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2009.01.30

[書評]ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)

 邦訳書のタイトル「ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)」(参照)からもテーマはわかりやすいだろう。2007年、米国や欧州の膨大な数の養蜂のミツバチが消失した。

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ハチはなぜ大量死したのか
 養蜂の箱のなかに死骸があふれ出したわけではない。ミツバチたちはある日箱を飛び立ち、戻らなくなった。それが比較的短期間に起きた。あたかもミツバチが蒸発でもしたかのように忽然と消えたに等しい印象を与える。
 が、死骸がまったく見当たらないというのでもない。箱のなかで死ぬ個体もある。この現象は蜂群崩壊症候群(CCD:Colony Collapse Disorder)と呼ばれている。
 CCDは実に奇っ怪な現象で、シャマラン監督「ハプニング」(参照)の冒頭でもエピソードとして使われている。

ミツバチが全米各地で姿を消している。
こんなことが起きる原因は?
誰も?
ハチの異変に興味ない?
見えない力が働いている。
何らかの攻撃のようだ

 もちろん、それはフィクションに過ぎない。そしてこの露悪的なフィクションは人間を比喩にしてこう続くのだが、案外その比喩はCCDの本質に関係するかもしれないのでもう少し引用しよう。

第一段階は言葉の喪失
第二段階では---
方向感覚の喪失
第三段階は---


 ミツバチたちもその言葉を失い、方向感覚を失い、そして死んだ。
 なぜ、多数のミツバチにそのようなことが起こったのか。その原因はなにか。
 科学に関心が薄い人でもこの奇っ怪な現象には関心を持つだろうし、その期待を本書に寄せるだろう。本書もそのことは前提としている。

 CCDは典型的な探偵小説そのもので、興味をそそる要素をすべて備えている。つまり、不可解な死、消えた死体、世界の破滅を招きかねない結果。その上、容疑者は山ほどいる。犯人の可能性を指し示す指はあらゆる方向に向けられ、なかには驚くようなことまでほじくりだされた。

 ではなにがその原因なのか。
 率直にいうと、私は本書を読んで、その答えを本書から得ることはかなり難しいと思った。そのこと自体がスポイラーになってしまってはいけないが、この難しさがこの問題の本質の一端に関係しているのだろう。間違いはなにかというリスト作って正解を見て頷くだけの知性ではわかりえないものがあるし、そこにこそ本書の面白さもある。
 どちらかというと難しい読書なので誤読もされるだろう。たまたま今週の週刊文春を見ると「業界騒然 ミツバチが大量死している」という記事があり、少し考えさせられた。

 ではこの原因は何か。ミツバチの体液を吸うダニ、携帯電話の電磁波から地球温暖化、ウイルスや伝染病など「容疑者」は様々に挙げられているがどれも決め手にかけるなか、同書が指摘するのは人間に無害で大気や地下水を汚染することもない「夢の農薬」、ネオニコチノイド系農薬。成分が作物内に染み込むため、これを食べた昆虫の神経中枢に作用。ミツバチの場合は作物の花粉を食べたことで麻痺し、CCDを引き起こす可能性が高いという。

 ネオニコチノイド系農薬がもっとも疑わしいのか。そう同書は指摘しているのか。記事は同書の出版元の文藝春秋なので週刊文春としても記事というよりは広告に近いのだろうが、この記事は必ずしも正確ではない。同書ではこう指摘されている。

フランスでは今でもイミダクプロリドとフィプロニルの使用を禁止している唯一の国だが、フランスのミツバチが、イミダクプロリドが現在もっとも広範囲に使用されているヨーロッパの他の国々より良い状態にあるとはとてもいえない。

 この他にもネオニコチノイド系農薬を原因とする説への反証例は同書で指摘されている。
 週刊文春の記事でもこれに続いて日本の識者の説明の後、原因は不明としている。

 結局のところ詳しい原因は不明。だが、行政がこのまま手をこまねいていれば、空っぽの食卓が待っている。

 そう結んでいるが、おそらく記者は事態をよく理解していないだろう。行政の問題とは言い難いことは同書を読むとわかるはずだ。むしろこの問題は、現代農業のあり方そのものが問われているので、行政的にそれを規制して解決するほど事態は解明されていない。また、食卓が空っぽになるのではなく、養蜂に依存する農業の壊滅をどう捉えるかという問題でもある。
 週刊文春の記事をあげつらうわけではないが、CCDは、我々が現在知りうる問題と解決のひな型(テンプレート)からは答えは見つかりそうにもない。
 むしろそうした状況のなかで、携帯電話の電磁波、地球温暖化、未知のウイルス、遺伝子組み換えといった一種の疑似問題につられてしまう現代の知性の頽廃の戯画にもなっている。その意味で、本書は、危機に面してテンプレート的な思考に陥ることの結果的な批判にもなっている。
 秋葉原で通り魔事件が起きると、それを現代日本の社会問題という意味付けを求めずにはいられないといった短絡的な思考のテンプレートにも似ている。気の利いた洒落のようにいうなら、未知の問題に精神の異常を来しているのは、我々のほうかもしれない。
 CCDについては、レイチェル・カーソンの「沈黙の春(Silent Spring)」(参照)を洒落たタイトルの本書オリジナル「Fruitless Fall: The Collapse of the Honey Bee and the Coming Agricultural Crisis(Rowan Jacobsen)」(参照)が出版される前だが、クローズアップ現代が取り上げたことがある。「アメリカ発ミツバチ“大量失踪”の謎」(参照)より。

いま、アメリカ全土で、養蜂家の所有するミツバチが大量に姿を消し、農業大国に衝撃が広がっている。アメリカでは農作物の3分の1をミツバチの受粉に頼っているだけに、食糧高騰に拍車をかけかねないと危機感が高まっている。科学者たちはこの異変を「蜂群崩壊症候群(CCD)」と命名。米農務省は緊急に研究チームを立ち上げて原因究明に乗り出した。明らかになりつつあるのは、グローバル化に伴う食糧増産のなかで、人間が自然に逆らった農業を営んでいるという実態だった。ミツバチの"大量失踪"は何を警告しているのか。研究チームの調査と各地で始まった対策を通して検証する。
(NO.2597)

スタジオゲスト : 中村 純さん (玉川大学ミツバチ科学研究センター教授)


 この番組は私も見たのだが私の印象では要領を得なかった。しいて言えば、大規模農業の受粉のために養蜂が利用され、ミツバチが単一の花粉しか食料として得られないために免疫が低下し、農薬やウイルス、カビなどに冒されたということだったが、ゲストの中村さんは、もっと単純にミツバチを酷使しているからでしょうし、管理の問題もあるでしょうといった感じで説明していた。
 先の週刊文春記事ではCCDが日本にも迫っているみたいな書き出しがあったが、同番組でも同書の補足でも日本の養蜂でのそうした状況は顕著にはなっていないようだ。また、北米でも一時期のCCDは最悪を脱したようでもある。
 結局、ミツバチの酷使が問題なのか? 
 本書では、CCDの謎に迫るにあたり、養蜂というものの歴史にも比較的詳しく触れているのだが、そもそも養蜂自体が、北米や欧州では基本的にセイヨウミツバチ、つまりアピス・メリフェラ(Apis mellifera)に限定されており、そのありかたもそれほど自然的な営みとは言い難いようだ。つまり、CCDが自然の異常という以前に、養蜂自体が自然に即しているとも言いいがたい。
 そうした点から、CCDについて同書で引用されているバリー・ロペスの次の言葉は奇妙な説得力をもつ。

 たいしたことじゃないだろう。生態学の見地から見れば、マメコバチのような地元の受粉昆虫が戻ってくる可能性を切り拓いてくれる現象ではないか。

 つまり、もともと北米の地に合わないからアピス・メリフェラが自滅しているのだということだろう。そしてその合わなさというのは、現代農業そのもの不自然さでもあり、さらにいえば、農業そのものが自然に合ってないのではないかということにもなるだろう。
 同書ではややこしい謎解きが三分の二ほど続き、残りの三分の一で、新しい養蜂の可能性や、農業と生態系はどうあるべきかについても模索が語られる。そのなかで、当たり前といえば当たり前だが、私がはっとした指摘の一つは、生態系の弱点として昆虫の受粉を見ていることだった。食料が結果的に植物に依存するかぎり、そのウィークポイントは確かに昆虫の受粉にあるだろう(すべての植物がそのように受粉するわけではないとしても)。
 著者は明確には述べていないが、CCDの現象をミツバチ個体に帰せられる問題ではなく、その集団的な知のレベルの発狂というか、集団的知のシステム的な崩壊ではないかと考察しているように思えたことも考えさせられた。
 集合的な知が、なんらかの理由でシステム的に崩壊していくということは、Web2.0と言われるインターネットの知のあり方にも関係しているのではないかと私は少し思ったからだ。我々はインターネットで知性を向上させているのではなく、CCDが暗示するような自滅に向かった狂気を育成している危険性ないのだろうか。

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2009.01.26

グアンタナモ収容所のウイグル人

 オバマ政権になったのでそれがチェインジ(取っ替え)ということだが、実際に何かを変えないといけないわけで、公約でもあったグアンタナモ収容所が閉鎖される。今朝の毎日新聞社説”オバマ外交 「公平さ」が不信解消のカギだ”(参照)が取り上げていた。


 米国の新政権が活発に動き始めた。オバマ大統領は就任から2日後に、ブッシュ前政権の「負の遺産」ともいえるグアンタナモ収容所の1年以内の閉鎖を命じた。クリントン国務長官のもとで中東とアフガニスタンを担当する2人の特使(代表)も決まった。
 まずは素早い対応を評価したい。閉鎖される収容所はキューバ・グアンタナモ米海軍基地にあり、拷問や長期拘束などが問題になっていた。オバマ大統領の決断は、中央情報局(CIA)の秘密収容所の閉鎖や「水責め」の拷問禁止と並んで米国の暗いイメージの一掃に役立つだろう。

 ということで毎日新聞としては、グアンタナモ収容所が閉鎖の意味は、「米国の暗いイメージの一掃」ということでイメージ戦略の一環らしい。所詮他国のことだし、そうかもしれないなと思った。米国民としては、イメージ戦略以外に安全保障の問題もありそうで、CNN”イエメンのアルカイダ系組織幹部にと、グアンタナモの釈放者”(参照)などからはそんな印象も受ける。

 米国防総省は最近、同収容所を出た60人以上が戦闘の現場に戻ったとの見方も示していた。 イエメンで活動しているサウジアラビア人はアリ・シリと呼ばれる人物で、米大使館近くで昨年発生した車爆弾テロなどへの関与が指摘される。アルカイダ系組織の作戦担当の幹部級になっているという。同組織がイエメンで出版する雑誌で、指導者の会見への同席も確認されている。
 アリ・シリは釈放でサウジアラビアへ送還されたが、同国の政府筋によると、再教育プログラムから脱走、イエメンへ向かったとみられている。

 すっかり過去の人、あるいはヒール・チェイニーの過去のコメントも掲載されている。

チェイニー前副大統領は先に「収容者を釈放すれば、彼らは戦場に戻る。米本土に移送すれば、憲法上の権利請求の問題が生じる」と対テロ戦争が終結するまで基地にある拘束施設の閉鎖は避けるべきだとの考えを示していた。ブッシュ前政権も過去に施設閉鎖を検討したことがあるが、移送先の問題などが障害となり断念していた。オバマ政権が閉鎖に踏み切っても同様の課題を抱えることに変わりはない。

 ヒール・チェイニーの予言その1、「彼らは戦場に戻る」は多少は当たったのかもしれない。
 ただ、問題は、予言その2、「米本土に移送すれば、憲法上の権利請求の問題が生じる」かなと私は思う。というあたりの報道があまり見られないので気になるし、ブログだしということでことで書いてみたい。
 グアンタナモ収容所の問題は、米国のイメージ戦略というより、私は単に人権の問題だと思う。そしてそこに米国は大きな問題を抱えていたのは事実だとも思うが、閉鎖がその解決策になるかはよくわからないが米国民の決断だろうし、その決断の余波を受けるのは他国の問題だろう。
 気になるのは、この非人道的な対処は治外法権的な部分があったのだろうということで、そのあたりは、ヒール・チェイニーの予言その2の含みにあり、米国に移送すると権利が主張できるようになるという点だ。彼はそれを嫌がったのだろうが、そういう発想も可能性としてはないわけではない。ただ、それをどこまで肯定的に見るかということだ。
 難しいのは、昨年10月のAFP報道”テロ容疑者収容施設のウイグル人17人、米連邦地裁が釈放命じる”(参照)のあたりだろう。

【10月8日 AFP】(9日一部修正)米連邦地裁は7日、キューバのグアンタナモ(Guantanamo)米軍基地内のテロ容疑者収容施設で拘束されているウイグル人17人を米国で釈放するよう命じた。政府関係者が明らかにした。


中国は米国に対し、この「テロ容疑者たち」を送還するよう求めていたが、米政府は送還された場合、ウイグル人たちが拷問される可能性があるとして拒否していた。

 さらに、昨年12月、共同”中国、米に独立派の引き渡し要求”(参照)より。

 中国外務省の秦剛副報道局長は23日の定例会見で、オバマ次期米大統領がキューバにあるグアンタナモ米海軍基地のテロ容疑者収容所閉鎖を公約していることに関連し「中国政府は(収容されている新疆ウイグル自治区の独立派組織)東トルキスタン・イスラム運動のメンバー17人の速やかな引き渡しを求めている」とあらためて述べた。
 ドイツなどが収容中のテロ容疑者受け入れの意向を米側に伝えているとされるが、副局長は「われわれはどの国が受け入れることにも断固反対する」と強調した。

 オバマ大統領はどのように考えているか。この問題の日本での報道がよくわからない。ブログ真silkroad?のエントリ”オバマ政権「グアンタナモのウイグル人の中国送還は想像できない」”(参照)では、英文のAFP”White House 'can't imagine' returning Uighurs to China”(参照)の一部を訳して伝えていた。余談だが、日本版のAFPではこの記事が見当たらない。なぜなのだろうか。

オバマ政権は木曜、グアンタナモ湾に留めおかれているイスラム教徒ウイグル人を中国に送り返すことは想像できず、迫害に直面している国家にはどんな収監者も送られることはないと言った。

「私はオバマ政権がウイグル人を中国に送還することを支持するとは想像できない。」匿名を条件である高官は言った。
「私たちは被拘束者を虐待するであろう国家には移送しない。」高官はオバマ氏がその「対テロ戦争」収容所を一年に以内に閉鎖することを求める大統領令に署名した数時間後に言った。

President Barack Obama's administration said Thursday it could not imagine returning Muslim Uighurs held in Guantanamo Bay to China and said no inmate would be sent to a nation where they may face persecution.

"I cannot imagine that we would support transferring the Uighurs back to China," said a senior administration official on condition of anonymity.

"We are not going to transfer detainees to countries that will mistreat them," the official said, hours after Obama signed an executive order requiring the closure of the "war on terror" camp within one year.


 オバマ大統領自身の言明ではないが、現時点ではそう期待してよいだろう。

 亡命したウイグル人の指導者ラビア・カーディルさん61歳は、「ホワイトハウスがグアンタナモのウイグル人を中国に送らず、また合衆国のグアンタナモのウイグル人に対する政策が変化していないと聞き、とても喜んでいます。」と言った。
 「私はホワイトハウスがさらに中国に東トルキスタンにおけるその人権状況を改善するように勧告する希望を表明します、東トルキスタンでウイグル人は極端に抑圧的な体制のもとに苦しんでいます。」
 ラビアさんはグアンタナモのウイグル人が合衆国に入国が許されることを求めつつ、付け加えた。

Exiled Uighur leader Rebiya Kadeer, 61, said she was "very happy to hear that the White House will not send the Guantanamo Uighurs to China and that the United States' policy on the Guantanamo Uighurs has not changed.

"I express the hope that the White House will further urge China to improve the human rights situation that exists in East Turkestan, where Uighurs suffer under an extremely oppressive regime," she added, appealing for those at Guantanamo to be allowed into the United States.


 なお、AFPはこう続く。

The Uighurs were living in a self-contained camp in Afghanistan when the US-led coalition bombing campaign began in October 2001. They fled to the mountains, but were turned over to Pakistani authorities, who then handed them over to the United States.

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中国を追われたウイグル人
亡命者が語る政治弾圧
水谷尚子
 当然ながら、ウイグル人を米国本国に移送すると、中国との対立を招くだろうし、米国内に移送するとこのウイグル人には米国での権利が発生することになるだろう。
 日本としては、この問題をどう考えるかなのだが、毎日新聞社説のようにそこは触れないでおくのが無難なところなのだろう。

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2009.01.25

英国大衆紙サンから報道された黒死病とテロの噂

 英国の大衆紙サンに掲載されていた話なので、日本で言ったら日刊ゲンダイとかのネタと同じかなとも思うが、その後の流れを見ているとそのまま消えていくわけでもなく、どうも奇妙な引っかかりがあるので、ざっと触れておこう。
 話は”Al-Qaeda terrorists killed by Black Death after the killer bug also known as the plague sweeps through a training camp”(参照)、つまり、黒死病によってアルカイダのメンバーがその訓練基地で死去していた、ということ。含みとしては、アルカイダが、黒死病の菌を使ったテロを狙っているうちに自らがその被害にあったらしいということだ。死者は40人ほど。
 基地についてはディテールがある。


The al-Qaeda epidemic began in the cave hideouts of AQLIM in Tizi Ouzou province, 150km east of the capital Algiers.

アルカイダ感染は、ティジウズー県(首都アルジェの150km東)で、AQLIMの洞穴隠れ家から始まった。


 アルジェでそしてペストというと、カミュの「ペスト」(参照)をつい連想してしまう。なので、逆にどういうことなんだろうと心にひかっかる。
 このネタだが、一応高級紙であるテレグラフのほうでも引用されていた。たとえば”Black Death 'kills al-Qaeda operatives in Algeria' ”(参照)がある。また、”Al-Qaeda cell killed by Black Death 'was developing biological weapons'”(参照)では、生物兵器の線を出していた。

It was initially believed that they could have caught the disease through fleas on rats attracted by poor living conditions in their forest hideout.
(当初は隠れ家の森の劣悪な環境で鼠の蚤から感染したかもしれないとも見られていた。)

But there are now claims the cell was developing the disease as a weapon to use against western cities.
(しかし、西洋都市で兵器として菌が培養されていたと言われている。)


 大衆紙サンから始まるこの話はそれ以外にはたいしたことはなく、黒死病をむしろ強調していた。英国では黒死病というタームは、それだけで恐怖をもたらすインパクトがあるのだろう。しかし、その他のソースを見ると、米政府では生物兵器ともペストとも見ていないという話もある。ただ、そのあたり米国側での意向もあるかもしれない。
 サンやテレグラフなど英国ソースでの黒死病への恐怖だが、これらの記事ではペストとしており、通説ではそうなのだが異説がある。ウィキペディアを見たら記載されていた(参照)。

2004年に英国で出版された「黒死病の再来」という本によると、当時の黒死病は腺ペストではなく出血熱ウイルス(エボラのような)だったという。北里柴三郎の命をかけた努力により抗血清でペスト等を治す方法はできたがエボラは有効な治し方は無くいまだに脅威があるといえる。

 同書の邦訳はあるのだろうか。ネットを見ると、滋賀医科大学動物生命科学研究センターのサイトに関連記事”中世の黒死病はペストではなくウイルス出血熱”(参照)がある。

 14世紀にイタリアで発生した黒死病はボッカチオのデカメロン、カミユのペストをはじめとして、多く語りつがれています。これは現在では腺ペストであって、ネズミが媒介するペスト菌により起きたものと考えられています。
 英国リバプール大学動物学名誉教授のクリストファー・ダンカン(Christopher Duncan)と社会歴史学の専門家スーザン・スコット(Susan Scott)は教会の古い記録、遺言、日記などを詳細に調べて「黒死病の再来」(Return of the Black Death , Wiley, 2004)を出版しました。彼らの結論では、黒死病はペスト菌ではなく出血熱ウイルスによるものであり、今でもアフリカの野生動物の間に眠っていて、もしもこれが現代社会に再び出現した場合には破局的な事態になりかねないと警告しています。その内容をかいつまんでご紹介します。


 ところで、著者らは英国の古い記録を詳細に調べて、この発生について興味ある考察を行っています。この際の症状は嘔吐、鼻からの出血、皮膚の突然の内出血、昏睡などです。解剖の結果では胃、脾臓、肝臓、腎臓の出血など、さまざまな病変が見いだされています。また、1656年から57年にローマとナポリでの解剖例では全身が黒ずんだ内出血に覆われ、腹腔をはじめ内臓が黒くなっています。これらの症状や解剖の結果は、これまでに信じられている腺ペストとはまったく異なっています。死亡は急速で、その前に内臓全体に壊死が起きている点が特徴的で、著者らはこれらがエボラ出血熱、マールブルグ病などウイルス性出血熱にきわめて似ているという意見です。

 BMJのサマリーは”What caused the Black Death? ”(参照)にある。
 日本では日本人が立てた業績に対する異説はついトンデモ説扱いされがちになるようにも思えるが、黒死病についてはその後、定説はどういう経緯を辿っているのか、わからない。再現すれば研究は進むだろうが、恐ろしい事態でもある。
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Return Of The Black Death:
The World's Greatest Serial Killer:
Susan Scott, Christopher Duncan
 ペストについては生物兵器への応用は日本も含めて検討されていた歴史があり、英語版のウィキペディア”Plague as a biological weapon : Plague (disease)”(参照)には簡素にまとまっている。が、不明なことも多く陰謀論のような印象もある。

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