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2009.11.16

フジテレビ記者がオバマ米大統領に広島と長崎の核爆弾投下の是非を質問したが、はぐらかされてしまった

 オバマ米国大統領訪問で日米首脳共同記者会見が実施された。その際、フジテレビ記者は、オバマ米大統領に広島と長崎の核爆弾投下の是非を質問したが、はぐらかされてしまった。その報道が日本のメディアにはあまり明確には伝わっていないようなので、ブロガーとしては補足しておきたい。
 最初に日米首脳共同記者会見のこの質問に関連する大手紙の報道を確認しておきたい。
 14日付け朝日新聞「日米首脳会談 共同会見の要旨」(参照)では、フジテレビ記者の質問への回答であることが明示されず、基調と同じ扱いになっていた。


■大統領 作業部会は、在沖米軍再編に関する日米合意の履行に焦点を絞るものだ。作業を迅速に完了することを希望している。
 我々は、「核のない世界」というビジョンを、長期的目標として共有している。具体的な措置をとらなければならない。核兵器が存在する限り、我々と同盟国のための抑止力を維持していく。
 広島と長崎で原爆が投下されたことにより、日本は核兵器について特有の視点を持っている。首相が深い関心を持っているのはよく分かる。私が広島と長崎を将来訪れることができれば、非常に名誉なことだ。短期的には訪問の計画はないが、私にとって有意義だと考えている。
 北朝鮮については、核実験や好戦的な行動を非常に懸念している。北朝鮮に対し、国際社会に再び参加する扉があるということを伝えたい。

 13日付け読売新聞「日米首脳会談・首相と大統領の共同記者会見要旨」(参照)は、さらに編集のきついまとめになっていた。

【核不拡散】
 首相 北朝鮮やイラン問題で密接に協力していきたい。
 大統領 北朝鮮、イラン両国が国際社会に対して義務を果たさないといけない。さもなければ私たちは協力して国連決議を実行に移すことになる。
 大統領 広島と長崎を将来訪れることができたら名誉なことだ。短期的には訪問計画はない。

 14日付け毎日新聞「日米首脳会談:共同記者会見 要旨」(参照)は朝日新聞と似ている。なお、日経新聞および共同通信の報道も私が見た限り類似の扱いだった。

◆核なき世界
 大統領 時間はかかるが、不拡散体制を強化しなければならない。核兵器が存在する限り同盟国のための抑止力を維持する。
 日本は核兵器に独自の視点を持っている。広島と長崎に使用されたからだ。首相が深い関心を持っているのはよくわかる。広島と長崎を将来訪れることができたら非常に名誉なことだ。
 北朝鮮の核実験や好戦的行動を懸念している。6カ国協議の(日米以外の)ほかの3カ国と、北朝鮮に「国際社会に再び参加する扉がある」と伝えたい。その間、これまでの制裁を実施する。

 やや異色なのが13日付け産経新聞「【オバマ大統領来日】日米首脳共同記者会見の要旨」(参照)だった。質問記者がフジテレビ所属であり産経新聞と関係が深いことからか、この問題を「広島、長崎訪問」として切り分け、さらに日本人記者からの質問であったことがわかるように明示されている。さらに質問において、「原爆投下の選択は正しかったかと考えるか」と明示されている。ただし、それがはぐらかされたようすはわからない。

【広島、長崎訪問】
 --大統領は任期中に広島、長崎を訪れる意向があるか。原爆投下の選択は正しかったかと考えるか。
 大統領 日本は核兵器について独自の視点を持っている。原爆が投下されたからだ。広島と長崎を将来訪れることができたら非常に名誉なことだ。短期的には訪問の計画はないが、私には非常に意味のあることだ。

 この部分を切り分けた国内報道も多かった。一例として、日経新聞「オバマ米大統領、広島・長崎訪問に意欲」(参照)はこのような報道だった。

 オバマ米大統領は13日夜の日米首脳会談後の共同記者会見で、自らが提唱する「核兵器なき世界」構想に関連して「日本は核兵器について独自の視点がある。広島と長崎に原爆が投下されたからだ」と語った。そのうえで「広島と長崎を将来、訪れることができれば非常に名誉なことだと思っている。短期的には訪問の計画はないが、私にとっては非常に意味のあることだと思っている」と、被爆地である広島、長崎両市を将来、訪問することに意欲を示した。

 そうした中、オバマ大統領のはぐらかしをそれ自体取り上げた報道としては、15日付け中国新聞「被爆地との間に温度差 原爆投下の歴史認識示さず」(参照)があった。

 13日の首脳会談。オバマ氏は満面の笑みを浮かべて報道陣の撮影に応じ、鳩山由紀夫首相の説明に何度もうなずきながら聞き入った。共同記者会見でも時折ユーモアを交えて答えた。
 だが、被爆地訪問については「すぐに行く予定はないが、私にとって非常に意義がある」と、あいまいさがにじんだ。「過去2発の原爆が投下された歴史的意義をどうとらえ、現在も正しかったと考えるのか」との質問もあった。しかし、意識的なのか、複数の質問がある中で失念したのか、答えはなかった。
 「国内の保守派への配慮も必要。今の段階では政治家としての欲求をはっきり言えないのではないか」。広島市立大広島平和研究所の初代所長の明石康・元国連事務次長は分析する。原爆投下は正当だったとの見方が根強い米国の世論に加え、議会内に反対がある医療保険改革法案や10%超の失業率に向き合う内政事情があるとみる。

 明石康・元国連事務次長のコメントは中国新聞だけが取ったものか、私にはわからないが、重要な指摘であった。
 フジテレビ記者からの質問の状況について、冷泉彰彦氏が興味深い指摘をしていた。現時点ではまだ、「[JMM]from 911/USAレポート/冷泉 彰彦」(参照)にはないが、近く掲載されるだろう。

とりあえず、共同記者会見、そしてアメリカの反応というところでは、だいたい予想した通りの展開で来ていると思いますし、これで良いと思います。
 けれども会見の後の質疑応答の部分で代表の日本側記者が「広島、長崎への原爆投下は正しかったとお考えですか?」という質問を投げかけた部分は、非常に重要なやり取りだったと言わざるを得ません。オバマ大統領は、明らかに狼狽していました。「ずいぶん沢山の質問ですねえ」とふざけて見せ、「最後の質問は何でしたっけ・・・北朝鮮の問題だったかな?」と巧妙に話題を振って、見事に「北朝鮮の話」を延々として時間切れに持ち込んだのです。要するに質問への回答を拒否した形になりました。オバマ大統領という人のスピーチや、質疑応答での対処はずいぶん見てきていますが、こうした光景は異例です。
 その前の部分では、広島・長崎への訪問予定に関しては「短期的には予定はありません」としながらも「訪問ができたら大変な名誉です」という言い方で、「ニュートラル+やや前向き」の回答をしていましたが、「短期的には予定はない」という発言の部分については、「原爆投下の是非」への回答拒否と併せて、これも重苦しい瞬間でした。この重苦しさをどう乗り越えてゆけば、良いのか、それはオバマの問題であるだけでなく、日本側としてももっと真剣に考えて行かねばならないと思います。

 として、狼狽と異例であることを強調していた。
 実際の、フジテレビ記者の質問とオバマ米大統領の回答は、すでにホワイトハウスのサイトに「Remarks by President Barack Obama and Prime Minister Yukio Hatoyama of Japan in Joint Press Conference」(参照)として掲載されている。該当箇所を引用し、試訳を添えておこう。

PRIME MINISTER HATOYAMA: Thank you very much. Now I'd like to proceed to questions. I will appoint the person, and once you are appointed, please come to the microphone, state your name and affiliation, and also to whom -- please state to whom you want to pose your question.

鳩山首相:ありがとう。では質問に移らせてもらいます。私が指名します。指名されたかたは、マイクともってお名前と所属を述べて下さい。そして、どちらへの質問であるかも明示してください。

On behalf of the Japanese press, please.

では、日本の記者の代表はどなたですか。

Q Fuji Television. Matsuyama is my name. I'd like to ask both leaders -- first to Prime Minister Hatoyama. (中略) And to President Obama, you are a proponent of a nuclear-free world, and you've stated, first of all, you would like to visit Hiroshima and Nagasaki while in office. Do you have this desire? And what is your understanding of the historical meaning of the A-bombing in Hiroshima and Nagasaki? Do you think that it was the right decision?

質問者: フジテレビのマツヤマです。両者にお尋ねしたい。最初は鳩山首相にです。(中略) 次にオバマ大統領に。あなたは、核兵器のない世界の提唱者ですが、すでに述べていらっしゃるように、なによりもまず、政権期間中に広島と長崎への訪問なさってはいかがでしょうか。その希望はお持ちでしょうか。そして、広島と長崎の核爆弾投下の歴史的意味をどのようにお考えでしょうか。あれは正しい決定だったでしょうか?

And also considering the North Korean situation, how do you think the U.S.-Japan alliance should be strengthened, and how should both countries cooperate in the field of nuclear disarmament?

また、北朝鮮の状況考慮したうえで、日米同盟はどのように強化されるべきでしょうか。この分野において核兵器削減に両国はどのように協調すべきでしょうか。

And also on the Futenma relocation issue, by when do you think the issue needs to be resolved? And should it be that Japan carry over the discussion -- decision to next year, or decide on something outside of what is being discussed? How would you respond?

また、普天間飛行場移設問題について、いつまでの解決と想定していらっしゃるでしょうか。日本がこの決定を先延ばしにすべきでしょうか。例えば、来年まで、あるいは現在の協議の外で決めることでしょうか。どのようにお考えでしょうか。

PRIME MINISTER HATOYAMA: Let me start. (中略) President, please.

鳩山首相:では私から。(中略) 大統領どうぞ。

PRESIDENT OBAMA: Well, first of all, I am impressed that the Japanese journalists use the same strategy as American journalists -- (laughter) -- in asking multiple questions.

オバマ大統領:最初に、日本人記者が米国人記者と同じ質問手法を取られたので感心しています(笑)つまり、複数の質問を一度にですね。

Let me, first of all, insist that the United States and Japan are equal partners. We have been and we will continue to be. Each country brings specific assets and strengths to the relationship, but we proceed based on mutual interest and mutual respect, and that will continue.

なによりも、米国と日本は対等のパートナーです。かつても、そしてこれからもです。両国は関係上独自の利点と長所を持っていますが、協調の継続は、相互利益・相互尊重に基づきます。

That's reflected in the Japan-U.S. alliance. It will be reflected in the resolution of the base realignment issues related to Futenma. As the Prime Minister indicated, we discussed this. The United States and Japan have set up a high-level working group that will focus on implementation of the agreement that our two governments reached with respect to the restructuring of U.S. forces in Okinawa, and we hope to complete this work expeditiously.

このことが日米同盟に影響します。このことが、普天間飛行場問題に関わる米軍再編決定に影響します。鳩山首相が述べたように、私たちはこの問題を話合いました。米国と日本は高レベルの作業会議を設置し、そこで在沖米軍再編に関わる二国間合意実現を焦点に扱います。私は迅速な完遂を期待しています。

Our goal remains the same, and that's to provide for the defense of Japan with minimal intrusion on the lives of the people who share this space. And I have to say that I am extraordinarily proud and grateful for the men and women in uniform from the United States who help us to honor our obligations to the alliance and our treaties.

私たちの目標は同じです。基地提供に関わる人々の生活への悪影響を最小限にして、日本に防衛を提供することです。同盟と盟約の義務を重視するように私たちに尽力された米国の人々に特段の謝意を述べたいと思います。

With respect to nuclear weapons and the issues of non-proliferation, this is an area where Prime Minister Hatoyama and I have discussed repeatedly in our meetings. We share, I think, a vision of a world without nuclear weapons. We recognize, though, that this is a distant goal, and we have to take specific steps in the interim to meet this goal. It will take time. It will not be reached probably even in our own lifetimes. But in seeking this goal we can stop the spread of nuclear weapons; we can secure loose nuclear weapons; we can strengthen the non-proliferation regime.

核兵器とその廃絶の問題は鳩山首相とすでに何度も話し合い、核兵器の無い世界について私たちは合意に達していると思います。同時に私たちは、それが遠い未来の目標ことも理解しています。目標達成までには中間段階を経る必要があります。時間がかかるのです。わたしたちの一生の間ではたぶん到達しないでしょう。しかし、この目標に向かって、核兵器の拡散を制止することができます。私たちは、核兵器を削減することで、核兵器拡散防止が強化されます。

As long as nuclear weapons exist, we will retain our deterrent for our people and our allies, but we are already taking steps to bring down our nuclear stockpiles and -- in cooperation with the Russian government -- and we want to continue to work on the non-proliferation issues.

既存の核兵器については、米国民と同盟国への抑止力として保持しますが、ロシア政府と協調し、それでもすでに削減に着手しています。さらに核兵器拡散防止を推進します。

Now, obviously Japan has unique perspective on the issue of nuclear weapons as a consequence of Hiroshima and Nagasaki. And that I'm sure helps to motivate the Prime Minister's deep interest in this issue. I certainly would be honored, it would be meaningful for me to visit those two cities in the future. I don't have immediate travel plans, but it's something that would be meaningful to me.

当然ですが、日本は広島と長崎の史実から核兵器について独自の視点を持っています。私もこの問題で鳩山首相が深く傾倒されることを確実に支援します。ですから、この二都市を訪問することは有意義であり、名誉なことです。近々同地を訪問する予定はありませんが、その重要性は変わりません。

You had one more question, and I'm not sure I remember it. Was it North Korea?

もう一つ質問がありましたね、記憶が不確かなのですが。北朝鮮でしたっけ?

Q Whether or not you believe that the U.S. dropped a nuclear weapon on Hiroshima and Nagasaki -- it was right?

質問者: 米国が広島と長崎に核爆弾を投下したことを、あなたは正しいことだとお考えですか?

PRESIDENT OBAMA: No, there were three sets of questions, right? You asked about North Korea?

オバマ大統領:いや、問題は3つまとまっていました。そうですよね。ご質問は北朝鮮だったのではありませんか?

Q I have North Korea as well, yes.

質問者:北朝鮮についても質問したというのは、そうです。

PRESIDENT OBAMA: Yes. With respect to North Korea, we had a extensive discussion about how we should proceed with Pyongyang. (後略)

オバマ大統領訪:はい。では、北朝鮮問題ですが、私たちは、どのように北朝鮮政府に対処するかについて徹底的に議論しました。(後略)


 該当の応答部分は、すでにYouTubeにも上がっているので以下に記しておこう。


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コメント

産経の記者が仕掛けた質問の様です。
http://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/1319865/

投稿: | 2009.11.16 13:17

 当日の記者会見を聞いていて、私は、オバマ大統領の応答の次のフレーズを、日本人に対するメッセージ性の強い言葉として聞きました。この点の解説報道がなされるべきだと思いましたね。
And I have to say that I am extraordinarily proud and grateful for the men and women in uniform from the United States who help us to honor our obligations to the alliance and our treaties.
 なお、大統領がもう一つの質問はなんだったか聞き返したのに対して、記者が、Whether or not you believe that the U.S. dropped a nuclear weapon on Hiroshima and Nagasaki -- it was right?と質問を繰り返したことは、聞き取れませんでしたが、それに対して、大統領が、No, there were three sets of questions, right? You asked about North Korea? と言ったのは、三つの質問の内二つはすでに答えた、つまり、原爆投下に関する質問については、Now, obviously Japan has unique perspective on the issue of nuclear weapons as a consequence of Hiroshima and Nagasaki. And that I'm sure helps to motivate the Prime Minister's deep interest in this issue.と答えている、という意味なのではないでしょうか。はぐらかした、というより、こういう答えしかできない、と言っているのでは。


投稿: tikurin | 2009.11.17 02:04

アメリカ合衆国の大統領が広島と長崎を訪問したいという意向を公然と口にしただけでも世の中変わったんですよ。

ベルリンの壁が崩壊して20年もすれば、世の中いろいろ変わるんです。

徐々に変化していって、そして、いつの間にか劇的にすべてが変化しているんです。

そんなものなんだろうと思います。あまり、オバマ大統領に今のうちから意地の悪いことばかり言うもんじゃないと思います。

投稿: enneagram | 2009.11.18 09:46

この記者会見の質問を聞いたときに、「それを聞くんだったら、質問を全部で2つか3つに絞れよ」と思いました。彼にとって極めて答えにくい質問なわけで、案の定はぐらかされてしまいました。まあ、個人的には答えが聞きたいと思っていたわけでもないですが。

投稿: richmond | 2009.11.25 23:54

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受信: 2009.11.17 07:33

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