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2009.11.20

アンドロイドでマニフェスト仕分けの夢を見るか?

 夢の中にいて、こんなの現実にあるわけないじゃないか、夢だよ、とわかっていることがある。そんな夢物語。こんなの現実にあるわけないよね、という非現実的な政治が現実だと言われてメディアに映るようになってくると、まったく夢がどこまで夢なのかわからなくなる。
 銀座の紅茶店で今は休眠中の著名ブログのブロガーに声をかけられた。
「終風さんじゃないですか、ちょうどよかった、あなたもブロガーなんだから仕分け人に行きましょう」と言う。
 仕分け人に行く? 仕分け人になるということか。ええ! 私は答える。
「ブロガーなんて世間じゃ無ですよ。ブログ界で話題のカツマーさんですら世間ではそれほど知られていないから、いくらもともと人の話を聞かない人だったとはいえ、イラ菅さんにですら笑顔でいなされちゃったじゃないですか。池信先生やダンコーガイ氏ですら、世間で知る人ぞなきですよ。ブロガーなんて意味ないですよ」と私は答える。「それにアルファブロガーの切隊さんとかすでに戦略局とかに呼ばれているって言うじゃないですか、パパの育児参加の話かもしれないけど」
「終風さんもアルファブロガーですよ」と、振り返ると音楽家の某嬢もいた。
「それは違う。私は『アルファブロガー括弧笑い』のほうです。しょっちゅう罵倒をいただくほうの馬鹿者ですよ。」
「だったらなおさらいいんじゃないですか。衆愚政治の極みみたいな話なんだから」。
 なるほどね、と心が傾く。
 そういえば、昔こんな話を聞いた。本当のことかわからない。ぼんやりとした昭和の思い出のようなものだ。ある小学校のクラスで悪さをした子をどうしようと、先生がクラスのみんなで話しかけた。みんなで罰を決めようということになった。みんなで決めた処罰は、その子をクラスの前に立たせて裸にするということだった。おいおい、それが民主主義かよ。ただのリンチだろ。デモクラシーというのは、本当は「民主制度」で、この制度というのは、そもそもそうした衆愚の権力を発揮できないように良識の歯止めを掛けるための制度なんだが……。そういえば、昭和の時代には、「総括」というのがあったな。「連合」の前の「総評」と似たような字面の言葉だったが……。
 会場に着く。ではこちらにお掛け下さいと言われる。
 「原告側でいいのですね」と言ってみるが洒落は通じない。
 右に座った休眠アルファブロガー氏がにやにやしているので、「僕はなんにも言いませんからね」と言うと、「かまいませんよ、結論は決まっているんですから」と彼は答える。そりゃそうだ。
 仕分け人とかいうけど、私はいったいなにを仕分けしているのか皆目わからない。物事の考え方に、対象をブラックボックスとして見るというのがあるが、その場合、入力と出力からブラックボックスの機能を探る。では「仕分け」のブラックボックスはどのような機能をしているのか。出力は、「廃止」「見直し」しかない。どっちも程度の違いで同義語。いや一つだけお笑いの例外があったか。いずれにせよ、出力を見るとわかるように、なんにも仕分けてなんかいない。しかも、入力は、ネオ大蔵省こと財務省があらかじめ選んだものに仕分け済み。つまり、このブラックボックスの中はスルーだ。機能なし。決まり切った勧進帳。インターネットとかの衆人環視のサーカス。パンはどこだ。
 夢想が進むなか、「こちらに目を通してください」と資料を渡される。「これが有名な財務省のシナリオですね」と言ってみる。やはり洒落は通じない。通じるようならプロじゃないよな。
 資料をめくって見て、あれっ?と思った。思わず、「これ仕分け対象でいいんですか」と訊いてみた。これには答えがあった。
 「そうです」という彼の目の奥で、「シナリオどおりにやれよな、この愚民」のメッセージが光っている。
 いいのだろうか、これ、「民主党の子ども手当」でしょ。いくら、民主党のマニフェストに書いちゃったからって、いくら愚策とか言われたって、聖域なき改革とやらの聖域なんでしょ。
 もともと小沢さんが欧州での子ども手当の総額を知って、日本だと6兆円くらいっちゅう話かぁ、田中先生のバラマキぶりを思えばそのくらいやらなければいかんちゅうことだ、それに子ども手当の話はお孫さんをもつお爺ちゃんお婆ちゃんに受けがいい、って、それで、えいっとお馴染みの「天の声」で決めて、それから子どもの頭数で割ったら一人当たり2万6000円になったというだけの話でしょ。効果もへったくれもあるわけないじゃないですか。え? 違うの? あ、いえ、いいです、そんな議論じゃないわけですね。はい。
 それでもですね、どうせやるなら、「郵政民営化の巻き戻し」を廃止するほうがいいんじゃないんですかね。仕分けの三原則からもやりやすい。その一、民間でもやれることですか? そりゃもちろん、郵政民営化っていうくらいだし。その二、費用対効果はどうですか? これはばっちり。なにせ郵貯は大蔵省から兆単位のカネを補填していたんですよ。知らないのは騒ぎ立てるブロガーくらいですよ。その三、天下りはありますか。おいおい、斎藤元大蔵省次官の日本郵政社長就任が天下りじゃなくて、いったいなにが天下りなんだ。
 「では仕分け作業を始めます」とアナウンスがある。「時間は30分です。無駄のない議論を進めてください。全国で最大2万人かたがインターネットを通して監視していることもお忘れなく。」
 そして、沈黙のようなざわめき。「最初に、財務省主計局から説明があります」と説明が始まる。
 「先日晴れてデフレ宣言を出しましたように、現在日本は未曾有の経済低迷にあり、財政赤字が巨額に膨れあがっております。そこに来て、今年度の税収の見込みは38兆円を割ることはすでに明らかになっており、実際には35兆円程度ではないかと、あー、いまの35兆円という金額はここだけの話にしてください、先日の直嶋正行経済産業相によるGDP値のフライングみたいな辞任当然の失言に受け止められては困りますので。説明を続けます。そして、かたや民主党のマニフェストを実施するのに必要な総額はすでに95兆円に及ぼうとしています。これを差し引きすると、95兆円マイナス35兆円、つまり、60兆円の赤字となります。これをなんとか44兆円にまで圧縮したいということでありまして、先日までの3兆円をなんとか削減するといった仕分け作業ではまったくお話にならない。小学一年生の算数もできないのかよ民主党ということでありまして、今回、鳩山政権が掲げる子ども手当の仕分けに及んだわけです。さらに、従来のようにシナリオどおりの良識に従っていただける仕分け人では、この手の話は進まないのではないということで、日頃から暴論をブログに吐かれているかたを採用してはどうかということもありまして特別な人選となりました。ですから忌憚なき御意見をいただければと思います」
 「今、暴論って言ったわよね」と、左隣のアラフォー未満の女性がつぶくやく。女性ブロガーなのか。「ええ」と私は曖昧に答える。聞き違いかもしれない。
 仕分け人とやらのやや年配の男性が話出した。
 「鳩山政権が掲げる子ども手当が仕分けの対象となったことは、いくら選挙看板のマニフェストで掲げたとはいえ、開かれた政策を掲げる民主党のあり方としては好ましいと思われます。実際の政策として推進するには、まず目的と対象を再検討すべきでしょう。限られた予算を使うのですから、選択と集中が求められます。所得制限を設けない子ども手当は巨額の財源が必要な一方で少子化対策の効果があるのか、すでに疑問の声が上げられています。民主党政権では、日本国は自民党政権時代を上回る巨額の財政赤字を抱えることをは必至であり、すでに検討されていることではありますが、少子化対策に加え、女性の社会進出を両立させるための一挙両得の対策が必要になります。つまり、一律に子ども手当を支給するよりは保育所の待機児童対策などに重点を置くべきでしょう。もちろん、民主党内でこれになにかと反論があることは存じているものでありますが、それでも、規律無き財政赤字、金融政策無策、結局外需依存中国頼みに帰する方向に日本が向かいつつある現在、確かな労働力の確保として、女性の労働参加拡大が経済成長の源になることは明らかであります。」
 隣席のアラフォー未満の女性ブロガーがにやにやしている。怪訝な顔で見ている私に、こっそり、「わたし、混乱大好き」とつぶやいた。なんだそれと私は思いつつ、さっさとこんなくだらない仕分けは終わらないかなと思っているうちに、30分など所詮議論するほどの時間のわけでもなく、結論は、子ども手当見直しという結論になったようだ。
 「これでよかったんでしょうかね」と私はなんとなく臨席に届く声でつぶやき、帰りにお茶でもしてきませんかと、加えてみる。
 「ごめんなさい。いそいで今のネタをエントリに書かないといけないので」と彼女は立ち上がり、そして言った。
 
 そんじゃーね!

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

アンドロイド@ちきりん風味

普通に、現行児童手当の拡充じゃ、何でダメなのか未だに解らない。しかもインパクト(効果)が一番ある初年度が半額とか、現行とあまり変わらない。

各種控除税制の見直しは別の議論。

投稿: nao_c/w | 2009.11.20 09:32

「銀座の紅茶店で今は休眠中の著名ブログのブロガー」で盛大にウーロン茶を噴きましたw

投稿: 某休眠ブロガー | 2009.11.20 11:33

あたかも原稿を読んでいるようで実は即興でものを言っているさまを、「勧進帳」という。

投稿: こん | 2009.11.20 13:26

なんか、選挙前に盛大に民主党万歳と言ってて、いま、shiwakeをねたにしているダンコーガイ氏のことを遠まわしに笑いものにしている感のあるエントリーだなと思いました。

まあ、私も弾氏のブログに、「あんたは、グローバルなシティズン、自画像どおりのネチズンなんかじゃない、あんたの内面性は、骨がらみ日本の古(臭)い伝統的な職人の親方の内面性そのものだ」とコメントを入れましたが、私は、正直言って、彼の(うかつな)人間性は好きです。

終風先生みたいに、他人を笑いものにするときは、遠まわしにしたほうがいいみたいですね。斉藤一人社長に向かって、「あんたに声をかけた天照大神様は、たぶん、低級な動物霊の類だから、霊能者に浄霊してもらいなさい」なんてインターネット上で騒いだりすると、かえってこっちのほうが呪い殺されちゃうかもしれませんね。

たぶん、先生のほうが人生で、私よりはるかにたくさん悲しい思いをされているのだろうと思います。でも、その割には、ユーミンのアルバムのエントリーに入れたコメントを承認してくださいましたね。あれは、正直、リジェクトされると思っていました。衝撃を受ける人が多いだろうから。

投稿: enneagram | 2009.11.20 15:07

素人の考えかも知れませんが、子ども手当を政府紙幣で配布してはどうでしょうか。当然インフレ要因になるためデフレ対策となり、財源の問題もなくなるので、一石二鳥だと思いますが、何か問題点があれば教えて下さい。

投稿: Koro | 2009.11.21 06:51

ドサクサに紛れてなんかとんでもない事が書かれてるような気がするけど、まぁ気のせいだろう。

投稿: 黒潮 | 2009.11.21 15:22

子供手当は少子化対策であって景気対策では有りません。
景気に関係なく配らるものです。

子供手当程度の金額で景気は動きません。

今年度予算総額が110兆円ですから、来年度の概算要求が95兆円で15兆円も減っています。
民間消費の増大が望めそうにないので、今と同じレベルの景気を維持したいなら単純にあと15兆円以上の歳出が必要です。
それなのに95兆円しかない概算要求額から92兆円に圧縮しようとしているのですから気違い沙汰です。
来年度は、デフレが更に悪化します。

>政府紙幣
現行法では政府は紙幣を発行してはなりません。
発行するとしたら貨幣です。貨幣はすでに発行されています。
貨幣の発行額は法律上の制約がないので、貨幣を増鋳して日銀の当座預金に預けてれば、歳出される金は自動的に日銀券に両替されます。
わざわざ法律を改正して政府紙幣を発行しなくても現行法の枠内で政府による通貨供給を増やすことは可能です。

ですから新規の国債を発行して市中から資金を得ることなど止めて良いと思うのですが、日本経済の大きな問題は通貨供給が少ないことではなく、既に供給された通貨が死蔵されていることにあるのです。
通貨の流動性を回復するためにも国債発行による資金調達の方が良いと言うわけです。
この辺に日本銀行券の発行と流通の秘密が有るようなのです。

投稿: 田舎から | 2009.11.21 22:59

横レス気味なんですけど、健全な国債消化が出来て心配ない間は積極的に財政出動は出来るしすべきでしょうけど、国債消化に不安が過ぎる場合は国内財・資本の海外逃避にこそ敏感ならざる得ないんじゃないでしょうか?
切込氏や鳩山氏のような個人で百億円規模の資産を持ってる立場や国際的な監査視点を持つ企業なら、例えば毎年30兆円の悪貨発行が論理的1.5パーセントのマイナス金利というのは感づく訳で、毀損の少ない資産へポートフォリオを変えるでしょう。
その規模や全体量の予測は難しいですけど、たぶん国債の流通が麻痺して信認が毀損し、政府が受容できないほど実質金利が上昇するんじゃないでしょうか。

投稿: ト | 2009.11.25 03:55

>国債の流通が麻痺して信認が毀損し、政府が受容できないほど実質金利が上昇するんじゃないでしょうか。

不況が続く限り、日本国債の長期金利は下降圧力に晒されています。
この20年の金利をご覧下さい。中長期的に金利は下がりっぱなしです。
需要不足がある限り、市中金融は国債に資金を振り向けます。

逆に言うと、国債が消化されず金利が上昇する局面とは、民間経済が復活して国内の資金需要が高まり、市中金融が企業への貸借を増大させる時です。つまり日本経済復活の時。
この場合、新規の国債発行は減少し、かわって税収が増加します。
結局、政府がよほどヘマをしない限り、問題は生じません。
借換債の消化が難しくなりますが、借換債(毎年100兆円弱)を直接日銀買わせて、それで得た資金で市中銀行の国債を回収すれば宜しい。
累積債務の処理など短期間で出来てしまいます。

でも、きっとやらないな。

政府も日銀も、そもそも我が国の国民経済の仕組み自体が膨大な国債の発行を求めている。民間の過剰貯蓄が或る限り、政府の債務は膨張することになっているのだ、きっと。

投稿: | 2009.11.29 20:49

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