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2009.11.21

[書評]追跡・アメリカの思想家たち(会田弘継)

 「追跡・アメリカの思想家たち(会田弘継)」(参照)は、現代米国政治を支える政治思想家の系譜を紀行文風にまとめた書籍で、昨年の9月に出版されたものだ。

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追跡・アメリカの思想家たち
会田弘継
 紀行文風な仕上がりとなったのは、大半が2005年から2007年の雑誌フォーサイトの連載であったためだろう。各思想家の思想をコンサイスにまとめるというより、思想家の個人史や関係史、意外なエピソードといった話が多く、その点から言えば、現代の米国政治を支えている思想がどのようなものかは、本書からはわかりづらい。私も同書が新刊のおり書店で見て、これを読んでも雑学にしかならないのではないかと思ったものだった。
 だが先日、自民党の実質解体後の保守主義の立て直しという文脈だったか、保守主義はナショナリズムではない、というテーマに及び、ツイッターでぼそっとつぶやいたところ、アルファーブロガーの切込隊長さんのレスがあって、そういえば彼のハンドル"Kirik"と彼の好きなエドモンンド・バーク(参照)から、本書第一章に充てられているラッセル・カーク(Kirk)氏(参照)を連想した。
 カーク氏はバーク主義の流れから、保守主義はナショナリズムではないと主張していたっけと思い返し、その発言の文脈であるネオコンを思い出した。連想ゲームである。さらにそういえば、ブッシュ政権後、ネオコンという言葉を聞かなくなったが、本書の連載時はまさにネオコンが話題だった。日本でバッシングのラベルで「新自由主義」や「ネオコン」を振り回す議論にろくなものがないが、実際のネオコン思想家の系譜はどうだったのか。そのあたりも含めて、少し振り返ってみるとよいかと読み出した。意外といってはなんだが、現代米国思想という文脈を外しても無性に面白い本であったし、新聞記者らしいプレーンな文体が読みやすかった。
 フォーサイト連載当時はネオコンへの関心から読まれたのだろうと思う。そして、ネオコンを世代に分けて論じていく独自の手つきは興味深く、政治学的にはわからないが、重要なのは米国の世代問題ではないかとも思えた。いずれにせよ、そうしたニーズ、つまりネオコンの概容を知りたいという点で読まれてもよいのだろう。
 私が興味を持ったのはむしろ、本書の脇道であった。経済学者のハイエク氏が夏目漱石著「こころ」を読んだだろうという逸話は、ハイエク氏の恋愛・離婚・移民と相まってそれ自体面白い話だが、そもそも「こころ」が美文で英訳(参照)されたのは、神戸生まれのエドウィン・マクレラン氏(参照)の貢献によるもので、氏の逸話や江藤淳氏の交友も興味深かった。おそらく、イザヤ・ベンダサンという架空の人物はマクレラン氏が一つの原型になっているはずだが、さらに実際にマクレラン氏とも関係があるようにも思えた。ベンダサンは漱石研究家といってもよいほど造詣があるのだが、この点、ペンネーム主と言われることの多い山本七平氏のその後の著作を見てもわかるが漱石理解は異なる。
 フランシス・フクヤマ(参照)氏の祖父河田嗣郎(参照)氏の話も興味深いものだった。河田氏が徳富蘇峰氏(参照)と交友があったこともだが、その娘敏子さんが蘇峰氏の縁者でもある湯浅八郎氏(参照)の秘書で、その縁から福山喜雄氏と結婚し生まれたのがフランシス・フクヤマ氏であったということは知らなかったので驚いた。なんどかお目にかかったことがある生前の湯浅八郎先生を懐かしく思い出した。
 自分が無知ゆえに驚いたといえば、J・グレッシャム・メイチェン氏(参照)のこともだった。私は若い頃、彼の教科書で新約聖書ギリシア語を学んでいた。もちろん当時からメイチェン氏に深い信仰と神学があることは、その教科書からでも伝わってくるものがあったが、がちがちのリベラルである私には、福音派的な信仰を顧みる心の余裕はまるでなかった。本書で知ったのだが、ビリー・グラハム氏(参照)やジェリー・フォルウェル氏(参照)などもメイチェン氏の孫弟子にあたるらしい。私は彼らはもっと純朴な信仰の大衆向け伝道者くらいにしか想定していなかった。そもそもメイチェン氏がリベラル神学の問題を理解した上で明確に異を唱えていたことすら知らなかった。考えてみればバルト神学も現代的な知の装いをしているが、歴史と啓示の問題を突き詰めれば本書に描かれるメイチェン像になるかもしれない。そのあたり、日本の戦後キリスト教史の奇妙ともいえる空白と、接ぎ木されたビリー・グラハム的なエヴァンジェリズムの問題を痛感した。
 本書を読み終え、ぼうっと、いずれにせよ、思想が話題になるということは、20世紀における雑誌出版というのが大きな意味を持っていたのだろうという思いにふけった。吉本隆明氏が「試行」を創刊したころも、思想とは同人誌であっただろう。インターネットが興隆するころ、池澤夏樹氏がこれで新しい地下出版のツールとなると認識していたことを思い出した。しかし、実際のインターネットはそうした地下出版・同人誌的な思想形成の場とはなっていない。その残骸の雑誌を過去の歴史に置きながら、ブログのような奇妙なものが形成されている。

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2009.11.20

アンドロイドでマニフェスト仕分けの夢を見るか?

 夢の中にいて、こんなの現実にあるわけないじゃないか、夢だよ、とわかっていることがある。そんな夢物語。こんなの現実にあるわけないよね、という非現実的な政治が現実だと言われてメディアに映るようになってくると、まったく夢がどこまで夢なのかわからなくなる。
 銀座の紅茶店で今は休眠中の著名ブログのブロガーに声をかけられた。
「終風さんじゃないですか、ちょうどよかった、あなたもブロガーなんだから仕分け人に行きましょう」と言う。
 仕分け人に行く? 仕分け人になるということか。ええ! 私は答える。
「ブロガーなんて世間じゃ無ですよ。ブログ界で話題のカツマーさんですら世間ではそれほど知られていないから、いくらもともと人の話を聞かない人だったとはいえ、イラ菅さんにですら笑顔でいなされちゃったじゃないですか。池信先生やダンコーガイ氏ですら、世間で知る人ぞなきですよ。ブロガーなんて意味ないですよ」と私は答える。「それにアルファブロガーの切隊さんとかすでに戦略局とかに呼ばれているって言うじゃないですか、パパの育児参加の話かもしれないけど」
「終風さんもアルファブロガーですよ」と、振り返ると音楽家の某嬢もいた。
「それは違う。私は『アルファブロガー括弧笑い』のほうです。しょっちゅう罵倒をいただくほうの馬鹿者ですよ。」
「だったらなおさらいいんじゃないですか。衆愚政治の極みみたいな話なんだから」。
 なるほどね、と心が傾く。
 そういえば、昔こんな話を聞いた。本当のことかわからない。ぼんやりとした昭和の思い出のようなものだ。ある小学校のクラスで悪さをした子をどうしようと、先生がクラスのみんなで話しかけた。みんなで罰を決めようということになった。みんなで決めた処罰は、その子をクラスの前に立たせて裸にするということだった。おいおい、それが民主主義かよ。ただのリンチだろ。デモクラシーというのは、本当は「民主制度」で、この制度というのは、そもそもそうした衆愚の権力を発揮できないように良識の歯止めを掛けるための制度なんだが……。そういえば、昭和の時代には、「総括」というのがあったな。「連合」の前の「総評」と似たような字面の言葉だったが……。
 会場に着く。ではこちらにお掛け下さいと言われる。
 「原告側でいいのですね」と言ってみるが洒落は通じない。
 右に座った休眠アルファブロガー氏がにやにやしているので、「僕はなんにも言いませんからね」と言うと、「かまいませんよ、結論は決まっているんですから」と彼は答える。そりゃそうだ。
 仕分け人とかいうけど、私はいったいなにを仕分けしているのか皆目わからない。物事の考え方に、対象をブラックボックスとして見るというのがあるが、その場合、入力と出力からブラックボックスの機能を探る。では「仕分け」のブラックボックスはどのような機能をしているのか。出力は、「廃止」「見直し」しかない。どっちも程度の違いで同義語。いや一つだけお笑いの例外があったか。いずれにせよ、出力を見るとわかるように、なんにも仕分けてなんかいない。しかも、入力は、ネオ大蔵省こと財務省があらかじめ選んだものに仕分け済み。つまり、このブラックボックスの中はスルーだ。機能なし。決まり切った勧進帳。インターネットとかの衆人環視のサーカス。パンはどこだ。
 夢想が進むなか、「こちらに目を通してください」と資料を渡される。「これが有名な財務省のシナリオですね」と言ってみる。やはり洒落は通じない。通じるようならプロじゃないよな。
 資料をめくって見て、あれっ?と思った。思わず、「これ仕分け対象でいいんですか」と訊いてみた。これには答えがあった。
 「そうです」という彼の目の奥で、「シナリオどおりにやれよな、この愚民」のメッセージが光っている。
 いいのだろうか、これ、「民主党の子ども手当」でしょ。いくら、民主党のマニフェストに書いちゃったからって、いくら愚策とか言われたって、聖域なき改革とやらの聖域なんでしょ。
 もともと小沢さんが欧州での子ども手当の総額を知って、日本だと6兆円くらいっちゅう話かぁ、田中先生のバラマキぶりを思えばそのくらいやらなければいかんちゅうことだ、それに子ども手当の話はお孫さんをもつお爺ちゃんお婆ちゃんに受けがいい、って、それで、えいっとお馴染みの「天の声」で決めて、それから子どもの頭数で割ったら一人当たり2万6000円になったというだけの話でしょ。効果もへったくれもあるわけないじゃないですか。え? 違うの? あ、いえ、いいです、そんな議論じゃないわけですね。はい。
 それでもですね、どうせやるなら、「郵政民営化の巻き戻し」を廃止するほうがいいんじゃないんですかね。仕分けの三原則からもやりやすい。その一、民間でもやれることですか? そりゃもちろん、郵政民営化っていうくらいだし。その二、費用対効果はどうですか? これはばっちり。なにせ郵貯は大蔵省から兆単位のカネを補填していたんですよ。知らないのは騒ぎ立てるブロガーくらいですよ。その三、天下りはありますか。おいおい、斎藤元大蔵省次官の日本郵政社長就任が天下りじゃなくて、いったいなにが天下りなんだ。
 「では仕分け作業を始めます」とアナウンスがある。「時間は30分です。無駄のない議論を進めてください。全国で最大2万人かたがインターネットを通して監視していることもお忘れなく。」
 そして、沈黙のようなざわめき。「最初に、財務省主計局から説明があります」と説明が始まる。
 「先日晴れてデフレ宣言を出しましたように、現在日本は未曾有の経済低迷にあり、財政赤字が巨額に膨れあがっております。そこに来て、今年度の税収の見込みは38兆円を割ることはすでに明らかになっており、実際には35兆円程度ではないかと、あー、いまの35兆円という金額はここだけの話にしてください、先日の直嶋正行経済産業相によるGDP値のフライングみたいな辞任当然の失言に受け止められては困りますので。説明を続けます。そして、かたや民主党のマニフェストを実施するのに必要な総額はすでに95兆円に及ぼうとしています。これを差し引きすると、95兆円マイナス35兆円、つまり、60兆円の赤字となります。これをなんとか44兆円にまで圧縮したいということでありまして、先日までの3兆円をなんとか削減するといった仕分け作業ではまったくお話にならない。小学一年生の算数もできないのかよ民主党ということでありまして、今回、鳩山政権が掲げる子ども手当の仕分けに及んだわけです。さらに、従来のようにシナリオどおりの良識に従っていただける仕分け人では、この手の話は進まないのではないということで、日頃から暴論をブログに吐かれているかたを採用してはどうかということもありまして特別な人選となりました。ですから忌憚なき御意見をいただければと思います」
 「今、暴論って言ったわよね」と、左隣のアラフォー未満の女性がつぶくやく。女性ブロガーなのか。「ええ」と私は曖昧に答える。聞き違いかもしれない。
 仕分け人とやらのやや年配の男性が話出した。
 「鳩山政権が掲げる子ども手当が仕分けの対象となったことは、いくら選挙看板のマニフェストで掲げたとはいえ、開かれた政策を掲げる民主党のあり方としては好ましいと思われます。実際の政策として推進するには、まず目的と対象を再検討すべきでしょう。限られた予算を使うのですから、選択と集中が求められます。所得制限を設けない子ども手当は巨額の財源が必要な一方で少子化対策の効果があるのか、すでに疑問の声が上げられています。民主党政権では、日本国は自民党政権時代を上回る巨額の財政赤字を抱えることをは必至であり、すでに検討されていることではありますが、少子化対策に加え、女性の社会進出を両立させるための一挙両得の対策が必要になります。つまり、一律に子ども手当を支給するよりは保育所の待機児童対策などに重点を置くべきでしょう。もちろん、民主党内でこれになにかと反論があることは存じているものでありますが、それでも、規律無き財政赤字、金融政策無策、結局外需依存中国頼みに帰する方向に日本が向かいつつある現在、確かな労働力の確保として、女性の労働参加拡大が経済成長の源になることは明らかであります。」
 隣席のアラフォー未満の女性ブロガーがにやにやしている。怪訝な顔で見ている私に、こっそり、「わたし、混乱大好き」とつぶやいた。なんだそれと私は思いつつ、さっさとこんなくだらない仕分けは終わらないかなと思っているうちに、30分など所詮議論するほどの時間のわけでもなく、結論は、子ども手当見直しという結論になったようだ。
 「これでよかったんでしょうかね」と私はなんとなく臨席に届く声でつぶやき、帰りにお茶でもしてきませんかと、加えてみる。
 「ごめんなさい。いそいで今のネタをエントリに書かないといけないので」と彼女は立ち上がり、そして言った。
 
 そんじゃーね!

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2009.11.18

[書評]ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争(ディヴィッド・ハルバースタム)

 「あの年読んだ本ってなんだっけ」と今年の読書のことを後に振り返るとしたら、おそらく社会的に話題となった村上春樹「1Q84」(参照)より、本書「ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争(ディヴィッド・ハルバースタム)」(上巻参照下巻参照)になるだろう。

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ザ・コールデスト・ウインター
朝鮮戦争 上
ディヴィッド・ハルバースタム
 読み終えるまで一か月かかった。大著であることもだが内容が重く、なかなか読み進められなかった。上下で11部53章あり、一つの部が軽く新書一冊分の内容を持っていることもあった。ある部を読み終えてから、過去に読んだ書籍を読み返したこともあった。再読しようと書架や実家の書架を探し回り見つけられず、再度購入した書籍もあった。そうした一冊に「新「南京大虐殺」のまぼろし(鈴木明)」(参照)がある。同書はかつて標題の関心から読んでつまらないと捨ててしまったのかもしれない。
 本書「ザ・コールデスト・ウインター 朝鮮戦争」は標題に「朝鮮戦争」とあるように、もちろん朝鮮戦争を扱った歴史書でもある。そう読まれてもしかたがないし、そう読まれることが正しいとも言える。朝鮮戦争に参加した米人がぽつぽつと鬼籍に入りつつある現在、米国人にとってあの戦争がなんであったかと問い直すための書籍でもある。当然、そこからは、南北朝鮮や中国、そして日本の側からの視点は抜け落ちるが、それは本書の欠点でも限界でもない。米国という確固たる視点で書かれた書籍だからこそ、現在の米国への批判ともなり得る長い射程を持ちえた。オリジナルサブタイトル「America and the Korean War」はまさに米国と朝鮮戦争との関わりを指している。またタイトル「The Coldest Winter」が一冬を指しているのも、最初の年の冬の出来事が決定的であったことを意味し、朝鮮戦争全体の叙述ではないことを暗示している。
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ザ・コールデスト・ウインター
朝鮮戦争 下
ディヴィッド・ハルバースタム
 本書のオリジナル「The Coldest Winter: America and the Korean War」(参照)が書かれたのは、2007年のこと。著者ハルバースタムが執筆に10年をかけた労作で、彼は最終ゲラに手を入れた翌週2007年4月23日に交通事故で亡くなり、本書が遺作となった。73歳だった。2007年、73歳の彼がその年の米国に見ていたのは、言うまでもなくイラク戦争の泥沼でもあり、本書の朝鮮戦争はイラク戦争の暗喩でもあった。米国側から見た朝鮮戦争の失点はマッカーサーの狂気よりも、彼が戦時情報を操作したことだった。朝鮮戦争時代からのこの問題がイラク戦争の混迷につながったとハルバースタムは見ていた。

 第一生命ビルの部下たちは、マッカーサーの軍隊が行きたいところまで、つまり鴨緑江の河岸まで行くことができるように、情報に手を加えた。これは危険な前例を作った。朝鮮戦争では、軍が情報をもてあそんだ。もっと正確に言えば、軍の一部のならず者が、ワシントンの統合参謀本部および文民高官に送る情報を操作した。
 このプロセスはその後何年も経ってから二回繰り返されることになる。(中略)
 次いで二〇〇三年、ジョージ・W・ブッシュの政府は、--- ロシア帝国の終焉が中東にどのような意味を持つかを読み誤り、現地の人々の予想される反応を完全に誤算した。サダム・フセインの政府をなにがなんでも倒したいという内向けの理由が政権にはあった。父親ジョージ・H・ブッシュの国家安全保障チームの最も有能なメンバーだったブレント・スコウクロフトの警告があったにもかかわらず、これを無視した。そして、重大な欠陥のある改竄情報をもって、議会、メディア、世論、そして何よりも危険なことに、自らも騙し、イラク諸都市の心臓部に部隊を送り込んだ。その結果は悲惨の一言につきる。

 ハルバースタムのこの評価は八割は正しいだろうと私は思う。残る一割はばりばりの右派であるチャールズ・クラウトハマーのような擁護論(参照)と、もう一割はマケインの増派論だ。いずれにせよ、本書は米国で出版された当初はイラク戦の泥沼の文脈で読まれた。2007年ではまだイラクの混迷が安定に向かう兆しは読み取れなかったせいもある(参照)。その後、イラク情勢は前回の大統領選挙共和党候補者マケインの増派論を民主党オバマ政権が引き継ぐ形で、とりあえずの混迷を抜け出したかに見えるが、さらにその後、「オバマの戦争」(参照)ことアフガン戦争の混迷が始まった。
 本書を邦訳で今の時点で読むと、不思議なことに泥沼化しつつある「オバマの戦争」の状況のほうが暗喩として浮かび上がってくる。朝鮮戦争時の米国民主党大統領トルーマンと現民主党大統領オバマが民主党という点で重なって見える部分があるからだろう。ただし、トルーマンとマッカーサーの対決はオバマ対マクリスタルではないし、「オバマの戦争」であるべき決定が朝鮮戦争の史実から見えてくるわけでもないが、民意よりトルーマンが正しかったという歴史の教訓は残る。
 本書のテーマは朝鮮戦争というよりも、米国における文民トルーマン対軍人マッカーサーの戦いであり、文民統制とはなにかという壮烈な事例研究にもなっている。また、朝鮮半島という場で朝鮮人を巻き込む形でなされた戦争ではあるが、実質的な戦闘は中国対米国であり、米中戦争であった。しかも、この米中戦争を結果的に引き起こしたのは、マッカーサーの狂気もさることながら、ハルバースタムが問題視するように「情報操作」でもあり、その背景にあって情報操作を推進した中国国民党政府ロビーの活動であった。その意味では、朝鮮戦争とは中国大陸の国共内戦の延長でもあった。
 本書を読みながら背筋がぞくぞくとしてくるのは、この時代、米国にトルーマンがいなければ、マッカーサーと毛沢東は全面的な米中戦争にやる気満々であったことと、そこで核爆弾が応用される可能性があったことだ。むしろ、本書では脇役的になっているスターリンの奇妙な臆病さが結果的に、大戦を抑制的に機能したのも歴史の不思議であり、幸運でもあった。
 米国内の中国国民党政府ロビーの強固さは、朝鮮戦争敗退後も続くのだが、それは単独の力というより、米国内の中国ミッショナリーの勢力と重なっていた。その米国内の親中国派の歴史の叙述は、私にとっては本書の圧巻であった。タイム、ライフ、フォーチュンを創始した出版王ヘンリー・ルースが親中国的であることはP.F.ドラッカー「ドラッカー わが軌跡」(参照)でもよく知られているが、その活動を歴史の流れに置いて見ると、ある種の幻惑感に襲わる。本書には描かれていないが、まさに現在進みつつある米中関係の背後には、いまだ中国宣教を目指す親中の米国勢力が存在する。それが目指しているものは、ルースの敗れた夢の再生であるかもしれない。
 本書を読み進めながら、奇妙な言い方だが、自分がこの世に生まれた世界とはこのような成り立ちをしていたのかということと、自分がなぜこの時代に存在するのかその意味を探るような思いも感じていた。本書には当時の日本の描写は少ないとはいえ、日本がその後世界史のなかで置かれる位置を読み解くという点で、日本史の一部である。そもそもマッカーサーとは一時期日本の天皇でもあったし、この米人の天皇の亡霊は今なお独自の呪縛をもって今の日本を支配している。
 朝鮮戦争に勝利者はいないと言われる。また本書は、この戦争における米国の狂気と愚かさを余すところ無く暴き出している。その徹底性から、毛沢東の狂気については副次的な叙述になっている。だが、この戦争の戦死者数が物語るものは異様である。ブリタニカによれば、米国人死者は約5万4千人、韓国人130万人、北朝鮮人50万人、中国人100万人である。

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2009.11.16

フジテレビ記者がオバマ米大統領に広島と長崎の核爆弾投下の是非を質問したが、はぐらかされてしまった

 オバマ米国大統領訪問で日米首脳共同記者会見が実施された。その際、フジテレビ記者は、オバマ米大統領に広島と長崎の核爆弾投下の是非を質問したが、はぐらかされてしまった。その報道が日本のメディアにはあまり明確には伝わっていないようなので、ブロガーとしては補足しておきたい。
 最初に日米首脳共同記者会見のこの質問に関連する大手紙の報道を確認しておきたい。
 14日付け朝日新聞「日米首脳会談 共同会見の要旨」(参照)では、フジテレビ記者の質問への回答であることが明示されず、基調と同じ扱いになっていた。


■大統領 作業部会は、在沖米軍再編に関する日米合意の履行に焦点を絞るものだ。作業を迅速に完了することを希望している。
 我々は、「核のない世界」というビジョンを、長期的目標として共有している。具体的な措置をとらなければならない。核兵器が存在する限り、我々と同盟国のための抑止力を維持していく。
 広島と長崎で原爆が投下されたことにより、日本は核兵器について特有の視点を持っている。首相が深い関心を持っているのはよく分かる。私が広島と長崎を将来訪れることができれば、非常に名誉なことだ。短期的には訪問の計画はないが、私にとって有意義だと考えている。
 北朝鮮については、核実験や好戦的な行動を非常に懸念している。北朝鮮に対し、国際社会に再び参加する扉があるということを伝えたい。

 13日付け読売新聞「日米首脳会談・首相と大統領の共同記者会見要旨」(参照)は、さらに編集のきついまとめになっていた。

【核不拡散】
 首相 北朝鮮やイラン問題で密接に協力していきたい。
 大統領 北朝鮮、イラン両国が国際社会に対して義務を果たさないといけない。さもなければ私たちは協力して国連決議を実行に移すことになる。
 大統領 広島と長崎を将来訪れることができたら名誉なことだ。短期的には訪問計画はない。

 14日付け毎日新聞「日米首脳会談:共同記者会見 要旨」(参照)は朝日新聞と似ている。なお、日経新聞および共同通信の報道も私が見た限り類似の扱いだった。

◆核なき世界
 大統領 時間はかかるが、不拡散体制を強化しなければならない。核兵器が存在する限り同盟国のための抑止力を維持する。
 日本は核兵器に独自の視点を持っている。広島と長崎に使用されたからだ。首相が深い関心を持っているのはよくわかる。広島と長崎を将来訪れることができたら非常に名誉なことだ。
 北朝鮮の核実験や好戦的行動を懸念している。6カ国協議の(日米以外の)ほかの3カ国と、北朝鮮に「国際社会に再び参加する扉がある」と伝えたい。その間、これまでの制裁を実施する。

 やや異色なのが13日付け産経新聞「【オバマ大統領来日】日米首脳共同記者会見の要旨」(参照)だった。質問記者がフジテレビ所属であり産経新聞と関係が深いことからか、この問題を「広島、長崎訪問」として切り分け、さらに日本人記者からの質問であったことがわかるように明示されている。さらに質問において、「原爆投下の選択は正しかったかと考えるか」と明示されている。ただし、それがはぐらかされたようすはわからない。

【広島、長崎訪問】
 --大統領は任期中に広島、長崎を訪れる意向があるか。原爆投下の選択は正しかったかと考えるか。
 大統領 日本は核兵器について独自の視点を持っている。原爆が投下されたからだ。広島と長崎を将来訪れることができたら非常に名誉なことだ。短期的には訪問の計画はないが、私には非常に意味のあることだ。

 この部分を切り分けた国内報道も多かった。一例として、日経新聞「オバマ米大統領、広島・長崎訪問に意欲」(参照)はこのような報道だった。

 オバマ米大統領は13日夜の日米首脳会談後の共同記者会見で、自らが提唱する「核兵器なき世界」構想に関連して「日本は核兵器について独自の視点がある。広島と長崎に原爆が投下されたからだ」と語った。そのうえで「広島と長崎を将来、訪れることができれば非常に名誉なことだと思っている。短期的には訪問の計画はないが、私にとっては非常に意味のあることだと思っている」と、被爆地である広島、長崎両市を将来、訪問することに意欲を示した。

 そうした中、オバマ大統領のはぐらかしをそれ自体取り上げた報道としては、15日付け中国新聞「被爆地との間に温度差 原爆投下の歴史認識示さず」(参照)があった。

 13日の首脳会談。オバマ氏は満面の笑みを浮かべて報道陣の撮影に応じ、鳩山由紀夫首相の説明に何度もうなずきながら聞き入った。共同記者会見でも時折ユーモアを交えて答えた。
 だが、被爆地訪問については「すぐに行く予定はないが、私にとって非常に意義がある」と、あいまいさがにじんだ。「過去2発の原爆が投下された歴史的意義をどうとらえ、現在も正しかったと考えるのか」との質問もあった。しかし、意識的なのか、複数の質問がある中で失念したのか、答えはなかった。
 「国内の保守派への配慮も必要。今の段階では政治家としての欲求をはっきり言えないのではないか」。広島市立大広島平和研究所の初代所長の明石康・元国連事務次長は分析する。原爆投下は正当だったとの見方が根強い米国の世論に加え、議会内に反対がある医療保険改革法案や10%超の失業率に向き合う内政事情があるとみる。

 明石康・元国連事務次長のコメントは中国新聞だけが取ったものか、私にはわからないが、重要な指摘であった。
 フジテレビ記者からの質問の状況について、冷泉彰彦氏が興味深い指摘をしていた。現時点ではまだ、「[JMM]from 911/USAレポート/冷泉 彰彦」(参照)にはないが、近く掲載されるだろう。

とりあえず、共同記者会見、そしてアメリカの反応というところでは、だいたい予想した通りの展開で来ていると思いますし、これで良いと思います。
 けれども会見の後の質疑応答の部分で代表の日本側記者が「広島、長崎への原爆投下は正しかったとお考えですか?」という質問を投げかけた部分は、非常に重要なやり取りだったと言わざるを得ません。オバマ大統領は、明らかに狼狽していました。「ずいぶん沢山の質問ですねえ」とふざけて見せ、「最後の質問は何でしたっけ・・・北朝鮮の問題だったかな?」と巧妙に話題を振って、見事に「北朝鮮の話」を延々として時間切れに持ち込んだのです。要するに質問への回答を拒否した形になりました。オバマ大統領という人のスピーチや、質疑応答での対処はずいぶん見てきていますが、こうした光景は異例です。
 その前の部分では、広島・長崎への訪問予定に関しては「短期的には予定はありません」としながらも「訪問ができたら大変な名誉です」という言い方で、「ニュートラル+やや前向き」の回答をしていましたが、「短期的には予定はない」という発言の部分については、「原爆投下の是非」への回答拒否と併せて、これも重苦しい瞬間でした。この重苦しさをどう乗り越えてゆけば、良いのか、それはオバマの問題であるだけでなく、日本側としてももっと真剣に考えて行かねばならないと思います。

 として、狼狽と異例であることを強調していた。
 実際の、フジテレビ記者の質問とオバマ米大統領の回答は、すでにホワイトハウスのサイトに「Remarks by President Barack Obama and Prime Minister Yukio Hatoyama of Japan in Joint Press Conference」(参照)として掲載されている。該当箇所を引用し、試訳を添えておこう。

PRIME MINISTER HATOYAMA: Thank you very much. Now I'd like to proceed to questions. I will appoint the person, and once you are appointed, please come to the microphone, state your name and affiliation, and also to whom -- please state to whom you want to pose your question.

鳩山首相:ありがとう。では質問に移らせてもらいます。私が指名します。指名されたかたは、マイクともってお名前と所属を述べて下さい。そして、どちらへの質問であるかも明示してください。

On behalf of the Japanese press, please.

では、日本の記者の代表はどなたですか。

Q Fuji Television. Matsuyama is my name. I'd like to ask both leaders -- first to Prime Minister Hatoyama. (中略) And to President Obama, you are a proponent of a nuclear-free world, and you've stated, first of all, you would like to visit Hiroshima and Nagasaki while in office. Do you have this desire? And what is your understanding of the historical meaning of the A-bombing in Hiroshima and Nagasaki? Do you think that it was the right decision?

質問者: フジテレビのマツヤマです。両者にお尋ねしたい。最初は鳩山首相にです。(中略) 次にオバマ大統領に。あなたは、核兵器のない世界の提唱者ですが、すでに述べていらっしゃるように、なによりもまず、政権期間中に広島と長崎への訪問なさってはいかがでしょうか。その希望はお持ちでしょうか。そして、広島と長崎の核爆弾投下の歴史的意味をどのようにお考えでしょうか。あれは正しい決定だったでしょうか?

And also considering the North Korean situation, how do you think the U.S.-Japan alliance should be strengthened, and how should both countries cooperate in the field of nuclear disarmament?

また、北朝鮮の状況考慮したうえで、日米同盟はどのように強化されるべきでしょうか。この分野において核兵器削減に両国はどのように協調すべきでしょうか。

And also on the Futenma relocation issue, by when do you think the issue needs to be resolved? And should it be that Japan carry over the discussion -- decision to next year, or decide on something outside of what is being discussed? How would you respond?

また、普天間飛行場移設問題について、いつまでの解決と想定していらっしゃるでしょうか。日本がこの決定を先延ばしにすべきでしょうか。例えば、来年まで、あるいは現在の協議の外で決めることでしょうか。どのようにお考えでしょうか。

PRIME MINISTER HATOYAMA: Let me start. (中略) President, please.

鳩山首相:では私から。(中略) 大統領どうぞ。

PRESIDENT OBAMA: Well, first of all, I am impressed that the Japanese journalists use the same strategy as American journalists -- (laughter) -- in asking multiple questions.

オバマ大統領:最初に、日本人記者が米国人記者と同じ質問手法を取られたので感心しています(笑)つまり、複数の質問を一度にですね。

Let me, first of all, insist that the United States and Japan are equal partners. We have been and we will continue to be. Each country brings specific assets and strengths to the relationship, but we proceed based on mutual interest and mutual respect, and that will continue.

なによりも、米国と日本は対等のパートナーです。かつても、そしてこれからもです。両国は関係上独自の利点と長所を持っていますが、協調の継続は、相互利益・相互尊重に基づきます。

That's reflected in the Japan-U.S. alliance. It will be reflected in the resolution of the base realignment issues related to Futenma. As the Prime Minister indicated, we discussed this. The United States and Japan have set up a high-level working group that will focus on implementation of the agreement that our two governments reached with respect to the restructuring of U.S. forces in Okinawa, and we hope to complete this work expeditiously.

このことが日米同盟に影響します。このことが、普天間飛行場問題に関わる米軍再編決定に影響します。鳩山首相が述べたように、私たちはこの問題を話合いました。米国と日本は高レベルの作業会議を設置し、そこで在沖米軍再編に関わる二国間合意実現を焦点に扱います。私は迅速な完遂を期待しています。

Our goal remains the same, and that's to provide for the defense of Japan with minimal intrusion on the lives of the people who share this space. And I have to say that I am extraordinarily proud and grateful for the men and women in uniform from the United States who help us to honor our obligations to the alliance and our treaties.

私たちの目標は同じです。基地提供に関わる人々の生活への悪影響を最小限にして、日本に防衛を提供することです。同盟と盟約の義務を重視するように私たちに尽力された米国の人々に特段の謝意を述べたいと思います。

With respect to nuclear weapons and the issues of non-proliferation, this is an area where Prime Minister Hatoyama and I have discussed repeatedly in our meetings. We share, I think, a vision of a world without nuclear weapons. We recognize, though, that this is a distant goal, and we have to take specific steps in the interim to meet this goal. It will take time. It will not be reached probably even in our own lifetimes. But in seeking this goal we can stop the spread of nuclear weapons; we can secure loose nuclear weapons; we can strengthen the non-proliferation regime.

核兵器とその廃絶の問題は鳩山首相とすでに何度も話し合い、核兵器の無い世界について私たちは合意に達していると思います。同時に私たちは、それが遠い未来の目標ことも理解しています。目標達成までには中間段階を経る必要があります。時間がかかるのです。わたしたちの一生の間ではたぶん到達しないでしょう。しかし、この目標に向かって、核兵器の拡散を制止することができます。私たちは、核兵器を削減することで、核兵器拡散防止が強化されます。

As long as nuclear weapons exist, we will retain our deterrent for our people and our allies, but we are already taking steps to bring down our nuclear stockpiles and -- in cooperation with the Russian government -- and we want to continue to work on the non-proliferation issues.

既存の核兵器については、米国民と同盟国への抑止力として保持しますが、ロシア政府と協調し、それでもすでに削減に着手しています。さらに核兵器拡散防止を推進します。

Now, obviously Japan has unique perspective on the issue of nuclear weapons as a consequence of Hiroshima and Nagasaki. And that I'm sure helps to motivate the Prime Minister's deep interest in this issue. I certainly would be honored, it would be meaningful for me to visit those two cities in the future. I don't have immediate travel plans, but it's something that would be meaningful to me.

当然ですが、日本は広島と長崎の史実から核兵器について独自の視点を持っています。私もこの問題で鳩山首相が深く傾倒されることを確実に支援します。ですから、この二都市を訪問することは有意義であり、名誉なことです。近々同地を訪問する予定はありませんが、その重要性は変わりません。

You had one more question, and I'm not sure I remember it. Was it North Korea?

もう一つ質問がありましたね、記憶が不確かなのですが。北朝鮮でしたっけ?

Q Whether or not you believe that the U.S. dropped a nuclear weapon on Hiroshima and Nagasaki -- it was right?

質問者: 米国が広島と長崎に核爆弾を投下したことを、あなたは正しいことだとお考えですか?

PRESIDENT OBAMA: No, there were three sets of questions, right? You asked about North Korea?

オバマ大統領:いや、問題は3つまとまっていました。そうですよね。ご質問は北朝鮮だったのではありませんか?

Q I have North Korea as well, yes.

質問者:北朝鮮についても質問したというのは、そうです。

PRESIDENT OBAMA: Yes. With respect to North Korea, we had a extensive discussion about how we should proceed with Pyongyang. (後略)

オバマ大統領訪:はい。では、北朝鮮問題ですが、私たちは、どのように北朝鮮政府に対処するかについて徹底的に議論しました。(後略)


 該当の応答部分は、すでにYouTubeにも上がっているので以下に記しておこう。


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