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2009.12.26

習近平国家副主席訪日の意味は何だったか、その後の文脈から見えてくるもの

 習近平国家副主席訪日が何だったのかは、その後の文脈から見えてくるものがある。そして見えてきたものからして、民主党政権がどのような外交をしてしまったのかということがあらためて問われるだろう。
 国内報道やネットでの騒ぎという点で見るなら、習近平国家副主席と天皇陛下会見を巡る話も一段落ついたころだろうか。私は「習近平副主席訪日の天皇特例会見のこと: 極東ブログ」(参照)で紛糾の遠因に中国国内の後継者選びの問題を見ていた。そうした私の意見はブログにありがちな奇矯な意見として孤立していたようにも思えたが、ようやく中華圏からも同種の視点が出て来たようだ。「後継者問題の対立が原因か=副主席の「天皇会見」申請遅れ-中国」(参照)より。


【香港時事】中国政府が習近平国家副主席と天皇陛下の会見を日本側のルールが定める1カ月前までに申し込まず、特例として会見が認められたことについて、胡錦濤国家主席の後継者問題をめぐる内部対立があったためとの見方が出ている。
 香港紙・リンゴ日報は22日の論評で、習副主席と天皇の会見を希望していながら、申し込みが遅れたことについて「このような低級なミスを中国外務省が絶対に犯すはずがない」と指摘。習副主席の次期最高指導者としての「身分」をめぐる同国指導部内の意見対立が原因だった可能性があるとの見方を示した。

 問題は私の見立ての正否というよりも、「習副主席の次期最高指導者としての「身分」をめぐる同国指導部内の意見対立」の有無であり、有るというなら、民主党政権の対応がそれにどうかかわったか、かかわっていくかについては、日本国側の今後の問題になる。そしてその点で、その後の文脈が重要になってきた。
 文脈といってもそう難しい読みではなく、習近平国家副主席訪日は日本が対象であったというのではなく、実は米国オバマ大統領のアジア訪問が日本を皮切りに実施されように、習氏においてもアジア諸国、つまり日本、韓国、ミャンマー、カンボジアの4か国7日間のアジア歴訪の皮切り的なものであったことだ。その全体の成果は、習副主席の次期最高指導者の演出であったことは間違いないのだが、さらに微妙な成果とも言えるものだったのは、国際的に非難の高まるミャンマーが含まれていることでもわかる。結論から言えば、もっと複雑な問題を孕んでいたのはカンボジアへの訪問であった。
 事実としては毎日新聞記事「習・中国副主席:「後継」の存在感 4カ国歴訪、東南アジアで成果」(参照)がわかりやすい。

 ミャンマー軍政は8月、対中国境地帯の少数民族と武力衝突し、数万人規模が中国側に越境していた。習氏は軍政トップのタンシュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長から国境安定化に努力するとの言質を引き出した。
 また、両国間で建設が進む石油パイプラインについて、中国国有石油大手、中国石油天然ガス集団(CNPC)の子会社に独占経営権と所有権などを与えるとした文書にも調印している。
 カンボジアでは、中国新疆ウイグル自治区ウルムチで7月に起きた大規模暴動の後、ベトナム経由でカンボジアに密入国したウイグル族20人が首都プノンペンの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に亡命を申請していた。しかし、カンボジア政府は習氏訪問前の19日、国際社会の非難を無視する形で全員を中国に送還。習氏はフン・セン首相から「いかなる勢力も反中国の活動をすることを許さない」との約束を引き出した。

 さらりと書かれているが、ようするに中国は習氏によって、ミャンマー軍政を是認し、カンボジアという対外的でありながらウイグル人弾圧を行うという意思表示を行ったことになる。言うまでもないが、この文脈に天皇陛下会見が配置されたことに注意されたい。
 ウイグル人弾圧と習氏の関係は先にも言及した「習近平副主席訪日の天皇特例会見のこと: 極東ブログ」(参照)でも触れたが、私の見立てでは習氏の失策とした。しかし、この失策は、失策故にウイグル人弾圧をやめるように是正されるのではなく、どうやら習氏を旗頭に強化される動向にあるようだ。習氏のアジア諸国歴訪と並行した形でさらなる弾圧が継続していた。
 まず4日CNN「ウルムチ騒乱で死刑判決新たに5人、計17人に」(参照)が注目される。

北京(CNN) 新華社電によると、中国の裁判所は3日、今年7月に新疆ウイグル自治区ウルムチで起きた騒乱で、新たに5人に死刑判決を言い渡した。
 英字紙チャイナ・デーリーによると、同日判決を受けたのは13人。死刑判決を受けなかった8人には禁固刑が言い渡された。

 9日のAFP「中国当局、逃亡中の94人を逮捕 新疆暴動に関与の疑い」(参照)ではさらに逮捕者が増えた。

【12月9日 AFP】中国の新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)当局は、今年7月5日に区都ウルムチ(Urumqi)で発生した暴動に関与した疑いがもたれていた、逃亡中の94人を逮捕した。国営新華社(Xinhua)通信が9日、報じた。
 中国当局はウルムチの暴動をめぐり、すでに9人の死刑を執行し、8人に死刑判決を下しているが、新華社の報道からはさらなる厳しい判決が下されることが予想される。

 25日共同「ウルムチ暴動でウイグル族さらに10人に死刑判決」(参照)はさらに関連する死刑を伝える。

 中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市で7月に起きた大暴動で、同市の中級法院(地裁)は22~23日、殺人などの罪で10人に死刑判決(うち5人は執行猶予付き)を言い渡した。同自治区政府が25日、発表した。
 暴動に絡む死刑判決は計30人となった。10人は名前からいずれもウイグル族。7月5日夜、市内で漢族住民の頭部を殴るなどして殺害したとされる。

 このような文脈のなかで、習氏のカンボジア訪問に際して国際社会の非難を無視する形でカンボジアに密入国したウイグル人の中国引き渡しが実施された。これが中国によるカンボジア支援とバーターで行われたことは、22日ニューヨークタイムズ「China, Cambodia and the Uighurs」(参照)が伝えている。さらに送還者に幼児が含まれていたことにも言及している。過去の問題に触れた後次の話になる。

That was then. Today, Cambodia has baldly violated its international commitments and put at risk the lives of 20 members of the Uighur minority --- including two infants --- who were forcibly deported back to China on Friday.

それはかつての話。今日の話としては、カンボジアは国際公約を悪しく違反し、金曜日(18日)中国への強制送還によって、2人の幼児を含む少数民族ウイグル人20人の生命を危機に陥れた。

Poor, weak Cambodia is not the only villain in this piece. China shoulders even more blame for misusing its growing wealth and clout to force Cambodia to do its bidding. Already Cambodia’s largest foreign investor, China rewarded Cambodia on Monday with 14 deals, valued at an estimated $850 million, including help in building roads and repairing Buddhist temples.

貧困・弱小国カンボジアがこの問題の唯一の元凶ではない。成長経済の富と影響力の悪用し強制した中国の罪責がより大きい。すでにカンボジアにとって最大の対外投資国となっている中国は、月曜日(21日)、道路建設や寺院修復援助も含め、推定8億5000万ドルを与えた。


 もう一点注目したいのは道路建設や寺院修復という地域慰撫策は中国がカンボジア・ミャンマー経由で中近東・アフリカからのシーレーン確保の意図もありそうなことだ。
 こうした習氏旗頭の動向は実はこの機に吹き出したものではない。国際的には失言として話題になったメキシコ発言だが、この一連の文脈からして習氏の政治的なポリシーで実施されたと見てよさそうだ。今年の2月の共同「「中国あげつらうな」…中国の習近平副主席、メキシコ訪問で失言」(参照)より。

 中国の習近平国家副主席が外遊先のメキシコで、「腹がいっぱいになってやることのない外国人がわれわれの欠点をあれこれあげつらっている」と発言し、「国家指導者にふさわしくない失言」(中国紙記者)と話題になっている。
 副主席は11日、華僑と会談した際、中国が13億人の食糧問題を基本的に解決したのは人類に対する貢献だとし、「中国は革命も輸出せず、飢餓や貧困も輸出せず、外国に悪さもしない。これ以上いいことがあるか」と述べた。

 さらに

 中国でもインターネットで発言や映像が伝わり、直後からブログなどで「酒に酔った勢いでの発言ではないか」「穏健な胡錦濤指導部のイメージを傷つける」と批判が広がった。習副主席は胡国家主席後継の最有力候補とされる。

 インターネットでの関連映像はユーチューブで「堂堂國家副主席「吃飽沒事幹」都講得出,太子黨果然係狗口長不出象牙!」(参照)などで見ることができる。
 日本としては、国際的に非難を浴びるこのような中国外交に天皇を駆り出してまで日本が同意しているのではないことは、中国に直接的に対抗するという稚拙な手をとらずしても、アジア諸国やその他の国際社会にアピールしていく必要があり、つまりは民主党の課題でもある。すでに岡田克也外相は22日の記者会見で、カンボジアからのウイグル人強制送還について「そういった措置によってこのウイグル族の皆さんが、生命や安全の危険にさらされる可能性があり、難民条約の精神に照らして、かつ人道的見地から今回の措置が適切であったとは言い難く遺憾であるとその旨カンボジア政府には日本政府として懸念を表明した」(参照)と述べたが、大手紙社説が沈黙している現状、日本政府側からさらに国際社会に日本の立場を鮮明にする必要があるだろう。

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2009.12.25

鳩山首相政治資金問題会見、雑感

 昨晩、ちょっとした偶然で鳩山首相の会見をNHKで実況で見てしまった。気持ちの悪いものを見てしまったなというのが率直な感じだが、そう言ってしまえば、鳩山首相を気持ちの悪い奴だと思ったのかと誤解されるだろう。そうではない。もしそうなら、他のスプラッタなニュースと同様私は見ない。気持ちが悪かったのは、鳩山首相のクチから出てくるある毎度の特有なロジックだった。それが日本を戦争に導いたものだし、日本の宿痾と言えるものだ。平成のこのご時世になっても、こいつはでんと日本に鎮座しているのかと暗澹たる思いがした。
 記者会見の理由は、鳩山由紀夫首相の資金管理団体「友愛政経懇話会」の政治資金収支報告書虚偽記載問題で、東京地検特捜部が、元公設秘書を政治資金規正法違反の罪で在宅起訴、また元政策秘書を略式起訴したことを受け、彼を監督する立場にあり、同会の代表でもある鳩山氏が国民に説明し、進退を明らかにするということだった。鳩山氏本人については、検察としては、資金管理団体の代表だが虚偽記載への関与が確認できない(嫌疑不十分)として不起訴処分とした。
 率直に言って、この御仁は退陣されないだろうとは思ったが一縷の希望はもって聞いていた。やはり退陣はしないと予想は当たったが、暗澹たることはそんなことではなかった。いやそれも予想外とは言えないのだが。キーワードは「私腹」である。記者に問われた鳩山首相の答えから(参照)。


 --首相が現政権を続けるということが責任を果たすと言ったが、首相でなければ議員を辞めていたのか。また、今回の責任の取り方について、具体的に何か形として考えているものはあるか
 「仮定のことでありますので、今、十分な答えができないかもしれませんが、私は過去の発言というものは、確かに自分なりに発言したことは理解をしております。くどいようですが、自分のポケットマネーを増やすとか、そういう私腹をこやすために秘書がおかしたことではないと、そのように確信をしておりまして、そこの意味において、今までの私の発言と今回の私の事象との間で違いがあるのではないかと思っております。従って、仮定のことで答えることはできませんが、どのような立場にたっていたら、職をとしていたかっていう、あるいは議員を辞めたかっていうことになると、わかりませんが、辞めていない可能性もあると、そのように考えております」

 釈明も「私腹」の話で締めていた(参照)。

 「わたしは先ほど申し上げましたように過去の発言に対して、そのことを否定するつもりもありません。逃げてはいかんと思っております。事実は事実として申し上げたいと思います。ただ私がその過去の発言というものを顧みて、思っておりますのは、私腹をこやしたり、不正の利得というものを陰でいろいろ得ていながら、それを表に公表しないというような事象が中心であったと。そのように思っておりまして、先ほど申し上げましたように、今回の件に関してそのような私服を自分がこやしたという思いは一切ないと。不正な利得を得たという思いも一切ないものでございますので、私は責任の取り方として先ほど申し上げましたように、反省すべきところは当然反省いたします。」

 呆れたなと私は思った。
 私は政治家としては「私腹をこやしたり」する人がよいと思っている。日本の政治の現状では、私腹なりを使って切り抜けていかなければならない状況が多いと認識しているせいもある。談合や賄賂などは民主主義のコストだと割り切っている。もちろん、そんなことは良いわけではない。しかし、そこまでして悪にまみれても政治を行うのだという政治家の精神を私は貴ぶ。泥にまみれてしまったという自責感のない政治家のほうが格段に怖い。ぞっとする。
 このことは私にとっては普通の戦後世界の庶民感覚だと思っている。私が傾倒した思想家吉本隆明は、正確な言葉ではないが、こう言っていた。食えなくなったら盗みでもしなさい、それは悪いことではないのだ、と。盗んで食えるものがあるなら盗めばいい。人が飢えて死ぬより何倍もよい。人が飢えるような世界そのものにいかなる正義でも認めてはいけない。少なくとも、他者にそんな正義を求めるような社会を作ってはいけない。この世にあって大衆が生きること、その倫理こそが社会の根幹ではなくてならないし、そこには必然的に悪が含まれる。
 オバマ米国大統領やピーター・ドラッカーではないが、この世に悪は存在すると私も思う。しかし、人は誰でも追い込まれれば悪に陥る弱い存在でもあると思う。毀誉褒貶の激しい安田好弘弁護士はだからこそ世間から礫を投げられる大罪人といつも共にあろうとし、そこに人が悪に陥るある必然を見てきた。
 人がどのように悪に陥るのか。欲望や誘惑が原因と言えば抽象的だが、少なくともカネは大きな現実的な要因だ。食うことができなければ盗めばいいと私は思うが、それは率直に言えば、食い物に限定されたほうがよい。シベリア抑留の人々や沖縄の戦後石川収容所にあった人々がそうした食い物の盗みを話を蕩々するのを私はいつも愉快に聞いた。
 しかし、カネがなければ食えないという状況でカネを盗むということもその延長に想像できないことではない。「銭ゲバ」ではないがカネがなければ親が死ぬという状況もある。そういう状況に立つ人が悪を自身の倫理と受け入れるなら、罪は罪でもしかたがないと思うし、同情せざるを得ない。
 少なくとも、カネがあって、カネを使って汚い所作を他者に押しつけて、自身は潔白だという人間よりは、食い物やカネをくすねた人間のほうがはるかに尊いと私は思っているし、それは戦後日本の餓えをしのいだ記憶やその生の話を伝え聞く庶民には当然のことのように思っている。
 鳩山さん、昭和の庶民はそう見ていますよと、伝えたいようにも思えたが、昭和の庶民もかならずしもそこまでの庶民倫理に生きているわけでもなかった。
 日本の歴史は常に清廉なる聖者を求めてきた。庶民がそれを待望もした。本質的な「悪」というものがあるなら、それはそうした日本の庶民の幻想的な希求にこそ宿っている。5.15事件は卑劣な暗殺事件としてか後代の歴史家は見ないかもしれないが、当時の庶民は暗殺者たちを清廉故に罪を減じるように嘆願書を送ったものだった。清廉で私心なく、まして私腹もこやさない聖者や革命家、政治家に求めて、日本は悲惨のどん底に落ちた。「日本教について」(参照)でイザヤ・ベンダサンはこのようすをこう語った。

 それ故私は、日本は徹底した差別の国だと思っております。日本教の教義に基づく「人間の純度」という不思議な尺度に基づく差別なのです。ただこの差別は、「純度」の認定によって絶えず変化しますから「人間の純度による流動的なアパルトヘイトの国」と規定してよいと思います。従って、日本の裁判は、ある国のある時代の南部の裁判に似て、純度が高いと認定された者は最も卑劣な殺人を犯しても、天皇に反逆しても、実質的には無罪になると考えてよいと思います。それゆこの「純粋人」(いわば一種の白人)と認識された被告に対しては、その行為がどれほど卑劣であろうと、三十五万通もの減刑嘆願書が寄せられるわけです。この点はもちろん戦後も変わりません。変わったのは「純度表」の表現だけです。

 清廉で私心なく、まして私腹もこやさない聖者なら罪は許される。罪状が問われれば、清廉で私心なく、まして私腹もこやさないと弁明する。
 鳩山首相の場合は、指摘されなければ脱税のままであり、脱税とは国家のカネをくすねた罪人であるのに、清廉で私心なく、まして私腹もこやさないと弁明してみせる。
 しかも、清廉なのは本人の罪を他者の忖度でなすりつけたからだというのも、何かに似ている。現在では著作権が山本七平の親族に移譲され「山本七平の日本の歴史」(参照)というタイトルになっているが、当初の著作権者イザヤ・ベンダサンはこう述べていた。漱石の「こころ」の文脈で。

 この点で、この作品に乃木将軍が登場するのは偶然ではない。彼を軍神にしたのは、実は、日本人ではない。むしろ逆輸入であって、少なくとも戦争中と直後は「乃木無能」が定評であった。彼は確かに無能である、というより「即天皇去私の人」であり、この点でまさに真空的人格であった。
 従って彼は、意志、決断、それに基づく指導力などはじめから皆無なのが当然であり、ただその真空的な人格が周囲に異常なエネルギーを巻き起させただけである。そして、それが発揮する --- というより実際には「させる」だが --- 一種独自の力に、逆に超人乃至は超人的偉力をもつ指揮官と錯覚したのは、日本人よりも外国人であった。彼らには「去私の人」のもつ真空が発生させるエネルギー、それは理解できないが故に、かえって不思議な魅力になっていき、自分もそれに巻き込まれて、正当な評価を下しえなくなってしまうのである。
 実はこれが「天皇制」のもつエネルギーである。中心に、欲望の無力状態、人間関係・社会関係における無菌人間を設定し、一種の真空状態を作り出す。これを「去私の人」と言いうるなら、そういって良い。本人は真空であるから、一切の意向はない。いや、たとえあったとしても、ないと設定される。従って意志決定も決断もしない。それが徹底すればするほど、それはますます真空状態を高め、それが周囲に異常なエネルギーを起こして台風を発生させ、全日本を含み、東アジアを巻き込み、遠く欧米まで巻き込んで、全世界を台風圏内に入れてしまう。しかし「台風の目」は、静穏であり虚であり、真空であって、ここには何もない。たとえ「目」が非常な早さでどこかへ進行しても、それは周囲の渦巻が移動させているのであって、「目」が「目」の意向に従って進路を決定しているのではない。

 私腹をこらすことなどないと言い、決断も示さない真空鳩山首相を放置しておけば、その回りに生み出される真空エネルギーが高まる。すでに高まってきている。
 このような指摘をしたイザヤ・ベンダサンも山本七平一人の偽名であり右翼であり、よって純粋でないがゆえに左派からバッシングされた。イザヤ・ベンダサンや山本七平を敬愛する私も同様に純粋でないがゆえにネットでバッシングされてきた。そのような、「純粋ではないがゆえの誹謗」はまさに日本を破滅させた真空天皇制の論理そのものであるにも関わらず。
 現下の真空鳩山首相が何を引き起こすかはっきりとはわからない。存外に年明けで世界の好景気にのって日本の景気が向上すればなんら問題ないとなるかもしれない。ただ、歴史は繰り返すというのであれば、イザヤ・ベンダサンは終息のパターンをこう見ていた。

 だがこの「去私」のエネルギーは、その「目」が、真空でなくなれば、瞬時にして消える。これが終戦の謎であろう --- 「去私」の意思表明は、一挙にこのエネルギーを消失させる。

 国の実質的な指導者が泥まみれで意志を語り出せば、バッシングもされるだろうが、危機は終息に向い出すだろう。政権交代に終戦が訪れ、焼け野原からやり直す眺望も見えてくるだろう。

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2009.12.24

finalvent's Christmas Story 4

 近所のドラッグストアの売り子で少し気になる印象を与える20歳くらいの女性がいた。天気のことや街のことを話しかけると、はずしてはいないが曖昧な答えが返る。特別な大理石に優しくノミを当てていくような感じだった。天使を彫るならそうするだろう。彼女が店から消えたことに気がついたのは、夏の終わりだった。休暇を取ったのだろうと思ったが、二か月しても戻らなかった。新しい店員にきいてみたが、知らないというのだった。街路に枯葉が舞うころ、多分もう彼女を見かけることも話しかけることもないのではないかとさみしく思った。
 今年はKFFサンタクロース協会からサンタクロースに扮する依頼はなかった。会を束ねているマリーからも連絡はなかった。このままクリスマスには彼女からグリーティングカードを受け取るだけだろうと思っていたが、ふと気になって協会のサイトにログインし、会報を見る気になった。年金運用の話がある。関心はない。それから、とりわけ重要ではないがサンタクロース役を買って出たい人を求める掲示板をなんとなく眺めた。
 いや、なんとなくではない。アテネで検索していた。リストの中の20歳のティナという女性が気になった。20歳はサンタクロースを夢見る年頃ではない。彼女の説明はほとんどないのに、キーワードには「化学」「孤独」「憎しみ」が設定してあった。掲載間違いかもしれないが事務局に打診のメールを出してみた。数日後、詳細の返信メールがあり、希望のプレゼントも記されていた。
 やはりそうだった。ティナの母親はかつての私の恋人だった。もっとも彼女にしてみれば私は友人の一人に過ぎなかった。アテネ郊外のアパートで半年同棲した。夜をともにすることは少なかった。彼女はあのころ政界にのり出そうと活動していた。別れてから数か月後、彼女は結婚し、娘を産み、二年ほどで離婚した。それから政治家となり要職を歴任した。十年前に交通事故で亡くなった。アフリカにいたころ新聞記事で知って私はアテネに旅立ったことがある。
 サンタクロースを自分の希望で請け負いたかったが、個人的な理由だったので迷った。マリーにその旨メールした。彼女からは、「かまいませんよ、でもその話は協会にはしないでください」とのことだった。もしかしたら、あのリストはマリーが作らせたのではないかと思った。
 24日の夕方アテネ空港に着き、とりあえずタクシーでシンタグマ広場に向かった。そのほうがタクシーも他の客を拾いやすいだろう。案の定、三人の相乗りとなった。広場から少し歩きホテルにチェックインしたあと、下町のプラカに行って懐かしいカフェで粉っぽいコーヒーを飲んだ。彼女のアパートまでは地下鉄で行くことにした。今年はサンタクロースのコスチュームはなし。プレゼントもジャケットのポケットに収まる小さなものだ。
 目的の三階の個室のドアの前に着いたのは予定の九時を少し回っていたころだった。形だけサンタ帽を被りベルを鳴らすと、若い女性がにこやかに迎えてくれた。私がティナです、ようこそサンタクロースさん、いえ、お父さん、と彼女は言った。それは予想外のことではなかった。予想外だったのは、夏の終わりに消えた若い女性に似ていたことだった。
 「メリークリスマス!」と私は言った。他のうまい表現は思いつかなかった。
 「メリークリスマス!」と彼女も言った。「簡単な食事を用意しました。召し上がっていきますよね」
 「喜んで」私は帽子を脱いだ。
 食事をしながら、率直に、私を本当にお父さんだと思っているかきいてみた。彼女は軽く笑いながら、「いいえ」と答えた。「でも、本当のお父さんだったらよかったと思ってました」
 「どうして?」と私は反射的にきき返した。彼女は自分の父親を知っているはずだ。彼女の母親の夫がそうではないのか。
 「形のあるものが憎めたらよかったから」と彼女は笑って言ったが、そのとき、目は一瞬凍った。政治家の目で、彼女の母親と同じ目だった。私の愛が届かない目だった。
 「憎しみがぶつけられるから?」
 「見えない憎しみを相手に生きているのはつらいから」
 「憎しみにはそれ自体の本当の形がある」と私は答えた。
 それには彼女はきき返さえなかった。食器を片付け、コーヒーと小さなお菓子を用意して、「プレゼント、いただけるんですよね、サンタクロースのお父さん」と言った。
 「もちろん」と私はポケットから青いプラスチックの箱を取り出して渡した。密封された箱を開くと、黒い小さな長方形の石のような物体が見える。彼女は少し驚いていた。
 「リチウム」と私は答えた。「あなたのご希望」
 彼女は「これがですか?」と幼い子どものように答えた。「金属か白い粉のようなものと思ってました」
 「これもリチウムの化合物なんだ。こういうのが得意な友だちに作ってもらった。水を張った大きめなグラスはあるかな?」
 彼女がキッチンからグラスをもって来るとき、電灯を小さくするように頼んだ。グラスをテーブルに置き、その水にリチウムの化合物を入れると、水面でじゅーっと反応を始める。彼女は驚いて身を少し引いた。
 「爆発はしない」 私は一緒に持ってきたオイルライターで反応している小片に火をつけると、ネオンのように鮮明な赤い炎が小さく燃え上がった。
 彼女は黙ってそれを見ていた。一分ほどして炎は消え、電灯を付けた。
 「面白かったかい」
 「ええ。あんなに赤い色を出すんですね、リチウムって」と彼女は感心しているようだった。そして詩を読むように「暗闇のなかで私は自分知る。私が消えるまで自由にはなれない」とつぶやいた。
 「しかしそこに美しい炎がある。若い時には気がつかないかもしれないが」
 「年を取ればわかりますか?」 本当の娘から問われているようだった。
 「結果的に年を取ることもある」私は自分を恥じながら少し笑った。「憎しみも美しい炎の色を見せる」
 「憎しみが、ですか?」 ティナは困惑した顔で私を見つめた。
 「苦しみも悲しみも、むなしさも」 美しい炎の色を見せる。
 私はそう思うようになった。あなた自身がその美しい炎だと言葉にして伝えることはできなかった。
 訪問は一時間と決まっている。私は帰ることにした。名残惜しい感じを引きずるのはよくないという同意のようなものが別れを単純にした。
 アテネ郊外の人の少ない駅のホームで私は若い日の孤独な夜の旅立ちを思い出した。ウーゾが飲みたいと思った。アブサンに似たアニスの臭いのするリキュール。ティナの母親は、ギリシャで一番まずいお酒よ、乾杯、と言った。夜空に乾杯したい。メリークリスマス!

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2009.12.23

鳩山首相のマニフェスト違反より深刻な問題

 明白なマニフェスト(公約)違反で特徴付けられる鳩山政権の税制改正大綱が決まった。公約違反の予想はしていたのでさほどの驚きはないが、それに関連した深刻な問題に国民が直面することになった。しかし、まず表面的な問題からみていこう。
 鳩山政権の税制改正大綱で、形の上ではりガソリン税の暫定税率を廃止としたが、ただ看板を掛け替えるだけで税の内実は維持された。民主党のマニフェスト(参照PDF)で示されていたことは、その減税効果を国民生活に及ぼすことであった。しかし、鳩山政権は暫定税の看板を「環境税」に書き換えて税収を国庫に納める決定をした。しかも「暫定」を「恒久」にした分、自民党政権よりもひどいことをやすやすとやってのけた。

photo
民主党公約の破綻
from 民主党マニフェスト(公約)PDF

 自身の偽装献金すら認めているほど素直な鳩山首相なので(そして当然秘書の罪は議員の罪とする信条の鳩山氏は年初には素直に辞任されるのだろうが)、これがマニフェスト違反ではないとまで強弁しないところが国民に愛される所以であろう。「マニフェストに沿えなかったということに関しては、率直におわびを申し上げなければならないと思います」「暫定税率を廃止して、また同じ額を平行移動して、『許してください』と、財源が足りないからしょうがありませんみたいな議論は、やはり国民の皆さんには認められないだろう」(参照)と素直に公約違反を認めている。伝説のワシントンの桜の木である。昭和天皇も感動した話だ。
 鳩山首相はかねてより、「当然のことながら公約が実現できなかったときは、政治家としての責任を取ります。言うまでもありません」(参照)との政治信念を持っているので、どのように「政治家としての責任を取る」のか首相辞任後のあり方も見守っていきたい。
 民主党はかねてよりガソリン税の暫定税率廃止を掲げ自民党政権下で批判を繰り返してきたものだった。そのことへの反省は微塵もなく踏みにじられた。2008年1月の衆議院本会議で鳩山氏はこう述べていた。


 道路特定財源は、道路整備が最優先だった五十四年前の昭和二十九年に創設され、暫定税率は三十四年前の第二次石油ショックへの対応として導入され、そのまま既得権化しています。自民、公明の政府には、この硬直した構造を変えるつもりは全くありません。原油高に苦しむ国民の皆さんの声は、自公政権には届かないのであります。
 民主党は、道路特定財源を現地の地方のニーズに合わせて社会保障や教育などにも使えるように一般財源化をして、期限を迎えた暫定税率は廃止します。民主党は、この国会を生活第一・ガソリン国会と位置づけています。

 そして「ガソリン値下げ隊」(参照)なる興行を街中に繰り出していた。菅直人副総理・経済財政相はこう述べていたものだった。

 また菅代行はガソリン税についても触れ、「30~40年ほど昔はどろんこ道が多く、ガソリン税で道を作るということは良かったかもしれない。しかし役人が天下りをつくるために、30~40年前に作った法律を未だに続けている。まさに日本の政治は国会で決めているのではなく、長い間官僚が決めたことを与党が丸呑みしている」と官僚の権力が肥大化していることと与党の体質に対して徹底的に批判した。
 同時に菅代行は、「税金は役所で使い道を決めるのではなく、国民のために国会で決めればよい」と当たり前のことを当たり前にすると述べると同時に、「暫定と言いながら30~40年も続く税率を廃止し、一般財源化することをぜひ民主党の手でやらせていただきたい」と決意を表し、マイクを収めた。

 首相後釜を狙って沈黙しすぎている菅直人副総理も、今回の公約違反を認めないわけではなかった。「約束を守れなかったことは大変、申し訳ないと思っている」(参照)とイラ菅の面目もなく陳謝した。選挙運動時点で疑問が上がっていた「行政の無駄削減でマニフェストの財源確保は可能」という主張には、ようやく「ややその困難さに対する準備が十分でなかった」と反省された。なのでもっと準備してからもう一度政権交代にチャレンジしていただきたいとも思うが、戻すべき自民党は実質解体してしまった。昭和の言葉に「路頭迷う」というのがあるが、国民はそんな感じをかみしめている。
 他の主立った鳩山政権議員にはバックレも目立つ(参照)。仙谷由人行政刷新担当相は「首相がリーダーシップを発揮して決断したことを多としたい」と述べた。どこにリーダーシップがあるのかは、後で批判したい。
 北沢俊美防衛相は「現実的な選択で、ぜひ国民に理解いただきたい」と述べたが、そうした現実の泥かぶりをやってきたのが自民党政権だのだから、理解はどこに行き着くべきなのか。
 社民党党首福島瑞穂消費者・少子化担当相は「やむを得ない。今の状況では妥当ではないか」との認識を示したが、状況でやすやすと信念を曲げていくありかたでは、いずれ同じ認識を普天間飛行場移設問題に示されるのではないかと懸念される。
 長妻昭厚生労働相は「国民の皆さま、期待をされていた方には申し訳ない」とさりげなく陳謝した。さすがに長妻氏は後期高齢者医療制度などを含めてすでにマニフェスト違反が多く手慣れた発言だった。
 中井洽国家公安委員長は「地方の圧倒的な支援があっただけに大変残念。苦渋の判断だろう」と述べ、国民が眼中にないことを公言した。
 しかし、こうした事態はそれほど予想外のことでもなく、国民としても、「迷走民主党ならなんでもありだからなぁ」という印象で今年は終わるだろう。そういえば例年行われる越冬闘争も昨年は場所を日比谷に代えて政局の政治運動と化したが、今年は例年通りに戻したようだ。民主党政権ならなんでもありだよなという麻痺した感覚で一年が終わることで、今年を象徴する漢字に麻痺・麻生・麻婆豆腐の「麻」が選ばれたのもさもありなん。
 今回の民主党の冗談のような公約違反だが、この過程で明らかになった深刻な問題が三つある。いやこれも想定内なのだと言えないこともないが、麻痺していく政治関心のなかで指摘しておいたほうがいいだろう。

1 鳩山首相の君子豹変の資質
 東洋においては君子豹変は美徳である。だからそれでいいのではないかという論者もあるだろう。しかし、なんのポリシーも感じられない豹変を肯定的に評価するのは、普通は難しいのではないか。
 今回のガソリン税の暫定税率廃止問題だが、数年前からの民主党の主張やマニフェストをさて置くとしても、12月3日の時点では、まったく別の主張を鳩山首相はしていた(参照)。


私が申し上げたのは、暫定税率の議論は前から行っていて、暫定税率は廃止すると民主党は選挙でもうたってきた。したがって、暫定税率を廃止して同じ額を平行移動して、環境目的だから許してくれみたいな議論をしても、一方で、本来ならばしなきゃならない増税の議論を行わないで国民の皆さんに認めてくださいと言っても、それは許されない話でしょうということを申し上げています。


すなわち、約束した暫定税率はまずは廃止をするということを行わなきゃいけない。時間的にズレるかズレないか。それは増税の議論をしっかりと国民の皆さんに行って、「分かったよ」。国民の皆さんが認めていただければ、あるいは、われわれの結論を出すことができれば、それはそれでいいと思います


したがって、やはり新しい税を議論するわけですから、政府税調で行っていただいているわけですから、あまり中に入るつもりはありません。結果として増税になったり、何も変わらなかったりと言うような話は、私はなかなか国民の皆さんが納得されないんじゃないかと思っています

 これが3週間前の鳩山首相の発言であったということに、議論以前に溜息が出てくる。
 重要なことは、鳩山首相自身が「環境税」といった正義の御旗ではなく、ただの「新しい税」だということを認識していた点と、それには国民の合意のプロセスが必要だとも認識していた点だ。
 そこが3週間後、なんの説明もなく、すっぽり抜けた。そして3週間後にはこう述べている鳩山首相がいた(参照)。

暫定税率に関しては、熟慮に熟慮を重ねました。国民の皆さんのさまざまなご意見にも耳を澄まして傾けさせていただきました。私が最終的に得た結論は、地球環境、景気の二つを考えたときに、まず、これは暫定税率の仕組みそのものはいったんは廃止することになりますけれども、問題としては、その税率は維持をするということにいたしました。


今申し上げましたように、私も、国連、9月に参りましたけれども、この間もコペンハーゲン、行って参りました。この地球環境問題、25%削減を温暖化ガスでするという思いのもとで、いろいろと環境の問題を世界で考えていく中で、今ガソリンの価格などは割と低位で安定をしているという状況であります。このような中で、国民の皆さんの思いもだいぶ地球環境に対してやさしいお考えを持ってこられたということもあって、ライフスタイルの変化なども考えて、やはりこういう時期に暫定税率、確かに私ども、党としてはマニフェストでうたったことではありますけれども、そのマニフェストに沿えなかったということに関しては、率直におわびを申し上げなければならないと思いますけれども、現実問題を考えていく中で、まずは地球環境を守ろうではないかという、国民の皆さんのさまざまな意思も大事にさせていただいて、暫定税率を維持したいと決めたところであります。

 デンマークのコペンハーゲンで開かれた「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」の余波はあるかもしれないが、会議内容も事前に想定されていたことであり、ここに来ていきなり「環境税」が出てくる理由にはならない。そのことはこの税の性質が現状なんら議論されていないことからも明白だ。
 むしろ景気対策ということなのだろうが、であれば、かねて民主党が主張してきたとおり暫定税率廃止のほうがよい。
 ここは今朝の朝日新聞社説「税制大綱 財源なしに公約は通らぬ」(参照)の主張のように、他のバラマキ財源不足のしわ寄せがいったというにすぎない。
 くどいが、3週間でころっとポリシーもなく政策変更し、恒久的な新税を設立し、そして説明が嘘くさいという、この鳩山首相の資質はやはり深刻な問題だろう。

2 手順からするとマニフェスト全体の崩壊
 今回のマニフェスト違反は、次年度の全体公約の7.1兆円のうちの2.5兆円と比率は大きいが部分に過ぎないとも言える。しかし、この一部公約の破綻で明らかになったのは、個別の問題ではなく、民主党マニフェスト実施プロセスの崩壊だった。
 民主党マニフェスト(参照PDF)では、「政権政策の実行手順」として、次の段階が規定されていた。


  1. マニフェストで国民に約束した重要政策を、政治の意志で実行する。
  2. 「税金のムダづかい」を再生産している今の仕組みを改め、新たな財源を生み出す。
  3. その他の政策は、優先順位をつけて順次実施する。

 今回の民主党マニフェスト崩壊の最大の理由は、「2 『税金のムダづかい』を再生産している今の仕組みを改め、新たな財源を生み出す」に起因するものだが、むしろ問題なのは、1に関連してマニフェストに明示されていない新税の増設を、プロセスも説明もない「政治の意志で実行」した点にある。そして言うまでもないが、この「政治の意志」とは小沢一郎民主党幹事長であったと言ってよいだろう。民主党渡部恒三元衆院副議長がこの状況を「(鳩山由紀夫首相より)圧倒的に小沢一郎幹事長の方が力がある。(同党議員のうち)130人は兵隊みたいに何でもついていく。大政翼賛会だ」(参照)という認識を示しているが、説得力がある。
 別の言い方をすれば、現政権構成者が今回のマニフェスト違反にろくな抗弁もできないことが象徴するように、国民から乖離したこの「政治の意志」に対応できない構造がある。
 問題は、マニフェストの一部が破綻したのではなく、民主党政権内の権力構造にある。

3 財務省とのアコードの不在
 3点目はやや背理法的な指摘になるが、素朴な疑問でもあるので問うてみたい。なぜ、埋蔵金で充填しなかったのか?
 これには単純に「埋蔵金なんてない」という回答もあるだろう。しかし、現在の民主党政権の予算は、すでに10兆円の埋蔵金を前提にしている。面白連立政党である国民新党は次のように15兆円すら提示している(参照)。


内訳は<1>財政投融資特会積立金3・4兆円<2>外国為替特会剰余金1・8兆円<3>労働保険特会積立金3兆円<4>国債整理基金特会剰余金7兆円。

 社民党はもっと面白い(参照)。

活用する埋蔵金の内訳は、(1)財政投融資特会4兆円(2)外国為替資金特会6兆円(3)国債整理基金への繰り入れの一部停止で4兆円(4)日本銀行納付金などその他の税外収入1兆円――の4項目となる。

 面白いお話の5兆円分はさておくとしても、民主党としても10兆円の埋蔵金が前提になっているなか、それをマニフェストを台無しにしてまで切り崩せないというのは不可解だ。おそらく、12月3日時点での鳩山首相の念頭にあったのは、埋蔵金から工面だったのではないか。
 それが当面不可能になったのは 財務省とのアコードの不在を意味しているだろう。あるいは、財務省のグリップが小沢氏を介して影響したのではないか。だとすれば、このどたばたのすべてのシナリオは財務省が握っていたということになる。

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2009.12.21

本当は怖い「コペンハーゲン協定」の留意

 デンマークのコペンハーゲンで開かれた「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議」通称、COP15は失敗に終わった。いや何をもって成功とし、何をもって失敗とするかが明確でなければ、およそ失敗も成功もないが、さて、何が成功と想定されていたか。
 それは、2012年で期限が切れることになっていた京都議定書以降の新議定書の合意だったはずだ。その点から見れば、明白な失敗だった。今回の結果は、"The conference decides to take note of the Copenhagen Accord of December 18, 2009(本会議は、2009年12月18日のコペンハーゲン協定に留意すると決定した)"(参照)というものだった。留意とは「コペンハーゲン協定というのがあったよね」ということ。それだけの結果だったかに見える。何の合意も決定されなかったし、なにも合意は承認されなかった。承認されたのは、「留意(take note)」ということだった。しかし…。
 「留意(take note)」とは何か? 国連が出している会議のガイドライン「Intergovernmental Negotiations and Decision Making at the United Nations:A Guide(国連における国際間交渉と意志決定:ガイド」(参照)が参考になる。


Verbs determine different levels of commitment to an issue or action, and when delegates disagree with a proposal but sense they won’t be able to eliminate it, they often counter by watering down the verbs. Such verbs include: endorse, decide, welcome, call upon, invite, encourage, recognize, acknowledge, reaffirm, express concern, take note with appreciation, and take note.

議題や活動への関与レベルの差異は動詞表現で決まる。代表者たちが提案に反対してもそれを排除できないと判断するときには、しばしば動詞表現で緩和する。このような用途の動詞表現には次のものがある。endorse, decide, welcome, call upon, invite, encourage, recognize, acknowledge, reaffirm, express concern, take note with appreciation, and take note.


 国連の議論で合意が形成できないものの、なんとか決裂を避けるために、妥協的な表現が階梯的に模索されるのだが、その段階の最低が、"take note(留意する)"である。「もうダメダメな話だけでそこは提案者の面子もあるかもしれないな、しゃーないつぶせない」という最低線が"take note(留意する)"であり、それがCOP15の結果だった。
 「ダメすぎだろ、普通に考えて」なので、ニューヨークタイムズ(NYT)もワシントン・ポスト(WP)もそこに着目して報道していた。

NYT: U.N. Climate Talks ‘Take Note’ of Accord Backed by U.S.参照
The chairman of the climate treaty talks declared that the parties would “take note” of the document, named the Copenhagen Accord, leaving open the question of whether this effort to curb greenhouse gases from the world’s major emitters would gain the full support of the 193 countries bound by the original, and largely failed, 1992 Framework Convention on Climate Change.

気候条約会議議長は、部会としてコペンハーゲン協定と呼ばれる文書に留意しうると宣言したものの、世界の主要国による温室効果ガス削減努力が、193か国の十分な支援が得られるか疑問を残した。この193か国は大半は失敗に帰したが原案の1992年気候変動会議の枠組にある。



WP: Delegates 'take note' of brokered agreement参照
Negotiators here chose to "take note" of a U.S.-brokered agreement on climate change Saturday morning, after being unable to get a consensus on formally adopting the accord as an official decision of the U.N. Framework Convention on Climate Change.

土曜日の朝になって、現地交渉は、米国調停による気候変動協定に留意する選択をした。この選択は、国連の気候変動会議の枠組みによる公式決定としては正式に本協定の採択が合意できないという状況後のことだった。


 ぐだぐだの妥協の産物をなんとか米国の面子で会議をしたという形だけに留めたにすぎなかった。
 ところで、やや余談めくが、この決定に対する日本の大手紙の反応が興味深かった。私が観測した範囲にすぎないが、その状況をジャーナリズム観測の意味からも記しておこう。
 朝日新聞は当初次の報道を流し、後修正したが、「コペンハーゲン協定」ではなく「コペンハーゲン合意」は訂正しなかった。

当初:COP15 政治合意文書を承認、削減義務づけ求めず
国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は19日午前(日本時間19日午後)、主要国を中心にまとめた政治合意文書「コペンハーゲン合意」を承認した。これにより、地球温暖化被害を受ける途上国の支援策が動き出すことになる。


変更:COP15 合意文書を承認、採択見送り決裂回避
国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は19日、2013年以降の地球温暖化対策の国際枠組みの骨格を示した政治合意文書「コペンハーゲン合意」を採択できず、承認にとどめて閉幕した。焦点だった各国の温室効果ガス排出の削減義務づけは、来年末に向けて改めて合意をめざすことになった。

 読売新聞は三転した。また朝日新聞と同じく「コペンハーゲン合意」とした。

1稿:COP15、「コペンハーゲン合意」を承認
国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、「コペンハーゲン合意」を承認した。


2稿:COP15、「コペンハーゲン合意」を承認
国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は19日午前、全体会合を開き、主要二十数か国の非公式首脳会合で決めた「コペンハーゲン合意」について、議長が「合意に留意する」と宣言、拍手で承認した。


3稿:COP15、「コペンハーゲン合意」を承認
国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は19日午前、全体会合を開き、主要二十数か国の非公式首脳会合で決めた「コペンハーゲン合意」について、議長が「合意に留意する」と提案し、承認された。

 毎日新聞も変更があった。

当初:COP15:政治合意を承認…途上国に自主目標
国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は19日、政治合意「コペンハーゲン協定」を承認した。協定は18日に日米中インド、欧州諸国、ブラジルなどが提案、全体会合にはかられた。しかし、協議に参加できなかった途上国から「手続きが民主的でない」「温室効果ガス削減策が不十分」との不満が噴出し会議が紛糾。断続的な協議の末に、採択より拘束力の弱い承認の形をとった。


変更:COP15:政治合意は「留意する」として承認…閉幕
コペンハーゲンで開かれた国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は19日、京都議定書に定めのない13年以降の温暖化対策の国際的枠組みの構築を目指す政治合意「コペンハーゲン協定」に「留意する」との決定を下し承認、閉幕した。先進国の温室効果ガス削減目標や議事手続きに一部途上国が反発し、正式採択は見送られた。

 産経、日経、NHKは概ね初報から正確だったようだ。

産経:コペンハーゲン協定「留意」の決議を採択
2013年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組み(ポスト京都議定書)を話し合う国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は19日、日米や中国、インドなど主要26カ国がまとめた「コペンハーゲン協定」について「留意する」との決議を採択した。世界の長期的な温室効果ガスの削減数値目標を見送るなど拘束力の薄い内容にとどまったものの、途上国の反発は強く、全体会合での採択を断念した。


日経:政治合意に「留意」 COP15全体会合、正式採択は見送り
第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は19日、2013年以降の国際的な地球温暖化対策(ポスト京都議定書)の方向性を示す「コペンハーゲン合意」をまとめた。先進国は20年までの温暖化ガス排出削減の中期目標を来年1月末までに約束し、新興・途上国も経済発展の段階に応じて削減計画を作成する。ただ一部の途上国の反対で正式採択を見送り、「合意に留意する」との文書を採択するにとどめた。


NHK:COP15 合意案留意を決定
温暖化対策の新たな枠組みを話し合う国連の会議、COP15は、およそ190の国と地域のすべてが参加する全体会合で、「コペンハーゲン合意」と題する合意案について「留意すること」を決定しました。これについて、日本政府筋は政治合意がなされたとしています。

 報道の質としては、合意ではない「コペンハーゲン合意」の訳語が気になるものの、日本政府の立場としてのみ「政治合意がなされた」を特記したNHKが優れているだろう。朝日および読売については、日本政府筋の評価と事実の報道の混乱の余波が続いた。翌日19日は大手紙社説はすべてこの問題を扱ったが、報道視点は混乱したままになっていたものが目立った。

朝日新聞社説:「COP15閉幕―来年決着へ再起動急げ」参照
 コペンハーゲンで開かれた国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)は、決裂寸前の土壇場で主要国が何とか政治合意をまとめた。全締約国がこれに「留意」することで一致したが、温室効果ガスの排出削減をはじめ重大な懸案を来年に持ち越した。

 朝日新聞社説の「政治合意をまとめた」は認識が間違っていると言ってよいだろう。

読売新聞社説:COP15 懸案先送りで決裂を回避した参照
 決裂を回避できたことが、国連気候変動枠組み条約の第15回締約国会議(COP15)が残した唯一の成果といえよう。
 COP15は主要国がまとめた政治合意文書である「コペンハーゲン合意」を承認した。

 読売新聞社説は朝日新聞社説よりも誤認の度合いが深い。次の部分も同様である。

 合意には、「先進国は20年の削減目標を来年1月31日までに合意の別表に記載する」という内容が盛り込まれた。この数値が次期枠組みで各国が負う削減義務となる可能性が高い。
 日本が不利な削減義務を負った京都議定書を教訓に、次期枠組みは、公平なものにしなくてはならない。米国などより大幅に厳しい「90年比25%減」を記載するのか。日本政府が難しい判断を迫られるのは、これからである。

 読売新聞社説執筆者は、もしかすると京都議定書以降の次期枠組みまでの不在が何を意味するのか認識がないのかもしれない。後で触れるが、どうやら今回のCOP15の失敗で、京都議定書はそのまま生き残った可能性がある。
 毎日新聞社説は、朝日・読売よりもきちんと今回の失敗を明確に打ち出している。

毎日新聞社説:国連気候変動会議 危うい「義務なき協定」参照
地球の気候を安定化させ、悪影響を防ぐために、世界がどこまで歩み寄れるか。100カ国を超える各国首脳が集い温暖化防止に向け合意を探った会議は、「コペンハーゲン協定」を採択できずに終わった。

 産経新聞社説は奇妙なことに自社報道とずれた内容になっていた。新聞社としての内部連携がうまくいっていないのだろうか。

産経新聞:COP政治合意 温暖化の放置は不可解だ参照
 世界の閣僚と約100カ国の首脳がコペンハーゲンに集まった国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、迷走の末に全体会合で「コペンハーゲン合意」をまとめた。

 日経新聞社説は、他大手紙と事なり京都議定書の問題を明確に描いていて秀逸だった。

日経新聞社説:弱い約束を確かな排出削減合意に育てよ参照
京都議定書の枠組みも残る。京都議定書とその後の新議定書を融合させるのか、2本立てになるのか、決着は来年の会議に持ち越された。新議定書の採択を目指して日米欧にさらに粘り強い交渉を求めたい。

 今回のCOP15で日本にとって重要なことは、鳩山政権が主張する「政治合意がなされた」ではなく、新議定書が採択されなかったことで、京都議定書はどういう扱いになるかということだ。日経新聞社説では、(1)京都議定書がそのまま残る、(2)京都議定書とその後の新議定書を融合させる、の関係を問うているが、いずれにせよ、京都議定書の基本的な枠組みが残ってしまったと見てよい。
 この問題を整理するために、鳩山政権が主張する「政治合意がなされた」という「コペンハーゲン協定」の意味を京都議定書との関係でまとめておくほうがよいだろ。ロイター「FACTBOX - What was agreed and left unfinished in U.N. climate deal」(参照)がわかりやすい。翻訳された報道(参照)もあるが試訳を添えておく。

COPENHAGEN ACCORD
(コペンハーゲン協定)

1. A NEW TREATY?
(新規条約なのか?)

* No decision on whether to agree a legally binding successor to the Kyoto Protocol.
(京都議定書を継承する、法的に拘束力のある合意についてはなんら決定事項は存在していない。)

* No agreement on whether to sign one new treaty replacing Kyoto, or two treaties.
(京都議定書に代わる新規協定を締結するか、京都議定書に加えて新たな協定を結ぶかについては、なんら合意事項は存在していない。)

* Kyoto limits the emissions of nearly 40 richer countries from 2008-2012, but the United States never ratified the Protocol and it does not bind the emissions of developing nations.
(京都議定書は先進約40か国について2008年から2012年の排出上限が規定されているが、米国の批准は存在しない上、発展途上国の排出量についての拘束力はない。)

* Rich nations prefer one new treaty including all countries; developing countries want to extend and sharpen rich nation commitments under Kyoto, and add a separate deal binding the United States and supporting action by poorer countries.
(先進諸国はすべての国を含む新規協定を支持するが、発展途上国は京都議定書に従った先進国の活動目標の延長と強化を求めることに加え、米国の拘束と、貧困国支援活動についての特別規定を求めている。)

* No agreement on whether a new pact would run from 2013-2017 or 2013-2020, or any another time frame.
(新規協定の期間を2013年から2017年、または2013年から2020年、あるいはそれ以外の期間とするかについてもなんら合意は存在しない。


 意欲的な「鳩山イニシアティブ」はCOP15では、潘基文議長から日本単独でやってみてはどうかという推奨があったものの、全体としてはほぼ無視された状態だったと言ってよいだろう。日本にとっての問題は京都議定書の扱いに絞られる。
 京都議定書では、温室効果ガスの削減は日本とEUにのみ課せられ、日本は2008年から2012年の間で、8パーセント削減が義務づけられている。実は、日本とEUだけという限定条件を覆すブラフとして「鳩山イニシアティブ」がEUからも評価されてきたし、それなりにブラフでなかったわけでもなかった。が、ここに至り、はったりは終わり、日本だけ屋根に登ったものの梯子は消えた状態になった(EUの削減は日本ほど困難ではなさそう)。
 日本の京都議定書の進捗だが、2007年時点で9パーセント増加している。この時点で現状から15パーセント削減の必要性が生じた。来年から2年間という短期間で鳩山政権はいよいよ本気で温室効果ガス削減に取り組まないとさらなる罰則が科せられることにる。幸い、2008年度は1990年度比で1.9%増と微増に抑えられ、加えて、森林吸収分と政府が海外の排出枠を購入が進み、初年度の目標達成に近づいた。ただし、昨年度は国際金融ショックによる産業低迷の影響にもよる産業部門の10.4%減の影響も大かった(参照)。

追記
 コメント欄で昨年度の進捗のご指摘いただいた。この部分は確かに反映させておくべき事項なので、エントリにその情報を加え、否定的な見通しを改めた。

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