オバマ米大統領訪日日程変更の背景
些細なことかもしれないが、報道を見ていて多少疑問に思ったことでもあるので、簡単に書いておこう。オバマ米大統領訪日日程変更への疑問だ。なぜ訪日日程が変更されたか。表向きの理由は、テキサス州の陸軍基地で起きた銃乱射事件の追悼式典に参加するためだし、それはしかたないだろうなと私も見ていた。
オバマ米大統領訪日だが、普天間飛行場移設問題に端を発する日米同盟見直しの問題で、曖昧でかつ閣僚から不統一な見解が次々と展開される鳩山政権に対する不快感から、中止になるかもしれないという見方があった。私はそれに与しなかった。そこまで事を荒立てても米側にメリットはないだろうと見ていた。しかし、ではまったく予定通りの訪日かというと、ゲーツ国防長官の訪日から考えてそれもないだろうとなんとなく思っていた。それが今回の訪日日程変更に関係しているだろうか。
話の枕というか、いわゆるネタの類だが、7日の産経新聞記事「やっぱり日本軽視? ずれ込んだオバマ米大統領訪日 平静装う日本政府」(参照)が面白ろおかしく仕立てていた。
「銃乱射事件があったので大変だと思います。その思いは理解しないといけない。会談に影響がないように努力します」
鳩山由紀夫首相は7日午後、オバマ米大統領訪日ずれ込みを記者団に問われ、淡々とこう語った。
だが、今回の訪日は天皇、皇后両陛下との午餐(ごさん)会も予定され、「準公式訪問」といえる内容だった。しかも12日の天皇陛下御在位20年記念式典など宮中行事が続く中で日程調整してきただけに、唐突な変更は礼を失するとの見方もある。
ただ、日本政府にも一方的な変更要請に文句を言えない負い目がある。
日米最大の懸念である米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題をめぐり、米側は大統領訪日までの「回答」を求めてきたが、岡田克也外相は米軍嘉手納基地への統合案に固執し、クリントン米国務長官との直談判を画策した末、土壇場でキャンセルした。首相は先月22日に「必ず大統領来日までに(回答する)という話ではない」と表明してしまった。
これでは米政府内で「日本軽視」の風潮が広がっても仕方ないだろう。
産経記事では突然の日程変更の申し出は米側が失礼だが、日本にも負い目があるという書きぶりだった。普天間飛行場移設問題から米政府内に「日本軽視」の風潮があるのではないかというのも、いかにもネタっぽい。ちなみにはてなブックマークでも、産経記事を嘲笑するようなコメントが並んでいた(参照)。
te2u 「日本軽視」の風潮を広めようとしている。 2009/11/09
asahichunichi 産経脳 2009/11/09
kogarasumaru 政治, 国際, 報道, マスコミ 署名記事でこれが書ける産経のレベルに脱帽/アメリカ政界が今大変な時期なのは無視か…/乱射事件もそうだし、保険制度の件もしかり/「「準」ともいえる」って2重に遠まわしかよ 2009/11/08
bukuma 産経の自虐「視」観。右翼ってかまってちゃんのメンヘラなんだな。ゴタゴタがある事即ち問題ではない。対立のない外交を良しとするなんで,なんて平和呆け。 2009/11/08
shifting 産経は愛国を唱えたりアメリカに媚びたりいろいろ大変だなぁ(棒読み 2009/11/08
harnais やっぱり日本軽視? ずれ込んだオバマ米大統領訪日 平静装う日本政府 2009/11/08
biconcave …独自の戦い 2009/11/07
考えようによっては産経記事と同質のネタとも言えるのだが、7日の読売新聞記事「オバマ訪日「中止しなかったのは米側の意気込みの表れ」」(参照)では、訪日中止しなかっただけでも日本重視だという読みで書き飛ばしていた。冒頭にまず、銃乱射事件の追悼式典が取り上げられた。
オバマ米大統領が12日に予定していた訪日を13日に延期したのは、米陸軍基地(テキサス州)で5日に起きた銃乱射事件の追悼式典に大統領が出席することが理由だ。
しかし、続く段落のトーンが微妙だ。
日米双方の担当者は、大統領来日を粛々と進めることで、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題などで亀裂が生じている日米関係改善につなげようとしていたが、直前にさらに冷や水を浴びせられた格好だ。
理由如何は置くとして、「直前にさらに冷や水を浴びせられた格好」というのは確かだし、「大統領来日を粛々と進めることで、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題などで亀裂が生じている日米関係改善につなげよう」とすることが挫かれたもの事実だ。
外務省幹部は「日米関係がぎくしゃくする中、米の乱射事件は、来日中止の最大の口実になり得た。それでも中止しなかったのは、米側の意気込みの表れだ」と述べ、安堵(あんど)の表情を見せた。
乱射事件が訪日中止の口実にされるのが外務省としては怖かったというのも、確かなところだろう。7日づけ毎日新聞記事「オバマ大統領:来日変更13、14日に 銃乱射事件追悼で」(参照)も「外務省幹部は「日程変更は打診されているが、訪日が中止になることはない」と語った」として、この時点で訪日中止を懸念したことが伺える。
ここで少し疑念が沸く。
読売記事中の「12日に予定していた訪日を13日に延期」は、実質には延期というより、日本滞在時間の短縮である。あくまで仮の想定だが、予定された訪日と訪日中止の折衷的なスタンスがあるとすれば、まさに日本滞在時間の短縮ではないだろうか。つまり、それだと、日本へのあるメッセージが込められていたと解釈してもよいことになる。
読売記事でもう一点気になることがある。
首相は自らのAPEC首脳会議への出席について、「多少遅れるかもしれない」と記者団に語り、日米首脳会談の日程を優先する考えを示したが、大統領の日本での日程が短縮される可能性は高い。外務省幹部は「1時間強の首脳会談と、共同記者会見の時間は確保したい」と話す。
この点についてすでに明らかになっているのは、鳩山首相のAPEC首脳会議出席の遅滞はないことだ。10日時事「鳩山首相、米大統領残しAPECへ」(参照)より。
首相としては「アジア重視の姿勢を示すため、14日の首脳会議開幕に遅れることはできない」(政府関係者)という。ただ、来日中の外国首脳を残して、首相が外遊に出発するのは極めて異例。
一方、オバマ大統領は14日も日本に残り、天皇陛下との会見やアジア外交に関する演説などの日程をこなしてからシンガポールに向かう見通しだ。
「極めて異例」が米側にどう伝わっているのはわからない。特にどうということでもないのかもしれない。
仮の想定ではあるが、米大統領訪日日程変更に日本軽視なりのメッセージ性があっただろうか。外交というのは明確なメッセージを出したら外交にならないことがあるのだが、それでもメッセージであるなら、それを示す他の事実やシグナルがある。というところで、変なことに気がついた。いや、変でもなんでもないことだが。
その前提として、訪日日程変更を日本のメディアはどう伝えていたか。11日FNN「オバマ大統領、訪日より追悼式典優先の理由」(参照)が真正面から答えていた。
アメリカ・オバマ大統領は10日、テキサス州の陸軍基地で起きた銃乱射事件の追悼式典に出席した。初の訪日日程を遅らせて式典への出席を優先させたのには、ある理由があった。
事件は5日、テキサス州のフォート・フッド陸軍基地で発生、13人が死亡し、アメリカ中に衝撃を与えた。オバマ大統領はこの事件の追悼式典に出席するため、初めての日本訪問を一日、遅らせた。
フォート・フッド陸軍基地は、アフガニスタンなどに兵を送り出す拠点で、犠牲者の中にはこれからアフガニスタンに向かう兵士も含まれていたという。オバマ大統領は近くアフガニスタンへの増派を決断するとみられており、軍の最高司令官としては訪日の日程をずらしてでも式典に出席しなければ、増派への国民の理解を得られないと判断した。
「なるほど、オバマ米大統領は、アフガン増派を踏まえて米国内への配慮を優先せざるを得なかったのか」と納得しやすい話だ。が、日程を再検討してみる。
時系列を整理してみよう。テキサス州の陸軍基地で起きた銃乱射事件があったのは、米国時間の5日である。訪日延長が日本政府に伝えられたと報道されたのは日本時間の7日である。米国時間では6日になる。つまり、事件翌日だ。そして、追悼式典にオバマ大統領が参加したのは、10日である。訪日予定は12日のはずだった。
あれ? 追悼式典に参加するとしても、12日の訪日スケジュールは当初通り楽勝なのではないか?
日米間には1日に近い時差がある。それでも、米時間10日の式典と日本時間の12日の間にはまるまる一日分の差がある。その一日、つまり、11月11日になんか特定のことがあったのだろうか?
言うまでもない、11月11日といえば「復員軍人の日(Veterans Day)」である。第一次世界大戦の終わりを示すドイツの休戦協定への調印日を記念し、米国では祝日となっている。9日読売新聞夕刊記事「日米首脳会談は13日夕、大統領の式典出席で」(参照)ではそこを元に推察していた。
大統領は、アフガニスタンへの増派問題を抱える中で、13人が犠牲になった米軍内での事件への対応を誤れば、政権批判が強まると判断し、退役軍人をたたえる祝日の11日も米国内にとどまる、とみられる。
なるほどとも思えるのだが、疑念は残る。というのは、当初の日程では「復員軍人の日」にオバマ大統領は米国を発つ日程だったので、動けないはずはなかった。また、「復員軍人の日」の重要性は、銃乱射事件の追悼式典に付随するものでしかない。別の言い方をすれば、銃乱射事件の追悼式典参加が重要であっても、訪日延期の理由は「復員軍人の日」の重要性にある。つまり、米政権内で「復員軍人の日」の重要性が、訪日よりも重要だという判断があったことになる。そのあたりの空気は、同日のワシントン・ポスト紙社説「Veterans Day」(参照)からも読み取れる。
ここでもう一つ疑問が沸く。
テキサス州の陸軍基地で起きた銃乱射事件は米国時間の5日である。そして、追悼式典は米10日である。訪日延長が日本外務省に通知(または交渉)されたのは7日であり、米国時間では事件翌日の6日と言ってよい。米国時間で5日に銃乱射事件があり、翌日に日本側に通知された。では、いつ追悼式典の日程が決まったのだろうか? これも別の言い方をすると、追悼式典の日程が決まってから、訪日延期の通知、あるいは交渉があったのか、それとも、訪日延期の話の後に追悼式典の日程が決まったのか。
残念ながらそこを知る決定的な手がかりが見つからない。事件翌日の通知ということからすると、式典開催は決定されたとして、その日程は決まらないものの、余裕をとって訪日延期としたのだろうか。もしそうなら、「復員軍人の日」はどう想定されていたのだろうか。
以上のように、オバマ米大統領訪日日程変更が日本軽視であり、その口実が追悼式典であったとは言い難いが、「復員軍人の日」を巡り、マスメディアを通して言われているのとは多少違った背景もありそうには思えた。
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コメント
この問題がそんなに重要で、特に取り上げねばならない性質の話とも思えません。
日米関係の小さな亀裂の第一歩、と受け止める考えもあるのだろうけれど、かつて、日本は、米中国交回復の前に日中国交回復をしてしまった過去があります。
また、故鳩山一郎首相がソ連との国交正常化をしても、日本は、西側の一員で、アメリカの同盟国であり続けました。現首相は、そのお孫さんです。外交の均衡感覚はおそらく健全だろうと思われます。
日本人は、「日米同盟」という言葉を使うけれど、アメリカ人やイギリス人は、「米英日軍事同盟」だと考えていると思います。
イギリスのマスコミが日米関係の齟齬を大騒ぎする自体がこない限り、日米関係はひどくゆがんではいないと考えてよいと思います。逆に、イギリスの主要マスコミが日本外交に対して強い警告を発するころには、日米関係は、修復不可能になっているのだろうと考えます。
いまのところ、イギリスのマスコミは、日米関係に対して強い関心を持ってはいないと思われます。
投稿: enneagram | 2009.11.13 10:13