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2009.09.29

大恐慌の時、米国民はけっこう健康だったらしい

 「世界大恐慌(The Great Depression)」と呼ばれる大規模な不況の時代。1929年に始まり1940年代初頭までほぼ10年も続いた時代。株価は暴落し、銀行はばたばたと潰れた。企業も数多く潰れた。米国では失業率が25パーセントに及び、街中に失業者が溢れた。自殺者も目立った。不幸のどん底のような時代であった……かに思われていた。だが、実際にこの時代の人々の寿命を調べてみたら、あれれ、寿命は延びていた。健康でもあったようだ。ほんとなのか。元ネタは科学的な調査である「大恐慌時代の生死: Life and death during the Great Depression (pnas.0904491106)」(参照)だ。
 このネタを食ったデイリー・メール紙は、「元気を出せよ! 世界大恐慌時代を研究したら、困難な時代のほうが健康によいんだってさ(Cheer up! Study of Great Depression shows hard times are good for your health)」(参照)という標題で報道していた。サイエンス・デイリーは「世界大恐慌に希望の兆しはあったのか。寿命は6.2年伸びていた。(Did The Great Depression Have A Silver Lining? Life Expectancy Increased By 6.2 Years)」(参照)と、もう少し冷静に伝えていた。サイエンス・マガジンでも「恐慌の裏面(The Upside of Recessions)」(参照)として扱っていた。
 世界大恐慌と呼ばれる時代にも景気の波があるが、低迷した1930年から1933年の4年間は、米国民は、男女、人種、年齢を問わず、健康が概ね向上していた。同じく低迷した1921年と1938年にも同じ傾向が見られた。逆に、経済が部分的に拡張した、1923年、1926年、1929年、1936年、1937年では死亡率が上がり、平均寿命も落ちた。
 しかし、自殺はどうか。確かに自殺は例外ともいえるが、死亡者全体に占める割合で見ると2パーセント未満と少ない。
 結果、全体として見ると、経済が不況になると人々は健康になり、好調になると不健康になるという傾向ははっきりとしている。
 理由は……わからない。
 科学的には、現状では何とも言えないようだ。
 しかし、想定としては、好景気になると暴飲暴食やその場しのぎの快楽に身を委ねるようになることがいけない、というのもあるだろう。経済が活況を呈すれば、大気汚染など公害の問題も増加したわけで、それも理由に挙げられる。
 貧しくなった時代には、ナイトライフは減って、早寝早起き元気な人、なのかもしれない。いずれにしても、国内総生産(GDP)が上がれば、人は健康になり、幸せになるというものではなさそうだ。
 デイリー・メールの記事では、でも、それって昔のことであって、現在の世界の不況には当てはまらないんじゃないのという疑問も投げかけている。それもそうかとも思うが、世界大恐慌は現下の世界不況なんてものじゃなくても、それだけやってこれたとういのは、やっぱりあるんじゃないか。
 というか、世の中が不況だからって、人が健康に生きられないというものでもないだろうし、幸せになれないというものでも、なさそうだ、という視点もアリ、くらいには考えていいだろう。
 これで、ネタの話は終わりだが。
 ネタとしては薄過ぎるので、昨日発表された今年の自殺の傾向を見てみよう。共同記事「自殺2万2千人、最悪のペース 8月も昨年上回る」(参照)によると、今年の1月から8月までに自殺した人は2万2362人で、昨年同期より971人多かったとのことだ。このペースでいくと、近年最悪だった2003年の3万4427人に迫るらしい。理由については、記事では「昨秋以降の景気悪化が背景にあるとみられている」と記しているし、庶民的な印象としても、景気が悪いと悲観して自殺するよなと思う。
 それに反論というわけでもないが、こうした自殺統計を警察が出すようになったのは、1978年以降のことで、それ以前にはなかった。社会学的にそれ以前の自殺統計が推定できないわけでもないので、どうだったかと調べると、東京都立衛生研究所による1999年の「日本における自殺の精密分析」(参照)と2008年の「自殺の発生病理と人口構造」(参照)が参考になる。そう読みにくい研究でもないが、これらから、自殺者は景気悪化によるとは、言えそうにはないようだ。むしろ1999年の研究では、その影響の限定を述べている。


自殺者数の極小を示す1967年と1990年において,自殺した男子の数は,直前の自殺ブームの約65%~75%程度となっている.自殺者の景気依存性は確かに観測されるが,その寄与は多く見積もっても約30%であり,1990年の男子死亡数12,316名から推測すると1998年頃のピークにおいても,16,000名程度と予測される.しかし,1998年の男子の自殺は22,388名とそれをはるかに超え,この自殺数の増加を景気変動だけで説明するのは困難である.

 2008年の研究では、人口構造に着目したせいか、経済状況との関わりについてあまり触れていない。代わりに結語はそれなりに興味深い。

 疾病動向予測システムを用いて,人口構造が自殺に与える影響について分析した.日本においては,近傍世代と比較して出生数が多い1880年代世代,昭和一桁世代,団塊世代及び団塊ジュニア世代で自殺死亡率が高いことが明らかとなった.この出生数の多い世代で自殺死亡率が高くなるという傾向は,程度の差はあれフィンランドやアメリカなどの先進各国でも観測された.相対的に出生数の多い世代の自殺死亡率が近傍世代よりも高くなることから,その世代が当該国の自殺好発年齢に達した時は,自殺者数はより大幅に増加するものと予想される.したがって,今後は,人口構造を十分考慮して自殺対策を構築していくことが重要である.

 この数年の自殺者の推移は、だとすると、基本的に人口構成の自然的な変化によるのではないかとも思えてくる。

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