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2009.08.07

民主党の租税特別措置見直しはビミョー

 民主党マニフェストβの税制の項目で掲げられている租税特別措置見直しの、やや詳細な話が読売新聞記事「民主、租税特別措置3割廃止で1兆円超捻出」(参照)で報道されていた。他ソースは見当たらないようなのと、私がこの問題を十分理解しているわけでもないので、おっちょこちょいかつ拙速な感想ということになるかもしれないが、書かないでいると忘れそうでもあるのでメモ書きしておこう。
 結論からいうと、ビミョー。そう悪くもないんじゃないのとは思った。租税特別措置見直しは、現下の文脈では財源捻出議論でもあり、自民党あたりからの風当たりが強いはずでもあるが、民主党の財源構想17兆円の内の1兆円分なので、枠組みからすればそう大きな比重でもない。「極東ブログ:民主党マニフェストの財源論は清和政策研究会提言に似ているのではないか」(参照)で触れた、民主党政策財源論の枠組みでは、「所得税の配偶者控除の廃止などで2兆7000億円」の「など」に当たるだろう。話が逸れるが「など」の租税特別措置見直しが1兆円となると、所得税の配偶者控除の廃止分は2兆円近いので、そっちのほうがけっこうな増税になりそうだ。
 複雑な税制の見直しは新しい政権にとって必須のものだろうし、民主党としてもこの問題は継続的に検討されていた。2007年11月29日ロイター記事「企業関連租税特別措置の抜本的見直し、民主党内では先送りの声も」でもそのようすが伺えた。


「租税特別措置は隠れた補助金」―――。こうした問題意識から、民主党は、租税特別措置の抜本的見直しを行うべく、各省庁からのヒアリングを続けている。しかし、どの企業にどの程度の恩恵があり、政策効果はどの位上がっているのか、という基本的なデータが揃わない状況。民主党税調幹部からは、来年1年かかって基本的なデータを集め、見直しはそれを基に考える、という意見も出始めている。

 当時、民主党は政権与党でもないこともあり、事実上ブラックボックスというか、禁断の聖域にぶち当たっていた。

 28日には総務省や財務省など6省、29日には経済産業省からヒアリングを行った。なかでも、経済産業省は、研究開発促進税制や情報基盤強化税制(IT促進税制)など比較的大規模な企業向け租税特別措置を抱えている。
 ただ、経産省が提出した資料には、民主党が求めた具体的な企業名や減税規模は記載されていない。ヒアリングの席上、民主党議員からは「個別企業ごとに見れば、一部上場企業でも相当使われているはず」との指摘があったが、経産省側は「国税庁しか把握していない」と繰り返し、明らかにはならなかった。

 私の印象では、この側面の民主党の政策も「やっぱそれって小泉改革じゃね」だが、リアル小泉改革を担った本間正明元政府税調会長の顛末を思い出すと……桑原桑原……(参照)。
 民主党マニフェストβに戻ると、租税特別措置見直しの理念と方針はこう謳われている(参照)。

租税特別措置透明化法の制定
 租税特別措置について、減税措置の適用状況、政策評価等を明らかにした上で、恒久化あるいは廃止の方向性を明確にする「租税特別措置透明化法」を制定します。
 特定の企業や団体が本来払うはずの税金を減免される点で、租税特別措置(租持)は実質的な補助金であると言えます。しかし、民主党の調査の結果、税務当局も要求官庁も各租特の必要性や効果を十分に検証しておらず、国民への説明責任を全く果たしていない実態が浮かび上がってきました。
 租特の透明化を進める中で、租特を含めた実質的な負担水準を明らかにし、それにより課税ベースが拡大した場合には、法人税率の水準を見直していきます。

 なんとなく、ふーんといった印象だし、「特定の企業や団体が本来払うはずの税金を減免」というのも違和感がないようだが、民主党の租税特別措置見直しは法人を狙っている。このことは民主党マニフェストβの別箇所にもある。

法人税改革の推進
 租税特別措置の抜本的な見直しを行いますが、これを進めて課税ベースが拡大した際には、企業の国際的な競争力の維持・向上などを勘案しつつ、法人税率を見直していきます。
 なお、租税特別措置の見直しにあたっては、研究開発の促進など真に必要な措置については、現在の時限措置から恒久措置へと転換していきます。また、温暖化を中心とする環境対策、雇用の維持・拡大、自治体の工夫や努力などによる地域活性化などの重要課題への対応を法人税制の中で図ることも検討します。
 欠損金の繰戻還付制度は凍結を解除します。

 これだと基本の狙いは法人のように見える。それとこの政策だが、失敗したら後で法人税率のほうで調整するつもりということのようだ。自民党の現行の制度と結果的にはそれほど変わらないのではないかという印象はそのあたりにある。
 法人ターゲットに加えて気になるのは、「研究開発の促進など真に必要な措置」と「温暖化を中心とする環境対策」が触れられている点だ。後者の温暖化についていえば、高速道路無料化はピグー税の観点からすればべたな逆行だろうし、前者については後で触れたい。
 さてエントリのネタ元、読売新聞記事「民主、租税特別措置3割廃止で1兆円超捻出」に入る。まず大枠だが。

 財務省試算では、08年度の租税特別措置は減税分が約7・5兆円、増税分が約2・3兆円で、差し引き約5・2兆円の減税となっている。

 つまり7.5兆円から1兆円絞るぞということのようだが、そうでもない。最初から民主党党首の関連かなと思われるような大きな除外部分がある……いや、ここは普通に考えても削れないだろう。

石油化学製品の原材料となるナフサへの免税措置(3兆7890億円)については、プラスチックなど幅広い製品価格の上昇にはね返るため、すでに免税の継続方針を示している。

 ざっくりナフサ免税の3.8兆円は除外なので、残る3.7兆円から1兆円ひねり出すということになる。この比率だと、絞るのはちょっときっついはずだ。で、どこが狙われたかというと。

 例えば、住宅ローン減税(8240億円)は「最高控除額が大きすぎる」、企業の研究開発を後押しする試験研究費の特別控除(6510億円)も「どの程度の効果があるのか不明」などと指摘している。民主党は、減税適用者に明細報告を義務づける「租税特別措置透明化法案」を遅くとも10年の通常国会で成立させ、実態調査を急ぐ方針だ。11年度から廃止する方針を示している所得税の扶養控除、配偶者控除分と合わせ、2・7兆円分の財源を確保したい考えだ。

 ナフサへの減税を除いた以降の順序で見ると、住宅ローン減税(8240億円)、企業の研究開発を後押しする試験研究費の特別控除(6510億円)に続き、確定申告を要しない配当所得(3360億円)、中小企業投資促進の特別控除(2560億円)となっている。以降は200億円以下になる。
 目立ったところは住宅ローン減税なのだが、All About「2009年からの住宅ローン減税」(参照)を見ると、これが「大きすぎる」ということなのかなと、普通考え込むものがあるのではないか。同サイトの説明だと、「年収500万円の給与所得者で、夫と妻、子2人(内、1人が特定扶養親族)の場合」に、「1年の減税額は所得税・住民税合計で119,000円」とのこと。年間12万円くらいの減税効果。それが10年ほど続く。家を持ちたい庶民としては嬉しいが、これが削れるか。もっとも、このくらいの年収の場合は民主党案でもお目こぼしになるかもしれないが、それでも3000万円までの借入を狙っているのはどうだろう。。
 自民党というか麻生政権としてはけっこうな減税だったように見えるし、それなりの効果もすでにあったようだ。6日付けロイター「住友不の2010年3月期業績予想は据え置き、マンション販売は好調」(参照)を見ると、住宅ローン減税でマンションの売れが伸びていた。

 4─6月期の業績は、マンションの竣工戸数が前年同期比で減ったことなどから前年比で減収減益となった。しかし、マンション販売の契約戸数は1115戸と前年比で457戸増え、3年ぶりの高水準となった。
 会見で同社の竹村信昭・財務本部長は、地方と首都圏で比較すると首都圏が好調で、なかでも都心のタワーマンションの販売がいいと指摘した。住宅ローン減税の効果などもあり「月を追うごとに契約戸数が増えている」と述べた。

 これが民主党政権で、なくなる、というわけでもないだろうが、圧縮の筆頭になる。それと、これ、ターゲットが法人ではなくて、民間というか、これから家を持とうとする人たちへの直撃になる。民主党さんとしては、ローンを抱えて家を持とうなんていう人は今後減るだろうし、減らしてよいぞということかもしれない。ただ、目先の話としてみると、麻生政権の措置が生きている間に駆け込み需要が増えて、その分が民主党の利益に見えるかも。
 試験研究費の特別控除(6510億円)のほうは法人を狙っており、企業の研究部門をいじめることにならないかと懸念するが、おそらく企業が溜め込んだ資産を結果的に吐き出させるということではないかと思うが、どうだろうか。確定申告を要しない配当所得(3360億円)は、金持ちからふんだくりますよ、だろう。
 総じて租税特別措置見直しだが、都営住宅・県営住宅で暮らしています、という人にとっては増税感はないだろう。その意味で「格差是正」になる。が、成長戦略がなければ、再配分はようするにゼロサムゲームなので、富んだ人と目されるところからぶんどるのだが、富んだ人の基準がけっこう庶民になるかもという印象はある。年収500万円で3000万円くらいのマンション買いたいなという人は富んでいることなるだろうか。
 いずれにせよ、そういう再配分ゲームが政治だとも言えるし、国民はこの政治を選択することになるのだろう。オバマ大統領のお好きな孟子に「恒産なければ因って恒心なし」とお言葉があるが、チェンジとはまさに恒心を排することなり。

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2009.08.06

民主党の行政改革は、ようするに小泉改革じゃないのか

 民主党の絶賛改訂中マニフェストβの行政改革のところを読んでいて、「これは、ようするに小泉改革じゃないのか」となんとなく疑問だった。世間一般というか、マスコミとかで吹かれている話だと、「小泉改革が諸悪の根源で、それを民主党が是正するのだ」みたいことになっているが、私は「違うんじゃないのか、小泉改革をダメにしたのが自民党自体なのではないか」と思っていた。
 小泉改革を否定してしまった自民党と民主党が対決しても、潜在的な部分で対決になっていないどころか、潜在的な同型になってしまうのではないか。その同型の経済政策の面についてはすでに「極東ブログ:民主党マニフェストの財源論は清和政策研究会提言に似ているのではないか」(参照)で書いたとおりだが、行政改革についても、その同型性に触れておきたい。
 この話、自分だけが奇妙な印象を持っているのかと思っていたが、3日のNHK時論公論「'09衆院選 官僚をどう使うか」の影山解説委員の話を聞いていたら、すっぱりと「瓜二つ」と明言されていて、「やっぱりそう思う人はいるよな」と親近感を持った。今日になって絵解きはないもののテキストがサイトに公開されていた(参照)ので引用しつつこの話を書いておこう。
 まず、背景は官僚主導から政治主導が求められるということだが、政治主導とは何か。


それは、選挙に勝った政党が内閣を作り、総理大臣を中心にしたチーム力で官僚を引っ張って行く、そういう政治のことです。そこでは、チームの基本戦略として、内閣が政策の優先順位を決定し、それに沿って、必要性の薄れた政策は廃止し、新たな政策に資源を配分し直すということが求められます。

 しかし日本政治では、「極東ブログ:日米FTAについて民主党の七転八倒」(参照)で見たように、特定業界の利権を握る族議員が政策に関与してくる。このため、結果的に民主党の政策が七転八倒してしまった。これらは、政治が介在してくるが、政治主導とはいえない。まあ、この例については、自民党の族議員のほうがひどいが、民主党も変わらないなという風景が事前にわかってよかった。
 民主党のマニフェストβにも示されているが影山解説委員は民主党の、政治主導の行政改革を次のように2点からとらえている。

 このため、民主党の案では、「与党は与党、内閣は内閣」という考え方を変えて、与党の国会議員およそ100人が、大臣や副大臣、政務官などのポストで内閣に入り、内閣の中で政府と与党が一体になって政策を決めて行くやり方に変えるとしています。
 民主党のプランのもう1つの柱は、その上で、官邸主導を強化することです。官僚機構を与党のチーム力で引っ張って行くための作戦本部として、民間からも優秀な人材を集めた新たな組織を総理大臣の下に作ります。1つは、予算全体の骨格を決めるための国家戦略局。もう1つは、政策の必要性を1つ1つチェックするための行政刷新会議です。

 2点だが、(1)与党の国会議員およそ100人が内閣に入り政府と与党が一体になる、(2)予算全体の骨格を決めるための国家戦略局と政策をチェックする行政刷新会議を設置し、官邸主導を強化する、になる。
 1点目は影山解説委員は指摘していないが、現自民党でも70人近くが政府に入っているので、あと30人増えることに大きな意味があるのかということになる。実政治に疎いアマチュア感覚で斬新な大立ち回りが期待できるという向きもあるかもしれないが、普通に考えれば、大した効果はないだろう。なので、この1点目は無視してもよい。
 問題は2点目で、これって、小泉改革だろ。率直に「瓜二つ」と述べられていた。

実は、自民党にも瓜二つのプランがありました。作ったのは、小泉内閣の時に設置された自民党の国家戦略本部です。今で言う小泉改革支持勢力が中心になって、政府と与党の一元化を目指した改革案を提出しました。

 行政改革として見れば、民主党の構想と、小泉改革は同型だろう。
 しかし残念ながらこれは、2009年秋以降民主党政権のように実現には至らなかった……おっと、1年後のエントリを書くなよ、と。
 安倍内閣も小泉改革を継承した。

 安倍内閣以来取り組んで来た公務員制度改革も同じです。先の通常国会には、総理大臣の下に内閣人事局を設置するための国家公務員法の改正案が提出されました。総理大臣が幹部公務員の人事を一元的に管理出来るようにして、省庁の壁を超えて、内閣全体の方針に従う、そういう官僚を育てることが狙いでした。

 この内実については高橋洋一著「霞が関をぶっ壊せ!」(参照)に詳しい。官僚の抵抗圧力がどう向かうのかというのもわかりやすい。が、私としては、まだよくわからない点も多い。それでも、同書にも指摘されている民主党の立ちまわりからすると、それほど官僚にとって怖い相手ではなさそうだ。
 小泉改革としての行政改革だが、高橋氏の顛末が暗示するかのように、手ひどく失敗した。が、安倍内閣以降の自民党の経緯を見ると、政界塞翁が馬で旧自民党流ごね得の、実質官僚主導の政治主導逆行改革が成功したと言えるかもしれない。そして、その成功が今日の自民党の終焉を招いたことになったと言えるかもしれない。物事は見方によって評価は変わる。
 一応今後に期待される民主党による小泉改革Ver2は成功するだろうか。
 これは機構上の改革であって、何をするかということではない。民主党のマニフェストβを見ると、小泉改革のような小さい政府への志向も成長戦略もないので、まったく別のことが「何をするか」に補填されるだろう。それが成功することが良いことなのか、よくわからない。あまり良いことではなさそうなら、民主党による小泉改革Ver2も、安倍内閣のように失敗したほうがよいのかもしれない。

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2009.08.05

北朝鮮支援によるミャンマー核施設疑惑メモ

 ミャンマーの核施設疑惑については国内で報道されていないわけでもないし、現状ソースは一つしかないので、確実なことは言えない。ただ北朝鮮を注視してきた経緯からすると、以前のシリアの核施設疑惑などからして、なるほどなと感慨が漏れるところでもある。簡単にメモだけはまとめておこう。
 国内報道はないわけではない。例えば、朝日新聞「ミャンマーに「極秘核施設」証言 北朝鮮協力 豪紙報道」(参照)より。


オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙(電子版)は1日、ミャンマーからの亡命者の証言として、ミャンマー軍事政権が極秘に原子炉とプルトニウム抽出施設を北朝鮮の協力で建設している、と伝えた。北部の山中の地下にあるとされ、5年以内の原爆の開発を目指しているという。

 報道はシンガポールから。なぜシンガポールからというあたりのほうがニュースかもしれない。読売新聞「ミャンマー、北の支援で核施設建設…豪紙報道」(参照)は普通にシドニーからで、もう少し詳しい。

 ミャンマー陸軍の核関連部隊に所属していた元将校と、軍政の指示で北朝鮮との核関連物資の取引に関与していた企業の元幹部の2人が亡命先のタイで、豪州国立大の研究者らに証言したという。それによると、両国の協力開始は9年前にさかのぼり、秘密施設はミャンマー北部の山に掘ったトンネル内に建設されている。同紙は、北朝鮮には、今後寧辺(ヨンビョン)の核施設を完全閉鎖した後も、ミャンマーの秘密施設で核技術を温存する狙いもあると指摘している。

 日経新聞「ミャンマー、14年に核武装も 豪紙報道、北朝鮮が協力し核開発」(参照)もシドニーからでさらに補足がある。

 ミャンマーにはロシアから導入した実験用原子炉があるが、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けており、軍事転用はしにくい。軍事政権は地下にこの原子炉とほぼ同じ大きさの別の原子炉などを整備。ロシアの技術者が操作方法などを教えているという。

 東京新聞「『核爆弾保有へ建設』 ミャンマーが極秘施設か」(参照)はマニラからだがさらに記事は厚い。

 証言したのは、核関連部隊に所属していた軍将校と、軍事政権のビジネスや核取引にかかわった人物。二人からは個別に話を聞いており、調査にあたった同大学のデズモンド・ボール教授は「お互いに会ったこともなく、存在も知らない二人がほぼ同じ話をした」と強調し、信ぴょう性の高さを指摘した。
 タイの安全保障専門家は同紙に対し、「証拠を検証する必要があるものの、地域の安保体制を根本から変えてしまう可能性がある」と警告している。
 クリントン米国務長官は七月下旬、タイのアピシット首相と会談した後の記者会見で、北朝鮮からミャンマーへの核技術移転の可能性に強い懸念を表明。六月には、核関連物資を積載した疑いで米国が追跡した北朝鮮船舶「カンナム」がミャンマーに向かった後、引き返していた。

 「クリントン米国務長官は」以下の件は東京新聞の独自の記載のように見えるが、実は元記事に含まれている。
 中国はこれを韓国メディア経由で知ったと「<北朝鮮>ミャンマーに極秘で核施設を建設中-中国報道」(参照)は書いているが、やや不可解。

軍部の最高指導者・タン・シュエ将軍をはじめとした、ミャンマー軍権力者と極めて近い関係にあった亡命者2人の証言を得て、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドが報じた。中国では、韓国メディアの報道を通じ、3日付で中国日報ネットが伝えた。

 韓国中央日報は社説「北・ミャンマーの核コネクション、強く警戒すべき」(参照)で扱っている。経緯を知るものとして冒頭で述べた感慨に近いものがあるようだ。

もちろん両国の核コネクションが最終的に確認されたわけではない。しかし北朝鮮の前歴を踏まえれば、可能性は高いとみられる。北朝鮮がイラン・パキスタンとミサイルや核開発のため協力してきたのはすでに確認済みの事実だ。
 またシリアの原子炉建設を支援したことも定説と受けとめられている。

 さらに当然の推察を加えている。

 北朝鮮が実験した核爆弾はプルトニウムの特性上、10年以上過ぎれば爆発の可能性を再検証しなければいけない問題が生じる。しかし北朝鮮は寧辺(ニョンビョン)の原子炉が老巧化しすぎて、プルトニウムを長期間にわたって安定的に生産するのは難しいものとされている。これをミャンマーを通じ補完する可能性がある。
 また製造も簡単で核実験が要らず、長期間保有できるウラン核爆弾を製造するため、ミャンマーと協力する可能性もある。この場合、韓国にとっては直接の脅威となる。またタイ、ラオス、中国、インド、バングラデシュに隣接した独裁国家、ミャンマーの核開発はアジア全体の安保を危険に陥らせる可能性がある。

 これは重要な推察で、「極東ブログ:第二回北朝鮮核実験、雑感」(参照)でも触れたことに関係する。
 このくらいの考察は日本のジャーナリズムもすべきかとは思うが、すでに見てきたように、報道はされただけマシという程度。
 ところでオリジナルはおそらくこれ、シドニー・モーニング・ヘラルドの1日付け記事「Burma’s nuclear secrets」(参照)だろう。インターネット時代なので、特段海外の特派員を使わなくてもオリジナルを読むことができる。
 現状ソースはこの一点のみなのだが、読むとわかるように、実際には誘導されたとは思いがたい二つのソースからなっているので信憑性は高いようだ。ただし、疑惑には背景もあったので、そのフレームから物語りが意味づけられたという可能性はないわけでもない。これは同記事にも含まれているが、今回の疑惑に先行するクリントン米国務長官のエピソードだ。ロサンゼルスタイムズ「concerned about suspected N. Korea-Myanmar military ties」(参照)などで読むことができる。

They have voiced growing concern recently over suspected military links between North Korea's reclusive communist government and the rulers of Myanmar, which is also known as Burma. Some in Washington suspect that the Pyongyang government may be selling Myanmar nuclear weapons systems as well as conventional arms.
(北朝鮮の秘密主義共産主義政府とミャンマー(旧ビルマ)支配者の間の軍事関連疑惑は最近さらに注視されていると語った。北朝鮮政府はミャンマーに通常兵器同様核兵器システムを売却するかもしれないとの疑惑が米国政府にはある。)

 現状大きな問題になっていないのは、まだそれほど差し迫る問題ではないこと、ミャンマーを支援している中国の扱いがめんどくさいからだろう。
 なお、最新のタイ側のニュースだが、時事「「トンネルは防空施設」=ミャンマー核開発問題で証言-タイ軍高官」(参照)より。

ミャンマーが核兵器製造施設を建設していると報じられた問題で、タイの英字紙バンコク・ポストは5日、核関連の貯蔵施設とされたトンネルについて、タイ軍高官が「米軍の空爆に備えた巨大な貯蔵庫であり、ミャンマーが核兵器を保有しようとしているとの確たる証拠はない」と語ったと伝えた。

 シリアのときもそうだが、公式に騒ぐ前に自主撤去みたいにする方向の合意がどっかにあるのかもしれない。もちろん、この疑惑がまったガセの可能性もないわけでもない。
 現実問題としては、アジア諸国が核化しないためには、中国様のご威光に仰ぐという路線もないわけではない。そもそもの北朝鮮と中国の関係を見ているだけでも、そのストーリーが浮かび上がる。例えば、 アン・アプルボームの「Shadow Boxing in Pyongyang」(参照)のような。

China has ambitions to replace the United States as the dominant power in East Asia.
中国は東アジア支配を米国に取って代わろうとする大望をもっている。

 「そして、中国の核の下で日本族は平和にすごしましたとさ」という未来があるのかもしれない。

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2009.08.03

[書評]新しい労働社会―雇用システムの再構築へ(濱口桂一郎)

 「新しい労働社会―雇用システムの再構築へ(濱口桂一郎)」(参照)の帯には「派遣切り、雇い止め、均等待遇 混迷する議論に一石を投じる」とあり、近年社会問題として問われる各種労働問題がテーマにされていることが伺える。こうした諸問題に私もそれなりに思案し戸惑っていたこともあり、何かヒントでも得られるとよいと思い、また岩波新書なら妥当なレベルの知的水準で書かれているだろうと読み始めみた。ところがヒントどころの本ではなく、ほとんど解法が書かれていた。

cover
新しい労働社会
雇用システムの再構築へ
濱口桂一郎
 序章「問題の根源はどこにあるのか」からして目から鱗が落ちる思いがした。私は山本七平氏が指摘していたように戦後日本の会社は先祖返りをして江戸時代の幕藩体制の藩と同質になったと理解していたので、濱口氏が「日本型雇用システムにおける雇用とは、職務ではなくてメンバーシップなのです」と指摘しても、それはそうだろうくらいに納得した。だが重要なのはそこではなかった。
 重要なのは、日本企業が擬似的に大家族のようなメンバーシップで構成されていることよりも、家族が構成員を選べずに構成されているように、特定企業にメンバーシップを得ている雇用者は「職務のない雇用契約」に拘束され、企業内で実質職務の選択を失う点だった。そこから濱口氏は「日本型雇用システムの特徴とされる長期雇用、年功賃金制度および企業別組合は、すべてこの職務のない雇用契約という本質からそのコロラリー(論理的帰結)として導き出されます」として、日本の終身雇用・年功序列・組合の特質をあたかも幾何学証明のように解き明かしていく。
 コロラリー(corollary)、つまり、系として日本の労働問題の基本が理解できることが私には驚きでもあった。この分野に、私のように愚か者を自覚をしそうな人、特に就労前の若者には必読書と言いたいところだ。が、率直になところ、本論に入ると読みづらいほどではないが、私レベルの読者では理解しづらい箇所は多くなる。厚かましい提言だが、序章だけでもネットで公開されれば、多くの人の益になるかと思った。
 本論では帯にあるように、現在日本で話題となる主要な労働問題が整理され議論されている。手法としては、近代日本、特に戦後の産業史の歴史的視点による構成的な理解に加え、先進的な労使関係が模索されてきたEUの労働問題の状況との比較が用いられている。特に後者については、おそらく筆者が専門なのだろう、かなり詳細な部分へのインサイトが含まれている。よく言われるオランダモデルを模範とするといった、私などが思い込みやすい浅薄な評価への注意点も指摘されている。
 反面、浅く読んだ印象ということになるだが、米国の労働状況については派生的にしか描かれていない。また、歴史的な手法における史観的な考察はシンプルにはモデル化されていない印象を受けた。米国の労働状況は特殊なのかもしれないし、また、先に山本七平氏を引いたが、日本の特異性については、通俗日本論的なモデル、あるいはウォルフレンが描いたような日本システム的なモデルのほうが理解しやすいのだが、そこは意図的に避けられているのかもしれない。
 加えてこれもあえて意図されているのかもしれないが、昨今の労働問題にマスコミなどが与えるチープでマジックワンド的な「小泉改革の弊害」といった説明道具は含まれていない。現実の労働問題の説明にこの手のごみ箱は不要なのではないか。そう思うと本書に一種の背理法のような鮮やかさも感じる。
 私なりの読後の結論とも言えるが、序章に提示されたコロラリーに加え、実質現在の日本の労働問題を解くには、終章の終わり近くに指摘されている重要性を再定義した公理としてもよかったのではないか。つまり、「正社員の利害を代表する労働組合しか存在しないところで、正社員と非正規労働者との間で賃金原資の再配分を行わなければならない点に、現代の日本の雇用システムが直面する最大の問題点が存在するのです」という点だ。この問題は本書全体にも低音的なモチーフとして繰り返されている。
 こう言ってしまうと既存労組に無益な敵対的な物言いになってしまう懸念もあるが、従来の日本であれば、正社員というメンバーシップを得ている労働組合員は、前提的にそうなのだが、今後日本人の労働者の大半が所属するだろう非正規労働者間と間で利害の再配分ができない。にも関わらず、日本社会は今後そのような再配分を必要としている。
 本書を逸脱する連想かもしれないが、この時期に提示された民主党のマニフェストでは、その表層的な面から言えば、この再配分の問題を暗黙に含み込んでいるものの、正社員の利害を代表する労働組合と、対する非正規労働者との再配分は明瞭に見えないように提示されていて、あたかも国に無限の原資があるか、企業経営体や古典的イメージの資本家から再配分するかのような印象を与える。おそらく民主党のマニフェストの背景には、正社員の利害を代表する労働組合がいて、その矛盾がそのまま同質の矛盾としてこうした表出になっているのだろう。
 もっともそうは言っても、日本の将来には方向性としては民主党のマニフェストのように、非正規労働者への再配分を増やす傾向が求められることも確かなだ。このあたりの状況的な問題について、本書は十分な射程を持っているのだが、ダイレクトに読み解くことは存外に難しいようにも思えた。
 各論としては、「第1章 働きすぎの正社員にワークライフバランス」で、「名ばかり管理職はなぜいけないのか?」「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」など、また「第2章 非正規労働者の本当の問題は何か?」では、「偽装請負は本当にいけないのか?」「日本の派遣労働法制の問題点」、さらに「第3章 賃金と社会保障のベストミックス―働くことが得になる社会へ」では、「ワーキングプアの発見」、終章の「第4章 職場からの産業民主主義の再構築」では、「職場の労働者代表組織をどう再構築するか」など、状況的にもホットな話題が多く、それぞれにかなり適切な解答が示されている。しかし、文体の問題というより問題それ自体の複雑性もあって読み解きづらいし、私も率直にうまく読み解けていない。例えば、「ホワイトカラーエグゼンプションを推進すべきか?」と読後に問われると、知識は増えたものの、自分で納得した明瞭な答えは依然出せない。
 しかし、こうした労働関連の諸難問にエレガントな答えを出すことが本書の価値ではないだろう。そうではなく、日本の市民が各種のポジション(正規組合員や非正規組合員)として実際に、惰性構造的に、そして対立的に分断された現在、著者の濱口氏が示す「ステークホルダー民主主義の確立」という課題は、広く開かれて問われる課題となる。社会を維持するコストを適正に配分していくことは、その上に成り立つ民主主義にも重要なのであって、民主主義が理念的に問われるよりも現実的な課題になる。

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