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2009.11.24

民主党によるアフガン民生支援金問題、補遺

 民主党によるアフガン民生支援金については先日「極東ブログ:鳩山政権によるアフガン戦争支援は懐かしの湾岸戦争小切手外交」(参照)ですでに触れたが、オバマ米大統領訪日の手前をとりあえず繕った拙速感が強く、予想されていた問題や看過されていた問題点は多い。備忘としても補足のエントリーをメモ書きしておきたい。
 まず昨日の共同「日本のアフガン支援に二つの壁 財政難、治安悪化で曲折も」(参照)が、民主党によるアフガン民生支援金問題の現状について、(1)日本の財政難、(2)現地の治安悪化という「二つの壁」を取り上げていた。財政難については次のように述べていた。


 外務省はまず約800億円を早急に支出し、元タリバン兵への職業訓練制度づくりや警察官給与の負担などを実施する方針で、2009年度第2次補正予算案での確保を目指している。
 続く10年度のアフガン支援については、900億円程度を想定しているが、無償資金協力枠は概算要求で1572億円。このため外務省はアフガン支援を「特別枠」としたい考えだが、財務省は従来の無償枠で対応するよう求めている。そうなるとアフガン支援を優先すれば他の国や地域への援助が減り「大打撃」(幹部)となりかねない。

 現在進行中のどたばたの事業仕分けでひねり出しつつある財源は2009年度補正予算に組み込まれるのかわからないが、いずれにせよそこから早急に約800億円の支出が求められている。苦労して捻出した財源も日本国内の予算には充てられないのかもしれない。民主党政権の成立過程を見ると当初想定されていなかった支出だろうが、そもそもの総額の決定過程が不透明でもあるので、今後の問題となるかもしれない。
 財源関連で最も問題なのは、「財務省は従来の無償枠で対応するよう求めている」という点で、「アフガン支援を優先すれば他の国や地域への援助が減」るということだ。つまり、他の支援にしわ寄せ来るのではないか、ということだが、これがどうなるのか。
 今朝の読売新聞社説「国際機関援助 「倍加」を表明して削減とは」(参照)が関連の話題で懸念を表していた。

 政府は先に、アフガニスタンの民生支援のため5年間で最大50億ドル(約4500億円)を拠出することを表明した。旧タリバン兵士の職業訓練や農業開発などだ。
 だが、現地の治安状況が改善せず、日本人が現地で活動することは容易ではない。このため、日本の支援の実態は、UNDPなどに資金を渡し、各機関のスタッフや派遣ボランティアに活動してもらう形となる。
 そうした活動経費は、通常の拠出金とは別に予算を確保するつもりかもしれない。しかし、国際機関に頼らざるを得ない現状を思えば、主に国際機関の運営費に充てられる拠出金を大幅に切り詰めることが、適切とは思えない。

 民主党によるアフガン民生支援金が機能するには、さらに別途国際機関援助への補助が必要なのだが、削減が模索されているようだ。それはすでにしわ寄せなのではないだろうか。
 共同記事が指摘した二点目の現地の治安悪化は深刻で展望が見えない。20日の政府答弁書は、アフガン大統領選に派遣した選挙監視団が作業変更や見送りを余儀なくされるほどの治安悪化を述べていた。
 今週中には、オバマ米大統領がアフガン増派を決定すると見られているので、治安の改善については、米軍増派の成果を期待することになるだろう。増派が失敗すれば、日本の民生支援も宙に浮くことになる。日本としては結果として米軍増派を支援する形となるだろうし、社民党・国民新党を含めた民主党が米軍増派支援をまとめたことにもなる。
 ところで米軍増派というと兵力の増強を意味するのだが、その他の対応も含まれている。13日のNHK視点・論点「アフガニスタン支援」(参照)で、日本エネルギー経済研究所理事田中浩一郎氏が指摘しているように、2010年度の米国国防予算には、アフガニスタン武装勢力をタリバンから分離するための買収工作費が含まれており、増派でも活発に買収工作が進展するだろう。だとすれば、日本からの民生支援金は実際には米国のこの費用の穴埋めともなるのではないだろうか。以前、インド洋上給油は何に使われているかという議論があったが、同質の問題にもなりそうだ。
 同番組での田中氏の指摘は、民主党によるアフガン民生支援金拠出が、さらに暗澹たる帰結になることを予想させた。

警察官育成の最大の障害は腐敗です。その彼らに給料を払い続けるだけでは、腐敗を蔓延させるだけに終わりかねません。質的な向上を図ることが不可欠なのです。それから、職業訓練を受ける元ターリバーン兵士への給与の支払いにも通じることですが、こうした給付金の上前を撥ね、武装勢力に回流させる危険な構造があります。その対処を怠ると、給与支援が、かえって仇となってしまいます。

 別の言い方をすれば、現カルザイ大統領の政権の根幹から組織化されている汚職の構造が改善されないかぎり、民主党案の民生支援金は武装勢力に行き渡ることになり、当初の目的とは逆の結果になる。
 さらに、民主党案の「民生支援」という美辞麗句自体が機能しない可能性がある。

また、本質的な矛盾も抱えています。このままでは、悪事に手を染めた、ターリバーン兵士を優遇することになりかねません。一般の、貧しい、けれども真っ正直に生きてきた市民も、現に、職業訓練を受けようとしてきたわけです。彼らに対する生活保障が与えられない中、ターリバーンだった、ということを理由に特別扱いすることは、差別に他なりません。


同時に、現在のターリバーンが、ほぼ100%パシュトゥーン人であることからすれば、他の民族は何の恩恵も得られない、ということになります。各地に、「にわかターリバーン」が出現することを、助長することにもなりかねません。そもそも、誰がターリバーン兵士であるかを、特定することが難しい場合も多いのです。

 番組ではパシュトゥン人の地域の地図も表示されたが、その地域は南部、またパキスタン側に偏っている。同地は当然、戦闘地域でもある。
 アフガニスタンは多民族国家で、民族問題も深刻である。アフガニスタンの民族構成だが、ウィキペディアにもあるが、パシュトゥン人が45%、タジク人が32%、ハザラ人が12%、ウズベク人が9%といった構成で、以前のタリバン政権と対立していた北部同盟はタジク人が主体になっている。今回の選挙の分裂も、パシュトゥン人とタジク人の対立があった。なお、ハザラ人はモンゴル系とも見られ、日本人の相貌に近い。日本人は現地では通常ハザラ人として見られるようだ。
 いずれにせよ、こうした民族の対立も融和に結びつけるように民生支援を行わなければならないのだが、かなり難しいうえに、日本政府が責任の取れないかたちの丸投げになるのではないか。

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コメント

他人事のように話して申し訳ないのですが、いまさらながら、ユーラシア大陸の西の端のどれほどかと東の端の島々と半島と北米以外の場所は、国民国家の成立が困難なのがわかります。

アフガニスタンで議会制民主主義統治が可能なのか?でも、イスラームに任せるとどこをどうめぐってもタリバン支配みたいなものなのでしょう。

アフガニスタンは、当国、ロシア、中国、パキスタン、イラン、アメリカの6カ国会議を開ける場所ではないので、北朝鮮より扱いが困難なのでしょうが、いずれは、そういう仕組みで統治を指導する必要に迫られるのではないかとも思います。

なにか、無理して入れたあまりよいコメントではないですね。すみません。

投稿: enneagram | 2009.11.25 09:12

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