クライメイトゲート事件って結局、何?
ブログ記法で書くなら、「クライメイトゲート事件(笑)」が正確なのかもしれない。いずれにせよ、あれよあれよという間にこんな立派名前までついてウィキペディアに項目も掲載されていた(参照)。で、クライメイトゲート事件って結局、何? なのだが、ウィキペディアの解説が間違っているわけではないが、ちとわかりづらい。
クライメイトゲート事件(クライメイトゲートじけん、Climategate)とは、2009年11月にイギリスにあるイースト・アングリア大学の気候研究ユニット(CRU:Climate Research Unit)がハッキングされ、地球温暖化の研究に関連した電子メールと文書が公開された一連の事件のこと[1][2][3][4]。
ウィキペディアはいろいろと執筆者間に必死な対立があって、「公平(笑)」を期してこういう曖昧な記述になっているのかもしれない。
英語のほうの項目を見ると"Climategate"は、"Climatic Research Unit e-mail hacking incident"(参照)に転送される。クライメイトゲート事件は、イコール、CRUハッキング事件という認識があるのか、"Climategate"という疑惑事件示す名称を避けているのか、よくわからない。
私がこの事件をフォローしている限りでは「ハッキング」はまだ事実認定されていないのではないかと思う。つまり、内部からの意図的なリークが関与している可能性はまだ残されているように思う。
クライメートゲート事件とは何かという前提の話の前に、いきなりハッキング事実認定問題に突入してしまうのもなんだが、今回の事件は単にCRU内メールが暴露されたという単純なものではない。奇妙なほど長い助走期間があった。実は10月12日の時点で、BBCの科学担当ポール・ハドソン氏(Paul Hudson)はこの暴露メールを受け取っていた。氏のブログのエントリ「'Climategate' - CRU hacked into and its implications」(参照)より。
I was forwarded the chain of e-mails on the 12th October, which are comments from some of the worlds leading climate scientists written as a direct result of my article 'whatever happened to global warming'.私は10月12日に一連のメールの転送を受信していた。転送メールの内容は、気候学者として世界的に著名な科学者の見解を示したもので、あたかも、私が書いた「What happened to global warming? (地球温暖化に何が起きたか?)」の直接的な結果のようだった。
The e-mails released on the internet as a result of CRU being hacked into are identical to the ones I was forwarded and read at the time and so, as far as l can see, they are authentic.
CRUがハッキングされネットに暴露されたメールと、私が当時受信し転送したメールは同一であり、私の見解では、これは贋物ではない。
贋物かどうかはすでに関係者の声明も出ているので既決事項である。ハドソン氏はハッキングと認識しているのだが、その認識は現下の大騒ぎを受けてのことで、氏自身の判断ではないような書きぶりである。エントリ中、「What happened to global warming? (地球温暖化に何が起きたか?)」とある記事は、このブログで10月12日「どうやらあと20年くらい、地球温暖化は進みそうにない: 極東ブログ」(参照)で扱っているので参考にしていただきたいが、ご覧のとおり、温暖化懐疑論をユーモラスに鼓舞する内容とも読めないことはないし、この話を取り上げた私も赤祖父一派の懐疑論だと決めつけたようなバッシングを食らったことからも、それなりにインパクトのあるネタではあった。そのあたりから連想しても、ハドソン氏へのチクリもそうした懐疑論を鼓舞したい思惑の文脈にあったと見ても常識を逸脱したものではないだろう。そしておそらく、クライメートゲート事件の基点はBBCの同記事にある。
ここでの問題はハドソン氏の関わりである。この暴露メールを、現下IPCCおよびフィナンシャルタイムズなどが私と同様に「くだらねーなぁ(None of the e-mails seized on by sceptics shows manipulation of the science itself.)」(参照)と握りつぶそうとしているのは仕方がないとしても、ハドソン氏はジャーナリズムに関わる者として、ただならぬものであることは理解できたはずだ。ハドソン氏はなぜ、それを6週間もの間公開しなかったのだろうか。また、転送元の情報を明らかにしないまま、ハッキング認定を行うことは暴露経路の隠蔽に関わっているかもしれないと疑われてもしかたがないのではないか。実際にはハッキングによって暴露されたとしても、それは10月の出来事であって、この間欧米メディアに浮上するまでの沈黙機関はジャーナリズム上注目されるところだ。
とま前段の話が長くなったわりに、この問題を取り上げたタブロイド紙デイリーメール記事「Climate change scandal deepens as BBC expert claims he was sent leaked emails six weeks ago(気候変動スキャンダルはBBC専門員が6週間も事前に暴露メールを送信していたとこで深まる)」(参照)のレベルの疑惑かもしれないが、気になることではある。
話を戻して、クライメイトゲート事件だが、問題の核心は単にCRUのメールがハッキングされちゃいましたということではない。出てきたものが、普通に考えると、「うへぇ、こ、これがれいの青いドレス、おい、くんくんすんじゃねーよ」というくらいの内容だったので大騒ぎになっている。そこで大騒ぎといえばブログの世界ではアルファーブロガー池田信夫先生の登場が期待され、期待どおり氏は「IPCCの「データ捏造」疑惑」(参照)で事件の意味を一つの視点から明確に述べている。
ホッケースティックのデータが捏造されたのではないかという疑惑については、全米科学アカデミーが調査し、IPCCの第4次評価報告書からは削除された。このEメールは、捏造疑惑を裏づけるものといえよう。
ホッケースティックは、ホッケーに使うあのヘラみたいなものだが、ようするに地球の気温はずっと平坦だったのに、1900年以降急上昇したというグラフが、ホッケースティックを横に置いたように見えるというもので、IPCCの第4次評価報告書までは話題の的であり、疑惑の的でもあった。
ホッケースティック
疑惑から起きた喧々囂々たる議論は、ホッケースティック論争と呼ばれている。ウィキペディアはこうまとめちゃっている(参照)。
しかしその気温変化を見積もるために用いられたデータの出典の記述が間違っており、またマンらが観測精度の誤差と考えた変化を修正して用いられていた。この出典表記の間違いや修正を「改竄」などとして批判する者があらわれ、スキャンダルとなった[1]。また、マンのデータに対して小氷期や中世の温暖期などによる気温変動が過小評価されているのではないかなどと数多くの批判や異論が論文となって発表されており、この一連の騒動をさして「ホッケースティック論争」と呼ばれ、海外では多くのメディアで報道された(ただしマンらの明らかな間違いは結局のところ出典の誤記だけであり、その結論には変わりが無いとされる[2])。
強調部分は私がしたものだが、ホッケースティックの問題は出典の誤記であって、科学的な結論はこれで「変わりが無い」と言われているのだが、さて、その意味はよくわからない。今回のクライメイトゲート事件で、依然「変わりが無い」かどうかだが、結論を先に言えば、ホッケースティックのことは過去のことにして、地球温暖化の議論は盤石であるということなんで、もうそんな古い話はすんなよ、ということになるので、「変わりが無い」とは言えるかもしれない。
結局、クライメイトゲート事件とはなんなのか。今北産業のまとめはパジャマメディア「Three Things You Absolutely Must Know About Climategate(クライメイトゲート事件について絶対に知っておくべき3つのこと)」(参照)あたりだろうか。
- The scientists discuss manipulating data to get their preferred results.(CRUの科学者は好ましい結果が出るようにデータを操作を議論する。)
- Scientists on several occasions discussed methods of subverting the scientific peer review process to ensure that skeptical papers had no access to publication. (科学者は時折、懐疑的論文が公開されないことを確実なものにするため、同僚間の査読を妨害する手法を議論する。)
- The scientists worked to circumvent the Freedom of Information process of the United Kingdom.(CRUの科学者は、英国の信書の自由を出し抜くことやってのける。)
うぁ、ひでー、それじゃ、ミネソタ地球温暖化サイト(参照)のネタじゃねーのとか思う人もいるかもしれないが、オリジナル記事に当たってもらうとわかるが、3項目についてきちんと対応の暴露メールのリンクがあり、そうめちゃくちゃものでもない。というか、トマス・クーンの科学論から考えても科学集団のあり方としてそれほど特異なものではないだろう。
重要なのは、これらのまとめが、なんら地球温暖化の知見には寄与してないことで、どうやらクライメイトゲート事件自体は、地球温暖化懐疑論とは独立していると見てよい。
クライメイトゲート事件は、BBCでの懐疑論風味のネタ記事が原点ではあったが、さらに全体の文脈で見るなら、時期的にも、COP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)を当て込んで着火されたことは間違いなく、地球温暖化議論の科学者集団への政治的な疑惑には直結するだろう。
そのあたりは、テレグラフ記事「US Congress investigates Climategate e-mails: this could be the beginning of the end for AGW(米国議会はクライメイトゲート事件メールを調査する:人為的地球温暖化議論終了の兆しとなるかもしれない)」(参照)が論点を米国政治文脈に絞り込んでいる。当然ながら、民主党・共和党の華々しい話題に転写され、特にオバマ政権での科学アドバイザーであるジョン・ホールドレン(Dr John Holdren)に着火しそうな気配だ。このあたりの問題は、もし問題化するなら、しばらくして米国経由でオバマ政権の失墜福袋パッケージに梱包されて新年を待たずに飛び出すかもしれない。
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