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2010.01.01

年明け早々から多発するカネを巡る小沢疑惑

 元旦というのに民主党小沢一郎幹事長を巡る政治資金問題が騒がしい。何が起きているのだろうか。自分なりに、まず3つの流れがあると見た。(1)通称「小沢ハウス」を巡る資金の出所、(2)小沢氏が過去にかかわった政党の清算金、(3)西松建設を巡る偽装献金、である。
 (3)の西松建設を巡る偽装献金問題については、このブログでも世間で話題になっている時期に取り上げた。いろいろな見方があるが、表向き、賄賂性や出所不明のカネが関係しているわけではなく、基本的には政治資金の記載の問題に過ぎなかった。問題だとすれば、逮捕された大久保秘書が西松建設からの企業献金であることを意識していたかに絞られ、現状、秘書からその旨供述が上がっているので、最悪、偽装献金ということにはなるだろう。
 偽装献金の問題は、これも過去にこのブログで扱ったが、小沢氏に限った問題ではない。自民党の代議士などでも普通に見られるもので、そのため騒動が起きたのが政権交代を前にした時期でもあったことから、民主党の小沢氏を狙い撃ちしたのではないかという社会非難を検察が浴びることにもなった。
 検察に政局的な意図はなかっただろう。西松建設を巡る談合事件の解明から小沢氏の関与を疑っていた一連の帰結にあっただけだろう。経緯はむしろ、この問題が単なる偽装献金ではなく、ダム利権を巡る談合采配から事実上の賄賂を政治家が受け取るシステムの存在にある。検察は現在、その全体システムの解明に向かっているようだ。が、小沢氏の関連でそこまで大きな絵として仕上げることができるのかどうかは識者からも疑念が寄せられている。私もそれは無理ではないのかと思う。なお、こうした視点を取ることで私も民主党擁護派との執拗なバッシングを受け、嫌な思いをしたものだった。
 現在の状況はなんだろうか。この(3)の偽装献金問題、さらにその背後にある談合采配システムでの疑惑を検察が追っているという渦中に、(1)の通称「小沢ハウス」を検察が蒸し返してきた、というのが年末のこの関連の状況だ。
 懐かしの「小沢ハウス」の再登場で私が率直に思ったのは、(3)の偽装献金・談合采配システムでの小沢氏への追い詰めが手詰まりになったため、別の搦め手として、古い話として持ち出してきたのではないかということだ。また検察は下手を打ち出したのではないかとの印象も当初もった。通称「小沢ハウス」については2007年にも政治資金収支報告書の正誤でマスコミなどでも話題になっていたが、その後話題が事実上立ち消えになっていたことからもわかるように、小沢氏の政治資金管理として大きな瑕疵がないものと見られていた。
 「小沢ハウス」再登場のポイントだが、この土地の購入代金の4億円の出所に当てられている。12月31日読売新聞記事「「小沢氏から現金4億円受領」石川議員供述」(参照)によると、2004年、民主党小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」がこの土地を購入する際、当時同会の事務担当者だった現石川知裕衆院議員(民主党)は、最近の東京地検特捜部の事情聴取で「小沢先生に資金繰りを相談し、現金で受け取った」と供述しているとのことだ。さらに翌年(2005年)も別途収支報告書に不記載の4億円の同会入金があり、検察はこれも小沢氏本人から受け取ったものではないかと追求しているとのことだ。
 「小沢ハウス」関連の再登場の話題のポイントは、政治資金として公開されていない謎の出所から4億円のカネを小沢氏が出したということだ。石川氏は供述ではこのカネは小沢氏の個人の資産であり、別途収支報告書に記載しなかったのはミスだとしている。
 当然、そのカネの出所は今後追求されるだろうが、「小沢ハウス」を巡る4億円の出所疑惑は、検察の絵では、小沢氏を巡る資金問題の一例としてのみ扱われているわけではなさそうだ。
 今日の時事通信記事「小沢氏の事情聴取検討=元秘書「自宅に現金4億円」-東京地検「貸付金」原資解明へ」(参照)によると、小沢氏の元私設秘書が東京地検特捜部の事情聴取で、「2007年春ごろ、4億円の現金を小沢氏の自宅に運んだ」と供述しているとのことだ。また、今日の産経新聞記事「4億円不記載で小沢氏の認識捜査 東京地検、任意聴取も検討」(参照)では、石川氏は単独で資金移動できる立場になく、小沢氏自身がこのカネの流れに関与しているとの疑惑が報じられている。
 現状では、小沢氏から陸山会に貸し付けた資金の返済と見られているが、そもそもの4億円が小沢氏自身のカネでなければ、「小沢ハウス」を介したマネーローンダリングにも見える。
 問題の4億円の入金に話を戻すが、このカネは2004年10月上旬から10中旬、1000万円から5000万円に小分けして入金されていた経緯がある。このカネの扱い方自体も興味深い。今日の読売新聞記事「「小沢氏から現金4億円受領」石川議員供述」(参照)によると、2004年中堅ゼネコン、水谷建設の担当者は10月中旬、ホテルの一室で石川氏に5000万円の現金を手渡したと、同社幹部が検察に供述しているとのことだ。
 石川氏はこの5000万円の受け取りは否定しているが、受け渡しされたと見られる直後に「陸山会」に5000万円を入金している。常識的に見れば否定は難しい。これが水谷建設からの企業献金であれば、政治資金収支報告書の不記載となる。
 それ以上に問題なのは、この「献金」がダム建設の談合の報酬の意味合いを持っていたかどうかだ。疑われる背景はある。2004年10月は、国土交通省東北地方整備局が発注した岩手県胆沢ダム工事を鹿島などの共同企業体(JV)が約193億円で落札した際、水谷建設がJVの下請けに入ったことだ。
 こうした文脈から、検察としては、(1)の「小沢ハウス」疑惑を一連の(3)の偽装献金・談合采配システムに収める絵を描いているのだろう。
 この絵をどう評価するか。現状、話はすべて検察リークを元にしているので、そのバイアスを受けることになるが、おそらく「小沢ハウス」疑惑に水谷建設からの「献金」が流れ込んでいるというところまではありそうな話に思える。しかし、一番の問題は、検察の大きな絵である、献金が談合采配のシステムの実証例なのだとするには弱いように思える。
 そもそもこの談合采配システムと想定されるシステムは、いわゆる談合を実質采配した手数料というものではない。いわば慣例的な権威として神社に奉納された献金のような様相をしている。また西松建設を巡る問題のように時効にもなっているはずだ。現状では、小沢氏の政治生命にピリオドを打たせるほどの決定打にはまだ仕上がっていないように見える。
 しかし、注目されたカネが5000万円なので大工事にすれば薄謝かに見えるのだが、今日の東京新聞「小沢氏関連団体 数カ月で15億円出入金」(参照)は驚くべき話を繰り出している。やはり2004年10月なのだが小沢氏の関連政治団体「改革フォーラム21」に政治資金収支報告書には記載のない総額約15億円が現金で入金されていたらしい。
 こちらも検察が解明に向かっているとのことだ。この巨額の資金は数か月かけて分散して引き出されていることから、同年11月1日の紙幣デザイン変更(ホログラム付き)に対応した新札切り替えとも疑われている。もしそうなら笑えるほどのマネーローンダリングである。
 この話をどう受け止めたよいだろうか。巨額すぎるのと東京新聞系以外の報道がまだなのでなんとも判断しがたい(巨額であることから受注の筆頭が疑われはするが)。そもそもそれだけの金額が引き出された先が現状不明なのも奇っ怪だ。
 さて残る(2)の小沢氏が過去にかかわった政党の清算金の問題だが、これは今日の赤旗記事「小沢氏関連政治団体 繰越金が20億円 結党・解党のたび膨らむ」(参照)や、12月27日の毎日新聞記事「資金移動:小沢氏側に新生、自由党解党時残金22億円余」(参照)、さらにその前に文藝春秋1月号「小沢から藤井に渡った15億円の怪」が扱っているものだが、これは、いわば政党交付金をくすねたといったタイプの話ではあるがかなり古い話でもあり、また検察がこれに首を突っ込んでいるふうでもない。ある種、小沢祭りに出遅れないためのネタのような様相をしている。なお、文藝春秋の記事についてはタイトルとなっている話題よりも、小沢氏と鹿島との関係の話が興味深い。

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2009.12.31

「輝きのある日本へ」、そうだったらいいのにな♪

 鳩山政権は30日の閣議でようやく成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」(参照)を決定した。本来なら経済危機の状況下では成長戦略こそがマニフェストであるべきだった。経済危機にある状況下では最初から取り得る政策は限定されているから、むしろ政治のモラトリアムこそが求められるべきだった。あるいは政権交代をするのであれば、経済危機を脱していかなる成長戦略を描くのが問われるべきだった。
 しかし、民主党は成長戦略とは関係ない空疎な理想を選挙中はわめきちらし、後になって鳩山首相自身「政治主導」「官僚任せ」が「どういうものかも分かっていなかった」と告白するに至った。最初から無意味な政権交代だった。が、変わったことはあった。政権交代後になってから、民主党政権は自民党政権にチェンジした。民主党が劣化自民党に変わった。今年はつまりそういう変化の年だった。
 民主党は今回の成長戦略で、国内総生産(GDP)を2020年までに実質で年2%、名目では3%強で成長させるという数値目標を掲げた。来年は米国の経済の持ちかえしや中国の新バブルの影響で日本経済が多少立ち直る可能性があるが、無理だろう。昨年の名目成長率はマイナスマイナス4.3%だった。来年度の名目成長率も0.4%程度と予想されている。そもそも3%以上の名目成長率は1991年以降一度もない。普通に考えれば、今回の成長戦略も選挙中のマニフェストのような画餅にすぎない。
 2020年というターゲットも笑える鳩山ブーメランになっている。民主党の当時の鳩山代表は選挙前の7月30日、自民党が発表した10年後のビジョンをこう批判したものだった。いわく、「次の選挙までに何をするかが契約なのに、そんな先の契約には意味がない。10年後のことをどうやって国民が審判すればいいのか」(参照)。その民主党が今や2020年までのビジョンを描いているのだ。地に足が着いた控えめな成長戦略と、来年の予算編成のことをもっと真剣に考えてほしいものだ。
 今回の民主党の成長戦略はどういうしろものか。6つの柱から成り立っている。


  1. 環境・エネルギー……新規市場50兆円超、雇用140万人、温室効果ガスの削減目標25%(1990年比)
  2. 健康(医療・介護)……新規市場45兆円、雇用280万人
  3. 観光……訪日外国人2500万人、雇用56万人
  4. 地域活性化……食料自給率50%、農産物輸出1兆円
  5. アジア……ヒト・モノ・カネの流れを2倍に
  6. 科学・技術……官民の研究開発投資をGDP比4%以上
  7. 雇用・人材……フリーター半減、待機児童問題を解消

 懐かしいなと思う。
 私は麻生内閣の成長戦略「新たな成長に向けて」(参照)や「経済財政改革の基本方針2009」(参照PDF)などを思い出す。2020年までに麻生政権下で描かれていた項目を民主党風に整理してみよう。

  1. 環境・エネルギー……低炭素革命で、世界をリードする国。新規市場約50兆円、雇用140万人、温室効果ガスの削減目標8%(1990年比)
  2. 健康(医療・介護)……安心・元気な健康長寿社会。新規市場35兆円、雇用210万人
  3. 観光……日本の魅力発揮。訪日外国人2,000万人、新規市場4.3兆円
  4. 地域活性化……食料自給率50%(2008年所信表明演説)、農産物輸出1兆円(13年まで)
  5. アジア……アジア経済倍増へ向けた成長構想。アジアの経済規模を2倍に
  6. 科学・技術……最先端研究開発支援プログラム
  7. 雇用・人材……2200万人の介護雇用創出プラン。

 比較ポイントの重点の置き方の差によって見解も変わるだろうが、大筋で民主党の成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」は、麻生内閣の成長戦略と特段に変わる点はない。
 もともと民主党は成長戦略を持っていなかった。世論に押されて半月の短期間でどさくさにまとめ上げたものだ。前政権までの蓄積に依存する他はなかった。各省から「政策集」を寄せ集めて、民主党風味にしたという程度にしかならないのは、最初からわかりきっていたことだ。
 しいて違いを取り出すとすれば、その風味の部分だろうか。民主党は「雇用が内需拡大と成長力を支える」という発想を成長戦略の基点に置いていることは評価できるかもしれない。日本に求められているのは内需の拡大であり、そのためには国民に富を再配分し、雇用を促進するという考えはありうる。
 だが、それこそがまさに現状は困難となっている。富の再配分だが、民主党マニフェストの目玉とも言える子供手当もだが、各種の手当てもデフレ下の経済にあれば、定常的に再配分された富は投資ではなく貯蓄に向かう。デフレでは貨幣を保有してできるだけ使わないことがもっとも優れた利殖になる。金利はゼロに等しいのに物の価格は低下するから、保有された貨幣の価格は実質的には増えていく。
 同時に市場は縮小する。市場の拡大を通した雇用の拡大は見込めない。雇用の確保を法的に義務づけても、企業がそれに見合う成長の見込みがなければ、より低価格な雇用をもとめて海外に出て行くしかない。
 いくら美しい絵を描いても画餅では意味がない。実際にこの民主党の成長戦略ビジョンは達成可能なのだろうか。現実問題としてはかつての鳩山さんが見抜いていたように、「10年後のことをどうやって国民が審判すればいいのか」はわからないものだ。そもそも、どうやってデフレを脱却するのか。そこが考慮されていないかぎり、日本の成長戦略はありえないだろう。
 藤井財務相はこの成長戦略について、「過去の高度経済成長期の大規模公共投資や輸出中心の政策から脱却したと自賛したが(参照)、現実問題として向こう数年は、成長するアジアに会わせて輸出産業の強化もしなければならないだろうし、「コンクリートから人へ」という珍妙な標題の背後で、コンクリートに支えられてきた人たちは割を食らう。18.3%も削減された公共事業費は地方の雇用をそれだけすぐに奪いながら代替がすぐに補充されるわけではないからだ。
 しかし、おそらく来年夏の参議院選挙もこの民主党が勝つだろう。民主党の渡部恒三前最高顧問は「勝つ。自民党が負けてくれる」(参照)と喝破した。そのとおりだ。劣化自民党である民主党は劣化の優位性で自民党を駆逐した。その後になにが来るか。渡部氏はこう言う、「心配なのは、自民党も民主党もダメならば、政治不信になる。民主主義の危機だ」。それがたぶん、来年の光景なのだろう。

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2009.12.30

「鳩山総理大臣は気まぐれな指導者だ」とのワシントンポスト紙記事について

 オバマ政権は鳩山政権にいらだっている……このネタはもういいでしょうとも思ったが、お昼のNHKニュースでも流れるほどお茶の間のニュースにもなっていたので、補足の意味で触れておこう。30日NHK「米紙“米政権内でいらだち”」(参照)より。


沖縄の普天間基地の移設問題をめぐって、アメリカの新聞は、鳩山総理大臣が2度にわたってオバマ大統領に自分を信頼するよう求めるメッセージを送りながら年内の決着を見送ったため、オバマ政権内部でいらだちが募っていると伝えました。

 人によってはまたかよと思うだろう。いわく、日本の一部の勢力や米国のブッシュ政権の残党が日本のマスコミにプレッシャーをかけているのであって、米国は鳩山政権に否定的な考えはもってないのだ、とか。
 いえいえ、このニュースのポイントはそこではない。鳩山首相がオバマ米大統領に「ボクを信じてよ(Trust me)」と言ったという話でもない。それはもうみなさんご存じ。では、どこがポイントなのか。
 「2度」というところである。1度はみなさんが知っている。2度を知っているのは、日米両政府関係者だけだ。今回の話がただのフカシじゃないというのを、両国政府関係者しか知らない事実を暴露することで、ただの見解じゃないという質を取った形になっているのがポイントだ。

 これは、ワシントン・ポストが29日、複数のアメリカ政府当局者の話として伝えたものです。それによりますと、鳩山総理大臣は11月に東京で行われた普天間基地の移設問題についてのオバマ大統領との会談の中で「トラスト ミー=私を信頼して」と発言したほか、オバマ大統領に送った書簡の中でも同じ内容のメッセージを送っていたということです

 鳩山首相は、オバマ米大統領訪日のあと、さらに非公開書簡で「ボクを信じてよ(Trust me)」とやった。なぜか?
 鳩山首相はオバマ米大統領から疑われていると思ったからである。疑いは晴れたか? 晴れなかったことがこの記事であり、オバマ政権側の暴露の意味である。

 アメリカ側はこれを鳩山総理大臣が現行の日米合意のとおりに年内に決着を図ることを約束したものと受け止めていましたが、結局、結論は平成22年に先送りされたことから、オバマ政権内部では「鳩山総理大臣は気まぐれな指導者だ」と鳩山政権に対するいらだちが募っているということです。

 オバマ政権側としては裏切られたことになった。2度も。
 あとでワシントンポスト紙記事の原文の一部を紹介するが、「鳩山総理大臣は気まぐれな指導者だ」の原文は「Hatoyama as a mercurial leader」である。mercurialは学習向けの辞書には訳語が載ってないかもしれない。英辞郎などにはこうある。

【形】
頭の回転の速い、機知に富んだ、機知縦横の、抜け目のない
水銀の[に関する・を含む]
水星の◆Mercurialとも表記
〔神話の〕マーキュリーの◆Mercurialとも表記
〔感情の変化が〕気まぐれな、移り気な

 してみると「Hatoyama as a mercurial leader」は「頭の回転の速い指導者としての鳩山氏」と訳してもよさそうに思える。違います。
 こういうときに意味の使用頻度順のロングマンの辞書が役立つ。

mer・cu・ri・al
1 [literary] having feelings that change suddenly and without warning:
an actor noted for his mercurial temperament
2 [literary] quick and clever:
her mercurial wit
3 [technical]  containing mercury

 普通の米語では、「鳩山氏は警告なく突然気分が変わる人」というふうに読まれるだろうとしていい。ちなみに、この意味は、ローマ神話のメルクリウス神がそういうキャラだったということだ。
 ところで、「鳩山氏は警告なく突然気分が変わる人」なのだろうか? ちょっと面白い話がある。
 先日のエントリ「年明けはサービスたっぷりの鳩山迷走発言から: 極東ブログ」(参照)でも触れたが、サービス精神とはいえそれまで普天間飛行場移設について語ってこなかった鳩山首相が、突然「全面移設が難しい」「抑止力の観点からみて」と言い出した。もしかして、これって「鳩山氏は警告なく突然気分が変わる人」なので、ころっと変わっただけなんじゃないだろうか?
 ところが警告はあるにはあった。この鳩山首相の問題発言は(社民党が沸騰するくらいの問題にすぎないが)、アール・エフ・ラジオ日本の番組収録でのことだった。この日の首相動静を眺めてみる(参照)と面白い。

【午前】
10時11分、公邸で外交評論家の岡本行夫氏。
【午後】
1時55分、東京・麻布台の「アール・エフ・ラジオ日本」の番組収録。
2時43分、公邸。
4時27分、NPO法人「インドセンター」のビバウ代表。
5時56分、東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京。中国料理店「花梨」で、幸夫人、平野官房長官、松野、松井の両官房副長官らと会食。
8時37分、公邸。
43分、松野氏、資源エネルギー庁の石田長官。
9時9分、両氏出る。

 毎度ご夫人とリッチなディナーだなぁ。麻生元総理みたいに食い物でがたがた叩かれない鳩山首相はいいなぁ……そんなことはどうでもよろし。
 重要なのは「アール・エフ・ラジオ日本」の番組収録の前に、外交評論家の岡本行夫氏に面談していることだ。岡本行夫氏といえば、このブログの過去エントリを検索してもろくな情報はないが、橋本内閣で沖縄担当の内閣総理大臣補佐官だった人だ。普天間移設問題の渦中にいて状況を知悉している人である。どうやら岡本氏から正確なレクチャーを受けた頭のまま、ラジオ収録でしゃべってしまったと見てよさそうだ。
 それって、「鳩山氏は警告なく突然気分が変わる人」そのものじゃないのか。
 というか、会う人ごとに「ボクを信じてよ(Trust me)」を言いまくる人なのだろう。きっと岡本氏から「ご了解いただけましたでしょうか」で、ガッテンガッテンガッテンとかやってしまったわけだ。
 ところでなぜ岡本氏が?
 22日産経新聞記事「日米関係の深刻さにやっと気づいた?首相、外交ブレーン交代を模索」(参照)が背景を伝えている。

 東アジア重視の姿勢を強調する一方、「今まで米国に依存しすぎていた」としていた鳩山由紀夫首相が、米国に気を使い始めている。米軍普天間飛行場の移設先送りなど「鳩山政権の一連の対米挑発行為」(政府高官)が招いた米側の怒りに気づき、ようやく対米関係の重要性を認識し始めたようだ。最近では、自身の外交ブレーンについても米国に批判的な寺島実郎・日本総合研究所会長から知米派の外交評論家、岡本行夫氏への乗り換えを模索している。

 ちなみに寺島実郎氏はこういう御意見のかた。「世界を知る力 第40回」(参照)より。

中国との2000年以上に渡る歴史がいかに我々の体内時間のごとく体の中に埋め込まれるように日本人、日本文化の中に存在しているという事を理解してくると、自分たちがいかに戦後なる時代、アメリカの影響をあまりにも受けてしまったがために、アメリカを通じてしか世界を見ないという見方を身につけてしまっているかという事に気がつき始めると思います。


いまの一番生々しい話題で、直近の日米の関係について言うと、私は日米同盟によって飯を食っている人たちが当り前だと思っていることを飛び越えなければならないと思います。日米関係等には極端に言うと何の関心もない人に、常識にかえって「いまの日米の同盟関係の軸になっている日米安保に基づく米軍基地がこのような状況になっていますが、あなたたちはどのように思いますか?」と客観的に偏見でも余談でもなく、事実を事実として示した時に、はたして世界的なインテリ、或いは、知識人、ジャーナリスト等と呼ばれる人たちがどのように思うのかという事を色々と語りかけて議論をしてみると、殆どの人はあらためてそのような事を質問するとびっくりするのです。アメリカ人でさえも、「えっ! そんな事になっていたのか」とびっくりするような状況があるのです。


私も日米安保は当り前の事で今後も日米間の同盟関係が大事だと思っている立場の人間で、これを「いますぐ止めてしまえ」というような話のために言っているわけではないのです。しかし、いままでのこのような仕組みがいつまで続いても当り前だと思っている感覚から、(アメリカを通じてしか世界を見ないという事の一つの話題でもありますが、)我々自身が陥っているところから踏み出す勇気もなく、議論をする勇気もないのがこれまでの日本の姿です。日米同盟が崩れるという不安感によって、例えば、本来ただしていかなければならない筋道さえも議論の俎上に乗せないまま、我々は60数年間を過ごしてしまったわけなのです。我々の子供たちの時代に引き継いでいくという事に思いを寄せた時に、本当にこのままでよいのかという気持ち、つまり、アメリカとの本当の意味においてのこれからの長い友好関係を大事にする人間だからこそ、ただして筋道をしっかりと求めていかなければならないという事に気がつかなければなりません。

 そういう考えもあるでしょうが。
 先の産経記事に戻ると、寺島実郎氏は鳩山政権をサポートすべく活動もしていたようだ。

寺島氏は12月初め、「鳩山首相への誤解を解く」という趣旨でワシントンを訪れたが、米政府の現職当局者らは面会を拒否した。実は、日本政府内にも寺島氏の反米傾向や同盟軽視論を危ぶむ意見があり、「駐日米大使館のズムワルト首席公使を通じ、米側に寺島氏とは会わないよう働きかけた」という関係者もいた。

 寺島実郎氏の活動だが、どうやら27日日経新聞社説「歴史に判断委ねた佐藤密約」(参照)に対応していそうな雰囲気があった。

 外交における密約が望ましくないのは当然である。だが、佐藤氏は沖縄返還のために、自分限りの約束として署名し、歴史に判断を委ねたのだろう。
 事情を複雑にするのは、密使の存在である。「功」もあるのだろうが、二元外交を招き、交渉過程を不透明にするなど「罪」が多い。若泉氏がかかわったこの文書も私的な文書とされた。公式な外交文書なら原則30年たてば公開されていたはずだが、それがなされなかった。
 外務省の官僚たちに信頼を置かぬ歴代首相は、しばしば密使を使う。外務省と距離をとる鳩山由紀夫首相にも、その傾向がないだろうか。

 ところで寺島氏から岡本氏への切り替えは先の産経記事ではこう伝えていた。

 首相も遅まきながら寺島氏一辺倒では判断を誤ると考えたのか、目をつけたのがかつて首相が批判してきた橋本、小泉両内閣で首相補佐官を務めた岡本氏だった。岡本氏は今月中旬に訪米し、民主党、共和党を問わず幅広い関係者と日米関係を語り合っている。
 首相は11日、北沢俊美防衛相の紹介で官邸で岡本氏と会い、昼食をともにした。21日には再び官邸に岡本氏を招き、外交面での協力を要請した。首相周辺には岡本氏を首相補佐官とするアイデアもあったが、岡本氏はあくまで「個人的な立場」で協力することになったという。

 裏で動いたのは北沢防衛相だったようだ。
 ところで、では北沢防衛相を動かしたのは何か?

 コペンハーゲンでのクリントン米国務長官との会話について、首相は19日には、移設先変更を検討するための結論先送りを米側も理解したとしていたのに対し、22日には発言を修正した。クリントン氏による大使呼び出しという異例の事態に、慌てたものとみられる。
 首相は就任以来、周囲に「普天間の件は心配していない」と漏らし、首相周辺も「普天間は日米関係のほんの一部」と楽観的だったが、認識を改めざるをえなくなったようだ。
 今回、藤崎氏は国務省に入る際の映像をメディアに撮らせ、クリントン氏との会談後には記者団の取材に応じて「重く受け止める」と述べた。この意味について外交筋はこう解説する。
 「藤崎さんは慎重な性格で、ふだんはぶらさがり取材に応じないが、今回は国務省に行くのもあらかじめメディアに知らせておいたのだろう。首相らに現実を理解してほしかったということだ」

 岡本氏登場を促したのは、文脈的にもクリントン米国務長官と藤崎一郎駐米大使の対談だったと見てよいだろう。また、藤崎米大使が呼び出されたのか自主的に伺ったのかだが、産経記事の外交筋が正しければ、マスメディアに知らせるために自ら伺うという形式になったのであり、実質はクリントン長官側からの呼び出しだったと見てよいだろう。
 というのも、その微妙な関係を含めて、当のワシントンポスト紙の記事「U.S. concerned about new Japanese premier Hatoyama(米国は日本の鳩山新首相に気苦労する)」(参照)が始まるからだ。

While most of the federal government was shut down by a snowstorm last week, there was one person in particular whom Secretary of State Hillary Rodham Clinton called in through the cold: Japanese Ambassador Ichiro Fujisaki.

先週の豪雪で連邦政府が店じまいしているというのに、特別な一人の人物がいた。クリントン米国務長官が寒波を押して招いたのは、藤崎一郎駐米大使だった。


 通常なら連邦政府はお休みという状況にありながら、そうはできないという切羽詰まった状況があったと見て良く、クリントン長官はそのなかでじっと藤崎米大使を待っていたことになる。状況? それは鳩山首相のコペンハーゲンでの言動にあった。

After the dinner, Hatoyama told Japanese reporters that he had obtained Clinton's "full understanding" about Tokyo's need to delay. But that apparently was not the case. To make sure Japan understood that the U.S. position has not changed, Clinton called in the Japanese ambassador during last week's storm, apparently having some impact.

夕食後、鳩山は日本の記者に、普天間基地移設決定が遅れている件についてクリントンから十分な理解を得たと語った。しかし、明白に事実無根であった。日本に向け、米国の見解は依然変更がない(遅れを認めているわけではない)ことを確認するために、クリントンは、重要性を伝えるかのように、先週の嵐のなか日本大使を招いた。


 端的に言えば、クリントン長官は鳩山首相が嘘をついていると認識していたことになる。
 そして、これが逆鱗に触れた形で、玉突きのように、鳩山ブレーンを寺島氏から岡本氏に切り替え、その新レクチャー後三歩進んだところでラジオで新見解を発表したというのが、ことの流れだ。
 ワシントンポスト紙の記事だが、重点は、米国の怒りというより、アジアの困惑を伝えていることにある。NHKニュースが次のように伝えている部分だ。

ワシントンポストはさらに、韓国やシンガポール、それにオーストラリアなどでは、日米関係のこうしたあつれきがアジア全体の安全保障に悪影響を及ぼすのではないかと懸念が強まっているとも伝えています。

 原文では次の箇所だ。

U.S. allies in Singapore, Australia, South Korea and the Philippines -- and Vietnamese officials as well -- have all viewed the tussle between Washington and Tokyo with alarm, according to several senior Asian diplomats.

アジア諸国の高官によれば、米国の同盟勢力はシンガポール、オーストラリア、韓国、フィリピン、さらにベトナム東京にもいるが、彼らはみな、米国と日本の格闘に警戒しているとのことだ。

The reason, one diplomat said, is that the U.S.-Japan relationship is not simply an alliance that obligates the United States to defend Japan, but the foundation of a broader U.S. security commitment to all of Asia. As China rises, none of the countries in Asia wants the U.S. position weakened by problems with Japan.

なぜなら、日米関係は単純に米国が日本を守る義務を持つという同盟だけではなく、全アジア域の広範な安全保障制約の基礎になっているからだと、ある外交官は語る。中国が台頭するなか、日本が引き起こすトラブルで米国の地位が弱まることを望むアジアの国は存在しない。


 こうした懸念は、米国側で日本が外交戦略を大きく転換させているのではないかとの疑念につながり、先日の天皇会見を伴った習近平中国副主席来日もその文脈で米政府関係者は見ているようだ。私が意外に思えたのは、先週のイランの核交渉の責任者サイード・ジャリリ国家安全保障最高会議書記の訪日もその文脈で米国が見ているらしいことだ。考えてみれば、この時期にイランからの訪日を受けるのも変な話といえば変な話だ(参照)。
 今回のワシントンポスト記事はNHKと限らず他でも報道されが、原文に存在する小沢一郎民主党幹事長についての言及を取り上げた報道社はなかったように思われる。その原文にも触れておこう。この部分はマイケル・グリーン元米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長の見解を引いたものだ。

Michael Green, senior director for Asia at the National Security Council during the Bush administration, said the concern is that senior officials in Hatoyama's party with great influence, such as Ichiro Ozawa, want to push Japan toward closer ties with China and less reliance on the United States. That would complicate the U.S. position not just in Japan but in South Korea and elsewhere.

ブッシュ政権下で米国家安全保障会議アジア上級部長だったマイケル・グリーンは、懸念されるのは、鳩山の民主党で、小沢一郎氏のような有力者が、中国との連帯を強め米国への信頼を減らそうとすることだ。このことが、日本における米国の立ち位置を複雑にするばかりか、韓国その他でも複雑にしている。

"I think there are questions about what kind of role Ozawa is playing," Green said, adding that Ozawa has not been to the United States in a decade, has yet to meet the U.S. ambassador to Japan, John Roos, and only grudgingly met Clinton during an earlier trip to Japan.

グリーン氏は「小沢氏の役割が何かが問題なのだと思う」と述べ、さらに、小沢氏が10年来米国を訪問していないことや、ルース駐日米国大使に依然面会しないこと、政権前のクリントン長官の面談はいやいやながらであったことを加えた。


 この視点についてはグリーン氏とワシントンポストの偏向の可能性もあり、必ずしも米国政府の意向とは異なるかもしれない。それでも、小沢氏を問題視する視点が米国政府内で論じられつつある動向を示しているだろう。

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2009.12.29

「〇八憲章」主要起草者、劉暁波氏の初公判の文脈

 中国の文芸評論家で詩人の劉暁波氏の初公判について、メモ書き程度だが簡単に触れておいたほうがよいだろう。インターネットに意見を公開しただけで国家政権転覆扇動罪に問われ、懲役11年の求刑となった暗黒裁判の結果もだが、ごく当たり前の人権問題というよりも、「習近平国家副主席訪日の意味は何だったか、その後の文脈から見えてくるもの: 極東ブログ」(参照)に関連した文脈のほうが重要な意味をもちそうだ。
 劉暁波氏の国際的な評価だが、今年のノーベル平和賞はオバマ米大統領ではなく彼が受賞すべきだったとの評価は多い。例えば、フォーリン・ポリシー「Nobel Peace Prize Also-Rans」(参照)は、ノーベル平和賞が与えられるべき7人の偉人をまとめているが、ガンジー、エレノア・ルーズベルト、ヴァーツラフ・ハヴェル、ケン・サロ=ウィワ、サリ・ヌセイベ、コラソン・アキノに劉暁波を加えている。彼はこの生存者4人のうちの1人である。

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天安門事件から「08憲章」へ
劉暁波, 劉燕子
横澤泰夫, 及川淳子
蒋海波
 1955年生まれの劉暁波氏は、1989年、北京師範大学所属の研究者として米国留学中であったが、天安門事件の直前に中国に帰国し、民主化運動に参加した。だが軍隊繰り出され市民虐殺が開始されるや、学生たちを可能な限り撤退させるよう努力した。運動鎮圧後、劉氏は、天安門事件の煽動者として北京市公安局に逮捕された。その後裁判を受けたが、刑事処分免除で済んだ(公職は追放された)。この時は西側諸国の圧力が強く、また胡耀邦氏や趙紫陽氏につならり弾圧を懸念する人々も多く、中国政府も刑を軽くせざるをえなかった。よく知られているように、胡錦濤氏も胡耀邦氏の人脈である。
 劉暁波氏は、1993年にはキャンベラにあるオーストラリア国立大学に短期留学し、そのまま亡命すると見られていたが、帰国した。あくまで中国国内での活動に命をかけることに決意したと見られる。当時、シドニーで読売新聞が劉氏とインタビューを行っており、そこで身の危険について問われた氏は「政府と違うことを考え、それを口にする私は、いつも危険に直面している。私は八九年にも米国から中国に戻ったが、海外で反体制運動をするつもりはない。国際的な物ごいは嫌だ」と答えている。
 1995年には、天安門事件6周年の記念よろしく拘束され入獄。政府批判の罪で強制労働を伴う労働改造刑によって1996年から1999年まで3年間労働教養所に拘束された。その後も言論活動で拘束されては釈放される。
 2007年に中国指導部に人権状況の改善などを呼びかける公開書簡を発表。翌年、劉暁波氏が共同起草者に含まれる「〇八憲章」(参照)は、知識人ら303人人の連名で世界人権宣言60周年記念日の2008年12月10日を意識して公開された。劉氏自身はこの公表直前に拘束されていた。
 国家政権転覆扇動容疑として劉氏の逮捕に至ったのは2009年6月23日であり、「〇八憲章」公開後の拘束から半年の時間が経過している。なぜこの遅れが生じたのだろうか。
 2月24日付け香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは、対応を巡って胡錦濤主席と党政治局の李長春氏および周永康両常務委員の対立を報じている(参照)。天安門事件処理後の対応を思い出しても、共産党指導部でなんらかの権力闘争に発展していた可能性ある。
 興味深いことだが、11月25日、香港の人権団体・中国人権民主化運動ニュースセンターは、劉氏が近く釈放されるという見通しを出していた。錯綜した情報にそれなりの理由があるのだろうか。この話は後で触れよう。
 そして今回12月25日の北京市第一中級人民法院(地裁)の判決だが、朝日新聞「民主化運動の封じ込め、鮮明に 中国、作家に重い量刑」(参照)はこう伝えている。

 朝日新聞が入手した判決文によると、劉氏が憲章で共産党独裁を廃止し、民主憲政に基づく「中華連邦共和国」の樹立を呼びかけたことに加え、ネット上に掲載した共産党や指導者を批判した六つの文章が重大な犯罪行為に当たるとしている。
 傍聴した劉氏の弟、劉暁暄氏(52)によると、裁判官は劉氏や弁護士の陳述を途中で打ち切ったという。弁護士は「審理はたったの3日で、判決文は起訴状をそのまま写しただけ。十分な審理を尽くしておらず、何の実害も出ていないのに量刑はあまりに重すぎる」と批判した。


 当局は外国メディアの取材も制限。朝日新聞は23日の初公判と25日の判決の傍聴を申請したが、拒否された。裁判所の一角に臨時に設けられた「取材区」から出られず、裁判所では傍聴した家族や弁護士にも接触できなかった。米国などの大使館員も傍聴を求めたが、いずれも認められなかった。

 単純に一種の暗黒裁判として見てよいだろうし、国際的にもそう見られている。公判前の15日時事「作家の釈放要求は内政干渉=中国」(参照)では、欧米諸国からの批判を伝えている。

中国外務省の姜瑜副報道局長は15日の記者会見で、欧米諸国が反体制作家の劉暁波氏の中国での拘束を批判し即時釈放を求めていることについて「非難は受け入れられない。外部勢力が中国の内政と司法の主権に干渉することに反対する」と述べた。

 日本の民主党政府がこの欧米からの批判に与したかについての報道を私は見ていない。鳩山政権は、今回の中国における人権侵害の状況になんらかの批判を出しただろうか。
 これに対して、日本の民間の声を7日の産経抄(参照)はこう伝えている。

日本でも、「08憲章」の内容と、詩人でもある劉さんの存在を広く紹介したいと、大阪在住の作家、劉燕子(リュウイェンズ)さんらがこのほど編集したのが『天安門事件から「08憲章」へ-中国民主化のための闘いと希望』(劉暁波著、藤原書店)だ。
 ▼「編者解説」のなかで劉燕子さんは、アメリカやヨーロッパに比べて日本の知識人が、中国の民主化や人権の問題に関心が薄いことを嘆き、「中国批判は反中国の右翼というレッテルを貼られるというおかしな状況」に首をかしげている。

 日本では、中国の人権問題に触れるだけで右翼のレッテルを貼られることがあるというのは、奇妙ではあるが、共感できる指摘だ。
 先ほど言及した中国人権民主化運動ニュースセンターと思われるアナウンスに戻るが、朝日新聞記事はこう言及している。

 オバマ米大統領が訪中した11月、劉氏が釈放されるのではとの期待が人権活動家たちの中ではあったが、オバマ氏は首脳会談の場で人権問題に踏み込まず、「中国側は米国が強硬には出ないという確信を得た」と北京の外交筋はみる。その後、1カ月足らずで起訴され、判決まで進んだ。

 端的に言ってしまえば、人権問題の観点ではオバマ米大統領によって劉暁波氏が見捨てられたか、あるいは端的に米国外交の失敗であったと言えるだろう。
 いずれにせよ、中国は、米国が人権問題に軟化したと理解したことで、ようやく劉氏の厳罰に踏み込むことが可能になったと見ることはできそうだ。もちろん、オバマ米大統領一人が責められる問題ではない。2月にはクリントン米国務長官、5月にはペロシ米下院議長が訪中したが、人権問題には触れなかった。しいていえば、米国民主党の大きな汚点となったと言ってよいだろう。
 裁判の文脈ではさらに産経新聞「「08憲章」重刑は警告 背景に「人権カード」消した欧米 見抜いた「大国化」する中国」(参照)の次の指摘が興味深い。

 当局は劉氏に「海外出国」を打診していたとされ、この日の判決は「あくまで国内にとどまり、体制批判を続ける」(劉氏)との“信念”に対する回答でもあった。

 それが本当なら、オバマ訪米までの時点では劉暁波氏を暗黒裁判にかけないシナリオが11月までは存在した可能性がある。
 今回の公判の日程だが、「習近平国家副主席訪日の意味は何だったか、その後の文脈から見えてくるもの: 極東ブログ」(参照)で触れたように、習近平国家副主席アジア諸国歴訪も関係しているようだ。23日付け産経新聞「「罪は重大」と検察 独裁放棄求めた「08憲章」の劉氏初公判」(参照)はこう伝えている。

劉氏は「08憲章」を発表した昨年12月に拘束され、今年6月に逮捕された。拘束から1年を経た裁判は、「オバマ米大統領の訪中など(外交上の)重要日程を終えたタイミングを図った」(民主活動家)とみられている。
 習近平国家副主席の訪日やフランスのフィヨン首相の訪中などの一連の外交日程を終えたことも裁判日程と関係するとみられる。

 カンボジアからウイグル人の強制送還を実現させた習近平国家副主席のアジア諸国歴訪の完成として、この劉暁波氏暗黒裁判があると見てもよさそうだ。
 逆に、劉氏の暗黒裁判を習近平国家副主席が最高権力者の主席になるための階梯として見ると、その経緯に別の光が当てられる。
 最初に想定されるのは、「習近平副主席訪日の天皇特例会見のこと: 極東ブログ」(参照)で言及した習近平国家副主席による訪日天皇陛下会見の、中国側のどたばたが劉氏の暗黒裁判へのプロセスときれいに重なることだ。単純に言えば、オバマ米大統領訪中に劉暁波氏弾圧を批判するメッセージを強めていたら、習近平国家副主席が次期主席となる階梯の手順としての訪日天皇陛下会見が実現できなかったかもしれない。
 またこの1年の経緯を振り返ると、胡錦濤および李克強ラインは、「〇八憲章」と劉暁波氏への弾圧緩和に苦慮していたようにも見えるが、習近平国家副主席を支える集団に、逆にその苦慮で足を掬われた形になったのでないか。
 中国という国は為政者が少しでも弱みを見せれば致命的な失点となる。ゆえに、為政者が妥協的な政策や緩和的な政策を秘めていていたとしても、対立者からそこを弱みとして突かれると逆に、弱みを隠すために強硬派を演じなくてはならなくなる。この罠に胡錦濤および李克強ラインがはまっていたのではないか。そしてそこから抜け出すいいアイデアが陽出る処の国を経由して提供されてしまったということはないだろうか。

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2009.12.27

年明けはサービスたっぷりの鳩山迷走発言から

 普天間飛行場移設問題に鳩山首相もいよいよ決断をするのかと思わせる報道があり、関心をもったらとんでもないオチになった。ネットでいう「釣り」ということなんだろうか。
 話は、私の記憶では最初、時事の報道で見たように思う。該当記事と思われる記事のタイムスタンプは変わっているので書き換えがあったか私の誤認か、いずれにせよ内容はより正確にはなっている。「普天間、国外移設を否定=「抑止力の点でグアム無理」-鳩山首相」(参照)より。


 鳩山由紀夫首相は26日午後、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先について「現実の中で考えれば、抑止力の観点からみて、グアムにすべて普天間を移設させることは無理があるのではないか」と述べ、米領グアムなど国外移設の可能性を事実上否定した。アール・エフ・ラジオ日本の番組収録で語った。社民党が有力な国外移設先と位置付けるグアムを首相が排除する考えを示したのは初めて。同党からは「真意が理解できない」と批判する声が上がっている。
  首相は普天間の国外移設に関し「果たして抑止力という観点から、十分かどうかという議論は、やはり相当大きくある」と強調。その上で、米海兵隊約8000人のグアム移転で米側と合意していることを指摘し、「それ以上(の国外移転)というのはなかなか難しい」と語った。

 社民党などから提案されていたグアム移転案を鳩山首相自らが否定した形になっている。
 私はこれはガセではないか、あるいは誤報でないかと懸念して続報を待った。その後、NHKも流したので誤報の可能性は残るとしても、NHKなりの裏が取れ、報道内での合意にはなりそうだと認識した。「“グアムへ全面移設 難しい”」(参照)より。

これに関連して、鳩山総理大臣は、26日に行われた民放のラジオ番組の収録の中で、「グアムは候補地の一つとしてはあったと思うし、その可能性を検討すべきときがあったのかもしれない。しかし、現実の中で考えれば、抑止力の観点から、必ずしもグアムに普天間基地のすべてを移設させるということは無理があるのではないか」と述べ、抑止力の観点から、普天間基地のグアムへの全面的な移設は難しいという認識を示しました。

 さらにこうも加えられている。

また、鳩山総理大臣は、この問題をめぐって閣内の足並みの乱れを指摘されたことについて、「関係閣僚とは、しっかり打ち合わせをして、話すべきでないところは話すべきではなかった。しかし、閣僚それぞれが自分の思いを正直に述べてきたきらいもあった」と述べ、閣内の調整に問題があったという考えを示しました。

 この先に改憲の話もついているのでメモ的に引用するが、今回はここには立ち入らない。

さらに、鳩山総理大臣は、憲法改正問題への対応について、「心の中には、今考えられるベストな国のあり方のための憲法を作りたいという気持ちはある。必ずしも9条ということではなく、地方と国との関係を大逆転させるなど、議論をすることが非常に大事だ。議会人としての責任ではないかと思っている」と述べました。

 NHKの報道で、そこはどうだろうかと疑問に思えたのは関係閣僚についての認識で、実際には北澤防衛相の名前が挙がっていた。共同「首相「サービス精神」がぶれに 普天間発言で自己弁護」(参照)より。

 閣僚間で意見の違いが出た点は「それぞれの閣僚が自分の思いを正直に話した。本来なら首相か(北沢俊美)防衛相か、一人が発言するようにとどめておかなければいけなかった」と調整不足を認めた。ただ首相は「発言権」がある閣僚に岡田克也外相を挙げなかった。民主党内には、以前から首相と岡田氏の関係を懸念する声があることから、今後憶測を呼ぶ可能性もある。

 この普天間問題で、鳩山首相と岡田外相がどういう関係にあるのかは、藤崎一郎駐米大使とクリントン国務長官との会談も関係し、実際にかなり微妙な問題になっているので、その部分を共同としてはあえて踏み込みたかったのだろう。
 鳩山首相の新発言どおり、グアムに全面移転できないならどうするのか。読売「普天間移設先、国内で候補検討へ…首相」(参照)では国内移転だとしている。

 首相は26日、ラジオ日本の正月番組収録で、社民党が政府に検討を求めているグアムへの移設案について、「一つの候補地として可能性を検討すべき時があったのかもしれないが、現実の中で考えれば、抑止力の観点から見て、グアムにすべて普天間(の機能)を移設するのは無理がある」と述べ、可能性を否定した。
 「国内で解決するということか」と司会者に問われると、「そうだ」と述べた。
 首相は、2006年の日米合意に在沖縄海兵隊8000人のグアム移転が盛り込まれている点を指摘し、「それ以上というのは、なかなか難しい」とも述べた。
 政府は与党3党の実務者級との協議機関で新たな移設先を選定する方針で、28日に首相官邸で初会合を開く予定だ。

 話題の原点に戻る。
 鳩山首相のグアム移転発言はどこでなされたか。ラジオ番組ということだが、そこはどのようなものだったか。読売系のスポーツ報知「鳩山首相、ラジオ出演はテンション低ぅ~」(参照)がわかりやすい。

 鳩山首相は26日、アール・エフ・ラジオ日本の番組収録にゲスト出演。年明けの放送だが、献金問題をふまえ「おめでとうございますというのが心の中に響きにくい」と、いきなり低いテンションでスタートした。
 政治ジャーナリストの細川珠生さんから、普天間問題などでの発言のぶれを指摘され「ぶら下がりなどで多少サービスをする発想になっている」と釈明。「サービスは国益にならない。お気をつけになられた方がいい」と直言されてタジタジに。

 問題発言の出所は、まだ放送されていないアール・エフ・ラジオ日本の番組収録だった。正月にお茶の間に放送されるのだろう。いや、単純な疑問として、この番組は本当に年明けに放送されることになるのだろうか。もしこれが、政治的な圧力でそのままの形で放送されないとすればさらに大問題になるだろう。
 今回の鳩山発言の性格だが、どうやらこれは鳩山首相が「多少サービスをする」つもりでぺらぺらとやらかしたようだ。細川珠生氏も「直言」したそうだが、不用意な発言であったことは間違いない。次の発言からも推察できる。

また、選挙中に叫び続けた「政治主導」「官僚任せ」の意味を、首相になるまで「どういうものかも分かっていなかった」と告白。

 そんな人が日本国の首相になっていたのだと驚くのであれば、「鳩山一族 その金脈と血脈 (文春新書)(佐野眞一)」(参照)を一読され免疫をつけておくほうがよいだろう。
 鳩山首相自身も適切な対応ではなかったと反省しているらしい。読売「「取材に話しすぎた」…普天間迷走で首相」(参照)より。

 鳩山首相は26日、ラジオ日本の正月番組収録で、沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題で政府の対応が迷走したことについて、「ぶら下がり(取材)などで『多少サービスするか』みたいな発想になったところが、拡大されて伝わってしまった。『決まるまでは何もしゃべらない方がいい』と指摘されており、その通りだと反省している」と述べ、適切な対応でなかったとの考えを示した。

 あらためて見直すと、鳩山首相の反省は何を意味しているのだろうか。
 「拡大されて伝わっ」たということは、自身も失言であったという認識なのか、その後のメディアの取り上げ形に不満なのか、誤解されたと思っているのか。
 いずれにせよ、本人には発言の趣旨が正確に伝わっていないという認識があるなら、何が正確な意思だったのか。「サービス」抜きだとすると、グアム全面移転をどのように鳩山首相は考えているのか。そこがわからない。
 それにもまして不可解なのは、「『決まるまでは何もしゃべらない方がいい』と指摘されており」というのは、ラジオ番組の細川珠生さんの直言を意味するのか、民主党内で実質的に権力をお持ちの方から諫められているのか。そこもわからない。
 反省したら負けになるのか、共同「首相「サービス精神」がぶれに 普天間発言で自己弁護」(参照)では本人としてはトータルには矛盾がないそうだ。

 首相は自身の発言に関し「サービス精神は言い訳にならない。結論が出る前に話すべきでないところは話すべきではなかった」と反省の弁も。一方で「私の発言をトータルで見ると変わっていない」と強調した。

 おそらくこれらの発言を追っても「鳩山首相のマニフェスト違反より深刻な問題: 極東ブログ」(参照)で言及したガソリン税暫定税率についての鳩山首相発言のように同一人物の発言とは思えない困惑に至るだだろう。
 つまり、明日28日に首相官邸で予定されている与党三党の実務者級との協議機関で連立政権としての公式な見解が出されるだろう。それは過去の経緯からみて、ただの先延ばしの確認の無内容なものになり、さらにその内容を鳩山首相をしゃらっと公言し、かくして、その後に正月にこのトーク番組が流れ、まいどの鳩山対鳩山(参照)という構図になりそうだ。あけましておめでとう。鳩山さん、やあ、こちらも鳩山さん。弟さん、いやご本人。正月の漫才か。
 実際の落とし所については別途エントリを分けていずれ議論したいが、今回の鳩山首相の迷走報道には、COP15の約束にも似た微妙な留保事項があることは指摘しておくほうがよいだろう。「全面移設が難しい」という「全面」ということと、「抑止力の観点からみて」という2点の留保だ。
 以上で、このエントリの話はおしまいだが、蛇足めいた話として、関連の藤崎一郎駐米大使とクリントン国務長官との会談に少し触れておく。
 曖昧な推測になるので控えていたが、クリントン国務長官が呼び出しかどうかという点では、米国務省から否定のアナウンスが出ている(参照)ので、呼び出しはなかったとしてよいだろう。
 ではなぜ藤崎米大使が会談に向かったかといえば、それにもなんらかの背景があるのだろう。その背景はなにかだが、クリントン国務長官を藤崎大使が忖度したかあるいは別リークで動かされたということだろう。その内容だが、時事「首相への不信決定的に=普天間移設、発言捏造に不快感-米政権」(参照)が伝えるところに等しいだろう。

 首相は、17日にコペンハーゲンで会談したクリントン長官が、同県名護市のキャンプ・シュワブ沿岸部に移設する現行計画見直しを検討するとの自身の説明に理解を示したと発表した。しかし、複数の日米関係筋によると、同長官は会談で、合意履行を「最善の道」として早期決着を求めたのが真相だ。
 同長官は21日の会談で、藤崎大使に「わたしが了承したかのような話になっているが、そんなことはない」と、首相の「捏造(ねつぞう)」に不快感を表明。現行案を譲るつもりのない米政府の強い姿勢を改めて首相らに伝えるよう求めた。

 さらにその背景には朝日「普天間結論「しばらく待ってて」 首相、米国務長官に」(参照)で報道された鳩山首相の発言がある。

鳩山由紀夫首相は18日夕(日本時間19日未明)、記者団に対し、17日夜のデンマーク女王主催晩餐(ばんさん)会で隣席になったクリントン米国務長官から、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題の年内決着を先送りした経緯の説明を求められたことを明らかにした。
 首相によると、クリントン長官には「選挙で民主党が勝ち、(県外移設を求める)沖縄県民の期待感が高まっている。日米合意が大変重いことはよく理解しているが、逆に(沖縄県名護市辺野古に移設する現行計画を)強行すると、大変危険だと感じている。新たな選択を考えて努力を始めている。しばらくの間、待っていていただきたい」と理解を求めたという。
 首相に説明を求めたこと自体、米側が首相の対応に不信感を持っていることの表れとみられるが、首相は記者団に「正確な言葉は覚えていないが、『よくわかった』という思いをお伝えいただいた」と述べ、クリントン長官は首相の説明を了解したとの考えを示した。「1時間半ほど隣にいて親しく歓談できた。日米同盟の重要性をお互いに確認でき、大変いい機会だった」とも語った。

 この「首相によると」発言は共同などを通じて英文でも報道されており、クリントン長官が時事の伝えるように「捏造」と理解した可能性はある。
 この関連の話題では、この記事に限らず時事がどうもお話を作りすぎているのではないかという疑念はあるが、その後の急展開の展開を見ると、やはり「鳩山首相が語るクリントン長官の意向」という伝聞を長官自身がただしておかなくてならないという懸念が米国側にあっただろう。それは例のオバマ米大統領に「ボクを信じてね(Trust me!)」とした鳩山首相への苦い経験があっただろう。
 ブログなどでこうした踏み込んだ推測をすると毎度のテンプレのご批判(誹謗に近いものだが)をいただいくが、「正確な言葉は覚えていないが、『よくわかった』という思いをお伝えいただいた」という話がそれ以上の確認もなくマスコミで一人歩きをしてしまっている現状は、日本の安全保障がかかっており、国民にも困惑した状況だというのはシンプルな事実である。

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