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2009.10.24

ワシントン・ポスト紙掲載「米軍一括案の米側圧力」を巡って

 普天間飛行場移設に伴う日米安全保障体制を政権交代後も維持するよう、米側から日本への圧力が高まっている。この件についてワシントン・ポスト紙にも興味深い記事が掲載され、日本でも報道された。昨日のエントリ「ウォールストリート・ジャーナル掲載「広がる日米安保の亀裂」について: 極東ブログ」(参照)に続き、こちらも触れておきたい。まず日本での報道の状況、つまり、日本のマスメディアは該当のワシントン・ポスト紙記事をどう受け止めたのか。受け側の状態から確認しておきたい。
 ワシントン・ポスト紙の対日安全保障確認圧力の記事は、22日付けの第一面に掲載された。第一面は当然ながら主要な話題であることの指標でもあるので、日本の大手各紙はウォールストリート・ジャーナル紙の寄稿よりも取り上げていた。
 朝日新聞による「米高官「最も厄介なのは中国ではなく日本」 米紙報道」(参照)では、前半でワシントン・ポスト紙の意見、後半でウォールストリート・ジャーナルの寄稿を扱い、両者を一括したものとしてまとめていた。ここではワシントン・ポスト紙対応の部分を見てみよう。


 【ワシントン=伊藤宏】米紙ワシントン・ポストは22日付の1面で、米軍普天間飛行場の移設問題をはじめとする鳩山政権の日米同盟への対応について、米国務省高官が「いま最も厄介なのは中国ではなく日本」と述べたと伝えた。日米関係について米主要紙が1面で報じること自体が少ないだけに、米の懸念の強さが浮き彫りになった。
 ポスト紙は、訪日したゲーツ国防長官が日本側に強い警告を発したのは、日本が米国との同盟を見直し、アジアに軸足を置こうとしていることへの米政府内の懸念のあらわれと指摘。米政権がパキスタンやアフガニスタン、イラン、北朝鮮などへの対処に苦しんでいる時、普天間飛行場移設問題などで「アジアで最も親密な同盟国との間に、新たに厄介な問題を抱え込んだ」とした。国務省高官は、鳩山政権や民主党が政権運営の経験に乏しいうえ、官僚組織への依存から脱却しようとしていることが背景にあると語ったという。

 第一面掲載の意義に加え、鳩山民主党政権が米国政府から厄介者扱いになっているとの話が主軸になっている。報道ソースとして米国務省高官が伝えた点も重視している。
 オリジナル記事との比較は他紙を見てからにするとして、基本事項で留意しておきたいのは、ワシントン・ポスト紙の第一面記事は社説ではないということだ。ではどういう立ち位置の記事だったのか。朝日新聞の報道からはわからない。ざっと読むと、一般ニュースのように匿名記者のニュースのような印象を与える。朝日新聞記者は失念していたのかもしれないが、以下に見るようにこの点の留意のなさは他紙も同様である。
 読売新聞「「最もやっかいな国は日本」鳩山政権に米懸念」(参照)では、ワシントン・ポスト紙の記事に絞り、前半は朝日新聞記事と類似内容だが、後半に日本人なら関心を持つだろう論点を取り上げている。

鳩山政権については、「新しい与党(民主党)は経験不足なのに、これまで舞台裏で国を運営してきた官僚でなく政治家主導でやろうとしている」とする同高官の分析を示した。さらに、民主党の政治家たちが「米国は、今や我々が与党であることを認識すべきだ」(犬塚直史参院議員)などと、米国に公然と反論するようになった風潮も伝えた。

 具体的に民主党議員の名指しを読売新聞では伝えている。
 毎日新聞では目立った報道を見かけなかったが、「クローズアップ2009:米国防長官、東アジア歴訪 温度差、顕著に」(参照)でごく簡単に次のように言及していたのを見た。

 22日の米紙ワシントン・ポスト(電子版)は、国務省高官の話として、安定し不変の関係だった日本が「今や、中国より厄介な存在になっている」と報じた。

 産経新聞「米国務省高官「中国より日本が困難」 Wポスト紙」(参照)は短い記事ながらも、朝日新聞や読売新聞の記事より、オリジナルの内容に踏み込んでいるのであえて長めに引用したい。

 【ワシントン=有元隆志】米紙ワシントン・ポストは22日付の1面で、オバマ政権のアジア政策について、「現時点で(米国にとって)最も困難なのは中国ではなくて日本だ」との国務省高官の発言を紹介、日米関係を見直し、アジアにおける日本の立場を変えようとしている鳩山政権に対する懸念が米政府内で強まっていると報じた。
 同紙は、良好だった日米関係の雰囲気が変わった象徴的な例として、20日に訪日したゲーツ国防長官が防衛省での栄誉礼や歓迎食事会を断ったことを挙げた。
 長官と北沢俊美防衛相との食事はいったん日米間で合意したものの、会談に多く時間を割きたいとの長官の意向を受けて、米側が断ってきたという。鳩山政権が普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設の見直しや、インド洋での自衛隊の給油活動を撤収させる方針を決めたことへの強い不快感の表れといえる。
 長官は鳩山由紀夫首相らとの会談で、11月のオバマ大統領の訪日までに普天間飛行場移設の結論を出すよう求めた。しかし、日本側は困難との考えを示した。
 同紙は「米側の圧力に対して日本側は平然としているようだ」と日米の距離感の広がりを指摘した。

 産経新聞記事とオリジナルの対応は後で確認したい。
 日経新聞は、朝日新聞と同様ウォールストリート・ジャーナルの寄稿と合わせ「米、鳩山外交に厳しい論調 主要紙が掲載、米軍再編など巡り」(参照)で報道していた。ベタ記事に近いので引用は省略する。
 報道社系では共同も時事も手短に扱っていたようだ。共同は「「鳩山外交に米が懸念」 米紙」(参照)、また時事は「鳩山政権への懸念強まる=同盟再定義や脱官僚で-米紙」(参照)である。内容は、朝日新聞・読売新聞と特に変わった点はない。
 これらの国内報道が日本人にどう読まれたかはわからない。だがネットでは、はてなブックマークからうかがえる部分がある。特に読売新聞の記事にはコメントが比較的多く寄せられていた(参照)。時系列では下からの順になる。ざっと眺めてみよう。


asrite 政治, 読売, 鳩山政権, アメリカ, 民主党, theme_民主始まったな, 外交 毅然と対応することと、けんかを売ることは別物。 2009/10/24
toaruR 敵として対する厄介さじゃなくて、子供の厄介さなんだろうなぁ('A`) 2009/10/24
georgew 多少厄介に思われるくらいが色んな交渉上有利。単なる腰巾着としてなめられるよりまし。 2009/10/24
kadotanimitsuru アメリカ にとって日本はペリー提督以来「下僕でなければ敵」だからなぁ。中国と日本を天秤にかける時は常に中国を取るし。 2009/10/24
tykk1978 アメリカ, 日本, 外交 最も厄介な国はお前だろう、アメリカ。そんなことでおどおどするな、読売。 2009/10/24
ken409 アメリカ, 日米関係 存在を無視されるよりは、やっかいな国だと思われた方がいい。 2009/10/24
nofrills WaPoはたぶんこの記事→ http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/10/22/AR2009102201312.html 2009/10/24
hiragumo 民主党, 日本, 米国 日本国憲法と安保はセット。吉田茂はそれで日本を独立させた。「戦争を放棄するから、あんたなんとかしてよ」と。その結果、何が産まれたかと言えば… 2009/10/24
hatkyma35 補正予算修正の勢いで思いやり予算削減したら認めるけど・・・ 2009/10/24
powerhouse63w news "U.S. pressures Japan on military package"http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/10/21/AR2009102100746.html (facebookのアカウント等でログインが必要)元記事を探すのがめんどくさい書き方はやめてほしい 2009/10/24
ones-inch 政治 米国が「のび太のクセに生意気だぞ!」って言うジャイアンにかぶって見える。 2009/10/24
y_arim news, diplomacy, usa, japan, politics, government, 民主党 公然と反論して何が悪い 2009/10/24
tombox おいおいアメリカを敵に回すなよと思ってしまうが、ふと考えなしてみると、やっと日本もアメリカのいいなりじゃなく、自分の意見をいえるようになってきたのかと清清しい気持ちにもなってくる。 2009/10/24
cinnamon77 外交 本当に”やっかい”だったらそんな事言わないという罠。 2009/10/24
octavarium 日本, アメリカ, 政治 国務省高官の「今や、最もやっかいな国は中国でなく日本だ」という発言を伝えた。 2009/10/23
crow2008 "新しい与党(民主党)は経験不足"どんくらい経験不足なんだろ?半世紀分くらい? 2009/10/23
buckeye ニュース, 日本, 民主党, アメリカ, 外交 Noと言えるお子様、日本。/ 「世界の嫌われ者」ブッシュ政権ではなく同じ中道左派で本来は仲間であるオバマ政権を困らすことの意味を鳩山政権はもう少し考えるべき。/ b:id:entry:16892562 2009/10/23
hati50 日本, アメリカ, 外交, 政治, 社会 アメリカが「今や、最もやっかいな国は中国でなく日本だ」と言ってきましたが、単に従順な犬が反抗的にありつつあるので起こっているだけでしょう。どう考えても最近の欧米の態度は中国>>日本です。 2009/10/23
xevra 世界一厄介な国に言われたくないよな。 2009/10/23
luliazur 揺さぶりではありますが、米政府、Washington Post、読売新聞のどれが揺さぶっているのでしょうね 2009/10/23
rakusupu 「ふはははははは!みろ!これが空気読まないパワーだ!」/良くも悪くも青い政権。熟成まではちょっと渋い。 2009/10/23
yoshikogahaku かわいいからわがままでもいいの! 2009/10/23
tsugo-tsugo 連中はすぐmostとかbestとか言うから気にしなくていんじゃね。アメリカにとってやっかいな相手って自国以外全てかと思ってた。/従順で主体性は無いが協調はする相手と、一貫性が無い人間、マシなのはどっちって話かと 2009/10/23
nminoru Politics これは細川内閣のデジャビューなのか。クリントン大統領の首脳会談との決裂がしたのはもう15年前。今も小沢だけは生き残っている… 2009/10/23
toycan2004 民主党, 日本, 国際, 外交, アメリカ 本当に米に対抗しえるようになったのかはオバマさんが来たときにわかるだろう/普天間の一連の流れを見ているとあまり期待はできそうにないのだが 2009/10/23
bn2islander 政治, 国際 アメリカとタフな交渉しているのなら、厄介者扱いされて喜ぶ所なんだけどね/中国は明確な外交方針がある。だから、交渉可能。日本は外交方針そのものがないから、交渉できない。確かに、日本の方がやっかいだよね 2009/10/23
binwa 民主党, アメリカ, 政治 最も操りやすい国でなければ、やっかいな国って。どんだけわがままなんだ 2009/10/23
gyogyo6 やっと一人前扱いしてもらえましたっ! 2009/10/23
gruxxx 政治 「今まで居心地の良い相手だった」(この句の前にある言葉。因みにFNNニュースより)そうだから、まあそうだろう。民主主義でさえ民意を全部反映できるわけではない。米国の名物なのにね 2009/10/23
hyoro 民主党, 国際 アメリカが「世界の父親」ごっこをしていられる時代は終ったんじゃないかな。 2009/10/23
mahal 外交 いやこれ、「噛みつくなら、せめて地政学考えて噛みつけ」ってお話じゃないの? 2009/10/2315
akizuki_b ニュース まぁ、簡単にあしらえる国だと思われるよりはましだよね、きっと。 2009/10/23
Tamansky 政治・経済, 国際問題 いやあ、今までが従順すぎたってだけでしょう。 2009/10/23
rz1h931f4c 政治, 民主党, 米国 自分たちに非はないと思ってるんだから救いようが無いな 2009/10/23
tow-mas 米国, 民主党, 政治, みんす 日替わりで言ってることが変わってたら、そりゃやっかいに見えるわ(w ただでさえオバマ政権の尻に火が付いている状態だというのに。 2009/10/23
BUNTEN 国際, 政治 議論はすべきだし米要求を丸呑みする必要もないと思うけど、わが民主党は思いつきでもの言う印象があるのが頭痛いところだ。orz 2009/10/2322
metabodepon 米国に反発する態度は勇ましいのだけど、もう少し外交的な含みを持たせて発言してほしいなと思う。経験不足からくる悪影響も国内だけならまだ民意なのだからと我慢できるが、外交はそうもいかない。 2009/10/23
oukayuka まあジャパン・パッシングと称されてシカトされるよりかはマシなんじゃないの? 2009/10/23
kamikawa2007 aho, USA つい最近まで「世界一やっかいな大統領」が君臨してた国にそんなこと言われると照れちゃうぜw 2009/10/2316
shukaido170 民主党, 米国 ようやく植民地から解放された気分だ 2009/10/23
tanacc 日本, 民主党, アメリカ, 政治, 防衛, 国防 ワシントンに盾突いて田中角栄みたくつぶされなければいいけど・・・。 2009/10/23
filinion 国際, 政治 外交とは相手国にとって厄介な存在になることだ、とは思う。しかし「経験不足なのに、官僚でなく政治家主導でやろうとしている」というのは妥当な心配ではある。経験を積むまでは国民も苦労するだろうな…。 2009/10/23
Ar234B2N 今までがいい子ちゃん過ぎたような。 2009/10/23
hokuto-hei この日本語の記事からは、怒りよりは狼狽が伝わってくるけどソースではどうなんだろう?と英語嫌いの私は思うのだった 2009/10/23
guldeen usa, society, international, politics 米国の唯々諾々にならない、って姿勢を見せただけで、ここまで大騒ぎになる米政権内部の阿呆っぷり。下請けから値段要求を突っぱねられて、狼狽する大企業の姿にダブって見える滑稽さ。 2009/10/2325
biconcave それはよかったねw 2009/10/23
Francamente_Pinocchio もうすぐこの国は滅ぶ 外圧に期待するしかないてことか。 2009/10/23
rajendra 外交 (ノ∀`) アチャー 2009/10/23
yukitanuki アメリカ様がお怒りじゃあ 2009/10/23
fireflysquid 社会, 米軍, 国際 「米国に公然と反論するようになった風潮」飼い犬が「お手」を素直にしなくなって大騒ぎ、の図。属国としてではなく対等の友好国にならないと。 2009/10/23


 ざっと見てもわかるが、ワシントン・ポスト紙の記事の背景、あるいは論点とされる日本とアジアの安全保障問題についてのコメントは、ほとんど見当たらない。アメリカが上から目線で日本に物を申してきたので、「世界一厄介な国に言われたくないよな」というように、日本人は反感を持って言い返したという印象が強い。
 この傾向は、おそらく読売新聞記事が「さらに、民主党の政治家たちが「米国は、今や我々が与党であることを認識すべきだ」(犬塚直史参院議員)などと、米国に公然と反論するようになった風潮も伝えた」と結んだことや、最初のコメントの反感が否定的であったことにひっぱられたのかもしれない。はてなブックマークは最初のコメントの論調が否定的だと同様の否定的なコメントが炎上のようにつづく傾向がある。
 朝日新聞記事へのはてなブックマークのコメントでは、脊髄反射的な言い返しもそれほどには顕著ではないが、やはりワシントン・ポスト紙の論点はあまり読み取られていない(参照)。


deep_one 東アジアの安全保障はすでにアメリカなしで行く路線と聞くが?…ああ、それが東アジア共同体構想だったか。アメリカの代わりに中国の軍事力を使うだけなんですけどね。 2009/10/24
buckeye ニュース, アメリカ, 日本, 民主党, 外交, 安全保障 「米民主党は反日」との誤解を解くためにオバマ政権は言葉だけでなく政権人事という行動で対日重視を示した。対する鳩山政権は口先だけ同盟重視で実際の行動は逆。そりゃ米側の堪忍袋の緒が切れて当然だろう。 2009/10/24
quatroshe 「国務省高官」だの「国防省高官」だの言ってないで具体名出せよ。特派員なら見当ついてるんだろ。日本の米国ケツ嘗め忠犬派どもとつるんだ3~4人程度が騒いでるだけなら大笑いだぜ/http://bit.ly/395oCg (2005年の記事) 2009/10/23
Talkiyan_Honin_Jai 日米関係, 民主党, 鳩山内閣 この60年間アメリカ様に尽くしてきたのに、ちょっと不満を言っただけでこれですか?日本人はアメリカという国について考え直すべき時が来ていると思う。今回はマジで腹が立った。 2009/10/23
jt_noSke ダジャレ 好感の持てない発言である 2009/10/23
suyntory_junnama bouei p 米 日 米高官「最も厄介なのは中国ではなく日本」 米紙報道 2009/10/23
nofrills Japan WaPoはこの記事→ http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/10/22/AR2009102201312.html ... あれ、この記事昨日読んだか。WSJは登録してないから探さない。 2009/10/23
kunitaka 民主党, 政治, 日本, 米国 今までが舐めてただけだろ! 2009/10/23
suzu_hiro_8823 asahi.com, 米国, 政治, ただしソースは○○ 但しソースはWP、で、WSJも同じようなネタが出たと。WPは知らんけどWSJって右だからそう言いたくなるよね。 2009/10/23
wartanenemon 新聞 朝日新聞 まぁ良いんじゃない、これでどんどん対等に話出来る様になるだろうから 2009/10/23
depthwinter 東南・東アジアがアメリカ抜きの秩序・経済圏を作るのはアメリカにとっての悪夢だろうしね。 2009/10/23
u-chan us, japan 51番目の州が敗戦後初めて(ホントは2度目)造反してるから、キレてるだけでしょ。 2009/10/23
mustelidae 中国の軍事力の増大が脅威だと言いながらその中国より厄介なんですか 2009/10/23


 オリジナル記事の情報を比較的多めに伝える産経新聞記事へのはてなブックマークコメントはどうか。やや以外なのだが、朝日新聞や読売新聞の記事よりも少ないというか、ほぼコメントがない(参照)。さらに、ワシントン・ポスト紙のオリジナル記事は「U.S. pressures Japan on military package」(参照)に寄せられたコメントは、現状3点のみに限られている。が、国内報道の記事へのコメントのように感情的に言い返すといった短絡なものはない(参照)。
 はてなブックマークのコメントを読む限り、この問題について伝聞報道には反応はあるものの、オリジナル記事への関心は薄く。また国内報道の表現に感情的に反応しているように見える事例が多い。
 オリジナルのワシントン・ポスト紙の記事「U.S. pressures Japan on military package」(参照)と国内報道の対応を見ていこう。
 オリジナルの記事が書かれたポジションだが、次のように記者名が明記され、ワシントン・ポスト紙の社内の人間であることがわかる。日本の大手紙記事のように「ワシントン・ポスト紙が伝えた」というものではない。社説には近いが、社として述べるよりは記者の個性で書かれている記事だ。

U.S. pressures Japan on military package
Washington concerned as new leaders in Tokyo look to redefine alliance

By John Pomfret and Blaine Harden
Washington Post Staff Writer
Thursday, October 22, 2009


 記者のJohn PomfretとBlaine Hardenの両氏については、過去の記名記事が参照できる(参照)。John Pomfret氏が米国内政、Blaine Harden氏が外交を扱っており、どれもアジア全体の安全保障問題に深い見識を持っていることが伺われる。もちろん、だからこそワシントン・ポスト紙の第一面を飾ったのだが、半面、社説として書かれていないこともこの記事の重要性でもある。つまり、個人的な見解の範囲に留まっているとも言える。
 朝日新聞と読売新聞の記事で、報道のポイントにおかれていた「最もやっかいな国は日本」という論点をまずオリジナルとの対比で見てみよう。

【朝日新聞】
米政権がパキスタンやアフガニスタン、イラン、北朝鮮などへの対処に苦しんでいる時、普天間飛行場移設問題などで「アジアで最も親密な同盟国との間に、新たに厄介な問題を抱え込んだ」とした。


【読売新聞】
 記事は、オバマ政権がパキスタンやアフガニスタン、イラクなど多くの課題をかかえており、「アジアの最も緊密な同盟国とのトラブルは、事態をさらに複雑にする」という米側の事情を紹介した。

 オリジナルの対応は次のとおり。

For a U.S. administration burdened with challenges in Pakistan, Afghanistan, Iraq, Iran, North Korea and China, troubles with its closest ally in Asia constitute a new complication.

パキスタン、アフガニスタン、イラク、イラン、北朝鮮、中国との関連で問題に直面するという重荷を負った米国政権としては、アジアにおける緊密な同盟国(日本)との間い起きたトラブルは、新たな厄介な問題となっている。


 朝日・読売の報道に間違いはないが、朝日新聞がイラクと中国を隠し、読売新聞がイラン、北朝鮮、中国を隠したのは、それぞれの社風が感じられて興味深い。些細なことのようだが、オバマ政権が直面しているこれらの国の難題はそれぞれに微妙な色合いがあり、ただ反米的な国家を列挙したわけではなく、それらの微妙な色合いのなかで日本が起こした新しい問題の位置がある。
 「高官」も日本での報道のポイントだったが、どのように対応しているだろうか。

【朝日新聞】
国務省高官は、鳩山政権や民主党が政権運営の経験に乏しいうえ、官僚組織への依存から脱却しようとしていることが背景にあると語ったという。


【読売新聞】
鳩山政権については、「新しい与党(民主党)は経験不足なのに、これまで舞台裏で国を運営してきた官僚でなく政治家主導でやろうとしている」とする同高官の分析を示した。

 はてなブックマークのコメントに「高官名を出せ」というコメントがあったが、そこはどうだろうか。日本の報道でも国務省高官とのみしているのは気になるところだ。

quatroshe 「国務省高官」だの「国防省高官」だの言ってないで具体名出せよ。特派員なら見当ついてるんだろ。日本の米国ケツ嘗め忠犬派どもとつるんだ3~4人程度が騒いでるだけなら大笑いだぜ

 この点については、「特派員なら見当ついてる」のかもしれないが、オリジナルには次のような配慮があった。

The official, who spoke on the condition of anonymity because of the sensitivity of the issue, said the new ruling party lacks experience in government and came to power wanting politicians to be in charge, not the bureaucrats who traditionally ran the country from behind the scenes. Added to that is a deep malaise in a society that has been politically and economically adrift for two decades.

日本との軋轢という微妙な問題から匿名条件で語った政府高官ではあるが、彼は、新政権は行政の経験不足であり、政権交代の機に、伝統的に裏方取り仕切る官僚によるのではなく、政治家によって権力を集中したいと望んでいると、述べた。また、現況は、二十年にわたり漂流しつづけた政治と経済をもつ日本社会の根深い問題であると加えた。


 重要なことは、高官名の匿名性ではなく、米国の認識として、日本が民主党政権になって米国の厄介者となったというより、つまり民主党が主体というより、日本社会の長期混迷の必然的な結果だと米国務長高官が認識しているという点である。「高官」が匿名なのは、むしろ日本への配慮であると見てもよい。いずれにせよ、この高官による論点には多くの日本人が是認せざるを得ないのではないだろうか。その点で、日本での新聞報道はややミスリードだったように思える。
 日本側で報道された他の点についても簡単に眺めてから、オリジナルの自体の問題に戻りたい。

【読売新聞】
さらに、民主党の政治家たちが「米国は、今や我々が与党であることを認識すべきだ」(犬塚直史参院議員)などと、米国に公然と反論するようになった風潮も伝えた。


【対応オリジナル】
DPJ politicians have accused U.S. officials of not taking them seriously. Said Tadashi Inuzuka, a DPJ member of the upper house of Japan's parliament, the Diet: "They should realize that we are the governing party now."

民主党の政治家たちは、米国高官が真剣に対応しないと責めてきた。民主党の犬塚直史参院議員にいたっては、「米政府高官は、我々が支配政党であることを理解すべきだ」と述べた。



【産経新聞】
 同紙は、良好だった日米関係の雰囲気が変わった象徴的な例として、20日に訪日したゲーツ国防長官が防衛省での栄誉礼や歓迎食事会を断ったことを挙げた。
 長官と北沢俊美防衛相との食事はいったん日米間で合意したものの、会談に多く時間を割きたいとの長官の意向を受けて、米側が断ってきたという。鳩山政権が普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設の見直しや、インド洋での自衛隊の給油活動を撤収させる方針を決めたことへの強い不快感の表れといえる。


【対応オリジナル】
U.S. discomfort was on display Wednesday in Tokyo as Gates pressured the government, after meetings with Prime Minister Yukio Hatoyama, to keep its commitment to the military agreement.

米国側の不快感は水曜日の東京でも示されたが、それはゲーツ国防長官が日本政府に圧力をかけるためで、軍事同盟を遵守するよう鳩山首相と会合後のことだ。

"It is time to move on," Gates said, warning that if Japan pulls apart the troop "realignment road map," it would be "immensely complicated and counterproductive."

「進展すべき時期だ」とゲーツ氏は述べ、日本が「在日米軍再編成ロードマップ」を引き裂くようなことになれば、「とてつもなく厄介で逆境ととなる事態」になるだろう」と述べた。

In a relationship in which protocol can be imbued with significance, Gates let his schedule do the talking, declining invitations to dine with Defense Ministry officials and to attend a welcome ceremony at the ministry.

重要性をもって外交手順を踏むという関係から、ゲーツ氏は伝達の予定をこなしたものの、自衛隊高官と夕食会と政府歓迎式典参加を断った。


 産経新聞は「日米関係の雰囲気が変わった象徴的な例」としているが、これは単純に外交上のメッセージであったので、ややミスリードのきらいはあるが、「強い不快感の表れ」についてはオリジナルを正確に反映している。

【産経新聞】
 長官は鳩山由紀夫首相らとの会談で、11月のオバマ大統領の訪日までに普天間飛行場移設の結論を出すよう求めた。しかし、日本側は困難との考えを示した。


【対応オリジナル】
Hatoyama said Gates's presence in Japan "doesn't mean we have to decide everything."

鳩山は、ゲーツ訪日は、米側要求をすべて決定しろという意味ではないと言ってのけた。


 一応対応を挙げたが、この点については対応はちょっと無理で、産経側の独自の書き込みだろう。

【産経新聞】
 同紙は「米側の圧力に対して日本側は平然としているようだ」と日米の距離感の広がりを指摘した。

 ここは引用符でくくってあるわりに、オリジナルの対応箇所は私にはわからなかった。だが、オリジナルの記事の最終部では、この点を強く、かつ皮肉に暗示してはいる。

"I have never seen this in 30 years," Calder said. "I haven't heard Japanese talking back to American diplomats that often, especially not publicly. The Americans usually say, 'We have a deal,' and the Japanese respond, 'Ah soo desu ka,' -- we have a deal -- and it's over. This is new."

コールダーが語こう語った。「30年も間、米国外交官への口答えを、公式ではないにせよ、これほどまで聞いたことはなかった。米国人から「協定があります」と言えば、日本人は「ああ、そうですか」と答えたものだった。しかし、その時代は終わった。新しい時代となった。


 口答えする日本人というのを強調してオリジナル記事は終わる。
 当然ながら、これは日本人に不快感を残す。読売新聞が「米国に公然と反論するようになった風潮も伝えた」と記事を締めるのもわからないではないし、はてなブックマークに、同種の口答えが多く見られたのも、共感しやすいだろう。ただし、それがこの問題の本質ではなく、むしろ、東アジアの安全保障の同盟の困難な条件を示すだけのはずであった。
 さて、国内報道から抜け落ちたオリジナル報道を見ていこう。
 一番重要なことは、ワシントン・ポスト紙のこの記事がどのような意図をもって書かれたかという点だ。これは冒頭に明記されている。国内報道でも概括的には言及されてはいたが、原文で確認しておこう。

Worried about a new direction in Japan's foreign policy, the Obama administration warned the Tokyo government Wednesday of serious consequences if it reneges on a military realignment plan formulated to deal with a rising China.

日本外交の新進路への懸念から、オバマ政権は水曜日東京の民主党政府対して、もし日本政府が、台頭する中国対処のための軍事再編成を破棄するのなら、深刻な結果をもたらすだろうと警告した。


 ある意味露骨に書かれているのだが、今回の普天間飛行場移設見直しに関する米側の要求は、単に同飛行場の移転問題ではなく、アジア全域に関わる軍のフォーメーションに関連しており、それは、先日の中国建国60周年で世界が見ることにもなった兵器に暗示される、中国の目覚ましい軍拡への対応である。また、この件について日本が対応しないなら、深刻な結果(serious consequences)になるという。
 問題は、その深刻な結果とは何を指すのかだが、私が読んだ限りでは、同記事には書かれていない。現状、他報道から推察されることは、在日米軍のグアム移転が頓挫することであり、沖縄市街に危険な軍事基地と多数の海兵隊駐留が残ることになる。おそらく、それを民主党政府が認めないとしても、軍事力をもって鎮座している米軍を撤去することはできないのではないか。
 また、中国の軍拡への対応が論点の中核にあるということが、この記事の後半で扱われる、鳩山氏による「東アジア共同体構想」との関連がある。米側ではこの構想を滑稽なものと見ているものの、日本が米国同盟から親中国外交に切り替わり、そのことから日本が中国側の軍拡の影響下に組み入れれるべく変貌することの懸念が感じられる。

Other Asian nations have privately reacted with alarm to Hatoyama's call for the creation of the East Asian Community because they worry that the United States would be shut out.

その他のアジア諸国も非公式な対応ではあるものの、鳩山氏による「東アジア共同体構想」へ警告を発している。理由は、アジア諸国は米国が排除されることに懸念を覚えているからだ。

"I think the U.S. has to be part of the Asia-Pacific and the overall architecture of cooperation within the Asia-Pacific," Singapore's prime minister, Lee Hsien Loong, said on a trip to Japan this month.

リー・シェンロン・シンガポール首相は、「米国はアジア太平洋地域の一部であり、かつこの地域の協調機構の一部でもある」と、今月の日本訪問で言及していた。


 アジア諸国から、鳩山氏による「東アジア共同体構想」へ懸念の声があるとワシントン・ポスト紙記事は述べているが、事例としてはリー・シェンロン・シンガポール首相の言及に留まっていて説得力には乏しい。だが、この問題こそ、台頭する中国を前に非公式(privately)にしか言及できない性質の問題であるからかもしれない。
 もう一点だけ述べてこのエントリを終えよう。

The DPJ rode to power pledging to be more assertive in its relations with the United States and has seemed less committed to a robust military response to China's rise. On the campaign trail, Hatoyama vowed to reexamine what he called "secret" agreements between the LDP and the United States over the storage or transshipment of nuclear weapons in Japan -- a sensitive topic in the only country that has endured nuclear attacks.

政権を得た日本民主党が米国との関係により強行な態度になっていくことに対して、中国の軍事的台頭への対応により尻込みしつつある。選挙遊説中のことだが、鳩山氏は、自民党と米国間で交わされた、いわゆる核疑惑(核保有と核持ち込み)について再検討すると公約した。これらは、唯一の被爆国である日本にとって微妙な話題である。


 この段落だけでは理解しづらいし、またオリジナル記事では、鳩山政権の反米的な傾向を示す文脈にあるのだが、米国側の不快感を暗示させているように読める。
 少し踏み込んでいうことになるが、米国としては日本が自国防衛を放棄して核の傘を出るなら、太平洋地域における中国の軍事的台頭を許すことになり、ひいては、不安定な弧、つまり、太平洋からインド洋、中近東に至る地域の自由貿易の地歩を放棄することになるだろう。日本が中国の一部となっても、それが主権国家の選択であるなら、米側としては日本を同盟から仮想敵国に移し換えるだけのことだが、不安定な弧全体への軍事的な支配を放棄することはないだろう。その点から考えれば、米国が日本での軍事プレザンスを放棄することはおそらくないだろう。

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2009.10.23

ウォールストリート・ジャーナル掲載「広がる日米安保の亀裂」について

 ウォールストリート・ジャーナル(電子版)に掲載された、元国家安全保障会議(NSC:U.S. National Security Council)不拡散戦略部長(director for counterproliferation strategy )のキャロリン・レディ氏(Ms Carolyn Leddy)による寄稿「広がる日米安保の亀裂(The Widening U.S.-Japan Security Divide)」が、普天間飛行場移設問題に関連した米国側の苛立ちを日本に伝える国内ニュースの一つとして、時事通信と産経新聞で報道されていた。国内報道からは見えてこない部分があるようにも思えるので、国内報道のされ方とオリジナルについて少し考察しておきたい。
 時事では23日付け「鳩山外交「同盟むしばむ」=普天間見直し、東アジア共同体批判-元米高官」(参照)で、「同氏は、普天間飛行場移設問題などを挙げ、鳩山政権の外交・安保政策は「東アジアの安全保障の礎石である日米同盟をむしばむ恐れがある」と警告した」としてこう続けている。


 同氏は、米軍の抑止力低下につながる同飛行場の国外移設を鳩山由紀夫首相はあきらめていないと指摘。首相が東アジア共同体構想と「戯れている」ことや、岡田克也外相が核先制不使用に関する対米協議に言及したことにも触れ、こうした姿勢では中国の軍拡や北朝鮮の核問題には対応できないなどと批判した。
 さらに、オバマ大統領と鳩山首相はそれぞれ国民の安全を守る責任を負っていると強調。そのため「アジアで最も重要な同盟に広がる分裂を食い止める」ことが必要だと訴えている。

 べた記事に近いのはやむを得ないのだが、前段では「こうした姿勢」がわかりづらい。後段は「それぞれ国民」が文脈上、米国民と日本国民に受け取れる。間違いではないのだが、オリジナルにはもう少し微妙な含みがある。
 今朝の産経新聞に掲載された古森義久氏の記事「「鳩山政権は東アジアの安保を浸食」米元高官」(参照)はもう少し詳しい。そこでオリジナル「The Widening U.S.-Japan Security Divide」(参照)と対比して見ていこう。産経記事から。

まず「ゲーツ長官は日本の新政権に『日米同盟を再交渉する意図はない』という強固なメッセージを伝えた」と述べ、「長官は普天間基地の滑走路の一部修正には応じるが、移転の基本は15年前の両国政府の合意であり、再交渉する意思はないと日本側に告げた」と強調した。

 オリジナルの対応は二箇所に分かれる。対応箇所だけ見ると、正確に伝えていることがわかる。

Secretary of Defense Robert Gates delivered a tough message to the new government in Tokyo this week: The U.S.-Japan security alliance is not up for renegotiation.


Mr. Gates said Tuesday that he's willing to modify Futenma's landing strip, but not renegotiate a deal that was 15 years in the making.

 次に。

 同論文はさらに鳩山新政権がインド洋からの自衛隊撤退、米国への核先制不使用宣言の押し付け、東アジア共同体の創設を進めているとして、このような姿勢は「東アジアの安全保障の基盤である日米同盟を侵食しようとする脅しになる」と批判した。

 この部分の対応も二つに分かれ、前半は次の部分になる。

There's more: The Democratic Party of Japan-led government has already stated that it will not renew the Indian Ocean refueling mission that supports U.S.-led operations in Afghanistan. Foreign Minister Katsuya Okada said Sunday he wants to discuss a nuclear no-first-use policy. And Mr. Hatoyama continues to toy with the idea of establishing an East Asian community as a rival to Western economic and security institutions.

 岡田外務大臣による核の核先制不使用の話が産経記事では抜けている。が、これは後に言及するためであろう。
 時事の記事には「戯れている」とあったが"to toy with"(弄ぶ)の部分は産経記事では強調されていない。原文ではご覧の通り、鳩山氏が西側諸国の経済と安全に対立する組織に危険な遊びを行っているとの含みがある。
 後半は、きちんと対応している。

Tokyo's position threatens to undermine the cornerstone of East Asian security: the U.S.-Japan alliance.

 三点目に移る。

 沖縄駐留米軍が東アジアにおける唯一の常駐海兵隊として、日本だけでなく韓国や台湾を守る機能や、人道作戦を実施する能力を保つことも指摘した。

 対応はほぼ正しいのだが、沖縄駐留米軍というより、米国海兵隊という存在の特徴が重視されていることが産経記事からはわかりづらい。

They protect both Japan and neighboring U.S. allies such as South Korea and Taiwan and provide the only permanently forward-deployed, brigade-sized Marine Corps unit that can conduct humanitarian assistance and combat operations.

 四点目に移る。

 日本の民主党の主張を非論理的だとする同論文は、核先制不使用について「東アジア・太平洋での抑止力の柔軟性と信頼性を保つには『核の傘』のあいまいさこそ効果があり、日本の安全もその傘に保障されてきた。だから日本の歴代政権も米国の核先制不使用に反対してきたのだ」と主張。東アジア共同体については「この構想で中国の軍拡や北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの脅威にどう対応するのか」と疑問を提起した。

 対応は次の部分だ。

The DPJ's ideas just don't make sense. Previous Japanese governments consistently opposed a no-first-use nuclear policy to preserve the deterrent value of the U.S. nuclear umbrella, under which Japan's security is guaranteed. Maintaining ambiguity is essential to preserving the credibility and flexibility of this deterrent in Asia-Pacific. As for the East Asian community idea, how will that counter China's growing military or the North Korean nuclear and ballistic-missile threat?

 ここは原文でもわかりづらいところだ。
 ようするに自民党も核先制不使用に反対してきたものの、民主党政権の岡田外相のように、これをオモテに出して議論するのは、イミフ("just don't make sense")ということだ。つまり、核による安全保障というものを民主党政権はまったく理解してないだろという示唆がある。
 五点目で産経記事は終わる。

 同論文はさらに、日本の民主党が「東アジアの安保構造全体を改変しようとするのか」と問い、鳩山政権の安保政策を「分裂症的」と形容。日米安保関係では過去50年ほど、米国が財政的にも作戦的にもずっと多くの負担を引き受けてきたとも述べ、「オバマ、鳩山両氏は拡散防止や軍縮目標を共有しているが、自国民を守る責任も有している」として、「アジアで最重要な同盟関係に広がりつつある分裂を縮めること」こそ重要だと警告した。

 対応だが、前半は正確には対応していない。

At worst, the DPJ could be trying to recast the entire East Asian security architecture. Undoubtedly Seoul, Beijing and Pyongyang have taken note of Tokyo's increasing security-policy schizophrenia.

 この文脈の前に"At best"があり、それに続いて、悪いシナリオ("At worst")だと、「東アジアの安保構造全体を改変しようとするのか」ということであり、現下のこうした鳩山政権の対応は、韓国、中国、北朝鮮から、統合失調症患者のような国家戦略ではないかと注視されてきた、ということだ。
 「統合失調症患者のような国家戦略」は、米国から日本への非難というより、日本を取り巻く諸国が日本の動向に猜疑心を抱いているということだ。軍事的な意味合いでいうなら、本当に米国の同盟が切れたのなら日本を侵略してもOKなんだろうかというメッセージが十分に受け取れないという状況を示している、ということだ。
 後段も間違ってはいないが、オリジナルには微妙な含みがある。

Both President Obama and Prime Minister Hatoyama share aspirational nonproliferation and disarmament goals. But they also have the responsibility to protect their citizens from harm today. And that means bridging the widening divides in Asia's most important security alliance.

 簡単に言えば、日本対米国というスキームよりも、日本の「統合失調症患者のような国家戦略」がアジア諸国の安全保障上最も重要な構造を壊す懸念が憂慮されている。
 もちろん、そんなものは米国の勝手なご都合主義だとも言えないでもないが、全体のトーンとしては、米国と日本でアジア諸国の安全保障上の構造を守らなくてならないという含みは強い。
 以上が、産経記事からのオリジナルへの対応だが、抜け落ちている部分は当然ある。
 まず、普天間飛行場移設問題は、国内報道で言われるような沖縄問題ではなく、ゲーツ国務長官も強調していたが、在日米軍のあり方の全体象のなかで捉えられているということだ。

The most pressing issue is the 2006 agreement to close the U.S. Marine Corps Futenma Air Base in downtown Okinawa and relocate it to a nearby coastal area. The base has been a source of local tension for many years. In addition, approximately 8,000 troops are scheduled to be transferred to Guam, lowering the overall U.S. military presence in Japan to around 40,000 troops.

最も緊急の課題は、沖縄市街地にある海兵隊沖縄飛行場を閉鎖と近隣の沿岸地域への移設を行う2006年合意である。普天間飛行場は長年にわたり沖縄の問題となっている。加えて、8千人の軍人はグアムに移転する予定であり、これによって在日米軍規模は約4万人に縮小される。


 普天間飛行場の移設が問題なのではなく、在日米軍のあり方が問われている点が重要だ。
 先ほどの"At best"シナリオだが、次のように鳩山政権が国内世論の空気に迎合しているだけではないかとの米国側の楽観論でもある。

At best, Mr. Hatoyama may be playing to a domestic audience. Nearly 61% of the DPJ's Lower House members favor removing Japan from under the U.S. nuclear umbrella, according to a recent local newspaper poll.

ひいき目で見るなら、鳩山氏は国内の空気に迎合しているだけだろう。日本での最近の新聞調査によれば、衆院の民主党議員の61%もが、米国の核の傘から出ることを支持している。


 実際のところ、鳩山政権は国家安全保障ですら、メディアを通した日本国民の空気に右往左往しているので、米国としては、この日本社会の空気の側にもう少しリアリズムの情報を流すということはありうるかもしれない。
 産経記事が決定的に抜け落ちたのは次の部分だ。ここはそのリアリズムを示唆しているだろう。

Rather than trying to undermine Tokyo's best ally, Mr. Hatoyama might start by re-examining Japan's own contribution to the alliance. For 50 years, the U.S. has borne a disproportionate share of the burden of the security relationship, both financially and operationally. If Mr. Hatoyama wants to correct this disparity, he could start by prioritizing defense spending over other populist initiatives.

日本の最善の同盟を棄損するより、鳩山氏は、日本がどれほど同盟に貢献してきたか反省すべきかもしれない。50年にもわたり、米国は日米安全保障条約という重荷を、経済面でも戦略面でも不釣り合いなほどに負ってきた。もし鳩山氏が不均衡を正したいというなら、民主党が行っている大衆ご機嫌取りの政策よりも上位に、防衛のための軍事支出を置くことから着手すべきだろう。


 現在の日本人の一般的なイメージとしては、在日米軍は、日本人が頼みもしないのに軍を引き連れてきたやっかいものであり、それでも敗戦国として思いやりを持つべく思いやり予算を割いているのだくらいの対象として認識されているのではないだろうか。
 しかし米国としては、対等な国家の関係(同盟)というなら、防衛面だけでも、きちんとした戦略・組織をもち、そのための国家予算を優先課題にしなければならないと見ている。もっと露骨にいうなら、米政府の本音としては、対等ではない日本のために、米国の若者の血を流すわけにはいかないということだ。
 日本の現状としては、米軍がなくても東アジアは安定すると考える人もいるだろう。むしろ、そのほうが平和で安定すると考える人もいるに違いない。それはそうかもしれない。過去の歴史を学んでもなお、米軍こそ日本とアジアの平和の棄損原因だと主張する人が少なくないのが、現在の日本であるのかもしれない。

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2009.10.21

元大蔵事務次官斎藤次郎・日本郵政社長

 世の中の悪が悪人の意図から起こっているなら話はそう難しくない。難しいのは二つの異なる善が結果的に世の中の悪を引き越してしまうときだ。いや、そうなるときはもう善悪というのは結果論というか、物の見方に過ぎない。何が善で何が悪なのか。それが難しい局面においては一時的に善悪の視点を保留したほうがよいのだろう。
 辞任する日本郵政西川善文社長の後任として、亀井静香郵政改革担当相が、元大蔵事務次官・現東京金融取引所社長の斎藤次郎氏を起用すると発表したとき、私の脳裏にはぐぉーんとにぶい嫌な音がしたように思えた。いったいどういうことなんだという警戒と、ああそういうことだったのかという新局面のビジョン。二つの思いが交錯した。
 脳裏の鐘音とともに起きた胸中の「うちあたい」から語りたい。「うちあたい」は沖縄の言葉である。「うち」は内心、「あたい」は当たるということだ。心の思いに当たるこということで「内心反省すると自分に当てはまる」いうこともでもあるが、もう少し微妙な含みもある。うちあたいは先日の選挙速報の夜のことだった。
 あの夜、インターネットではアルファブロガーの池田信夫氏と、同じくアルファブロガーの小飼弾氏が実況対談をしていた。私はリアルタイムには聞かなかったが、翌日その内容をMP3ファイルでダウンロードしiPodに入れて聞いた。リアルタイムの実況解説番組だろうと思っていたが、内容はどちらかという散漫な政治放談の類で、ブログでは過激にも見える池田氏が対話の要所要所で政治の背景知識の乏しい、若い世代の小飼氏にそれとなく諭しているのが興味深かった。なかでもふと吸い込まれるような話題だったのが、池田氏による斎藤次郎氏への言及だった。
 政治家を官僚がフォローすると政局に巻き込まれて冷や飯を食うことになるといった文脈だったと記憶している。それ以上の展開はなかった。池田氏はおそらく小飼氏の顔を見てこの話題は深掘りするまでもないと思ったのだろう。私はといえば、ああ斎藤次郎氏か、と妙に心にひかかり、少し呆然としていた。斎藤氏はすでに過去の人ではないのかという思いと、一昨年の自民・民主大連立の裏話に後に斎藤氏が絡んでいたことを知ってのいやな感じが混じり合った。
 あの大連立話は、当時は渡辺読売会長と自民党森元首相が裏で主体的に動き、小沢氏はどちらかというと彼らへの義理立てとして受け身で動いたのだろうと私は読んでいた。ただしその場合、森元首相の広い人脈はあるとして、渡辺読売会長と小沢氏との間に義理や借りといった強い恩義の関係がなければならないのだが、その後の渡辺氏のバックレかたは子供じみていて、疑念が残っていた。何かミッシングピースがあるだろうと心に引っかかっていたが、それが斎藤氏なのだろうか? 斎藤氏が小沢氏に声を掛けたのなら、裏話は自然な流れになる。小沢氏には斎藤氏に借りがある。大蔵省十年に一度の救国の逸材を葬り去ったのは、小沢氏でもある。
 今回の日本郵政社長の斎藤氏起用は、亀井氏は氏個人の発案であると言っているが、小沢氏の裏を取っているのか、あるいは斎藤氏自身による意思なのか、はっきりとはわからない。今後も表立ってはわからないだろう。だが斎藤氏に白羽の矢が立った理由に小沢氏の思惑があることは間違いない。
 小沢氏は世間では剛腕・独断と言われているから、一般的には今回のサプライズも小沢主導の人事と見る人も多いだろう。私は小沢シンパでもあったから思うのだが、経済のわからない小沢氏のことだから、斎藤氏への義理・借りというくらいの意味だろう。しいて言えば、財務省のネオ大蔵省化へのプロセスを是認するという以上の意味はないように思う。その点から言えば、むしろこの人事は斎藤氏自身の復権の意思の発現に近いだろう。だが、ではその意思とは何か?
 陰謀論のように聞こえるかもしれないが、ごく簡単に思いつくのは、郵政の資金でファイナンスする巨額なカネを財務省ことネオ大蔵省で扱うことではないだろうか。もっとも、郵貯から財投へというような姑息な仕組みが再現できるわけもなく、また斎藤氏も郵政のカネだけが目当てというものではないだろう。では、彼にはどのような思惑があるのだろうか。それは、15年前の軌跡を辿って推測するしかない。
 1994年2月3日午前1時のことだった。前年に成立した非自民・非共産連立政権(実質小沢氏が実権を握っていた政権)の細川内閣の時代。細川首相がその深夜唐突に記者会見を開き、3%の消費税を廃止し、代わりに7%の消費税に相当する福祉目的税「国民福祉税」を創設すると発表した。寝耳に水とはこのことで翌朝からの猛反対が起こり、実際のところこの深夜の珍事で第一次小沢政権は潰れた。この珍事のコンテを描いたのが元大蔵事務次官斎藤次郎氏だった。
 当時の政府税制調査会加藤寛会長の回想が興味深い。読売新聞「[時代の証言者]経済政策・加藤寛(15)「福祉税」わずか1日で撤回」(2007.2.26)より。


 細川護煕(もりひろ)首相の時だ。大蔵省の斎藤次郎事務次官、通商産業省の熊野英昭事務次官の2人から料亭に呼び出された。
 政府税制調査会の会長が次官に呼び出されるのも変な話だ。「誰にも言わないで1人で来て下さい。主税局にも秘密にして」と、どこか芝居じみている。
 2人は「消費税率を7%に引き上げたい」と切り出した。私は「これは簡単に返事ができる話ではない。検討します」と言って、帰ってきた。

 この奇っ怪な話が、あの深夜の珍事に結びついた。

 2週間ほどしたら、細川首相からも電話がかかってきた。
 「ほかの人には絶対に言ってはいけない。黙って夜に官邸に来てくれ」
 キャピトル東急ホテルに車を待たせておくから、乗り換えて来いという。政府税調の石弘光委員と2人でタクシーに乗って行った。
 ホテルを出た車は、目と鼻の先の官邸の裏門前に止まった。正門から入ると新聞記者にばれるからだろう。
 裏木戸をくぐると、坂道があって、石だらけだった。石さんが「石ばっかりだな」と言ったのを覚えている。石さんは登山が趣味だから平気だったが、歩きにくかった。真っ暗闇の中、芝生の庭を横切って細川首相の部屋にたどり着いた。
 細川首相は「自分はこれから消費税率を7%にすると発表するが、どうだ」と言って、税率引き上げ案を見せる。首相はかなり興奮していた。大変な決意だった。
 案文を見て、石さんが「ここは、こうした方がいい」と一部を手直しした。すると、細川首相は案文を別室に持って行く。おそらく別室には斎藤次官らが控えていたのだろう。

 加藤氏の回想記事は、「細川首相と組んで改革を実行しようとした2人の事務次官の革命も終わった」として終わる。修辞であるともいえるが、当時の斎藤次郎事務次官らの革命とも言ってもよいだろう。革命は失敗し、この騒動を火種に4月28日、政権は消滅した。続く羽田内閣も二か月で潰えた。小沢氏の政権権力も消滅した。短命の二つの内閣の大蔵大臣は藤井裕久氏現財務大臣でもあった。
 それにしてもなぜ、当時の細川首相は斎藤次郎事務次官らの絵コンテをそのままなぞることになったのか。二つ、裏がある。一つは簡単だ。御輿は軽くて馬鹿がよい。担ぎ手の是認である。もう一つは「主税局にも秘密にして」という部分だ。ここの読みは難しいが、その後の大蔵省内の権力の流れから薄っすらと見えてくる。
 「国民福祉税構想」という唐突な消費税大幅引き揚げ策だが、担ぎ手の側の裏話も込み入っていた。当時の読売新聞記事(1994.02.04)「なぜ? 唐突の「国民福祉税」構想 選挙影響最小限に 社党への踏み絵説」が生々しい。

 今回の構想が政府・連立与党内で本格的に検討され始めたのは、臨時国会閉幕日の先月二十九日に政治改革関連法が成立した直後だとみられている。
 というのも、二十六日夜、都内のホテルで小沢一郎新生党代表幹事、市川雄一公明党書記長、米沢隆民社党書記長の三人が会談、その席に藤井裕久蔵相が呼ばれた際、衆院本会議での再議決が否決になれば、衆院解散も想定され、その場合は所得税減税と消費税率引き上げの切り離しはやむを得ないとの判断を確認していたくらいだ。
 それが一転、小沢氏らが消費税の税率引き上げに向けて走り出したのは、先月三十日、武村正義官房長官が高松市内での記者会見で、所得税減税と消費税率アップの切り離し論を打ち上げたのがきっかけだ。発言の内容自体は、連立与党内の空気を反映したものだったが、武村氏主導の決着が意に沿わない小沢、市川、米沢の三氏が大蔵省の斎藤次郎事務次官ら幹部を巻き込んで、「一体処理」に向けて動き始めた。
 今ここで消費税率アップを決断すれば、来年の統一地方選、参院選、その後の衆院選などへの影響が少ないと判断したようだ。
 政府・連立与党内で何も議論されないのにもかかわらず、「国民福祉税」構想の原案が突然、大蔵省案として浮上するのは、二日午後三時からの与党代表者会議の席上だ。小沢、市川、米沢の三氏の思惑は、各党内でもほとんどの幹部が知らされていなかった。
 それだけに、同日夜、この「国民福祉税」構想が一気に政府案にまで駆け上ったことに驚き、小沢氏側近を自認する若手議員でさえ、「だましうちだ。国民は納得しない。小沢さんはどこかで国民のことを信用していないんだ」と反発したほどだ。

 翌年の選挙のための政局を小沢氏が読み違えたということのようだ。さらに小沢氏と斎藤氏の関わりの背景には、「極東ブログ:江畑謙介さんの死に湾岸戦争を思い出す」(参照)で触れた、小沢氏主導の湾岸戦争拠出金があった。そしてそれが恐らく、斎藤氏に対する小沢氏の借りの基点でもあっただろう。
 斎藤氏側の背景の動きはどうだったか。

 とは言え、「小沢シナリオ」ですべてを理解するのは、無理があるようだ。
 確かに、九一年暮れの予算編成の際も、当時、自民党竹下派会長代行だった小沢氏が、大蔵省と二人三脚で、事実上の消費税率アップである「国際貢献税」構想を自民党税制調査会の頭越しに、唐突に提案。「民主的な手続きを取らなかった」と糾弾され、日の目を見なかったいきさつがある。
 しかし、今回は、その時以上に、「健全財政のために垂れ流しの赤字国債の発行は絶対に許さない」、「減税をするなら、財源の確保は当然だ」とする、大蔵省の執念があった。
 同省の斎藤事務次官は一日深夜、首相公邸で首相に対し、来年度予算に関する財政状況を説明した。
 「国債発行残高から判断して、来年度、赤字国債を発行することは不可能です」
 斎藤氏の行動は、三十日に武村官房長官が「財源として短期国債発行はやむを得ない」と発言したことへの財政当局の反撃だった。

 赤字国債に突き進む政府に対して、大蔵省としてはなんとしても財源の確保をしておきたかった。斎藤氏の正義でもあっただろう。
 当時のこの状況は、現下の状況に重なるものがあり、斎藤氏の心中を察する材料にもなる。高齢化に向かう日本の末路は15年前にもはっきり見えていた。未来の日本を支える確実な税収が必要になる。直接税の比率が高ければ安定した税収は見込めない。大蔵省の人員で対応すらできないのだ。欧州並みの間接税の仕組みを日本になんとしても構築しなければならない。それはそれなりの正義でもあるだろう。
 失敗した革命には粛正が伴う。6月30日に成立した自社さ連立政権で、先鋒を当時の野中広務自治相が担った。野中氏にはお調子者の援軍もいた。それが誰であったか覚えている人はいるだろうか。読売新聞「大蔵処分巡り閣僚懇で批判 当時の藤井蔵相処分を 斎藤次官も責任を取れ」(1995.3.14)より。

 東京協和信用組合の高橋治則・前理事長との親密な交際問題で、大蔵省が関係幹部の処分を決めたことに関連して、十四日の閣議後の閣僚懇談会で、処分対象の接待が行われた当時の蔵相ら幹部や、斎藤次郎事務次官を処分すべきだとの声が相次いだ。
 野中広務自治相は「五年前に中西啓介大蔵委員長(当時)の勉強会を機に始まったことだ。五年前のことで処分するなら、当時の藤井裕久蔵相らも処分すべきだ」「一昨年九月に大蔵省が検査に入って乱脈ぶりを認識していたのに、適切な処置をしなかった当時の幹部の処分をしないのはおかしい」などと主張。さらに、「事務方のトップが責任を取って事態を収拾すべきだ」と斎藤事務次官が引責辞任すべきだとの考えを強調した。
 さらに野中氏は、斎藤氏について、細川政権時代の国民福祉税構想に関し、「大蔵省が政治に手を出し、役所のトップが首相にこれを発表させたのに責任を取らなかったことが現在の状況につながっている」と厳しく批判した。
 亀井静香運輸相、山口鶴男総務庁長官も同様の見解を示し、野中氏に同調した。

 斎藤氏は5月27日幹部異動で交代することになった。記者会見では「官僚は表面に出ることなく、黒子として政権を支えるものであり、表に出たのはやや不本意だった」と述べていた。
 野中氏はその後も斎藤氏の復権には目を光らせて続け、1999年でも「自自連立で大蔵省の斎藤次郎元事務次官が復活して大蔵省支配になるとか書いているが、日本の大きなかじ取りを間違った役人を再び許すことはない」と威嚇を続けた。
 その野中氏も政治を去り、彼の心配も消えたかに見えた日々が2000年以降続いていた、と私も思っていた。そうではなかった。タイムマシンはSFの世界にしかないと言われる。しかし、日本政治の世界にも、あった。今、歴史が巻き戻される。

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2009.10.18

[書評]毎月新聞(佐藤雅彦)

 「だんご三兄弟」や「ピタゴラスイッチ」のプロデュースで有名な佐藤雅彦さんのコラム集「毎月新聞」(参照)が中公文庫の新刊になっているのを見て、ちょっと懐かしくなって買って読み直した。とてもよかった。美文というのではないのだが、これだけの現代的な名文コラムはないんじゃないか。しかも、名文コラムにありがちな、奇妙な力こぶも、鼻につくレトリックもない。なによりよかったのは、10年して読み直してこの文章の真価がはっきりわかることだった。

cover
毎月新聞
(中公文庫)
佐藤雅彦
 「毎月新聞」は、1998年10月21日から2002年9月18日まで、ほぼ4年に渡り、毎月、「毎日新聞」に掲載された。ミニチュア版の新聞の体裁で独自の四コマ漫画(実際には三コマが多い)と余録も掲載されている。たのしい洒落だ。そういえば、この手の趣向は山本夏彦氏の「「豆朝日新聞」始末 (文春文庫)」(参照)にもあった。
 紙面の体裁は、文庫の表紙にも生かされている。この体裁は2003年の単行本でも同じだった。単行本は、毎日新聞掲載時の誌面感覚をそのまま生かした大判のイメージだったが、今回の単行本では4ページに分けている。各コラムには表紙が1ページ付くことから、ページの都合白ページがコラムの末に入る。デザイン的な決断もあったのだろうが、この白ページがちょっといい効果を出している。本文の書体は、新聞の書体らしさを生かしている。
 コラムの特徴を一番表しているのが、表紙にもなった「じゃないですか禁止令」だ。「わたしたちって、なんとかじゃないですか」という曖昧な共感を求める言い方は止めようという、コラムにありがちなネタでもあるだが、話の展開が知的で、かつイラストの絵ともあいまって楽しい。このコラムを読んだだけで、本書を買う判断ができるだろう。
 佐藤氏が毎月新聞を書いた時期は、ちょうど「だんご三兄弟」(参照)のヒット時期でもあり、その裏話も面白い。後半には「ピタゴラスイッチ」(参照)の内幕話もある。
 コラムニストにありがちな、特定読者が好みそうな話題をねちっとつなげるというワザは少ないように思える。話題の微妙な広がりと、10年後に読んでもその視点と感性が古びないのは名文の所以だろう。それでも、静かな基調として佐藤氏の故郷、伊豆の海辺の町の話が繰り返され、それは巧まずして「真夏の葬儀」という珠玉の文章にまとまる。これだけで映画が一本できそうなくらいの含蓄がある。
 今回の文庫化にあたり、現在の視点から選んだ、当時の月ごとの出来事が手短に掲載されている。選択したのは著者佐藤氏ではないのかもしれないが、何気なく選ばれている出来事のようでいながら、コラムと相まって、この10年間の日本の歴史を深く考えさせられる。
 過ぎていくものに対する微妙な感覚は、「取り返しがつかない」というコラムに静かに深く描き出されている。高校の同級生の名簿のなかで友だちの死を発見する。

 Sの死が取り返しがつかなことは、どうしようにも逆らえないことである。しかし、僕が取り返しようがないと感じたのは、そのことではない。それは、Sが当然どこかで生きていることを前提として、僕自身が生きて来たことである。別の言い方をすれば、僕がそのSの存在があるものとした”バランス”で生きていたのだ。知らずに過ごしてきてしまった長い時間こそ、僕にとって、もうひとつの取り返しのつかないことであった。

 時の流れは不意打ちのように不在の逆襲をする。今本書を読み返すと、この十年に実は失われたある情感を、少なからぬ人が大切に生きていたことに気がつく。そして、ある種呆然とするかもしれない。

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