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2009.12.11

米国の報道も同じく鳩山首相に困惑

 普天間飛行場の移設問題について、「アメリカは怒ってる」と日本のマスコミが連呼してるように感じる人がいる。5日にはローレス前米国防副次官が「年内に合意受諾を」、8日にはアーミテージ元米国務副長官が「合意通りに辺野古へ移設しないと日米同盟は白紙に戻る」、グリーン元米国家安全保障会議アジア上級部長が「普天間基地をこのままにしておくのは危険だ」といったニュースばかり垂れ流しているかにも見える。
 しかも、これら親日派と言われている彼らの肩書きを見ると、「前」や「元」などみんな前ブッシュ政権時代の人間である。現政権とは関係ないと誤解する日本人がいても不思議ではないが、彼らが登場せざるをえなくなってしまったのは、国家安全保障の責任者であるロバート・ゲーツ米国防長官の鳩山政権への交渉失敗を懸念してのことだった。
 なにより象徴的なのは、ゲーツ米国防長官もまた前ブッシュ政権時代の人間でありながら、オバマ政権の現職でもあることだ。つまり米国は、国防問題においてブッシュ政権との一貫性を持っていることを明確に世界にアピールしている。そして、その関連としてこれらの「前」や「元」の知日派の人々が出てきているのであって、日本国民に愛想をつかされて下野した自民党が現鳩山政権のやることにケチをつけてるのとはまったく構図が違っている。
 数々の報道の中で興味深いのが4日、岡田克也外相と北沢俊美防衛相を前にルース駐日米大使が、「顔を真っ赤にして大声を張り上げ、年内決着を先送りにする方針を伝えた日本側に怒りをあらわにした」という産経新聞記事だ(参照)。岡田外相は8日の記者会で「ルース大使もしっかりと自らの主張を言われましたが、別に顔を真っ赤にするとか、怒鳴り上げるとか、冗談じゃないと思っております」と否定したものの、同席した外務省幹部も厳しい表情で「にこやかな雰囲気ではなかった」と証言しているように(参照)、報道に誇張はあるとはいえ険悪な対談であったと見てよいだろ。
 激怒の背景も想像に難くない。鳩山首相はルース米大使に「心配されているかもしれないが、そうした報道などに惑わされないでください」と極秘書簡を11月13日に渡していたとFNNは3日に報道していたが(参照)、それが事実なら、ルース大使には鳩山首相は二枚舌に見えたことだろう。ただ、これもFNN報道なので産経系と同じ疑うならそれまでのことではあるが。
 普天間飛行場移設に関連して米国のメディアが困惑しているようすは、10月時点ですでにウォールストリート・ジャーナル(参照)やワシントンポスト(参照)などでも報じられたが、これらの高級紙に対して日本の政権交代に好意的な配慮を見せていたニューヨークタイムズも、12月10日「Obama's Japan Headache(オバマは日本で頭が痛い)」(参照)を掲載して、その困惑の一端を伝えるようになった。たとえば、一部を抜粋すると、こんな感じだ。
 「日米の信頼は醤油に入れたわさびよりも速く溶けきってしまった。対立の炎は沖縄南部の海兵隊基地の将来についてだ。当地では、基地騒音や犯罪や環境汚染への嫌悪は在沖米軍のせいだとされている。ことの真相は複雑だ。日本人は、3万7千人の在日米軍を冷戦後の米国依存の苛立ちの象徴としている。鳩山はその苛立ちを公言している」
Instead, trust has dissolved faster than wasabi in soy sauce. The spark has been the future of a Marine air station in the southern island of Okinawa, where local feelings run high over the noise, crime and pollution many associate with the U.S. military presence. The deeper issue is more complex: growing Japanese restiveness over postwar dependency on Washington of which the most visible symbol is the 37,000 American troops here. Hatoyama has given voice to that chafing.
 さらに肝心の部分だが、こんなことも書かれている。長島昭久防衛政務官が鳩山首相を弁護したのに関わらずだ。
 「長島氏の弁解にもかかわらず、米国側には疑念が縫い込まれ、疑念は誤解を通して膨れあがった。米国大統領が先月当地に滞在したおり、鳩山は信頼を強調し、オバマもそれを確かなものと受け止めた。しかし、両者は相互の信頼が何を意味するのか明確にはしなかった。鳩山にとって、それは同盟の未来であったが、オバマにとっては、260億ドルを要する沖縄に関する2006年の同意の実行であった。」
But doubts have been sewn on the American side. They’ve multiplied through misunderstanding. When the president was here last month, Hatoyama appealed for trust, Obama said sure, but they never cleared up what the mutual trust was about. To Hatoyama, it was the future of the alliance. To Obama it was the implementation of the $26 billion 2006 Okinawa accord.
 アーミテージ元米国務副長官の訪日の活動についても、オバマ大統領も同意していると補足している(Richard Armitage, a former deputy secretary of state who’s been running around town, is only the most visible expression of U.S. impatience. Obama shares it.)。産経報道などの主張とニューヨークタイムズのこの記事との差はほとんどないことがわかる。米国には多様な意見はあるが、基調としては米国政府は日本の鳩山政権に困惑していると見てよいだろう。
 ワシントンポストも11日、「Does Japan still matter?(日本は依然問題なのか)」(参照)の記事で、鳩山首相の「僕を信じてくれよ(Trust me)」というオバマ米大統領へのメッセージについて、「この問題対処での鳩山の素人芸に愕然としたものの、オバマ政権高官はなんとか困難を越えて、政治経験不足の同盟と同盟合意実施の適当な配分に到達している」と、鳩山氏の幼稚な態度に呆然としたようすを伝えながらも、米国が大人の対処したことを報じている。
Frustrated by Hatoyama's amateurish handling of the issue, Obama administration officials are scrambling to come up with the right mix of tolerance for the coalition's inexperience and firmness on implementing an agreed-upon deal.
 とはいえ、両記事は米国の怒りに賛同しているわけではない。むしろ日本に向けられる米国の怒りを緩和しようと議論している。結語を次のように結ぶあたりは、ニューヨークタイムズらしいところだ。
 「手短に言えば、たとえ日本人が現状の卑屈な状態から逃れたいと望むとしても、日米同盟は現実的な課題なのである。この問題では誰もが、まず深呼吸をしようではないか。鳩山党が、おとぎ話のような友愛の世界とやらの夢想にふけっているとしても、米国はもっと忍耐づよくあるべきなのだ。普天間問題は柔軟に考えよう。だが、日米間の戦略的な必要性はより強固にしていかなくてはならない」
In short, the need for the Japan-U.S. alliance is real even if the Japanese urge for liberation from its more demeaning manifestations is growing. That says to me that everyone should take a deep breath. U.S. impatience should be curbed along with the pie-in-the-sky “world of fraternity” musings of elements in Hatoyama’s party. Be flexible on Futenma but unyielding on the strategic imperative binding America and Japan.
 マッカーサー将軍は「日本はまだ12歳の少年だ」といった言葉が思い出される。もっともこの将軍の真意は、12歳にもなれば平和憲法の欺瞞くらいわかるだろうという意味だった。あれから半世紀以上経ったが、戦後最強のニートとの尊称もある鳩山由紀夫氏は、その夢を未だに抱いているのかもしれない。将軍からすれば12歳の知能に足りないほど清廉潔白なのは、普天間飛行場は硫黄島へ行けと主張する社会民主党ばかりでもない。東大法学部在学中社青同の構造改革派の活動家だった仙石由人行政改革担当相も、早稲田大学政経学部在学中同じく社青同で解放派であった赤松広隆農林水産相も、連合国軍総司令部(GHQ)が吹き込んだ美しい夢を信じ続けているのかもしれない。元はといえば米国が撒いた種。刈り取り時期には我慢も必要になる。
 現状、米国は我慢を見せている。懸念されていた在沖海兵隊のグアム移転予算は米国議会を通ったし(参照)、鳩山政権側も普天間飛行場移転予算は計上する意向だし(参照)、さらに沖縄の新米軍基地受け入れの見返りにも手付け金は出している(参照)。カネの流れだけ見るなら、あたかたも事は問題なく進んでいるように見える。

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コメント

>懸念されていた在沖海兵隊のグアム移転予算は米国議会を通ったし
海兵隊が8,000人グアムに移転するということは、沖縄に残るのは連絡・保守要員だけになることを意味するという話がありますね。グアムには受け入れスペースは充分あるので司令部機能だけではなくほとんどが移れると。実際の在沖海兵隊員はもっと少ないと。

投稿: 痴本主義者 | 2009.12.11 21:38

防御事務次官ではなく防衛政務官では?

投稿: | 2009.12.12 02:32

誤記、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2009.12.12 09:54

鳩山首相については、私は、小沢さんが代表を自ら辞任しているのに、その人をまた党役員に就任させたことを行ったときに、すでにひどく困惑しておりました。

また、平野官房長官については、同じ理工系同士話が合うのかもしれないけれど、どうしてこんなに記者会見の談話に首尾一貫性の少ない人を、官房長官という、内閣の最重要職に就任させてしまったのか、ひどく困惑しております。

鳩山首相は、永田メール事件のとき、渡部恒三氏が、「私が国対委員長を務めるから、あんた、幹事長をやめちゃだめだ」と説得されたら、前原氏も野田氏も役職から外れたのに、幹事長に留任した人です。

鳩山首相は、たぶん、筋を通さないことの名人ですから、政権公約も、米国との軋轢も、毛沢東の「矛盾論」よろしく、先に大きな矛盾を解決して、小さな矛盾を後回しにする戦術で、当面の解決を図られると存じ上げます。

ところで、仙石さんも赤松さんも社青同だったんですか?
現在の彼らがかつては哲学青年だったとは!
哲学(青年)も当てにならないなあ。竹村先生の哲学としての仏教の小論に感化されるかもしれない哲学青年たちも、社会でもまれると、創価学会かオウム真理教か幸福の科学みたいな宗教団体を立ち上げるようになるのかもしれないなあと思ってしまいます。

投稿: enneagram | 2009.12.12 16:26

わざわざ、日本のブログで、米国の国際戦略の正当性を懇切丁寧にご説明いただき、誠にありがとうございます。

投稿: にいのり | 2009.12.12 20:23

>長島昭久防御政務官が鳩山首相を弁護したのに関わらずだ。

防御がそのままですが、防衛では?

投稿: | 2009.12.13 02:22

誤字ご指摘ありがとうございます。修正しました。

投稿: finalvent | 2009.12.13 09:09

>元はといえば米国が撒いた種。刈り取り時期には我慢も必要になる。
その「種」は待てば枯れるたぐいの物なのでしょうか。
 
>連合国軍総司令部(GHQ)が吹き込んだ美しい夢を信じ続けているのかもしれない。
その夢が核となってこの社会が構築されているとしたら? …大黒柱の要石を抜き去るのに、建物の解体無しに行えるとお思いでしょうか?

投稿: M | 2009.12.17 17:44

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