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2009.12.24

finalvent's Christmas Story 4

 近所のドラッグストアの売り子で少し気になる印象を与える20歳くらいの女性がいた。天気のことや街のことを話しかけると、はずしてはいないが曖昧な答えが返る。特別な大理石に優しくノミを当てていくような感じだった。天使を彫るならそうするだろう。彼女が店から消えたことに気がついたのは、夏の終わりだった。休暇を取ったのだろうと思ったが、二か月しても戻らなかった。新しい店員にきいてみたが、知らないというのだった。街路に枯葉が舞うころ、多分もう彼女を見かけることも話しかけることもないのではないかとさみしく思った。
 今年はKFFサンタクロース協会からサンタクロースに扮する依頼はなかった。会を束ねているマリーからも連絡はなかった。このままクリスマスには彼女からグリーティングカードを受け取るだけだろうと思っていたが、ふと気になって協会のサイトにログインし、会報を見る気になった。年金運用の話がある。関心はない。それから、とりわけ重要ではないがサンタクロース役を買って出たい人を求める掲示板をなんとなく眺めた。
 いや、なんとなくではない。アテネで検索していた。リストの中の20歳のティナという女性が気になった。20歳はサンタクロースを夢見る年頃ではない。彼女の説明はほとんどないのに、キーワードには「化学」「孤独」「憎しみ」が設定してあった。掲載間違いかもしれないが事務局に打診のメールを出してみた。数日後、詳細の返信メールがあり、希望のプレゼントも記されていた。
 やはりそうだった。ティナの母親はかつての私の恋人だった。もっとも彼女にしてみれば私は友人の一人に過ぎなかった。アテネ郊外のアパートで半年同棲した。夜をともにすることは少なかった。彼女はあのころ政界にのり出そうと活動していた。別れてから数か月後、彼女は結婚し、娘を産み、二年ほどで離婚した。それから政治家となり要職を歴任した。十年前に交通事故で亡くなった。アフリカにいたころ新聞記事で知って私はアテネに旅立ったことがある。
 サンタクロースを自分の希望で請け負いたかったが、個人的な理由だったので迷った。マリーにその旨メールした。彼女からは、「かまいませんよ、でもその話は協会にはしないでください」とのことだった。もしかしたら、あのリストはマリーが作らせたのではないかと思った。
 24日の夕方アテネ空港に着き、とりあえずタクシーでシンタグマ広場に向かった。そのほうがタクシーも他の客を拾いやすいだろう。案の定、三人の相乗りとなった。広場から少し歩きホテルにチェックインしたあと、下町のプラカに行って懐かしいカフェで粉っぽいコーヒーを飲んだ。彼女のアパートまでは地下鉄で行くことにした。今年はサンタクロースのコスチュームはなし。プレゼントもジャケットのポケットに収まる小さなものだ。
 目的の三階の個室のドアの前に着いたのは予定の九時を少し回っていたころだった。形だけサンタ帽を被りベルを鳴らすと、若い女性がにこやかに迎えてくれた。私がティナです、ようこそサンタクロースさん、いえ、お父さん、と彼女は言った。それは予想外のことではなかった。予想外だったのは、夏の終わりに消えた若い女性に似ていたことだった。
 「メリークリスマス!」と私は言った。他のうまい表現は思いつかなかった。
 「メリークリスマス!」と彼女も言った。「簡単な食事を用意しました。召し上がっていきますよね」
 「喜んで」私は帽子を脱いだ。
 食事をしながら、率直に、私を本当にお父さんだと思っているかきいてみた。彼女は軽く笑いながら、「いいえ」と答えた。「でも、本当のお父さんだったらよかったと思ってました」
 「どうして?」と私は反射的にきき返した。彼女は自分の父親を知っているはずだ。彼女の母親の夫がそうではないのか。
 「形のあるものが憎めたらよかったから」と彼女は笑って言ったが、そのとき、目は一瞬凍った。政治家の目で、彼女の母親と同じ目だった。私の愛が届かない目だった。
 「憎しみがぶつけられるから?」
 「見えない憎しみを相手に生きているのはつらいから」
 「憎しみにはそれ自体の本当の形がある」と私は答えた。
 それには彼女はきき返さえなかった。食器を片付け、コーヒーと小さなお菓子を用意して、「プレゼント、いただけるんですよね、サンタクロースのお父さん」と言った。
 「もちろん」と私はポケットから青いプラスチックの箱を取り出して渡した。密封された箱を開くと、黒い小さな長方形の石のような物体が見える。彼女は少し驚いていた。
 「リチウム」と私は答えた。「あなたのご希望」
 彼女は「これがですか?」と幼い子どものように答えた。「金属か白い粉のようなものと思ってました」
 「これもリチウムの化合物なんだ。こういうのが得意な友だちに作ってもらった。水を張った大きめなグラスはあるかな?」
 彼女がキッチンからグラスをもって来るとき、電灯を小さくするように頼んだ。グラスをテーブルに置き、その水にリチウムの化合物を入れると、水面でじゅーっと反応を始める。彼女は驚いて身を少し引いた。
 「爆発はしない」 私は一緒に持ってきたオイルライターで反応している小片に火をつけると、ネオンのように鮮明な赤い炎が小さく燃え上がった。
 彼女は黙ってそれを見ていた。一分ほどして炎は消え、電灯を付けた。
 「面白かったかい」
 「ええ。あんなに赤い色を出すんですね、リチウムって」と彼女は感心しているようだった。そして詩を読むように「暗闇のなかで私は自分知る。私が消えるまで自由にはなれない」とつぶやいた。
 「しかしそこに美しい炎がある。若い時には気がつかないかもしれないが」
 「年を取ればわかりますか?」 本当の娘から問われているようだった。
 「結果的に年を取ることもある」私は自分を恥じながら少し笑った。「憎しみも美しい炎の色を見せる」
 「憎しみが、ですか?」 ティナは困惑した顔で私を見つめた。
 「苦しみも悲しみも、むなしさも」 美しい炎の色を見せる。
 私はそう思うようになった。あなた自身がその美しい炎だと言葉にして伝えることはできなかった。
 訪問は一時間と決まっている。私は帰ることにした。名残惜しい感じを引きずるのはよくないという同意のようなものが別れを単純にした。
 アテネ郊外の人の少ない駅のホームで私は若い日の孤独な夜の旅立ちを思い出した。ウーゾが飲みたいと思った。アブサンに似たアニスの臭いのするリキュール。ティナの母親は、ギリシャで一番まずいお酒よ、乾杯、と言った。夜空に乾杯したい。メリークリスマス!

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コメント

「リチウム」とウーゾに泣けます。乾杯!
鳩山さんの記者会見中に、なんとまー、です。

投稿: ゴッドマー | 2009.12.24 18:07

文体がいつもと違うので久しぶりに独り言かなと思ったけど、コピペなんでしょうか。
ググると恒例のようですが。

投稿: T | 2009.12.24 21:18

はじめまして。
いつも拝見させてもらっています。
今回の話しカッコよすぎです。

投稿: hto | 2009.12.24 21:37

なんでしょうか。この下手くそな作文は。
finalventさんが講師をしている小説教室か何かの生徒の作でしょうか。
高校生? まさか大学生ではないと思いますが。
びっくりしました。

さて、掲載したvent師の意図は???

投稿: 飴大将 | 2009.12.25 01:45

Many thanks!

投稿: ニィト | 2010.01.13 23:51

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