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2009.12.19

暴露されたイラン核兵器開発疑惑に関連して

 鳩山政権のスラップスティックにマスメディアの関心が向いているせいか、外信が相対的に少なくなったように見える。国内報道がないわけではないが、イラン情勢に変化があるので簡単にメモしておきたい。
 イラン情勢について昨今の大手紙の社説としては今朝の読売新聞「イラン核増設 なぜ国際的な孤立を選ぶのか」(参照)が、それなりに触れていた。イランの新設ウラン濃縮施設に対して米国オバマ政権が年明け早々に強い制裁に乗り出すという話が軸になっている。


 イラン政府は、新たに国内10か所にウラン濃縮施設を建設するという。うち5施設について、サレヒ副大統領兼原子力庁長官は、「2~3か月以内に着工する」と語った。
 国際社会が濃縮停止を求めているにもかかわらず、である。
 それだけではない。低濃縮ウランを国外で燃料化する計画を、拒否する姿勢も示している。
 計画が履行されれば、イラン国内のウラン備蓄量が減り、軍事転用に歯止めがかかる。オバマ米大統領は「信頼醸成の一歩」になると期待していた。
 イランが挑戦的な態度に出たのは、建設中の国内2番目の濃縮施設に対して、国際原子力機関(IAEA)が即時建設中止を求める決議を採択した直後だった。
 専門家によれば、イランには10施設も増設する技術も部品もないという。増設を公言したのは単なる意趣返しの性格が強い。
 オバマ政権はすでに、「イランは孤立の道を選んだ」として、来年1月上旬にも、ガソリンの禁輸など対イラン追加制裁を実現するため、国連安全保障理事会のメンバーに働きかけている。追加制裁は当然の選択だろう。

 日本の大手紙社説にありがちな論旨不明ではないものの、ウラン濃縮施設がIAEA決議に違反するから制裁につながるようにしか読めない。間違いでもないし、読売新聞社でも別途報道しているが、この間に重要な展開があった。イランの核兵器開発が暴露されたことだ。14日付け読売新聞「イラン、核起爆装置開発着手…英紙が機密文書入手」(参照)より。タイムス紙の孫引きなのであえて全文引用する。

【ロンドン=鶴原徹也】英紙ザ・タイムズ(14日付)は、イランが2007年から4か年計画で核爆弾の起爆装置の開発にあたっていることを示唆する機密文書を入手した、と報じた。
 入手先は明らかにされていないが、ペルシャ語の機密文書には、欧米が「イランの核兵器開発責任者」と見なすモフゼン・ファフリザデ氏の署名がある。英国を含む複数の欧米諸国の情報機関や、国際原子力機関(IAEA)もこの文書を入手しているという。
 文書は中性子起爆装置開発の4か年計画に関するもので、07年初頭に作成された模様だという。同紙は、中性子起爆装置には核爆弾以外の使途はなく、イランが秘密裏に進める核兵器開発の「有力な証拠」だとしている。
(2009年12月14日22時34分 読売新聞)

 時事通信のほうが詳しい。同日の時事「イランが核兵器用の機材開発=西側・IAEAも資料入手-英紙」(参照)より。

 専門家によれば、同装置を用いるウラン重水素化物は、1998年のパキスタンの核実験で使われ、核兵器以外での用途はあり得ないとされる。
 タイムズ紙によると、既に英国を含む複数の西側情報当局のほか、国際原子力機関(IAEA)高官もこの資料を入手している。これに関連して、英デーリー・テレグラフ紙(電子版)は10日、イランが台湾の企業を経由して、核開発に必要な精密機器を輸入していると報じた。(2009/12/14-17:56)

 参照されたタイムズ紙の記事には、「Secret document exposes Iran’s nuclear trigger」(参照)、「Discovery of UD3 raises fears over Iran’s nuclear intentions」(参照)および「Leaked memo identifies man at head of Iran’s nuclear programme」(参照)がある。資料自体も「Iran's secret nuclear trigger: translation of full document」(参照)として公開されている。他の報道機関の動向からも察して、ガセネタではなさそうだ。もっとも、なぜこの時期にタイムズ紙でという疑問は残る。また、テレグラフ紙の報道は「Iran seeks nuclear parts through Taiwan」(参照)で台湾企業の関与を報じている。中国の関与については現時点ではなんともいえないという状態のようだ。
 14日のタイムズ紙の暴露によって、IAEAを最終的には通すことになるが、事実上、ウラン濃縮の平和利用といったイラン側の話が嘘であったということなるだろう。ではそこで米国主導の制裁なのかだが、微妙なところだ。
 というのは、日本国内では報じられていないようだが、タイムズ「Secret document exposes Iran’s nuclear trigger」(参照)にあるマーク・フィツパトリック(Mark Fitzpatrick)氏のコメントが微妙な響きを持っているからだ。

Mark Fitzpatrick, senior fellow for non-proliferation at the International Institute for Strategic Studies in London, said: “The most shattering conclusion is that, if this was an effort that began in 2007, it could be a casus belli. If Iran is working on weapons, it means there is no diplomatic solution.”

ロンドンの国際戦略問題研究所(IISS:the International Institute for Strategic Studies)の核拡散防止分野マーク・フィツパトリック(Mark Fitzpatrick)上級研究員は、「今回の暴露のもっとも驚愕すべき結論は、イランの核兵器開発の努力が2007年に開始されたものなら、それは、開戦理由(casus belli)になりうることだ。もし、イランが核兵器を開発してるなら、その意味は、もはや外交的解決はないということだ」と述べている。


 ここが現状のイラン問題の最大の焦点で、今回のイラン核兵器開発計画の暴露は、戦争、つまりイランへの攻撃を正当化しうるということだ。つまり、イスラエルによるイラン攻撃の正当化の前段を意味しているという点だ。この点はAP「Israeli says some time left for diplomacy on Iran」(参照)が呼応している。
 すぐに思い浮かぶ裏スジは、イランを空爆したいイスラエルに戦争への正当化理由を与えるためにこのような暴露を誘導したということだろう。だが、私は、逆ではないかと見ている。イスラエルの暴発を事前に阻止すべく、イランへの制裁を空転さぜずに米国主導下で国際連携を図ろうとしているのではないだろうか。つまり、ここでようやく、読売新聞社説のような国際連携のスジにつながってくる。
 この間、イラン側でも挑発がエスカレートしている。イランは16日、イスラエルを射程に収める最新型の中距離弾道ミサイルの発射した。ミサイルの詳細が非常に興味深い。産経新聞「イランのミサイル発射で高まる緊張 米政府が非難、年内に追加制裁も」(参照)より。

 ロイター通信によると、イランが発射したのは2段式の中距離弾道ミサイル「セジル2」の改良型。イラン側は設定した目標に命中させたと発表している。同ミサイルの射程は2千キロ以上とみられ、イスラエルやアラブ各国、欧州の一部を射程に収める。
 北朝鮮の中距離ミサイル「ノドン」をモデルに開発したとみられる「シャハブ3」が液体燃料を使用しているのに対して、「セジル2」は固体燃料を使っている。固体燃料の場合、液体燃料のように発射前に注入する必要がなく、攻撃を受ける可能性が低くなる利点がある。イスラエルによるイラン国内の核施設への先制攻撃を防ぐための示威行為ともみられている。

 イランの核搭載ミサイルは北朝鮮が関与しているが、その関連の暴露も同じ文脈で出て来ている。産経新聞「テポドン2の部品か 押収武器はイラン向けの可能性」(参照)より。

タイの首都バンコクのドンムアン空港で、北朝鮮から到着したグルジア国籍の貨物機、イリューシンIL76から大量の兵器が見つかった事件で、タイ政府高官は17日、積み荷の一部が北朝鮮の長距離弾道ミサイル「テポドン2」の部品で、イランに運ばれる途中だったとの見方を明らかにした。ロイター通信が伝えた。

 この暴露もとりわけ陰謀論ということでもなく、英米側のこの文脈でのリークによるものだろう。
 イラン危機は高まったのかということが気になるが、まだまだ年末年始にかけて騒ぎは続くだろうが、私は逆にとりえず鎮火の方向に向かっていると見ている。イスラエルさえ抑えこめば大きな問題にはならないし、ロシアや中国もここに至ってイランを強く援護しづらいのではないか。
 この点で良識的なのはフィナンシャルタイムズ17日社説「Dealing with Iran(イランを扱う)」(参照)だ。

The guiding principles in dealing with Iran are: first, forge a phalanx of unity at international level; and second, make sure your policy discriminates between the regime and Iranian citizens – whose tolerance of the Islamic Republic has reached breaking point after last summer’s imposed election result and its bloody aftermath. Do the new sanctions pass either test?

イランを扱う際にガイドラインとなる原理はこうだ。第一に、国際協調の上に機動部隊を創設すること。第二に、イランの政体と市民を政策上区別すること。イラン共和国の市民は、昨年夏には強制された選挙結果と流血の余波に忍耐強く対応している。さて、新規の制裁はこの2点を満たすほどのもだろうか。


 フィナンシャルタイムズ社説はこの先強い制裁に疑問を呈している。確かにフィナンシャルタイムズの言うように、あまり強行な制裁より、国際協調のもと、イラン市民のありかたを見守ることが重要になるだろうし、日本としては、北朝鮮の問題と関連しながら、中国とともにイランの軟化、つまり、IAEA管理下に置く方向に進めるべきだろう。現民主党政権にそれだけの力量と見識があるかは、なんとも言い難いが。

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コメント

これが本当なら、イスラエル政府がすでに知らないはずがありません。

イスラエルはイラン攻撃の準備をしていると思います。

なぜ、エジプトやインドネシアやマレーシアがイランを制止しようとしないのか?

結局イスラム諸国はどこも、本音では、イランによるイスラエル攻撃を支持しているということなのでしょうか。

アメリカ国内のイスラム教徒たちの反イスラエルロビー活動というのも、あることはあるのだとは思います(アメリカは何でもありの国だから)が、日本にいるとまったく感じ取ることができません。アメリカのエスタブリッシュメントの親イスラエル活動を蹉跌させようとするアメリカ国内での動きというのも、誰かに紹介してほしいものです。

アメリカの国内のイスラム教徒たちだけでなく、アメリカ国内のロシア正教徒たちもたぶん反イスラエルでしょうから、アメリカ国内の反イスラエル活動家は、活動実態を調べようと思えば、調べるのはそんなに難しくないと思います。もちろん、クー・クラックス・クランは、騒がしくて迷惑なだけで、実効的な集団ではないと思います。

投稿: enneagram | 2009.12.19 12:55

イラン軍がイラク南部の油田を占拠
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20091219-00000248-reu-bus_all

ウーさんのブログ
http://tanakanews.com/091219iraq.htm

一方トルコでは~
Erdogan warns Israel on Iranian spying
http://www.upi.com/Top_News/Special/2009/12/10/Erdogan-warns-Israel-on-Iranian-spying/UPI-63201260462600/

投稿: ういうい♪。 | 2009.12.20 16:05

The Timesがソースとしている "an Asian intelligence source" はマードックさんのニュースがイスラエルの情報部門を指す時に時々使う表現ですが、したがって何らかの意図を持ったガセという可能性を排除するのはあまりに性急なのではないかと思われますが?

まあ、Times以上にはるかに怪しいソースですが以下のようなものもあります

http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=49833

投稿: camera lucida | 2009.12.31 22:11

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