマネロンのような銀行迂回でも収支が合っていたら、「計算上のミスやら、そういったものは、あったかもしれませんけれども、意図的に、法律に反するような行為はしていない」(参照)というので民主党内が小沢氏と一蓮托生となるのもむべなるかな、である。
 が、いや、今朝の産経新聞記事「小沢氏説明の銀行出金は原資に足らない3億円 聴取応じる意向」(参照)の話が本当なら、収賄事件にならなくても、個人的には、小沢氏は終わったなと思った。というか、私の小沢氏観が変わる。言うまでもないが、私は長年小沢氏のシンパであるし、日本に政権交代を望んできたものだった。氏は毀誉褒貶はあったが、長年見ているならそれなりの筋を通してきた大政治家であるなと学んできたものだった。私が昨年の政権交代を是認できなかったのは、この経済危機の時期にまるでその認識もなく、しかも古色蒼然のマニフェストを強行するのは、やめとけという思いだった。ただ、世間の空気はもうどうすることもできず、フィナンシャルタイムズ紙もヤブレカブレの茶々を投げていたのを面白おかしく傍観するしかなかった。
 今朝の一面の産経記事だが、そのネタは昨日のエントリ「小沢疑惑について各種マスコミの印象: 極東ブログ」(参照)でふれたNHKネタを今更出してきたかと、当初思えた。


 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件で、小沢氏側が土地代金の原資4億円に充てたと説明した信託銀行の口座から引き出された金額は約3億円で原資に足りないことが18日、関係者への取材で分かった。

 やっぱりな、NHKのほうが正確ではないかと。ところがこの先にこういう情報がついていて、唖然とした。

小沢氏は出金の翌年、妻名義で3億5千万円の融資を受けていたことも判明。多額の手持ち資金がありながら金利負担が生じる融資は不自然とみられる。東京地検特捜部は小沢氏に参考人聴取を再要請し、小沢氏も聴取に応じる意向を示していることが同日、明らかになった。

 つまり、産経報道が正しければという留保がつくが、石川容疑者が語っていたこともまた事実であったようだ。つまり、疑惑の小沢マネーはここでも二重化されていたことになる。
 民主党大会での小沢氏の話では、検察にも通知した口座から、平成10年にカネを下ろし、6年間箪笥に入れ、そして小沢ハウスの資金の4億円に当てたということだった。同記事はこう話をつなげていく。

 ところが、小沢氏は翌11年8月、東京都世田谷区深沢の自宅隣地約567平方メートルを妻名義で購入していた。登記簿によると、土地を担保に都市銀行から約3億5千万円の融資を受け、19年3月に抵当権が解除されている。融資返済に伴う金利負担は年約700万円近くで、利子の総額は計5千万円余りに上る計算だ。
 小沢氏側が主張する通りなら、自宅で保管している約3億円を使わず、わざわざ銀行から多額の金利負担が生じる融資を受けて妻名義で土地を購入するのは不自然といえる。
 約3億円は土地購入原資の4億円に満たないことや出金から土地購入まで6年間も経過していることなどから、特捜部は、小沢氏側が主張する約3億円が16年の土地代金の原資となった可能性は低く、小沢氏が虚偽の説明をした疑いもあるとみている。

 小沢氏側の理屈を想像すると、平成11年の3.5億円は妻名義で別途土地を買うために当てたもので、現下問題視されている4億円とは話が別で、こちらはあくまで箪笥預金の3億円だったということになるだろう、1億円の辻褄は合わないにせよ。
 いや、その強弁は常識的に考えて無理でしょ。「特捜部は、小沢氏側が主張する約3億円が16年の土地代金の原資となった可能性は低」い、と疑念を持つのは不思議ではないし、私が、「まいったな、これは」と思ったのは、検察の疑念が妥当なら、小沢氏の民主党大会での説明は嘘だということになるからだ。
 法に触れるかどうかはわからないが、同士に嘘をついちゃいかんだろ、と思った。いや、本当のところは、鳩山首相や輿石東参院議員会長には伝えてあるのかもしれないが、平信者には知らせず平信者はずっと教祖様は正しいと思っているというのは、阪神大震災と同年の事件の図柄によく似ている。
 もちろん、こうした情報のリークの仕方に検察による巧妙な罠 --- 最初から小沢氏に妻名義の別融資があるのを知っていて小沢氏を追い込んだ ---- というのもあるかもしれないが、しかし、小沢氏がそのまま追い込まれて嘘かもしれないような話を言う必要などなかった。
 私の政治資金規正法の理解は間違っているかもしれないが、資産の記載については話は別として、小沢氏の個人マネーが何に由来するかについてだけいうなら、法的には、平成10年の箪笥預金であろうが、平成11年の融資であろうが、別段問題はないだろうし、また「計算上のミスやら、そういったもの」という話にもなるのかもしれない。しかし、党大会での説明が嘘だったいうなら、同士を騙したということにはなる。それとも、民主党内では「あれはね、党外向けのお芝居なんですよ。党員はみんな了解しています」ということだろうか。まさか。そうなら、党一丸となって国民を騙していたことになってしまう。
 今日付の読売新聞記事「小沢氏、東京地検の聴取応じる方向」(参照)によれば、小沢氏は「東京地検特捜部の参考人聴取に応じる方向で検討を始めた」とのことだ。何が事実であるかということは、検察と小沢氏の妥協のなかでこれから生まれてくるだろう。私は鳩山首相のように妥協が生まれる前から「小沢氏信頼」でかつ「検察信じる」(参照)という「二重思考」(参照)は苦手なので、その妥協から生まれた「事実」が党大会で小沢氏が述べた話と「計算上のミス」で整合が付くだろうかに関心がある。
 昨日のエントリで、私は産経新聞について日刊ゲンダイ風のタブロイド紙のような印象を持つとした。確かに今日の記事「秘書を接待漬け “実弾”攻勢」(参照)などからはそういう印象を受ける。だが、一面トップの今回の記事はジャーナリズムに値するものだった。

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2010.01.18

小沢疑惑について各種マスコミの印象

 小沢疑惑をめぐり、検察リークや各種のつてからの報道が錯綜している。ざっとしか見回していないのだが、同じ内容と思われる話や、同一テーマと思える対象への解説などで、報道社ごとにそれぞれ微妙な違いがあり、なんとなく心に沈んでくる印象がある。あくまで個人的な印象だが、一市民の感覚として書いておきたい。
 小沢疑惑について一番正確で問題の核心をうまくついているのはNHKのようだ。独自のソースもあるだろうが解説委員らの長年の研鑽も大きいようにも思われる。NHKはよくバッシングされるし、経緯の上から朝日新聞と反目している部分もあるだろうが、私の印象ではもっとも公平にも思える。
 NHKが際立った例として、二点挙げたい。まず、疑惑の4億円の口座についてだが、小沢氏が主張する自己の口座からの引き出しについては、うち3億円について、NHKが他に先行して報道している。他のソースでは見かけたことがないので、NHKの誤報の可能性もあるが、経緯からみておそらく正しいだろう。17日付け「口座から引き出しは3億円余」(参照)より。


関係者によりますと、この4億円について、石川議員は特捜部の調べに、「小沢氏から借りたものだ」と供述しているということです。また、小沢氏は16日、民主党の党大会で、「土地の購入の際、何ら不正なカネを使っているわけではない。私どもが積み立ててきた個人の資金で、金融機関の名前、支店名もはっきり申し上げ、検察当局でお調べくださいと返答した。その後、検察当局からその預金口座の書類は入手したと返答があり、この資金についての疑いは晴れたと考え、安心していた」と述べました。関係者によりますと、特捜部が小沢氏側の説明に基づいて該当する信託銀行の口座を調べたところ、土地を購入する6年前の平成10年ごろ、あわせて3億円余りが引き出されていたことがわかりました。特捜部は、土地の購入資金に充てられた4億円のうち、残りの1億円近くをどのように工面したのか説明を求めるため、引き続き小沢氏本人に参考人として事情聴取に応じるよう要請しています。

 小沢氏が党大会で述べた話は、4億円中3億円については小沢氏の説明どおり検察側で確認していたことになる。
 別の言い方をすると、小沢氏がこの説明をするまで検察側はこの情報を隠していたことなり、検察側としては小沢氏との駆け引きもあったのかもしれない。疑惑は1億円であるにもかかわらず4億円と見せかける情報操作をしていたとも言えるだろう。
 私の興味は、この小沢氏発言の裏を検察が確認していることをNHKがどの時点で知ったかである。これは推察なのだが、民主党大会前に知っていたのではないか。というのは、このNHK報道を知ってから、「小沢氏土地疑惑へ強制捜査: 極東ブログ」(参照)で触れたNHKの要点がようやく理解できた。NHKは13日に現下の小沢疑惑を4点にまとめていた。

  1. なぜ複数の口座に
  2. 4億円の融資
  3. 土地購入の時期
  4. 資金をどう捻出

 私としては、「なぜ複数の口座に」が筆頭で「資金をどう捻出」が最後に来るのは、あの時点ではおかしいのではないか、疑惑は「資金をどう捻出」が中心ではないかと思っていた。
 しかし、疑惑の4億円中3億円が小沢氏自己資金であるなら、1億円の追跡こそが問題になる。そしてその1億円中の半分の5000万円は水谷建設に由来する疑念があり、このカネの混入はまさに「なぜ複数の口座に」に関連してくる。NHK報道の当初の見立てに整合性が高い。これが後からわかったことだが、二点目になる。
 なお、この見立てだと、小沢氏は疑惑の4億円ではなく、当初から3億円であり、石川容疑者による口座分散のプロセスで4億円に膨れたのかもしれない。また、小沢氏個人の資金、通称深沢銀行(参照)由来とされる3億円だが、昨日付読売新聞記事「小沢氏発言に疑問…4億円は自己資金?預金は?」(参照)によると過去の収支報告書との整合は取れそうにない。また、6年間もの深沢箪笥銀行も常識的には理解しがたい。ただし、この3億円自体に検察の目が向いているのではなさそうだ。ついでに言うと、小沢氏の説明を民主党が党一丸で受け入れた背景には、鳩山首相と、実際のところ小沢氏に次ぐ権力を持つ輿石東参院議員会長への、小沢氏の独自の情報開示と戦略があるのだろう。
 他の報道では、野党に下野したという産経新聞記事は面白いが、事実の核となる部分はそれほど大きくはなく、産経新聞の解釈がかなり入り込むので日刊ゲンダイのようなタブロイド紙を読むような心構えは必要だろう。毎日新聞は産経新聞とは方向性が違うが、事実の核となる部分より解説に重点が置かれている印象が強い。
 読売新聞は産経新聞をやや薄めた感がある。読売新聞は日本のジャーナリズムでは政局の当事者側に位置していることもあって、報道はその政治的なスタンスと共鳴していることが多い。小沢氏の今後の権力維持を見込んでいるような印象を受け、中立性というより空気を読みつつ報道しているように見受けられる。
 朝日新聞の報道は、いわゆる民主党シンパと見られることが多いが、こと小沢疑惑についてはそうした偏りはないようだ。偏りがあるとすれば、小沢後の民主党を見据えてという印象を受ける。小沢疑惑についてはおそらく社内でいろいろ伝達の工夫が検討されているのだろう。報道も概ね正確に見えるが、先のNHK報道と比較すると、検察リーク的な情報の解説という印象が強い。
 今回の疑惑で意外な印象を受けるのが東京新聞(中日新聞)だ。独自のソースがあるのだろうか、他紙に先立って情報が流れることがあるような印象がある。「年明け早々から多発するカネを巡る小沢疑惑: 極東ブログ」(参照)で今回の小沢疑惑の直接的な関連はないだろうとしたものの、「藤井財務相(77)はなぜ辞任したのか?: 極東ブログ」(参照)で触れた藤井元財務相にまつわる疑惑のカネだが、東京新聞は元旦記事「小沢氏関連団体 数カ月で15億円出入金」(参照)で触れていた。これはその後、15日の産経新聞記事「小沢氏団体に15億円 旧自由党資金 藤井前財務相あて助成金装い」(参照)にも現れ、なぜか昨晩共同通信から「小沢氏団体に簿外15億円 旧自由党への交付金還流か」(参照)として出て来た。このあたりの、報道の背景がどうなっているのか奇妙な印象を受ける。自民党筋であろうか。
 共同通信の報道が微妙な鈍さをもっているの対比して、時事通信は速い。たとえば「水谷建設幹部の名刺押収=石川議員事務所から-「裏献金手渡し役」・東京地検」(参照)も他報道に比べて早い(ただし、この話は毎日新聞も同じ)。小沢疑惑に限らないが、このところ時事通信の記事が早いように思われる。私の印象にすぎないが、他大手紙ではどのような報道にするかスタンスを思案している遅れの差ではないか。
 今回の疑惑の4億円を巡る小沢疑惑だが、検察リークのあり方も問われるが、個々の報道の錯綜も非常に興味深い。

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2010.01.16

小沢氏秘書逮捕と民主党の司法対応

 昨晩、小沢一郎民主党幹事長の政治資金をめぐる問題で、東京地検特捜部は、小沢氏の資金管理団体・陸山会の事務担当者だった石川知裕衆院議員(36・民主党)、及び石川容疑者の後任の事務担当者だった池田光智元私設秘書(32)を政治資金規正法違反容疑(虚偽記入)で逮捕し、加えて今朝、同会の元会計責任者で小沢氏の公設第位置秘書・大久保隆規被告(48)を逮捕した。明後日には国会が始まるという時期に、現職議員の逮捕は衝撃的なニュースとなった。
 逮捕が妥当であったかについてはさまざまな意見があるが、(1)疑惑の金銭の額が大きくしかも悪質な資金隠蔽が想定されること、(2)石川知裕容疑者が同日に任意聴取を拒否していたこと、(3)過去の同種の事件から推察し精神的に追い詰められていた石川容疑者を保護する意味合い、といった点から、今回の石川容疑者の逮捕は不当だとまでは言い切れないというのが大方の理解だろう。他二名の逮捕についても、後に述べるように石川容疑者との関連になり、同様の理解は得やすい。
 石川氏の容疑についてだが、報道によれば、例えば今日付の読売新聞記事「大久保秘書も逮捕、石川議員は容疑認める」(参照)によれば、疑惑の土地代金に充てた4億円などについて「あえて政治資金収支報告書に記載しなかった」と全面的に認めているとのことだ。また今日付の東京新聞記事「「小沢先生が激怒する」 憔悴した石川容疑者、犯意認める」(参照)の描写は石川容疑者の心身状況を想像させるほど生々しい。


 関係者によると、石川容疑者は13日まで、東京都世田谷区の土地購入の原資となった4億円の収入などについて、陸山会の収支報告書に記載しなかった理由を「単なるミス、忘れていただけ」と説明していたという。
 ところが、14日昼すぎから行われた聴取では、聴取が進むにつれ、石川容疑者は憔悴(しょうすい)した様子を見せ始め、やがて「わざと記載しなかった」と供述した。
 聴取を担当した検事が、その理由を何度問いただしても「言えない」「言えない」と繰り返したという。
 さらに、虚偽記載の犯意を認めたことについて「このことを知ったら小沢先生は激怒するだろう。自分の立場もなくなる、知られたら政治生命は終わりだ」と供述したという。

 逮捕に関連する疑惑は小沢氏が出したとされる4億円の原資だけに留まらない。一昨日のエントリ「小沢氏土地疑惑へ強制捜査:極東ブログ」(参照)でも触れたが、平成17年1月5日になされたとする陸山会への寄付2億8千万円は偽装であり実際の資金移動はなかったようだ。今日付の朝日新聞記事「陸山会への2億8千万円「寄付」は偽装 池田元秘書供述」(参照)はさらに詳しい。

 陸山会は04年10月29日、原資不明の4億円を使い、東京都世田谷区の宅地を不動産会社から約3億4千万円で購入。関係者によると、この際、陸山会側は不動産会社側に「登記の時期は自由にしたい」と伝え、05年1月7日付で売買を登記。05年分の収支報告書にも、同日に土地を購入したとして約3億5千万円を支出計上した。
 ところが、陸山会が同日時点で保有していた資金は、定期預金以外は約1億4千万円で、土地代金には約2億円足りなかった。
 そのため、2日前の1月5日付で、小沢氏が代表を務める「民主党岩手県第4区総支部」から1億3千万円、「小沢一郎政経研究会」から1億5千万円の計2億8千万円の寄付があったように装い、収支報告書に収入として記載した。実際の資金移動はなかったという。
 特捜部の調べでは、石川議員と会計責任者だった公設第1秘書の大久保隆規(たかのり)容疑者(48)が共謀し、04年分の収支報告書には原資となる4億円の収入も、諸経費などを含めた約3億5千万円の支出も記載しなかったとして、政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いが持たれている。
 また、池田元秘書は大久保秘書と共謀し、土地は05年に取得したと偽って05年分の収支報告書に虚偽の支出を計上。さらに07年に小沢氏に4億円を支出したが記載しなかった疑いがある。

 これらは今回の逮捕者に大久保・池田両容疑者が含まれる理由にもなっている。
 犯意とは別にしても秘書に対する道義的な責任は監督すべき小沢氏にも及ぶのは当然であり、今朝の朝日新聞社説「石川議員逮捕―小沢氏に進退を問う」(参照)で「小沢氏は自らの出処進退を決断すべきだ」と論じている。今日行われた民主党大会も視野に含めたものだっただろう。
 小沢氏はどのように出処進退を決断したか。疑義の否定であり続投であり、検察への対決だった。大会では次のよう小沢氏は述べた。

 このことについて、実は今月の初め頃だったでしょうか。
 検察当局から、私の方に弁護士を介して、このお金はどういうものですか、という問い合わせがありました。
 私は別に隠し立てするお金ではありませんでしたので、はっきりとこれは私どもが積み立ててきた個人の資金でございまして、金融機関の名前、支店名もはっきりと申し上げて、どうぞ検察当局でお調べくださいと、そう返答いたしておったのでございます。
 そして、その翌日あるいは翌々日だったかと思いますが、検察当局から、その預金口座の書類は入手したと、そういう返答が弁護士を通じてありました。
 従いまして、私は、これでこの資金についての疑いは晴れたと考えて、安心してよかったなと思っていたところでございました。
 それがまた突然、きのうきょう、現職議員を含む3人の逮捕ということになりまして、本当に私は驚いております。
 しかも、意図してかどうかは分かりませんけれども、わが党の、この党大会の日に合わせたかのように、このような逮捕が行われている。私はとうていこのようなやり方を容認することできませんし、これがまかり通るならば、日本の民主主義は本当に暗たんたるものに将来はなってしまう。私はこのことを私個人のことでうんぬんよりも非常に憂慮いたしております。
 そういう意味におきまして、私は断固として、このようなやり方、このようなあり方について毅然として、自らの信念を通し、そして闘っていく決意でございます。

 小沢氏にしてみると、原資に疑惑があるとされる4億円については、問題のない個人資産であること示すべく預金情報を検察に知らせ、検察も了解していた。なのに、突然の秘書逮捕があったと小沢氏は憤慨している。
 これで疑惑の原資は十分に説明されただろうか。今日付の毎日新聞記事「小沢氏団体不透明会計:石川議員、逮捕当日は聴取拒否 4度目要請で初めて」(参照)では、該当のカネは小沢氏の遺産であるという話を伝えている。

 石川知裕容疑者が土地購入費4億円の原資について、小沢氏が亡父から相続した金と説明していることが分かった。接見した弁護士が16日、記者団に明らかにした。
 亡父は小沢佐重喜(さえき)元建設相(68年死去)。弁護士によると、小沢氏は佐重喜氏の相続遺産を小沢氏や妻名義で信託銀行に預け、約10年前、銀行から引き出して小沢氏宅に保管していた。弁護士は「15日、特捜部にこうした説明をし、16日に予定されていた任意聴取で石川議員本人が供述する」と伝えていたという。
 石川議員は16日、東京地裁の拘置質問で容疑を認めたといい、弁護士に「政治家が大きな金を持っていることが分かると良くないと思った。経理処理については小沢氏は知らない」と話しているという。

 伝聞の関係が複雑になっているが、疑惑の4億円が小沢氏の相続によるものかについては、小沢氏ないし代理として弁護士が語っているのではなく、あくまで石川容疑者の伝聞に過ぎない。政治資金報告書には計算ミスがある程度だと強弁した小沢氏について、この預金の点でも信頼せよというのは、常識的には無理がある。
 だが、民主党は大会で一致し小沢氏を信頼し、さらに小沢氏が「日本の民主主義は本当に暗たんたるもの」にするのを避けるべく検察と戦うことを支援した。国民にとっては、永田寿康・元民主党衆院議員による疑惑メールでの民主党の対応を想起させる光景となった。
 私が驚いたのは、いや驚くほどのことはないのかもしれないが、鳩山首相がこの小沢氏を支援したことだ。「(小沢幹事長は)幹事長を辞めるつもりはないと。私も小沢幹事長を信じていますと。どうぞ(検察と)闘ってくださいと」と鳩山首相は言った(参照)。鳩山さんらしいすっとぼけた他人事と聞いたほうがよいのだろう。そうでなければ、三権分立において、行政の長であり、また立法において絶対的な権力をもった党派の長が、司法のプロセスに挑戦状をたたきつけたことになってしまう。
 検察が自身の暴走で国会議員を撃ち止めることは残念ながら過去にもある。実質的な元首である首相を逮捕してしまったこともある。しかし、これらは明示的な構図にあるがゆえに民主制度で歯止めがまったくきかないわけではない。国会議員であれば指揮権発動も可能だ。
 現下の問題は、民主党政権下では、行政と立法の長であるべき鳩山首相を傀儡化させ、その最高権力が実質小沢氏の下に置かれつつあることだ。昨年12月18日共同記事「税率や所得制限、実際は陳情なし 「国民からの要望」に疑義」(参照)が事実であれば、民主党のマニフェストの重要項目であったガソリン税の暫定税率撤廃は小沢氏の独断で排されたかに見える。

 民主党の小沢一郎幹事長が2010年度予算編成に向けて鳩山由紀夫首相へ提出した「重点要望」のうち、目玉項目となったガソリン税の暫定税率維持や子ども手当への所得制限導入について、実際には各種団体や自治体からの陳情、要望はなかったとみられることが17日、分かった。複数の党関係者が明らかにした。
 財源確保策として小沢氏ら党の独自判断で明記したとみられ、小沢氏が「全国民からの要望」としたことに疑義が生じた格好。鳩山政権は「政策決定の内閣への一元化」を掲げているが、与党が陳情集約だけでなく、政策判断にまで踏み込んだ構図があらためて鮮明になったといえる。

 小沢氏が独裁者であるとは私は思わない。しかし、民主党員の誰一人として表立って小沢疑惑に異議を述べることができない現行の民主党政権の状況では、その道を辿りうる素地があるかに見える。民主制度とは、そもそも衆愚から独裁者を生み出しやすい制度であるがゆえに、絶対的な権力に何重もの歯止めを掛けるようにできている。それが機能しなければ、民主主義は守られない。
 私は、小沢氏は民主党幹事長の職を辞すべきだったと思うし、鳩山首相はその配慮を見せるべきだったと思う。少なくとも、鳩山首相はたとえ一つの政党内であれ、各種争論が起こりうる、ハンナ・アーレントが複数性と呼ぶ多様さへの寛容を示すべきだったと思う。

追記(17日)
 NHK「口座から引き出しは3億円余」(参照)によると、小沢氏の指摘した口座から3億円の引き出しは確認されており、残り1億円に検察が疑いを持っているらしい。このあたり報道からは検察側の作意が感じられる。


関係者によりますと、この4億円について、石川議員は特捜部の調べに、「小沢氏から借りたものだ」と供述しているということです。また、小沢氏は16日、民主党の党大会で、「土地の購入の際、何ら不正なカネを使っているわけではない。私どもが積み立ててきた個人の資金で、金融機関の名前、支店名もはっきり申し上げ、検察当局でお調べくださいと返答した。その後、検察当局からその預金口座の書類は入手したと返答があり、この資金についての疑いは晴れたと考え、安心していた」と述べました。関係者によりますと、特捜部が小沢氏側の説明に基づいて該当する信託銀行の口座を調べたところ、土地を購入する6年前の平成10年ごろ、あわせて3億円余りが引き出されていたことがわかりました。特捜部は、土地の購入資金に充てられた4億円のうち、残りの1億円近くをどのように工面したのか説明を求めるため、引き続き小沢氏本人に参考人として事情聴取に応じるよう要請しています。

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2010.01.15

中国の軍事脅威に救われた普天間問題先延ばし

 日本時間13日にハワイで、80分間ほどだったが実施された岡田克也外相とクリントン米国務長官の会談で、日米安保条約改定50年に向けた同盟深化の協議に合わせ、普天間飛行場移設問題について鳩山政権による5月までの決断棚上げを米側が実質了承した。
 これまで早急な決断を求めていたかのようだった米オバマ政権が軟化したか、あるは当初からそれほど喫緊の課題ではなかったかのような様相を見せていることもあり、昨日の朝日新聞社説「同盟協議―土台を固め直す議論に」(参照)も「アジア太平洋地域にどんな脅威や不安定があるのか、安全保障環境についての認識を共有する作業から始めたいという」と暢気な評価をしていた。が、実際は台湾を巡る米中関係がこの間緊迫化しており、これ以上埒の明かない鳩山政権に拘泥して、環境問題は人類の消滅で解決するといった宇宙的視点から、北朝鮮問題・イラン問題・アフガニスタン問題などであらぬ方向に逆走されても困るし、そもそもこの政権が長期化するのか不明な状況では、とりあえず重要度の高い問題に米外交もシフトしたということだった。
 米側報道でのオバマ政権軟化については、13日付けワシントンポスト記事「In shift in tone for U.S., Clinton plays down fight over Marine base in Japan(米側変化で、クリントンは在日海兵隊基地討議の矛を収める)」(参照)がわかりやすかった。同記事では米側軟化の理由を三点挙げていた。私なりにまとめると、(1)日米同盟の弱体をアジア諸国の指導者や市場が懸念していたこと、(2)中国のアジア影響力拡大や海上軍事進出の隙を与えないこと、(3)アジア諸国の関係悪化に及ばないようにすること、である。
 三点をさらにあえて一つに集約すれば、アジアにおける対中権力のバランスの揺らぎがもたらす危険性の認識でもあり、これをもっとも具体的に表しているのが、新たなる台湾危機の可能性だった。
 今回の岡田・クリントン会談は日本側から見ていると、朝日新聞社説のように普天間問題を巡る日米関係のようにしか見えないが、より具体的な文脈は、2008年10月、ブッシュ政権下で決定され、今回初めて実施される運びとなった、米国から台湾への地対空誘導弾パトリオット(PAC-3)売却がある。
 台湾の馬英九大統領(総統)も米側のPAC-3売却決断を「必要性が高い政策であり、台湾海峡の安定に役立つ」と高く評価しているとしている(参照)。これで形の上ではあるが、中国の短距離弾道ミサイルを迎撃する能力を台湾が独自に獲得していく道が開けた。米側としては台湾にさらなる武器供与(新型F16戦闘機)に踏み切る可能性があることも示唆されている。
 背景を見ていこう。14日付け朝日新聞記事「台湾への武器供与「続ける」 米次官補、中国軍に懸念」(参照)は、背景に台湾に標準をあてた中国の軍拡を伝えている。


米国防総省のグレッグソン次官補は13日、下院軍事委員会の公聴会に提出した書面で、中国が、台湾に対し軍事的に優位になったと自ら判断したうえで「最後通告」を突きつける恐れがある、との懸念を示した。


 次官補は、中国が台湾の対岸に1千基以上の短距離弾道ミサイルを配備し、燃料補給なしの飛行範囲内に約490機の戦闘機を配置していると指摘。中台関係が改善したにもかかわらず、依然台湾海峡の有事に焦点を当てているとし、「米国は台湾が十分な自衛力を維持するための武器を供与し続ける」と述べた。

 中国側はこの展開に表面的には怒り狂ったような対応している。13日付け産経新聞記事「中国、米に「報復措置」も 台湾武器売却で評論家・石平氏」(参照)では、石平氏の見解としてその動向を伝えている。

 中国外務省の高官は7日から9日にかけて3回にわたり、「強い不満と断固反対」を表明。8日には、中国国防省報道官も、「強い不満と断固反対」を表明し、「中国側はさらなる措置を取る権利を留保する」と、昨秋、本格再開した米中軍事交流の停止などの報復措置を示唆した。


 実際に売却が行われた後には、「報復措置」を取らざるを得なくなるだろう。事実、昨年末あたりから、中国の御用学者たちは一斉に、「米国に対抗する実質上の報復措置を取るべし」と大合唱を始めている。中国は今後、この問題で米国と徹底的にけんかしていく覚悟なのだ。なぜか。考えられる理由は三つある。

 三点の理由はこうだ。

 第一に、中国は国力増大で自信を持ち、米国の台湾への武器売却、つまり「内政への干渉」に我慢できなくなったということだ。
 次に、中央指導部での軍強硬派の発言力が増し、この問題で柔軟な対応ができなくなったという点だ。
 最後に、最も重要なのが、胡錦濤政権が、「台湾問題の解決」をすでに視野に入れ、この問題への米国のかかわりに神経過敏になっているということだ。

 私の見立ては石氏とは異なり、共青同及び胡錦濤は対話路線を取り得るだろうが、習近平氏を推す派を抑えにくくしている中国国内の事情が強いだろうと考えている。
 いずれにせよ、中国としては米国が支援する台湾の軍事強化を見過ごすわけにもいかず、初手としては11日に地上配備型の弾道ミサイル迎撃システムの技術実験を実施した。さらに中国的ユーモアで、空軍指揮学院の王明志氏は「米国のPAC-3システムに比べ中国のシステムの迎撃高度ははるかに高く、能力も優れている」と主張しているとのことだ(参照)。愉快な主張を除けば、従来ロシアに依存して探知・迎撃の技術を中国国産に転化してきた点は注視してよいだろう。
 先の朝日新聞記事に戻ると、13日の米国防総省のグレッグソン次官補の話では、サイバー攻撃の言及もあった。

 中国がサイバー攻撃の能力を向上させていることにも懸念を表明。米政府を含む多数のコンピューターが中国国内からとみられる攻撃の標的になり続けているとし、「中国の軍や当局が実施、あるいは容認しているのか不透明だ」と言及した。

 時期的に見て、中国からのGoogleへのサイバー攻撃やGoogle側の中国撤退話も、おそらくこの同一の文脈にあると思われる。
 関係のない事象を面白おかしくつなげるというのはありがちな誤認でもあるが、話を冒頭に戻してみてると、岡田・クリントン会談が一連の台湾有事とアジアの権力均衡に関連していることは明白に読み取れるし、当然ながら、普天間飛行場移設問題の延期もまた、台湾有事に対する米側の今後の対応との関係に置かれていることが明らかになる。

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2010.01.14

小沢氏土地疑惑へ強制捜査

 昨夕、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体陸山会をめぐる土地購入疑惑で東京地検が、陸山会、秘書でもあった石川知裕衆院議員の事務所、および大手ゼネコンの鹿島を対象に強制捜査に入った。容疑は、政治資金規正法違反である。18日には通常国会が召集されるので、実質民主党の最高権力者である小沢氏の疑惑は民主党政権にも大きな影響を与えるだろう。
 意外でもあるのだが、今回の強制捜査を巡って、小沢疑惑という点でとりわけ新しい話は出て来ていない。元旦に書いたエントリ「年明け早々から多発するカネを巡る小沢疑惑: 極東ブログ」(参照)の枠組みで収まっている。ただしこのエントリを書いたときは、読み取れる人にはわかるように「鹿島」のキーワードを配置しておいたが、この本丸にこうも早く検察が向かうのかというのは、私にとっては多少想定外でもあった。
 今回の強制捜査で、おそらく最も重要な点は、鹿島が明示化されたことだ。検察が鹿島を軸にした大きな絵でどこまで独走できるのかが、今後の注視点だろう。この点については、他の背景もある。報道も鹿島には及び腰だし、ブログで散見する、当初は居丈高に騒いでいた各種のポジションの人々も奇妙な沈静感が感じられることだ。恐らくこの奇妙な鹿島タブーの空気は、検察と小沢氏の手打ちの先読みと理解できるかもしれない。
 小沢氏関連の疑惑による強制捜査という点では、今回は昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕に次ぐものになる。だが、今回の強制捜査はかなり性質が異なる。昨年の強制捜査には、裏のカネが関わっているわけでもなく、長期政権の自民党でもありがちな政治資金報告書の記載ミスにすぎなかった。だから、なぜそんな微罪に検察が強制捜査したのかという点で世論でも検察の暴走が非難されたものだった。
 今回の疑惑には裏のカネが関わっている。原資不明のカネが随所に存在している。強制捜査をしないかぎり見えないと検察が判断しても、それなりに合理性も説得力もある。
 関連のカネの動きは、産経新聞記事「「やましいカネ」隠蔽? 小沢氏「陸山会」24億円を不透明移動」(参照)がわかりやすいので、あえてそれを借りたい。

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 図中赤色の背景の白抜き文字で「原資不明」となっている部分に、公開された政治資金の記載から見えない裏のカネが関与しているのではないかと疑われている。
 私がこの問題を十分にフォローしているわけではないので誤解もあるかもしれないが、2007年時、「小沢ハウス」疑惑が問題化されていたときは、黄色背景の部分しか見えていなかった。つまり、平成16年10月29日、陸山会は4億円の定期預金を担保に、銀行から小沢氏へ4億円融資を行い、この融資金を小沢氏から陸山会に貸し付けて、小沢ハウスの土地購入の資金としたという話だった。この話は、きちんと当時の陸山会の資金報告がまとめられている官報号外第223号247ページ(参照)にあるとおりで、まったく問題はないかに見える。

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 ところが実際の疑惑の土地購入が行われたのは、融資が下りる前日10月28日以前のことでで、4億円のカネも直接小沢氏が、当時の小沢氏の秘書だった石川知裕衆院議員に渡していた。しかも、産経新聞の図からはわからないが、石川氏は小沢氏から4億円の現ナマを受け取ったあと、これを複数の銀行に分散して預金し、さらに分散した銀行から一つの銀行にまとめ直して後、土地代金に充てるという不自然なカネの操作をしていた。
 この間、小沢氏本人からの4億円と、融資を経由した4億円の、都合8億円が動いているのだが、前者の小沢氏本人からの4億円に収支報告書には掲載されていない。
 面白いことに、年末年始の動向だが、この2つの4億円の疑惑を多少奇妙とも思える理屈で合理化するお話がどこからともなくネットに広まっていた。お話には2段階あって、まずそもそも疑惑の4億円などないというお話。これは収支報告書に記載されているもので都合8億円をごまかすものだったが、これは稚拙すぎてブロガーには騙される人がいてもジャーナリズムでは嘲笑されただけだった。
 2段目のお話は、私が誤解しているかもしれないが、小沢氏からの直接の現ナマの借り入れは融資金で相殺されているから、結局、融資金を再度陸山会に貸し付けた金額だけ記載すれば、収支報告書上は問題がないといった類である。お話としては面白いが、石川氏はそのようなお話を検察にしているわけでもないので、ただの非理屈の類でしかない。また、相殺されて4億円の借入なら、なぜ17年5月の4億円⑥と、19年4~5月の4億円⑦の都合8億円の返済なのだろうか。購入した不動産が返済用に現金化されているふうでもない。が、関連して個人的に残念に思ったのだが、昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕の際に明晰な議論を展開していた、元検察の郷原信郎氏もその類の説明(参照)をしていた。
 愉快な煙幕のお話はさておき、当の話はこの複雑なカネの動きにある。なぜ、小沢氏から直接4億円を現ナマで陸山会が借りられるのに、別途預金担保の融資金4億円を用意するということ(預担)をしたのか。
 検察リークの情報だが、石川氏によれば預担は慣例化していたとのことだ。ではなぜ慣例化していたのか、それ以上の説明を見かけたことは私はないが、おそらく原資を政治資金団体に帰着させるためだったのだろう。今回の話でも、本来はそういう話ならここまで突かれることはなかった。
 ではなぜ、小沢氏本人から謎の4億円のマネーが出て来たのか。
 この点は、私の誤解もあるかもしれないが、石川氏が陸山会の預金では預担ができないと判断したからだろう。このあたりの事情についても報道があまりないので私の想像なのだが、平成15年の陸山会の収支では、預金が7千150万円、小沢氏からの借入金が1億1千855万円なので、4億円の預担には2億円近く足りない状態になっている。だから、10月29日の寄付1億8千万円(原資不明)が必要になったとも言えるのだが、28日までの時点ではなんらかの理由でこの寄付が無かったのだろう。
 問題を整理しよう。今回の強制捜査、何が問題なのか。もちろん、随所に潜む原資不明のカネの存在で、それがゼネコンの談合利権に帰着するだろうかという疑惑がある。だが、ここではもっと手短に見ると、昨晩7時のNHKニュースの4点まとめがわかりやすい、と同時に、NHKはこう見て報道していた。


  1. なぜ複数の口座に
  2. 4億円の融資
  3. 土地購入の時期
  4. 資金をどう捻出

 NHKは謎をそのまま放置していたが、私の常識からコメントしておく(私の常識は非常識とかのわかりやすいツッコミはナシね)。
 (1)複数の口座は、先に触れたように小沢氏本人からのカネを石川氏が各種銀行に分けてさらにまとめた行為を指す。常識的に見れば、マネーの出所を複雑にするありがちなマネーローンダリングと疑われてもしかたがない。
 (2)なぜ小沢氏から直接4億のカネがあるのに、別途融資で4億のカネを作ったか。常識的に見れば、小沢氏からの直接のカネを相殺・隠蔽するためだろう。
 (3)土地購入の時期については産経新聞の図からわからないが、実際には平成16年10月の土地取引は政治資金報告書上は翌年の1月の扱いになっている。常識的に見れば、前年に突出したカネを動きを作らないためだろう。
 (4)これはわからない。というか、それがゼネコンに由来するかということが現下の疑惑であり、NHKは最後に置いたが、一番大きな疑惑のポイントだ。
 ところで今回の強制捜査だが、本当に大きな問題なのだろうか。
 産経新聞の解説図では原資不明のカネを3箇所に絞り込んでいるが、当面問題になっているのは、疑惑の土地用に小沢氏が工面した4億円の原資である。これが、小沢氏本人の資産であるとか、夫人の資産であるとか、いずれにせよゼネコンとか関係ないということなら、あるいは「ない」という建前にできるなら、昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕の場合と同様に、報告書の記載ミスで終わる。小沢氏が事情聴取に応じ、報告書を修正して終わりというわけだ。
 しかし、そういかないだろうという雰囲気は、12日の記者会見(参照)で小沢氏が実質述べていることから察せられる。

 それはそれとして、以前から何度も申し上げております通り、私自身も、また、私の事務所の者たちも、計算上のミスやら、そういったものは、あったかもしれませんけれども、意図的に、法律に反するような行為はしていないものと信じております。

 言葉尻を捉えて非理屈を言うようだが、小沢氏は「意図的に、法律に反するような行為はしていない」とは思っていても、意図的ではなく法律に反するような行為をしてしまったという認識がここで示されている。

 また、ご承知のように私の東京の後援会の事務所、盛岡の事務所、あるいは水沢の実家の事務所が強制捜査の対象となっておりまして、すべての書類等々が押収されております。それからまた、その後も弁護士等を通じて事実関係には包み隠しなく話しておると思います。
 従いまして、今の段階で私が申し上げるのは差し控えますけれども、検察当局においては、当局におきましては、この問題についてすべてご存じのことであるという風に思っております。以上です。

 小沢氏は、検察がすべてを知っていると認識している。つまり、小沢氏を政治的に生かすも殺すも検察の手にあって抗弁の余地はないとしている。その前提で小沢氏が聴取に応じようとしないのは、結末が決まっていてそれなりの覚悟があるのか、もう少し先に検察との手打ちの位置があるかだら。私は前者ではないかと思う。
 というのも、今回の強制捜査はある意味で、一つの政治ショーなのではないかと私は見ているからだ。昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕は、これまでの日本の政治風土からすれば異質なルール変更だったし、暴走とも言えるものだった。しかし、それをあえて検察は行った。
 背景は、大きな絵のための証拠隠滅を恐れたためかもしれない。7日付け産経新聞「西松違法献金 石川議員ら証拠隠滅か 強制捜査前後に資料搬出」(参照)より。

 関係者によると、石川氏や小沢氏の元秘書らは強制捜査が入る数時間前、陸山会の事務所から大量の書類を段ボール5箱に詰め、元秘書の車に保管。翌3月4日には東京・永田町の衆院議員会館の石川事務所にあった書類などをバッグに入れて、段ボール箱と一緒に別の場所に運んだという。

 この話の詳細は今月の文藝春秋「西松事件 元秘書の告発 消えた五箱の段ボール 田村建雄」に詳しい。また、類似の話は今朝の産経新聞記事「「石川議員に頼まれ証拠隠した」 元秘書が自民勉強会で告白」(参照)にもある。

 金沢氏によると、特捜部が陸山会事務所を捜索した昨年3月3日、石川氏から「小沢氏から『チュリス(陸山会事務所が入る都内のマンション)でまずいものを隠せ』と指示があった。手伝ってほしい」と電話を受け、勤務先の札幌市から上京し、同日夜に石川氏と合流した。
 石川氏は「隠せるものは隠したが、自分の衆院議員会館事務所も捜索が入るかもしれない」と話し、翌4日に石川氏の事務所に出向き、鹿島建設や西松建設などゼネコン関係の名刺や資料を黒いナイロン製のボストンバッグに詰め込んだという。バッグは一度松木謙公民主党衆院議員の事務所に預けたことも明らかにした。
 金沢氏は当時小沢氏の秘書だった樋高剛民主党衆院議員から「陸山会事務所の証拠隠滅工作に加わった」と聞いたことも暴露。樋高氏は「資料が押収されていたら小沢氏を含め全員逮捕だった」と話したという。

 こうした資料が現在どうなっているかは不明だが、おそらく概要はすでに検察が掴んでいるだろう。今日付の毎日新聞記事「小沢氏団体不透明会計:「証拠隠した」上申書 西松献金で石川議員元秘書」(参照)によれば、石川氏の秘書(上述の金沢氏と見られる)は「昨年3月の西松建設違法献金事件の際に証拠を隠した」とする上申書を東京地検にすでに出している。

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2010.01.11

ジェームズ・チャノス(James S. Chanos)による中国経済クラッシュのお話

 9日付け産経新聞記事「米著名投資家、中国経済の崩壊予測」(参照)が、8日付ニューヨーク・タイムズ記事「逆張り投資家が中国経済の崩壊を予測する(Contrarian Investor Sees Economic Crash in China)」(参照)を紹介していた。産経記事の標題とオリジナルの標題を比べてもわかるように、オリジナルでは最初からちょっと変わった逆張り投資家という点を打ち出しているのに対して、産経記事では単に米著名投資家とし、記事のトーンも中国経済への便乗揶揄といった雰囲気が感じられた。実際にオリジナル記事を読んでみて、多少気になるところがないではないので、ブログのネタにしておこう。結論から言うと、産経の紹介記事がそれほど悪いものではない。そして、このネタで一番知りたいのは本当に中国経済は崩壊するのかということだろうが、この記事からだけではわからない。
 話は、米国ヘッジファンド「キニコス・アソシエイツ」設立者であるジェームズ・チャノス(James S. Chanos)氏(51)が中国経済のバブル崩壊を予測し、空売りを勧めているという話だ。チャノス氏(産経記事では「シャノス」)は、逆張り投資家として有名で、特に名声を高めたのは、2001年不正会計事件で破綻したエンロン経営危機を事前に予測し、空売りで利益を得たことだ。
 産経記事はこうチャノス氏の見解を紹介している。


 しかし、8日付の米紙ニューヨーク・タイムズの特集記事「中国を空売りする」によると、シャノス氏は中国経済が「ブームを続けるよりも、崩壊に向かっている」との警告を投資家向けのメールやメディアを通じて発信。過剰な投機資金が流入する中国の不動産市場は「バブル」であり、その規模は昨年11月に信用不安を引き起こしたアラブ首長国連邦のドバイの「1000倍かそれ以上だ」という。
 そのうえで、シャノス氏は中国政府が発表する経済指標について会計操作や虚偽もあると疑い、「売ることのできない量の製品をつくり続けている」などと強調。昨年12月、中国経済の破綻を見込んで建設、インフラ関係の株式を物色していることを明かした。
 シャノス氏が真剣に中国経済の研究を始めたのは、昨年夏。無謀な経営計画による企業の利益の誇張を見抜くことを哲学としてきたシャノス氏だけに「中国株式会社という最大の複合企業の神話の崩壊」(同紙)が的中するか、話題を呼びそうだ。

 間違った紹介ではないが、例えば、「シャノス氏が真剣に中国経済の研究を始めたのは、昨年夏」というくだりは、次のように付け焼き刃ではなかという文脈に置かれている。

Colleagues acknowledge that Mr. Chanos began studying China’s economy in earnest only last summer and sent out e-mail messages seeking expert opinion.

同僚によれば、チャノス氏が中国を熱心に調べるようになったのはたかだか昨年の夏で、それで専門意見を求めるメールを出したとのことだ。


 また、「昨年12月、中国経済の破綻を見込んで建設、インフラ関係の株式を物色していることを明かした」という点だが、産経記事の紹介でわかる人はわかると思うが、背景は、中国株は外資を統制しているので代替として関連産業で空売りをしかけるという意味だ。ちなみに、チャノス氏の予測が当たれば、一次産品が暴落することになる。
 オリジナルの記事は当然ながら、最初から逆張り投資家の奇妙な意見ということなので、バランスを意識して、中国はバブルではないとするジム・ロジャーズの見解も添えられている。
 チャノス氏の意見はただ奇矯のようにも見えるが、「売ることのできない量の製品をつくり続けている」こと、資産バブルの懸念があるというのはごく常識だろう。この点は5日朝日新聞記事「09年の中国経済 資産バブルに警戒を」(参照)が無難にまとめている。
 以上でチャノス氏を巡るネタは終わりのようだが、私は産経記事で紹介されていないチャノス氏の意見で気になることが2点あった。

“Bubbles are best identified by credit excesses, not valuation excesses,” he said in a recent appearance on CNBC. “And there’s no bigger credit excess than in China.”

「バブルだと認識する指標は信用の超過であって資産価値の超過ではない。中国はこれ以上の与信を与えることはできない」と彼は最近のCNBC出演で述べた。


 通常、現下中国経済で多くの識者が懸念しているのは、先の朝日新聞記事にあるように資産バブルだが、チャノス氏の中国経済崩壊論の基軸は、信用超過にある。これが1点目だ。
 これをどう理解すべきか。私が思ったのは、中国政府の与信はまさに、中国国民の政府に対する信頼に依拠しているのではないか。だから、昨今中国が一見するとまたまた江沢民時代のようなナショナリズム高揚や軍備拡張に向かっているのも、むしろ経済的な与信への派生なのではないだろうか。そしてそこに相互の弱点があるように思える。つまり、中国政府への国民の信頼がなければ経済は揺らぐし、経済が揺らげば中央政府が弱体化し社会不安になる。
 2点目は、「中国経済の破綻を見込んで建設、インフラ関係の株式を物色」だが、なぜインフラ関係かといえば、日本の70年代の高度経済成長政策のように土木公共事業や製造業の設備投資を推進しているからだ。これがうまく行くだろうか。
 私の素人考えだが、米国のリーマンショックに始まる金融危機は本来中国で発生するものを米国が結果として肩代わりしたように思っているので、その肩代わり部分にもう無理が来ているのではないか、とんでもないクラッシュがあり得るのではないかとなんとなく不安に思っている。中国経済の崩壊と北朝鮮の体制崩壊は何年もまえから何度も繰り返され、その都度狼少年を産んでいる。が、ブラックスワンはまさにこうした状況で羽ばたくものなので、日本経済もその体制のシフトがあってもいいかもしれない。いつもの持論と逆になってしまうかもしれないけど、民主党政権下の孤立経済でじわじわデフレというのは意外とブラックスワン対策になるんじゃないかとちょっと思う。

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2010.01.08

ケインズ経済学を越えるカンズ経済学

 ケインズ経済学が世界に広まったのはケインズ自身による「雇用、利子および貨幣の一般理論」(参照上巻参照下巻)がよく読まれたというより(最近新訳になったけど難しい)、日本では都留重人が訳した「サムエルソン経済学」(参照上巻参照下巻)が大学のテキストでよく使われたからだが、都留重人のケインズ経済学(Keynesian economics)ならぬ、菅直人のカンズ経済学(Kansian economics)に世界が注目している。それはいかなるものなのか?
 フィナンシャルタイムズ社説「Kansian economics(菅経済学)」(参照)に詳しい。藤井財務相辞任の後、菅直人が登場した。


Naoto Kan, the deputy prime minister, will replace him, taking on the task of breathing fresh life into Japan’s wheezing economy.

副総理でもある菅直人は財務相後任となり、息を切らした日本経済に新しい息吹をもたらす任務を負った。

In his first appearance in this role, Mr Kan called for a weaker yen to help exporters. He is right that a serious depreciation of the currency would give Japan some much-needed relief: the yen is 20 per cent stronger against the currencies of Japan’s trading partners that it was two years ago.

この大命で最初に菅氏がなしたことは、輸出を助けるべく弱い円を求めることだった。菅氏は正しい。日本円の価値を下落させれば、日本に求められている経済的な息抜きとなる。この2年というもの日本は対日貿易国の通貨に比して20パーセントも円高になっていた。


 日本国内では早々に失言かよ、民主党の政策とどう整合が付くんだよとの空気もあるなか、フィナンシャルタイムズは菅直人財務相の円高発言を支援している。では、全面的に菅財務相マンセーなのかというとそうでもない。

But, as Mr Kan admitted, in the long run, Japanese growth must rely on increasing domestic consumption. So expanding demand with a “stimulative budget”, as is currently planned, is a move in the right direction. This will, however, not suffice. Japan needs reform that goes beyond fiscal loosening.

とはいえ、菅氏も了解していることだが、長期展望に立てば日本の経済成長は内需に依存しなければならない。現在打ち出されている経済刺激策がもたらす支出の拡大は、方向性として正しいが、十分ではない。日本に必要なのは、財政の緩和を越えた構造改革である。


 亀井金融担当相くらいの財政出動が好ましいとも読めないではないが、その先はどうか。ここから苦言が始まる。あるべきカンズ経済学とはいかなるものか。ご静聴を。

Mr Kan is keen to rid the country of its chronically falling prices. Good. But he cannot achieve this alone. For this, he will need to relax the country’s excessively tight monetary policy: the Bank of Japan has been too scared of inflation to fight the country’s deflation with much vigour.

菅氏が慢性的な価格低下国家を一掃しようと望んでいるのは、よかろう。だが、菅氏一人でできることではない。日本が取っている過剰な金融引き締め政策を緩和する必要があるだろう。つまり日銀はインフレを恐れるあまり、本腰を入れて日本のデフレに立ち向かっていないのだ。

Mr Kan will, in addition, need to improve the country’s corporate governance. Germany enjoys similar levels of operating profits to Japan, and annual dividend payments are equivalent to 14 per cent of national output. In Japan, the figure is a paltry 3.5 per cent: businesses are irrationally frugal.

加えて、菅氏は日本の企業統治を改善する必要もある。ドイツは日本と同等の営業益を出しているが、年間配当はGDPの14パーセントになる。対して日本はといえば、3.5パーセントと微々たるものだ。企業の節約は行きすぎである。


 つまり、カンズ経済学に必要なのは、穴を掘って埋めるのケインズ経済学とは異なり、(1)カイワレほうばる菅氏のスタンドプレーじゃなくて日銀に金融緩和をさせろ、(2)企業の利益を叩き出せ、ということだ。
 日本人の私なんかからすると、日銀はさておき、企業の利益配分がうまくいかない理由は、利益を抱えた企業の労働者のメンバーシップの長期的な対価という意味合いではないかな。つまり…まあ(参照
 今後の菅財務相はどうなるとフィナンシャルタイムズは見ているか。

Mr Kan has prime ministerial ambitions, and so may not attempt anything that might give voters cause for concern. But the Japanese conundrum was caused by timid conservatism. Right now, a risk averse stance is to be bold. One must hope that Mr Kan, a deficit dove and deflation hawk, follows his instincts – and does so bravely. The country simply cannot afford to lose another decade.

菅氏は首相を目指す野心をもっているから、有権者に心労の種を撒くようなまねはしないかもしれない。しかし、日本が抱える難問は、臆病な保守主義がもたらしたものなのだ。今まさに危機回避の構えは冒険に満ちたものではなくてはならない。財政赤字にハト派で対デフレにタカ派の菅氏が、自身の本能が命ずるまま勇敢に行動せよと、期待すべきだ。日本にはこれ以上、失われた十年の余力はない。


 おずおずと「一夜は共にしたが男女関係はない」と言っていた菅氏が、厳しいお遍路の体験を経て、勇敢にデフレベオルフに立ち向かうことを期待しようではないか。失われた20年を越えて。ウィー・アー・ザ・チャンピオンズ、ゴッド・セイブ・ザ・クイーン♪
 マジかよ。

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2010.01.07

菅直人副総理兼財務相誕生。円周率は3.1516

 藤井裕久財務相が正式に辞任し後任は菅直人副総理となった。つまり、菅直人副総理兼財務相の誕生である。昨日のエントリ「藤井財務相(77)はなぜ辞任したのか?: 極東ブログ」(参照)で書いた野田佳彦副大臣昇格ははずれ。というか期待だったのだけど、裏切られた。期待というのは、小沢人脈を弱める機会にすればいいのにということだった。
 ただ、昨日の昼までは鳩山首相も菅副総理も野田氏を検討していたようだ。ところが夕方には覆った。今日の日経新聞「後任財務相、当初案は野田・仙谷氏 首相、5時間で転換」(参照)より。


政府高官によると、首相は6日昼に菅直人副総理と協議した際、野田氏や仙谷氏の名前をあげて「検討している」と伝えた。菅氏は「野田氏ならやれる。6日中に決めた方がいい」などと応じたという。
 ただ首相は6日夕、再び菅氏を呼んで「財務相をやってほしい」と正式に打診し、当初構想から約5時間で転換した格好となった。

 5時間の間に何かあったのだろう。鳩山首相の思考・行動パターンからすると誰かとお話しちゃったんじゃないかな。
 野田氏で私が思っていたのは2008年8月21日、野田の変のことだ。民主党の代表選挙で、鳩山氏、菅氏、及び旧社会党・旧民社系グループが推す小沢一郎氏が無投票で三選を迎えようとしているなか、当時民主党の野田佳彦広報委員長は、ポスト小沢の反旗を翻すかのように、民主党党代表選に立候補する意向を固めた。「一人でも戦うつもりだ」と固い決意を持っていた。「選挙で堂々と代表を選ぶ党の姿勢を見せることが、国民に政権交代への安心感を与えることになる」とのことだった。
 民主党最高顧問渡部恒三氏も、「民主党は国民の政党だから、代表選はやるに決まっている。無競争で、裏で代表が決まったと言われたら、民主党の人気はがた落ちになってしまう。野田氏は自民党の福田首相や安倍前首相よりも立派な首相になる」と煤けた葵の紋章を掲げた。前原誠司氏グループや民主党元政調会長枝野幸男氏も野田氏の出馬に備えていた。
 が、ダメだった。ヘタレた。翌日野田氏は立候補を断念。彼を支えるはずの花斉会が出馬を押し止めた。「あなたが出たら、浪人の公認内定が取り消されるかもしれない。その人たちの命を背負っているという覚悟があるのか」と問われれば、ない(読売新聞「民主代表選・野田氏出馬へ 存在感の誇示狙う」2008.8.21より)。
 民主党ゆらぐ現在、国民の支持に答えるなら、そうした背景で今こそ野田氏の駒を前に進めておくべきチャンスだったんじゃねーのというのが、昨日のエントリでの私の思いだった。
 ところが、小鳩体制そのものの菅氏が出てくることになった。彼に財務相が務まるのだろうか。大丈夫。愉快に務まる。円周率は3.1516。違いますよ。細かけーことはいいんだよ。藤井裕久財務相より財務省が制御しやすい。問題は小鳩体制崩壊のリスクがどのくらいヘッジされているかだ。財務省はそのリスクをどの程度計算しているのだろうか。それが菅直人副総理兼財務相という意味になるだろう。
 後任に噂されていたもう一人、仙谷由人行政刷新担当相は早々に、99.99%ないと公言していたが、その数字よりもっと強烈な数字で後任を否定していた。6日、仙谷氏は東京都内講演で、「人口減少、超高齢化社会の中で、現役世代に大きな負担をかける仕組みはもたない。消費税を20%にしても追いつかない」(参照)と述べた。あー、聞き取れましたか、消費税20%ですよ、ラジャー。「消費税はもちろん、法人税も所得税も新しい発想で臨まなければ(11年度)予算編成が出来ない可能性もある」とも述べた。この人がそのまま翌日財務相になったら、それは凄すぎ。
 それでも藤井裕久財務相がきちんとレールを敷いてくれた消費税アップの路線は民主党に定着したということだ。藤井さん偉かったな、自身は予算に失敗したと思っていただろうに。ということで、彼自身では何が失敗だったかというと、おそらく道路財源暫定税率廃止を小沢氏に阻まれたことだろう。藤井氏はもともと道路特定財源の暫定税率廃止の信念を持ち、民主党の2008年度の税制改革大綱にも盛り込み、民主党の道路族と軋轢を持っていたものだった。
 菅直人副総理兼財務相誕生とともに、菅氏が務めていた国家戦略相は仙谷由人行政刷新相が兼務となった。これから人材の補充もあるだろうけど、結局、有名無実の国家戦略室なるものが実質なくなるか行政刷新会議がなくなるか。いずれも小沢さんの一声で足りる組織だし。そしてその一声が消えたら空中分解するんじゃないだろうか。

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2010.01.06

藤井財務相(77)はなぜ辞任したのか?

 藤井財務相(77)はなぜ辞任したのか? お年だからでしょ。77歳だよ。4年勤めたら81歳。無理でしょ。というか、そんなの最初からわかっての組閣だったわけで、だとすると、普通なら最初から次玉が込められていたと見るべきだから、それは当然副大臣なわけで、野田佳彦さんでしょ。とま、普通に考えるとそうなんだが、この政権、普通とも思えないところが多々あるので、財務のわからん菅直人副総理・国家戦略担当相とか仙谷由人行政刷新担当相とかが後任になるかもしれない。
 いずれ藤井さんは御引退確定だったとはいえ、問題はどの時点で引退するかということだった。いちおう話の上では予算をちょうど組み上げたところで力尽きた、ドクターストップということなのだが、こういう話が最初から込められていたとなると、そうでもないでしょう。ではなぜ、藤井財務相はなぜこの時期に辞任したのか?
 昨年7月8日の読売新聞記事「民主バラ色公約、イバラの財源」で藤井さんはこう述べていたのが懐かしい。


 財源を重視する岡田幹事長は「税収などはもっと厳しく見積もった方がいい」と指示し、新規政策の総額も小沢前代表当時の20.5兆円から16.8兆円に下方修正した。それでも、「政権を獲得しないと財政の内実は分からないし、財源を作れと言えば出てくるはずだ」という楽観論が根強い。
 7日の常任幹事会。大蔵省OBで蔵相を務めた藤井裕久最高顧問は、財源を論じる若手議員にこう語りかけたという。
 「財源にはそこまで触れなくていいんだ。どうにかなるし、どうにもならなかったら、ごめんなさいと言えばいいじゃないか」

 昨年の夏、民主党の若手の背中を押すように楽観論をぶち上げた藤井さんは、だめなときは、「ごめんなさい」と言えばいいと腹を括っていたのだった。で、結局、だめだった。歳入の48%という赤字国債に加えて借金一回こっきりの埋蔵金10兆円依存する予算。マニフェストももう終わっている。今回の予算案で約3兆円にどうにか圧縮したマニフェストは、次年度はそのままだと10兆円規模に膨らむ。それは無理。次年度に続くわけはない。10年後の成長戦略なんて面白いもの(参照)を出してくる反面、次年度の国家予算の見通しはまるで立たない。きちんと「ごめんなさい」と藤井さんは言って辞任したかったのだろうと思う。そして、政権交代ごめんさいといえば立派なものでもあったが、そこまで責めるものではない。むしろ、そうなる見込みで老体に責めを負う心積もりだったのだろう。ご苦労様でした。
 で、終わりなのか。
 いや、どうすんのこの国の財政? いやいやきびしく言われているわりには消費税をあげる仕組みさえできればどうにかなる。日本の成長がどうにかなるかは不明だが。なので、大蔵官僚であった藤井さんはきっちり消費税の道を日本に敷いてくれた恩人ということになる。ご苦労様でした。いい話だなぁ。
 もっといい話もないではない。ちょっと古いが。
 2005年の立春前の国会だ(参照)。主人公は今は亡き松岡利勝元農水相(参照参照)が衆議院予算委員会理事だったころの話。

松岡委員 おはようございます。自民党の松岡でございますが、きょうはこのような機会をいただきまして、大変ありがとうございます。
 幾つか質問をさせていただきたいと思いますが、本日は、まず初めに、政策的なテーマといたしまして二つ質問をさせていただきまして、総理の御答弁をお願いしたいと思います。

 一つ目は農政の問題だった。二つ目が民主党への疑問だった。

松岡委員 ぜひとも、人類にとって最重要の課題であります温暖化対策、地球環境問題、総理の特段のその点での役割を発揮されることを強く期待をし、お願いをしたいと思っております。
 それでは、次の問題に移りたいと思いますが、まず、民主党は、先般から衆参の予算委員会におきまして、政治と金の問題について、あたかも自民党及び我が党議員の政治資金に関して不正があるかのごとき質問をされておりますが、これについては、総理及び関係大臣から明確に答弁がなされていたと理解しております。
 つきましては、政治資金に関し、民主党にかかわる不明瞭な点につきまして、二、三、質問をしたいと思います。

 ここで藤井さんの話がなぜか出てきて、こう続く。

 民主党の議員が衆参両院の予算委員会で口をきわめて小泉総理に迫っておりましたが、同党の収支報告書によりますと、民主党の代表代行でいらっしゃいます藤井裕久議員が民主党と自由党が合併する前の自由党幹事長のとき、平成十四年に限っても、国民の税金である政党助成金から約十五億二千万円が組織活動費として藤井氏個人に支出されております。
 ちょっとパネルを、お許しをいただいておりますから出していただきたいと思うんですが、これは、総務省の情報公開で求めていただきました資料でございますが、それをパネルにしたものであります。
 まず、上の方でありますけれども、平成十四年七月三十一日、九億七千九百万円、平成十四年の十二月の二十五日が五億四千百九十万円、合計十五億二千九十万円、こういうことであります。自由党の助成金から民主党代表代行の藤井氏個人へ支出されたことがわかります。しかし、この十五億円余は、その後どう使用されたのかわかりません


○久保政府参考人 自由党本部の組織活動費につきまして、平成十四年分の使途等報告書の記載について確認をいたしましたところ、藤井裕久に対し十五億二千九十万円を支出した旨の記載がございます。
○松岡委員 それでは、再度お尋ねしますが、こういう事実をどうお考えになりますか。
○久保政府参考人 政党助成法上、使途等報告書には支出の相手方、金額等を記載することとされておりますが、当該支出を受けた者が受領した資金をどのように用いたかにつきましての報告は求めておりません。
○松岡委員 仮に法律上はそうであったといたしましても、いやしくも国民の税金である政党助成金の十五億円余に上る金の行き先が全く不透明であるということは、驚くべきことでございます。
 あれだけ政治と金の問題を取り上げ、自分はクリーンで相手が不透明であるかのように主張されております民主党の、その民主党の代表代行を務めていらっしゃる藤井氏に対し、自由党の政党助成金から支出された十五億円余がその後どう支払われたか全くわからないというのは、これは、我々も含めて、国民として納得できるものではないと思います。ふだん政治と金について極めて厳しい態度をおとりになっておられます民主党ですから、まず、みずからの党のことを明らかにされることが必要だと思います。

 自由党解党のおり、国税を原資とする政党助成金15億円が藤井さんに流れたことが確認されている。が、それは別に違法というわけでもない、というお話だ。

○久保政府参考人 先ほども御答弁申し上げましたが、一般論として申し上げますと、会計責任者は、収支報告書に当該政治団体のすべての収入、支出について所要事項を記載するほか、十二月三十一日において借入金の残高が百万円を超えるものにつきましては、当該借入先及び借り入れの残額を資産等として記載することとされております。
○松岡委員 それでは、合併直前に民主党から自由党へ流れた政治資金の問題でありますけれども、平成十五年九月二十四日、民主党は二億九千五百四十万円を自由党に対し寄附をしております。二日後の平成十五年九月二十六日、自由党は解散したわけでありますが、わずか二日後に解散する自由党に対し、なぜ民主党が三億円近い金を寄附する必要があったのか。政党を金で買ったのと同じではないか、こういう疑いもあるわけです。

 ところが、ちょっとそういう話でもないらしい。
 文藝春秋1月号「小沢から藤井財務相に渡った15億円の怪-政党助成金とゼネコンからの献金(松田賢弥)」(参照)に不思議な話が載っている。


 元自民党幹部が今回私の取材に明かしたある光景は、にわかには信じがたいものだった。
「予算委員会が終わったあと、当時民主党の代表代行だった藤井さんが周囲の民主党幹部らに、落ち着きのない様子でこう言ったんだ。『弱ったな。俺はあの金のことは全く知らないのに、困っちゃうよ』そして、本当に、何も知らなかったんでしょうね。怒ったように『心外だ』と洩らしたんです」

 焼きの回った自民党が流したデマだろうか。
 鳩山首相の政治資金源のように、「ボクちゃんは本当になにも知らないから潔白なんだ」という話じゃないか。なんで藤井さんを責めるんだ。違法なことは何もないのに。
 というわけで同記事では2002年から04年の藤井さんの政治資金報告書を調べてみるが、なるほど億単位の動きはない。藤井さんの資金管理団体「新生政経懇話会」などの収支を調べてみても、そんな巨額な動きはない。
 藤井さんが全く知らないと言っているのが頷ける。
 で、そのカネは何処に?

追記 2010.1.17
 17日付け日経新聞記事「小沢氏団体、不記載の入金15億円 04年ごろ、旧自由党資金還流か」(参照)より。


 民主党の小沢一郎幹事長の関連政治団体「改革フォーラム21」の口座に2004年ごろ、政治資金収支報告書に記載のない計約15億円の現金が入金されていたことが16日、関係者の話で分かった。小沢氏が党首を務めていた旧自由党が02年、当時幹事長だった藤井裕久前財務相あてに同額の党費を支出しており、この資金がそのまま還流した疑いがあるという。

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2010.01.04

イエメンへ拡大する米国のテロ戦争

 昨年12月25日アムステルダム発デトロイト行きのノースウエスト航空機で発生した爆破テロ未遂事件のアブドルムタラブ容疑者(23)は、自供によればイエメン在の国際テロ組織アルカイダでテロ訓練を受け、その関係者から今回の爆弾を入手していた。容疑者の父親はナイジェリアの大手銀行のトップで、息子もロンドン高級住宅地の裕福な環境に育った。貧困がテロを生むといった議論の反証例のような事件でもあった。
 未遂とはいえ米国のテロ際策に不備があった。容疑者搭乗に際して「人為・組織的なミスがあった」とオバマ米大統領も認めている。今後テロ対策は不備を補うべくブッシュ政権下に多少近づくように強化されるだろう。
 今回の事件はセプテンバーイレブンのテロ恐怖を米国人に思い起こさせるものであり、日本人からは想像がつきづらいほどアルカイダへの敵意も米国には見られる。犯行の背景は正確に言えばまだ解明されていない。だが、今回は愉快な陰謀論もあまり見られないようだ。早々に、イエメンに拠点を置く「アラビア半島のアルカイダ」(AQAP)から犯行声明が出たせいもあるだろう。今回使用された高性能爆薬PETNは昨年のサウジ王室テロ未遂事件との関連も疑われている(参照)。
 AQAPの犯行声明、及び容疑者がイエメンのアルカイダに関係があることから、イエメンに米軍の地上戦闘部隊を派遣するかが議論されていた。現状ブレナン米大統領補佐官(国土安保・テロ対策担当)は否定している(参照)。代わりにイエメン政府は自国内のアルカイダ拠点への掃討作戦を開始し、米国も武器供与や軍事訓練などで支援することになった。直接的には米国の戦争とは言えないが、オバマ米大統領の下、テロ戦争はブッシュ政権下より拡大していくことだろう。
 問題の中心がイエメンのAQAPであったことで、米国ではグアンタナモ収容所との関連で複雑な世論を巻き起こしている。米国政府はすでに釈放されていたアルカイダと見られる男性二名が今回の事件に関与している可能性を調べている(参照)。
 昨年の1月22日だが、グアンタナモ収容所から釈放されたサウジアラビア出身でビンラディン容疑者の秘書でもあったとされるサイド・アリ・シフリ(Said Ali al-Shihri)容疑者は、AQAPの副司令官となったとニューヨークタイムズ紙が報道した(参照)。シフリ容疑者は、2008年9月イエメン首都サヌアで起きた米大使館前爆破テロに関与した疑いもある。
 グアンタナモ収容所問題では、ブッシュ元大統領およびチェイニー元副大統領は、人道上の見地からオバマ氏が大統領候補であった時代、オバマの陣営から非難されたものだ。が、現在の米国世論では逆転していく傾向も見られる。米上院国土安全保障委員会リーバーマン委員長はグアンタナモ収容所に反対し、「過去の経験から釈放者の一部は再びわれわれに対する戦いに戻る("We know from past experience that some of them will be back in the fight against us,")」と述べている(参照)。

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イエメン共和国
 米国は今後イエメンにテロ対策として軍事的な支援を強化していくが、展望は描けていない。イエメン政府は現実的には全域を十分に統治していない。イエメンで政府が機能しているのは首都サヌア近辺に限定されている。
 オバマ米大統領の登場で米国はチェンジし、世界はチェンジしたかに見えた。現実は、ブッシュ政権下の状況が淡々と進行し、ブッシュ政権下のテロ対策に戻りつつあるようにも見える。

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2010.01.01

年明け早々から多発するカネを巡る小沢疑惑

 元旦というのに民主党小沢一郎幹事長を巡る政治資金問題が騒がしい。何が起きているのだろうか。自分なりに、まず3つの流れがあると見た。(1)通称「小沢ハウス」を巡る資金の出所、(2)小沢氏が過去にかかわった政党の清算金、(3)西松建設を巡る偽装献金、である。
 (3)の西松建設を巡る偽装献金問題については、このブログでも世間で話題になっている時期に取り上げた。いろいろな見方があるが、表向き、賄賂性や出所不明のカネが関係しているわけではなく、基本的には政治資金の記載の問題に過ぎなかった。問題だとすれば、逮捕された大久保秘書が西松建設からの企業献金であることを意識していたかに絞られ、現状、秘書からその旨供述が上がっているので、最悪、偽装献金ということにはなるだろう。
 偽装献金の問題は、これも過去にこのブログで扱ったが、小沢氏に限った問題ではない。自民党の代議士などでも普通に見られるもので、そのため騒動が起きたのが政権交代を前にした時期でもあったことから、民主党の小沢氏を狙い撃ちしたのではないかという社会非難を検察が浴びることにもなった。
 検察に政局的な意図はなかっただろう。西松建設を巡る談合事件の解明から小沢氏の関与を疑っていた一連の帰結にあっただけだろう。経緯はむしろ、この問題が単なる偽装献金ではなく、ダム利権を巡る談合采配から事実上の賄賂を政治家が受け取るシステムの存在にある。検察は現在、その全体システムの解明に向かっているようだ。が、小沢氏の関連でそこまで大きな絵として仕上げることができるのかどうかは識者からも疑念が寄せられている。私もそれは無理ではないのかと思う。なお、こうした視点を取ることで私も民主党擁護派との執拗なバッシングを受け、嫌な思いをしたものだった。
 現在の状況はなんだろうか。この(3)の偽装献金問題、さらにその背後にある談合采配システムでの疑惑を検察が追っているという渦中に、(1)の通称「小沢ハウス」を検察が蒸し返してきた、というのが年末のこの関連の状況だ。
 懐かしの「小沢ハウス」の再登場で私が率直に思ったのは、(3)の偽装献金・談合采配システムでの小沢氏への追い詰めが手詰まりになったため、別の搦め手として、古い話として持ち出してきたのではないかということだ。また検察は下手を打ち出したのではないかとの印象も当初もった。通称「小沢ハウス」については2007年にも政治資金収支報告書の正誤でマスコミなどでも話題になっていたが、その後話題が事実上立ち消えになっていたことからもわかるように、小沢氏の政治資金管理として大きな瑕疵がないものと見られていた。
 「小沢ハウス」再登場のポイントだが、この土地の購入代金の4億円の出所に当てられている。12月31日読売新聞記事「「小沢氏から現金4億円受領」石川議員供述」(参照)によると、2004年、民主党小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」がこの土地を購入する際、当時同会の事務担当者だった現石川知裕衆院議員(民主党)は、最近の東京地検特捜部の事情聴取で「小沢先生に資金繰りを相談し、現金で受け取った」と供述しているとのことだ。さらに翌年(2005年)も別途収支報告書に不記載の4億円の同会入金があり、検察はこれも小沢氏本人から受け取ったものではないかと追求しているとのことだ。
 「小沢ハウス」関連の再登場の話題のポイントは、政治資金として公開されていない謎の出所から4億円のカネを小沢氏が出したということだ。石川氏は供述ではこのカネは小沢氏の個人の資産であり、別途収支報告書に記載しなかったのはミスだとしている。
 当然、そのカネの出所は今後追求されるだろうが、「小沢ハウス」を巡る4億円の出所疑惑は、検察の絵では、小沢氏を巡る資金問題の一例としてのみ扱われているわけではなさそうだ。
 今日の時事通信記事「小沢氏の事情聴取検討=元秘書「自宅に現金4億円」-東京地検「貸付金」原資解明へ」(参照)によると、小沢氏の元私設秘書が東京地検特捜部の事情聴取で、「2007年春ごろ、4億円の現金を小沢氏の自宅に運んだ」と供述しているとのことだ。また、今日の産経新聞記事「4億円不記載で小沢氏の認識捜査 東京地検、任意聴取も検討」(参照)では、石川氏は単独で資金移動できる立場になく、小沢氏自身がこのカネの流れに関与しているとの疑惑が報じられている。
 現状では、小沢氏から陸山会に貸し付けた資金の返済と見られているが、そもそもの4億円が小沢氏自身のカネでなければ、「小沢ハウス」を介したマネーローンダリングにも見える。
 問題の4億円の入金に話を戻すが、このカネは2004年10月上旬から10中旬、1000万円から5000万円に小分けして入金されていた経緯がある。このカネの扱い方自体も興味深い。今日の読売新聞記事「「小沢氏から現金4億円受領」石川議員供述」(参照)によると、2004年中堅ゼネコン、水谷建設の担当者は10月中旬、ホテルの一室で石川氏に5000万円の現金を手渡したと、同社幹部が検察に供述しているとのことだ。
 石川氏はこの5000万円の受け取りは否定しているが、受け渡しされたと見られる直後に「陸山会」に5000万円を入金している。常識的に見れば否定は難しい。これが水谷建設からの企業献金であれば、政治資金収支報告書の不記載となる。
 それ以上に問題なのは、この「献金」がダム建設の談合の報酬の意味合いを持っていたかどうかだ。疑われる背景はある。2004年10月は、国土交通省東北地方整備局が発注した岩手県胆沢ダム工事を鹿島などの共同企業体(JV)が約193億円で落札した際、水谷建設がJVの下請けに入ったことだ。
 こうした文脈から、検察としては、(1)の「小沢ハウス」疑惑を一連の(3)の偽装献金・談合采配システムに収める絵を描いているのだろう。
 この絵をどう評価するか。現状、話はすべて検察リークを元にしているので、そのバイアスを受けることになるが、おそらく「小沢ハウス」疑惑に水谷建設からの「献金」が流れ込んでいるというところまではありそうな話に思える。しかし、一番の問題は、検察の大きな絵である、献金が談合采配のシステムの実証例なのだとするには弱いように思える。
 そもそもこの談合采配システムと想定されるシステムは、いわゆる談合を実質采配した手数料というものではない。いわば慣例的な権威として神社に奉納された献金のような様相をしている。また西松建設を巡る問題のように時効にもなっているはずだ。現状では、小沢氏の政治生命にピリオドを打たせるほどの決定打にはまだ仕上がっていないように見える。
 しかし、注目されたカネが5000万円なので大工事にすれば薄謝かに見えるのだが、今日の東京新聞「小沢氏関連団体 数カ月で15億円出入金」(参照)は驚くべき話を繰り出している。やはり2004年10月なのだが小沢氏の関連政治団体「改革フォーラム21」に政治資金収支報告書には記載のない総額約15億円が現金で入金されていたらしい。
 こちらも検察が解明に向かっているとのことだ。この巨額の資金は数か月かけて分散して引き出されていることから、同年11月1日の紙幣デザイン変更(ホログラム付き)に対応した新札切り替えとも疑われている。もしそうなら笑えるほどのマネーローンダリングである。
 この話をどう受け止めたよいだろうか。巨額すぎるのと東京新聞系以外の報道がまだなのでなんとも判断しがたい(巨額であることから受注の筆頭が疑われはするが)。そもそもそれだけの金額が引き出された先が現状不明なのも奇っ怪だ。
 さて残る(2)の小沢氏が過去にかかわった政党の清算金の問題だが、これは今日の赤旗記事「小沢氏関連政治団体 繰越金が20億円 結党・解党のたび膨らむ」(参照)や、12月27日の毎日新聞記事「資金移動:小沢氏側に新生、自由党解党時残金22億円余」(参照)、さらにその前に文藝春秋1月号「小沢から藤井に渡った15億円の怪」が扱っているものだが、これは、いわば政党交付金をくすねたといったタイプの話ではあるがかなり古い話でもあり、また検察がこれに首を突っ込んでいるふうでもない。ある種、小沢祭りに出遅れないためのネタのような様相をしている。なお、文藝春秋の記事についてはタイトルとなっている話題よりも、小沢氏と鹿島との関係の話が興味深い。

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