「輝きのある日本へ」、そうだったらいいのにな♪
鳩山政権は30日の閣議でようやく成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」(参照)を決定した。本来なら経済危機の状況下では成長戦略こそがマニフェストであるべきだった。経済危機にある状況下では最初から取り得る政策は限定されているから、むしろ政治のモラトリアムこそが求められるべきだった。あるいは政権交代をするのであれば、経済危機を脱していかなる成長戦略を描くのが問われるべきだった。
しかし、民主党は成長戦略とは関係ない空疎な理想を選挙中はわめきちらし、後になって鳩山首相自身「政治主導」「官僚任せ」が「どういうものかも分かっていなかった」と告白するに至った。最初から無意味な政権交代だった。が、変わったことはあった。政権交代後になってから、民主党政権は自民党政権にチェンジした。民主党が劣化自民党に変わった。今年はつまりそういう変化の年だった。
民主党は今回の成長戦略で、国内総生産(GDP)を2020年までに実質で年2%、名目では3%強で成長させるという数値目標を掲げた。来年は米国の経済の持ちかえしや中国の新バブルの影響で日本経済が多少立ち直る可能性があるが、無理だろう。昨年の名目成長率はマイナスマイナス4.3%だった。来年度の名目成長率も0.4%程度と予想されている。そもそも3%以上の名目成長率は1991年以降一度もない。普通に考えれば、今回の成長戦略も選挙中のマニフェストのような画餅にすぎない。
2020年というターゲットも笑える鳩山ブーメランになっている。民主党の当時の鳩山代表は選挙前の7月30日、自民党が発表した10年後のビジョンをこう批判したものだった。いわく、「次の選挙までに何をするかが契約なのに、そんな先の契約には意味がない。10年後のことをどうやって国民が審判すればいいのか」(参照)。その民主党が今や2020年までのビジョンを描いているのだ。地に足が着いた控えめな成長戦略と、来年の予算編成のことをもっと真剣に考えてほしいものだ。
今回の民主党の成長戦略はどういうしろものか。6つの柱から成り立っている。
- 環境・エネルギー……新規市場50兆円超、雇用140万人、温室効果ガスの削減目標25%(1990年比)
- 健康(医療・介護)……新規市場45兆円、雇用280万人
- 観光……訪日外国人2500万人、雇用56万人
- 地域活性化……食料自給率50%、農産物輸出1兆円
- アジア……ヒト・モノ・カネの流れを2倍に
- 科学・技術……官民の研究開発投資をGDP比4%以上
- 雇用・人材……フリーター半減、待機児童問題を解消
懐かしいなと思う。
私は麻生内閣の成長戦略「新たな成長に向けて」(参照)や「経済財政改革の基本方針2009」(参照PDF)などを思い出す。2020年までに麻生政権下で描かれていた項目を民主党風に整理してみよう。
- 環境・エネルギー……低炭素革命で、世界をリードする国。新規市場約50兆円、雇用140万人、温室効果ガスの削減目標8%(1990年比)
- 健康(医療・介護)……安心・元気な健康長寿社会。新規市場35兆円、雇用210万人
- 観光……日本の魅力発揮。訪日外国人2,000万人、新規市場4.3兆円
- 地域活性化……食料自給率50%(2008年所信表明演説)、農産物輸出1兆円(13年まで)
- アジア……アジア経済倍増へ向けた成長構想。アジアの経済規模を2倍に
- 科学・技術……最先端研究開発支援プログラム
- 雇用・人材……2200万人の介護雇用創出プラン。
比較ポイントの重点の置き方の差によって見解も変わるだろうが、大筋で民主党の成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」は、麻生内閣の成長戦略と特段に変わる点はない。
もともと民主党は成長戦略を持っていなかった。世論に押されて半月の短期間でどさくさにまとめ上げたものだ。前政権までの蓄積に依存する他はなかった。各省から「政策集」を寄せ集めて、民主党風味にしたという程度にしかならないのは、最初からわかりきっていたことだ。
しいて違いを取り出すとすれば、その風味の部分だろうか。民主党は「雇用が内需拡大と成長力を支える」という発想を成長戦略の基点に置いていることは評価できるかもしれない。日本に求められているのは内需の拡大であり、そのためには国民に富を再配分し、雇用を促進するという考えはありうる。
だが、それこそがまさに現状は困難となっている。富の再配分だが、民主党マニフェストの目玉とも言える子供手当もだが、各種の手当てもデフレ下の経済にあれば、定常的に再配分された富は投資ではなく貯蓄に向かう。デフレでは貨幣を保有してできるだけ使わないことがもっとも優れた利殖になる。金利はゼロに等しいのに物の価格は低下するから、保有された貨幣の価格は実質的には増えていく。
同時に市場は縮小する。市場の拡大を通した雇用の拡大は見込めない。雇用の確保を法的に義務づけても、企業がそれに見合う成長の見込みがなければ、より低価格な雇用をもとめて海外に出て行くしかない。
いくら美しい絵を描いても画餅では意味がない。実際にこの民主党の成長戦略ビジョンは達成可能なのだろうか。現実問題としてはかつての鳩山さんが見抜いていたように、「10年後のことをどうやって国民が審判すればいいのか」はわからないものだ。そもそも、どうやってデフレを脱却するのか。そこが考慮されていないかぎり、日本の成長戦略はありえないだろう。
藤井財務相はこの成長戦略について、「過去の高度経済成長期の大規模公共投資や輸出中心の政策から脱却したと自賛したが(参照)、現実問題として向こう数年は、成長するアジアに会わせて輸出産業の強化もしなければならないだろうし、「コンクリートから人へ」という珍妙な標題の背後で、コンクリートに支えられてきた人たちは割を食らう。18.3%も削減された公共事業費は地方の雇用をそれだけすぐに奪いながら代替がすぐに補充されるわけではないからだ。
しかし、おそらく来年夏の参議院選挙もこの民主党が勝つだろう。民主党の渡部恒三前最高顧問は「勝つ。自民党が負けてくれる」(参照)と喝破した。そのとおりだ。劣化自民党である民主党は劣化の優位性で自民党を駆逐した。その後になにが来るか。渡部氏はこう言う、「心配なのは、自民党も民主党もダメならば、政治不信になる。民主主義の危機だ」。それがたぶん、来年の光景なのだろう。
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コメント
いまごろ梅田望夫さんの「ウェブ進化論」を読んだのだけれど、1995年から2005年の間に、インターネットでは、グーグル革命、ブログ革命、オープンソース革命が起こり、アマゾンもグーグル革命の波にうまく乗り込むことだできたのが概説されていました。
2005年から2015年は、ネットコンテンツが増大しながら1995年から2005年のインターネット技術の進歩が世界的に大普及する時代のはずです。
そんなわけで、「絵に描いた餅」みたいな民主党のビジョンも、餅の描かれている素材が案外ソースせんべいだったりして、少しは腹の足しになって、あとは、たいやきかたこやきがすこしあれば当面はみんなが満足できるのかもしれません。
1955年に鳩山一郎首相が総裁で出発した自由民主党が21世紀まで持ちこたえたように、2009年に鳩山由紀夫首相が代表として与党に勝ちあがれた民主党も、ウェブ革命の波にうまく乗れると、案外半世紀近く持ちこたえてしまうのかもしれません。
そうなると、最良の政治方針とは、ご都合主義の無方針ということになるけれど、果たして、世界で最も責任ある先進国の政治がそれで本当にいいのかなあ、とは思います。
投稿: enneagram | 2009.12.31 16:04
finalventさん、こんばんは、
民主主義の終わりというと、以前教えていただいたドラッカーの「経済人の終わり」を思い出します。ヒットラーにつながる道でしょうか。
http://bit.ly/4JviEx
民主党の自民党を二度と立ち上がらせないという意思はありありと感じます。しかし、来年の参議院選挙まで民主党支持が続くでしょうか?前回の選挙で「あとは俺たちはもらうだけだからばらまきの民主党にいれよう」とした団塊の世代もさすがに日本経済が立ち直れなければ自分たちの未来もないと悟るのではないでしょうか?
いずれにせよ、マスコミの論調は年明けから相当に風向きが変わってくると私は思っております。
投稿: ひでき | 2009.12.31 20:19
わかりやすくまとめてあって感激です。いろんな意味で。
ただ、この年最後のエントリーとしては一言足りないでしょう。よいお年を!
投稿: rabi | 2009.12.31 20:52
「輝きのある日本へ」
「Shine Japan(死ね日本)」とか言い出しそう^^;
周辺国や在日の方々への友愛に配慮して決めましたという感じでしょうかw
投稿: かぼちゃ魔法師 | 2010.01.01 08:32
確かに民主党の成長戦略は、麻生政権下で描かれていたものと大きく違わない感じですね。問題はアントロプレナーシップを再生させる環境づくりをどのように進めるか、どのようにエンジンを回転させるかだと思うのですが、これが見えません。
投稿: ITビジネスフロンティアの狩人 | 2010.01.01 10:47
こんなのいかがでしょう。
http://www.youtube.com/watch?v=gZ6-m5BaW1w
このようなパロディが、外国人投資家の現実の目かもしれません。
投稿: ゆうじ | 2010.01.03 00:15