黒色炭素(Black Carbon:ブラックカーボン)の地球温暖化効果
人為的影響による地球温暖化(AGW:Anthropogenic Global Warming)の原因とされる温室効果ガスの代表は二酸化炭素(CO2)だが、米航空宇宙局(NASA)によると、全体の影響で占める割合は43%。半分以下である。その他の温室効果ガスで影響力の高い順に見ていくと、メタンガスが27%、黒色炭素(Black Carbon:ブラックカーボン)が12%、ハロカーボン(Halocarbons:ハロゲンを含む炭素化合物)が8%、一酸化炭素と揮発性有機物は7%となる(参照)。
一位のCO2と二位のメタンガスについてはよく知られているが、三位の黒色炭素はいわゆる煤のことである。ろうそくの炎の上にガラスを軽く当てると、きめの細かい煤が採取できる。落ち葉焚きといった通常のバイオマス燃料の燃焼でも発生する。この黒い色の特性が熱吸収をもたらすことで温暖化を促進している。氷や雪に付着して溶解をを促進する働きもある。
黒色炭素の地球温暖化への影響の度合いは比較的近年になってきてわかってきたものだ。昨年3月24日付のサイエンスデイリーもその影響推定の研究をニュースとして扱っていたほどだった(参照)。
ニュースの元になった研究は、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所の気候学者ラマナタン(V.Ramanathan)氏と、アイオワ大学の気候技術学者カーミケル(Greg Carmichael)氏によるもので、「Nature Geoscience」4月号に「Global and regional climate changes due to black carbon(黒色炭素によるグローバルおよび地域気候変動)」(参照)として発表された。
結果はある意味で衝撃的でもあった。彼らの研究では、1立方メートル当たりの黒色炭素の温室効果は0.9ワットで、従来従来のIPCC(気候変動に関する政府間パネル:he Intergovernmental Panel on Climate Change)による黒色炭素の温室効果推定の0.2~0.4ワットに比べると、二倍から四倍に及んだ。推定値に大きな差が出たのは従来の推定では、他微粒子との混合による温室効果増幅と、高度の推定が十分ではなかったことによる。
ラマナタン氏によると、地球温暖化防止の面において、黒色炭素1トンの削減は200~3000トンのCO2削減の同等の効果を持つらしい。また、現状、黒色炭素の排出の25~35%は中国とインドよってなされている。当然、これらの地域からの黒色炭素削減が進めば、地球温暖化遅延に大きく貢献するだろう。
黒色炭素削減はさまざまな点でメリットがある。その筆頭は日本のような先進国では黒色炭素低減の技術確立していることだ。石原都政の先進的な取り組みでディーゼル車が排出する黒色炭素の低減もすでに実施されている。
二酸化炭素の削減は途上国のエネルギー政策とも関係し複雑な問題を起こすが、黒色炭素の低減は直接的にはエネルギー問題とは抵触しないこともメリットの一つだ。各国間の協調も容易である。地域住民への健康上のメリットは、東京都のディーゼル車破棄ガス規制でもわかる。
黒色炭素低減は今後日本でも注目されるだろう。日本が今後CO2を25%削減するという鳩山イニシアティブは、国民生活への経済負担が大きい割に、実際に達成できるのかすら疑問視されているが、現実の地球温暖化を遅延させるということを第一の目標とするなら、黒色炭素低減が打開策になる。一案に過ぎないが、日本が率先して黒色炭素による温室効果と二酸化炭素のそれと交換レートを策定し、中国やインドなど途上国の黒色炭素排出低減技術・装置の提供で相殺してはどうだろうか。それが可能なら、鳩山イニシアティブはおそらく比較的容易に達成できるだろう。
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コメント
気候変動の主要原因は、温室効果ガスではなく太陽や地球の天体運行です。 従って温暖化対策は労力の無駄であり、むしろ真の環境問題である「資源枯渇、生態系破壊、環境汚染」への取り組みの妨げになります。 実際「二酸化炭素排出を抑えれば、温暖化は防げる」という誤った説は、それを利用する企業や研究者(特に、原子力推進派や排出権取引を商売にしようとする人達)にとっては好都合なことです。 本当に必要なのは、化石燃料に依存しない持続可能な資源・エネルギーを確保することであると考えます。
投稿: もえおじ | 2009.12.06 19:49
塵が日光をさえぎるという「地球薄暮化」効果とと相殺されないんでしょうかね?
投稿: 日光黒照宮 | 2009.12.07 09:17
↑
遮った日照のエネルギーは、ほとんど吸収されているのでは?
なにしろ、黒色なんですから。
投稿: こまいぬ | 2009.12.10 21:49
雲のように反射率の高いものが薄暮化の要因であれば気温は下がるのでしょうが、カーボンは吸収率が非常に高いですからね。
投稿: Gambo | 2009.12.11 05:46
三菱重工さんの冷凍機の磁気軸受の技術は温暖化防止に対する取り組みとして大変感銘しました。しかし、磁気軸受って耐荷重能が低いんだよね。巨大な風力発電なんかの重要なエネルギー変換源に使われるにはまだ難点がありそうだ。しかしそういった困難を解決しているのが、日立金属のSLD-MAGIC(S-MAGIC)という工具鋼だ。この材料は表面でオイルをトライボケミカル反応させて形成されたボールベアリング状のナノ結晶体で分子物理学的に摩擦係数を下げるという。これなら応用範囲が広そうだ。
投稿: グリーントライボロジスト | 2013.09.30 22:16