鳩山政権によるアフガン戦争支援は懐かしの湾岸戦争小切手外交
民主党鳩山政権が昨日10日、アフガニスタンのテロ根絶をめざし、自民党政権下のインド洋給油に代わる援助策を決定した。民生支援を柱に5年間で50億ドル(約4500億円)を拠出するものだ。またパキスタンには2年間で10億ドル(約900億円)を拠出する。どのような経緯で、どのような目論見で、なぜこの金額に決まったのか、私にはよくわからない。
1991年の湾岸戦争時代、日本は米国の言いなりになり、小沢一郎氏が実質主導し、130億ドルを拠出した(参照)。当時の額で約1兆5000億円。「人は出さないがカネは小切手で出すから勘弁してくれ」ということで、世界から微妙に評価されたものだった。今回も、その三分の一とはいえ、またしても小沢氏が実質党実権を持つ政党下で似たような小切手外交の拠出となった。当時の大騒ぎを知る私としては、あれに比べて、マスメディアのなんとも無風な状態がどうにも理解できない。
NHKのニュースをつけると、事業仕分けの会議の映像が報道されていた。さても熱心な財政削減かと思いきや、95兆円に膨らんだ来年度予算の概算要求から3兆円規模の削減を生み出すための大騒ぎらしい。恐らく税収は35兆円、よって赤字は60兆円に膨れるという日本財政の未来が迫るなか、その20分の1に「集中と選択」をしているのだろう。灯下で探し物をする男の話のようだ、落とした所は暗いので、明るいところで探しているのだ。
今朝の朝日新聞はこの事業仕分けに期待を寄せる社説を書いたが、アフガニスタン民生支援の社説はなかった。明日の社説の話題であろう。湾岸戦争時代から日本はどう変わったか、明日、朝日新聞はどう論じるのか期待したい。
読売新聞社説「アフガン支援策 「小切手外交」に戻るのか」(参照)では、湾岸戦争の想起はあったのだろう。「小切手外交」に思いが少し滲むようだった。
元タリバン兵士に対する職業訓練や警察官の給与肩代わりなど、5年間で50億ドル(約4500億円)の民生支援を実施する。従来の支援額と比べ、単年度平均で約4倍となる。
自衛隊による人的貢献策は盛り込まれなかった。政府は、来年1月に期限切れとなるインド洋での給油活動も中止する方針だ。自衛隊のアフガン支援がなくなれば、「小切手外交」に逆戻り、との批判は免れそうにない。
自民党政権下の支援額の4倍になるとのことだ、さて、これも国民が望み、合意したということなのだろうか。問題は拠出の内実だが、この詳細が社説からわからない。
50億ドルは無償資金協力や国際機関を通じて拠出されるが、その具体的な使途について、政府は国民に十分に説明することが求められる。支援の効果も検証しつつ、実施していくことが大切だ。
有効な活用が見込まれての額の算出だったのだろうか。
毎日新聞社説「オバマ氏初来日 「同盟深化」の出発点に」(参照)も類似の視点を取り上げていた。
それにしても、02年以降のアフガン民生支援が総額約20億ドルだから、大きく膨らむことになる。給油活動中止や、治安悪化で人的貢献が限られることの「代償」として米側と折り合った結果とみられる。これだけの税金を投入する以上、政府は支援内容の到達点などを定期的に国民に報告し、透明性を確保すべきだ。
当たり前といえば当たり前なのだが、この拠出額は「米側と折り合った結果」であり、今回20億ドルから50億ドルへ膨れた理由は、「治安悪化で人的貢献」ができたためなのだが、少し考えると奇妙ではある。
正統性が疑われるアフガニスタン政府に就任早々赴き、じっと建物にこもった岡田外相はアフガニスタンでの人々のためという演出をしていたが、実際には、今回の拠出は米側の要求を受けているだけに見える。
また、「治安悪化で人的貢献」ができないというが、ではどうやって民生支援をするのだろうか? 同社説によると「反政府勢力タリバン元兵士の社会復帰のための職業訓練や、警察官給与半額負担の継続、農業・医療支援などが柱となる」とのことだが、誰がするのか? 「治安悪化で人的貢献」ができないのにどうするというのだろうか。
誰でも思いつく疑問でもあり、産経新聞社説「アフガン支援 湾岸の教訓を忘れたのか」(参照)ではこの問題に触れていた。
確かに日本の新たな支援パッケージは、アフガン警察官の給与負担や元タリバン兵士の職業訓練、さらに農業分野というこれまでの支援を拡大し、金額的には倍以上だ。が、支援を円滑に進めるのに不可欠な治安の確保という視点を、鳩山政権は欠いている。
アフガンの民生支援には国際協力機構(JICA)を中心に百数十人の専門家を含む文民が派遣されている。しかし、今年8月以降はテロの頻発で最悪の治安状態となり、現在は8~9割がアフガン国外に退避している。
例えば、JICAが現在アフガンに3人派遣している稲作農業指導をカブール東の都市部周辺から北東部の穀倉地帯に拡大するというが、武器をもたない文民の安全を一体だれが確保するのか。
普通に考えると、武器をもたない文民による民生支援は無理なのではないか。なのに、巨額の拠出が先行しているのは「アメリカさんこれで勘弁してくださいよ」ととりあえず金額を積み上げて小切手を切ったのだろうか。
岡田外相はどう考えているのか。共同「首相「テロの根源なくす」 アフガン支援で」(参照)では、「今まで日本はアフガンでいい仕事をしてきたが、テロはなくなっていない。その根源をなくすため支援を強化し、アフガンが良い方向に動く環境づくりに貢献したい」とのことだが、アフガニスタンの現状は、テロ根源をなくすどころではない状況にあることは、さすがに建物におこもりしていたらしく、認識されていないようだ。
あるいは、オバマ政権のアフガニスタン戦略が、増派であれ、そうではないものであれ、成功を収めた上のある安定化を前提に、テロの芽をつみとるということだろうか。であれば、理解できないことではない。だが、「オバマの戦争」(参照)が期待された結果になるとは限らないし、そうではなかった場合、日本がどのような立ち位置になるのかは、あまり現時点で想像したいことではない。
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コメント
米共和党時代の付き合いは続けない。
パキスタンにも気前がいい。
中国を喜ばして東アジア共同体?
APEC閣僚会議ではなにを中心議題にしたいの、日本は?
まあ、地政学的に考えれば、インド洋は、日本の海ではありませんよ。おそらく、アメリカ合衆国の海でも。
投稿: enneagram | 2009.11.11 14:49
その小沢幹事長、どうやらやっちゃったようです。
http://in.reuters.com/article/worldNews/idINIndia-43849320091111
投稿: red-sun | 2009.11.11 15:33
岡田外相が昨日の記者会見で「50億ドルは細目を積み上げたものではない」と言ってました。
投稿: | 2009.11.11 15:35
そもそもアフガンは増派しようが資金援助しようがもう駄目でしょう。タリバンに支配されたらパキスタンを通じて支援している中国の影響下になるのを嫌がっているだけでしょう。
投稿: 佐藤秀 | 2009.11.11 23:04
またか!国内の同意も無く、説明無く、結論を外国に公約。具体策は何も無くその影響はジワジワと日本経済の重荷になって日本は独り負け。アフガニスタンの支援はCO2の25%削減と同じパタンだ。一体何を考えているのか。少なくとも国の経済とそれに大きく拠る国益について全く無策なのが今の政権だ。
反日国や競争する国は喜んでいるだろう。その他の国でも失笑を買っているだろう。
当初は秘書のせいだったのが、調査が進んで来ると自分の財産管理が杜撰だったなどと、一見殊勝そうに話す人はどう見ても信用できない。
あの政策は自分が大まかだったなどと言うことは普通は無いんだが、この男は平気で言いそうだ。
投稿: gyon | 2009.11.12 13:33
>そもそもアフガンは増派しようが資金援助しようがもう駄目でしょう。タリバンに支配されたらパキスタンを通じて支援している中国の影響下になるのを嫌がっているだけでしょう。
たぶんこれが正解だと思います。この国の怖いところは、一般市民の中に、本質的なことを洞察しぬいてしまう人が必ずいらっしゃることだと思います。
投稿: enneagram | 2009.11.13 09:56
「小切手外交」は日本人の造語。自虐史観。
投稿: 野次馬 | 2009.11.13 13:24
日本の置かれている立場も理解しているつもりで敢えて言わせてもらいます。
アフガニスタンやパキスタンに合計60億ドル。
この金額は私達の税金から支払われる筈です。
現在、来年度予算の事業仕分けで無駄を省くという見直しをしている最中ですが、この額より、
一桁も二桁も少ない額で鍔迫り合いのこの時期に、何故?理解に苦しみます。
5,000億円以上の金額を拠出するとは一体、鳩山さんは何を考えているのか?
沖縄のヘリポート移転問題やインド洋の海上自衛隊の補給支援の中止の言い訳に苦慮してアタマのネジが緩んだのでしょうか。
寧ろインド洋で給油を継続していた方が未だましではなかったのか?
日本の現在の状況は日航と同じく財政が破綻しているのだから、
アフガニスタンやパキスタンの事はお隣の中国やインドに任せては如何でしょう。(暴論かな?)
「国益」とは「国民の幸せ」と同義語の筈です。
国際舞台ではもう少し上手く立ち回ってほしいものだ。お坊ちゃま外交は国益に添わないと思います。
今迄のところ、アメリカの顔色ばかり見ていた小泉純一郎さんと全く代わり映えがしません。
こんな事をする位なら「ヤンバダム」なんか即刻工事を継続すべきと思いますが皆さんどう思われますか?
国連への拠出金も見直して減額すべきと思います。
投稿: hayashi nobuo | 2009.11.14 04:43