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2009.11.08

民主党による「農家への個別補償政策」はどうなるのか

 民主党による「農家への個別補償政策」はどうなるのか。日本の農政の問題については、9月のエントリ「極東ブログ: [書評]農協の大罪 「農政トライアングル」が招く日本の食糧不安(山下一仁)」(参照)で、標題どおり、農政アナリスト山下一仁氏による解説に言及したが、同書は民主党政権への政権交代をある程度まで織り込んではいたものの、今年年頭に書かれた書籍こともあり、具体的に民主党政権における農政の変化については言及していない。
 9月に政権交代があり、その後農政については、どうなっているのか知りたいと思っていたところ、先日3日、NHKの朝のラジオ「ビジネス展望」で同氏が、この問題に触れていた。興味深い話題でもあったので、メモを取った。山下氏の議論の正否、また私の理解に曖昧な点はあるかもしれないが、以下、そのまとめを記し、多少付記もしておきたい。
 前提となる話として、日本の農政と、民主党が参照したEUでの「農家への個別補償政策」の背景について、以下のようにまとめていた。
 戦後日本では、農家の所得を上げるために、農産物の価格を高く維持しようとした。特に、その典型がコメだった。1960年代に入ると、勤労者家庭と農家との所得差が拡大し、この差を狭めるために、米価を引き上げ、米価で農家の所得を補償しようとした。結果、農家はコメが市場価格よりも高く販売できることからコメの生産が刺激され過剰となり、1970年代からは、自民党政府は米価維持のために減反政策を進めざるを得なくなった。
 同様の傾向は農産物についてEUでも見られた。EUも農産物を高額買い取ることで農家保護を行い、生産過剰となった。しかしEUは、過剰農業生産物をダンピングで輸出に回し、日本のような減産政策は採らなかった。
 EUによるダンピング輸出の結果、農作物の国際価格は下落し、米国の農業は大きな打撃をうけることになった。この軋轢からウルグアイ・ラウンド(Uruguay Round)が形成され、EUの農政は方向転換をし、農作物の価格を下げることになった。農家所得補填の代案として、農産物の価格を下げた分、農地面積当たりの収穫量に比例して、農家に直接補助金を出すことにした。この政策を日本も参考にした。
 自民党政権下では、しかしEUとは異なり、減反と価格維持が前提となり、減反に参加した農家だけが補償されることになった。実際にはコメの減反が対象となり、四割ほどの減反目標が設定され、その耕作地で麦や大豆を作った場合、コメとの収益差が出ると、それを補填する形にした。
 以上の経緯を踏まえて、民主党政権ではどのように変わるのだろうか。実は、自民党政権下と基本線での変化はない。
 民主党の農政では、減反・転作による価格補填に加え、コメの減反そのものにも補填される。このため、いっそう減反が強化される。減反による米価維持の路線のままである。当然、補填分は国民の負担となる。全体としての日本の農業生産力も低下し、EUのような農作物の輸入の志向は難しくなる。
 具体的な補填の仕組みだが、来年度からコメについて、生産費と農家販売価格の差を補償することになる。現状、農協が降ろしで保証する価格は60kg15000円で、農協の手数料を引くと、農家の取り分は12000円から13000円となる。これに対して、コメの生産費は16000円ほどとみなされる。このコメの生産費の内訳だが、本来の経費は9400円ほどで、これに農村における建設業や製造業の労賃が5000円として加算される。ただし、その加算に認可されるのは8割程度とのこと。
 民主党政権下では、コメの生産費と農家の収入差となる、2500円から3500円が個別補償となる。つまり、農家としては、従来通りコメを生産しても、個別補償分がまるまる手取りになる算段だ。もちろん、生産過剰にならないように減反は並行して進められるため、食糧生産を維持するための食の安全保障の点からは、よい政策とはならない。
 以上が山下氏の解説だったが、聞いていて、農村における建設業や製造業の労賃が加算される仕組みなどは理解できなかったが、それでも大枠でわかったことは、自民党政権における農政との差は、単純にコメ減反農家へのバラマキを強化することだった。零細兼業農家を維持するための所得配分政策なのだろう。
 結論からいうと、私はそうした純粋なバラマキでよいのではないかとは思う。だが、零細兼業農家への所得配分が目的なら、農協をバイパスさせるとしても別の形式もあるだろうし、それほど政権交代に意味があったとは思えない。
 補足として、関連する朝日新聞記事「農家所得補償、コメは10年度から 農水省、前倒し方針」(参照)を見ておきたい。


 農林水産省の政務三役は13日、民主党の政権公約(マニフェスト)で11年度実施を掲げていた「戸別所得補償制度」を、コメを対象に10年度から全国一律で実施する方針を固めた。来年度予算の概算要求で数千億円規模を計上する。来年夏の参院選に向けて、政権交代の成果をアピールする狙いがある。
 同制度は、民主党の小沢一郎幹事長が代表時代に打ち出した目玉政策。民主党はこの政策を掲げて07年参院選で保守地盤の農村票を取り込み、地方の1人区で大勝。今回の総選挙マニフェストでも鳩山由紀夫首相と小沢氏が10年参院選を意識し、当初12年度としていた実施時期を11年度に前倒しさせた経緯がある。

 実施の前倒しは、参院選を想定してのことだろうとしている。コメに限定すること、全国で一律に実施しすること、細かい農政的な配慮がないこと、なども選挙優先からだろう。
 所得補填に加え、減反政策も主眼になっている。

 全国一律で実施されれば、政府が示す生産数量目標に従うことを条件に補償を受ける農家と、自己責任で自由にコメを作付けして利益拡大を目指す農家に分かれる。一律参加を求める現在の減反ではなく、参加を農家が判断する事実上の「減反選択制」へと移行することになる。

 ナッジ(参照)の視点からすると、専業農家よりも零細兼業農家を支援する形になり、日本の農業の生産向上や食の安全保障という点では、問題のある結果になりそうだ。とはいえ、別の方向性も記事には書かれていた。

 経営努力を促すため、大規模化によるコスト削減や低農薬作物といった高付加価値品を作る農家には加算金を支給する。

 実際には零細兼業がナッジされるので、その方向性は弱くなるのではないか。むしろ、自民党が模索していた大規模農家向け補助金のほうがよい政策だったように思える。
 ところで、民主党による農政分野でのバラマキの財源は1兆円ほど。この捻出はどうなるかだが、マニフェストでも明記され、選挙にも関わることから、なんとしても優先されるのだろう。

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コメント

なんとも。
読んでいて途中で切なくなってしまいました。
民主党の進もうとする方向やその思惑に腹黒さも何も無く、きっと懸命な姿菜だけなのかもしれませんね。

一方、風潮として農業を見直すような動きがあるそうなので、とても複雑な気持ちです。

畑を始めたばかりの所詮家庭菜園の域の私ですけど、育てるという行為や育った作物に触れるとう経験を実感すると、温かく豊かな気持ちに満たされます。それが仕事として直結したら皆幸せだと思います。(文脈外してすみません)

投稿: godmother | 2009.11.08 19:24

先進国では農業と農家の保護はいまや当たり前。

むしろ、競争力ある生産性の高い流通業とサービス産業の構築が先進国の責務といえましょう。

でも、農家も、海外の金持ち向けの輸出用高付加価値農産物の育種と生産に力を注ぐべき。国も、そういう農家を支援するべき。

水産業が養殖技術の進歩で農業化したら、水産業者の保護と育成にももっと本腰で取り組まないといけなくなる。

がんばれ!日本国農林水産省。

投稿: enneagram | 2009.11.09 09:01

>農村における建設業や製造業の労賃が加算される仕組みなどは理解できなかったが

費用=材料費(経営費)+人件費
で 人件費の数字を出す目安として他の業種の8割の数字を使うって事じゃないかと

あとこの制度が適用されるのは 減反政策に従ってる販売農家のみで
ここでの販売農家の定義が どうも前政権で使われてたのと違うっぽい

いろいろ問題があるけども
一番は基準となる費用が全国一律ってところ
各農家ごとに 必要経費は差があるから それを一軒ごとに集計して差額を出せ とまでは言えないけども
米価を上げるためにどうにか付加価値をって努力するよりも
極力経費を抑えて数量だけ出せば利幅が増えるみたいな感じで
なんかイヤな予感

投稿: ppp | 2009.11.09 17:00

『農協の大罪』の山下一仁氏は,『「亡国農政」の終焉 』という本を,つい最近出しているようです。

投稿: hira | 2009.11.09 23:07

現場の者から

そうだとしても
民主党に変わることで
以前のように
「◎A」や「経済◎」通しに
国からのお金が回ること
ピンはねやストックが
無くなるだけでも
国全体としては
良い方向性だと思います

生産者としては
「J◎」や「経◎連」が
自分に都合のいい農家優先に
国からのお金や情報を回していたのが
平等に受けられることが
何よりなのです

それで
農◎省の天下り先である
「全◎」「◎済連」との
ベッタリが解消されれば
なお良いかと思います

投稿: まっちゃん | 2009.11.10 22:24

・山下のいくつかの論文や講演記録をみるとまず、ダブル・スタンダードな点に気づくはず。
・山下は退官しているが、主な勤め先は独立行政法人、つまり国の金で運営されている。元の国の組織。ソフトな天下りだ。
・山下は現在の農業構造を作ったのは戦後政策としているが、既に江戸時代の貨幣制度が浸透した時点と明治の地租改正で変わっている。
前者は武士の困窮と農村の疲弊で江戸幕府を壊し、後者は財閥が農地を売り、植民地経営に切り変えた。
・戦前においてすら、国は農村の基盤整備や自作農を増やす政策を取っている。
・兼業農家が稲作を続けるのは、いつの日かその農地が転用して売れることがインセンティブになっている。農業部門のみ取り出したら赤字になることは常識。
・彼が無知でそのような事を書いているならまだしも、知っていて事実を歪曲しているから、悪質だ。

投稿: uk3 | 2010.03.04 01:32

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