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2009.10.16

ベルリンの壁崩壊の陰の三人から日本人が学ぶべきこと

 先月のニュースだが、英国外務省(FCO:the Foreign and Commonwealth Office)がベルリンの壁崩壊に関係する機密文書を公開した。当時の英国サッチャー首相とフランスのミッテラン大統領の対談を記したものだ。読みようによっては相当に物騒な内容である。この文書で明らかになったのだが、二人とも、結果的にベルリンの壁崩壊がもたらしたドイツ再統一を欧州の安全保障上の脅威と見なしていた。9月13日付け日経新聞記事「再統一ドイツはナチス以上 90年当時、英仏首脳が危機感」(参照)はこう伝えていた。


 ミッテラン大統領は90年1月のパリでの首脳会談でサッチャー首相に対し「ドイツが再統一されればヒトラー以上の勢力を手にする」と発言。さらに再統一観測でドイツ人が「悪い人々」になりつつあり、欧州は第1次世界大戦前夜の状況に戻る恐れがあると指摘した。サッチャー首相も当時、再統一に強く反対し、英外務省とも対立していた。

 日経新聞記事では情報の出所を明示していないが、同様の内容の、2日前の9月11日読売新聞記事「「統一ドイツ、ヒトラーより強力」 1990年、仏英首脳が懸念」と比較すると、英紙報道の孫引きではなかったかと思われる。

 フィナンシャル・タイムズ紙などが10日、報じた。会談はパリのエリゼ宮で昼食を共にしながら行われ、ミッテラン氏は、統一が視野に入ったドイツがかつての「悪者」に逆戻りしつつあるとも警告したという。
 同紙によると、両首脳が89年12月に仏ストラスブールで会談した際にも、ミッテラン氏は「コール(当時の西ドイツ首相)はドイツ人の愛国心を悪用するばかりで、近隣諸国の懸念をまるで理解していない」と、統一に突き進んだコール氏個人を批判していた。

 読売記事は「フィナンシャル・タイムズ紙など」としながら「同紙によると」と受けているので複数形と単数形の照合に違和感があるが、おそらく読売記事もフィナンシャル・タイムズ記事の孫引きだったのだろう。同日の共同記事「独統一はヒトラーより危険 壁崩壊後、仏大統領が危機感」(参照)はフィナンシャル・タイムズ一紙だけを挙げている。

【ロンドン共同】1989年11月の「ベルリンの壁」崩壊後、ミッテラン・フランス大統領(当時)がサッチャー英首相(同)に対し、東西ドイツが統一したら「ヒトラーよりも多くの土地を得る」かもしれないと述べ、強い危機感を示していたことが公開予定の英外務省機密文書で明らかになった。10日付フィナンシャル・タイムズ紙が伝えた。
 文書は90年1月20日、パリで行われた英仏首脳会談の発言をサッチャー氏の外交顧問が記録したメモ。両首脳が当初、ドイツ統一に反対していたことは知られているが、生々しい発言が文書で確認されるのは異例。

 外信の常として孫引き元のオリジナルソースが提示されない点、日本のジャーナリズムはブログより劣るかもしれない。
 当のフィナンシャル・タイムズ紙ではJames Blitz氏記名の記事「Paris feared new Germany after reunification」(参照)が、英国時間の9月10日に掲載されていた。読むとわかるが、上記の日本の3つの孫引きは同記事に由来すると見てよさそうだ。
 日本に伝えられていない興味深い話もあった。

The FCO’s decision to publish the papers, after a year of deliberation by Whitehall officials, is being seen as an attempt by Britain to set the record straight and show that its diplomats were positive about reunification early on --- in spite of Mrs Thatcher’s personal misgivings. Germany is preparing to celebrate the 20th anniversary of the wall’s fall, which many Europeans view as a historic moment of liberation ending the postwar division of the continent and decades of Soviet occupation.

英国政府による1年に渡る熟慮の後、英国外務省が同文書出版を決断したことは、英国としては、マーガレット・サッチャー首相の失点にもかかわらず、記録についての疑念を晴らす試みであると見られる。また、外交的にはドイツ再統一に初期の時点で好感をもっていたことも示している。ベルリンの壁崩壊は、第二次世界大戦後の欧州分割とソ連下の年月が終了した際の、歴史的な解放の記念と見られるが、ドイツはその20年記念の準備中である。


 ベルリンの壁崩壊20周年記念に合わせて、英国がドイツに対して友好を明かすものとしてあえて、自国の恥となる文書を公開したということのようだ。

The papers’ publication is controversial. Britain normally publishes secret official documents only after 30 years. The publication of such sensitive papers after 20 years may cause friction with France.

文書出版は論議を興した。英国は通常機密文書を30年後に公開するものだ。このような微妙な内容の文書を20年後に公開することは、フランスとの間に問題を起こしかねない。


 英国は自国の恥でよいとしても、フランスも巻き込むことなるので、そこはどうよということでもあるようだ。
 いずれにせよベルリンの壁崩壊は、従来、米国レーガン政権や西側諸国による、対ソ連攻略の成果と見なされていた。しかし、すでにサッチャー元首相が統一ドイツを嫌悪していたことはその自伝からも明らかになってはいるが、英仏ともに、その当時の代表者の意見に過ぎないのではあるが、本音ではドイツの統一に脅威を覚え、かつ蔑視していた。
 この歴史の秘話には、欧州における外交というものの大人らしい味わいがあり、「友愛」といった美辞麗句の背後にある、なかなか日本人には理解しがたい知恵がある。日本人が理想から曲解しやすい性質を持つ好例は、民主党の横路孝弘衆議院議長のブログにも見られる。「胡錦濤・中国国家主席の来日」(参照)より。

 日本と中国、日本と韓国、そしてアジア諸国とは、何といっても、相互信頼が必要です。
 私はドイツの首相だったシュミットさんから直接こんな話を聞いたことがあります。
 「ドイツにとって欧州で一番相互信頼関係を作らなければならないのはフランスです。第一次世界大戦、第二次世界大戦を考えればわかるでしょう。そこで私は、当時のフランスのジスカールディスタン大統領と月に一度は電話をかけるか、会談を行うかコミュニケーションを計ってきたのです。大事な政策については、ドイツ国内で発表する前にフランス大統領に知らせてきました。こういう関係は、私の後のコール首相とフランスのミッテラン大統領にも引き継がれ、互いの信頼関係を深めていったのです。だから東ドイツとのドイツ統一が問題になったとき、イギリスのサッチャー首相は、フランスのミッテラン大統領に一緒にドイツ統一に反対しょうと働きかけたのですが、そのときフランスは断ったのです。そこでドイツ統一が実現したのですよ。日本は私の見たところ。アジアで孤独ですね、中国や韓国をはじめ、アジア諸国と本当の信頼関係を築くことが大切ですよ」
 私はいま欧州がEUという形で発展している、そのベースにはこうした政治家の努力、対話の積み重ねがあることを知り感銘しました。

 残念でした、横路議長。ハズレです。
 「中国や韓国をはじめ、アジア諸国と本当の信頼関係を築く」うえで欧州の大政治家から学ぶべき感銘のポイントは、おっとっと、そこではない。この関連は後でも触れことにしよう。
 今回の公開文書関連の話だが、フィナンシャル・タイムズのネタだけ見ていると、サッチャーとミッテランの腹黒さで終わり、孫引きの日本報道にも見えないのだが、もう一人、大役者がいる。ゴルバチョフ元ソ連書記長だ。
 同じく英国の高級紙タイムズ紙に9月11日付けでMichael Binyon氏による記事「Thatcher told Gorbachev Britain did not want German reunification」(参照)が興味深い裏話を取り上げていた。標題からもわかるように、当初ドイツの統一を望んでいなかった点で、ゴルバチョフも同じではあった。
 記事を書いたタイムズ紙のMichael Binyon氏は、同種の話をフォーサイト11月号(参照)の「旧ソ連文書が明かす「ドイツ統一を恐れた英仏」」にも寄稿している。機密文書の出所が興味深い。

 旧ソ連文書には、ゴルバチョフが外国の指導者と交わした議論や文書に加え、ソビエト指導部内部での議論がすべて含まれており、ゴルバチョフは政権を去ると同時に、この文書を携えて、新たに設立したゴルバチョフ財団へと移った。その内容については、これまでも緻密な検閲を経た一部は公開されていたが、その全体象は知らされていなかった。
 ところが最近、ゴルバチョフ財団で研究していた若いロシア人学生パベル・ストロイロフが膨大な記録をコピーし、これを密かにロンドンに持ち出したために、すべてが明かされたのだ。ストロイロフはロンドンに移住し、一方、ロシア政府はその後、外国要人との会議記録をすべて非公開とした。

 この文書のなかに、横路議長が心に留めておくとよい話がある。文中のアタリ氏はミッテラン氏の特別補佐官である。

 旧ソ連文書によれば、ミッテランはドイツ再統一を阻むために、ソ連との軍事同盟さえ考えていた。「アタリは軍事統合を含めた本格的な露仏同盟復活の可能性さえ持ちだしたが、表向きは自然災害に対処するための陸軍共同使用としていた」。

 結局、ドイツ再統一に尽力したのは、その後改心したゴルバチョフ氏だった。彼に与えられたノーベル平和賞にはきちんと意味があった。

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コメント

正直なところ、半島は再統一しないほうが日本の国益にかなうと思っています。

投稿: ななし | 2009.10.16 21:50

正直なところ、半島は再統一しないほうが日本の国益にかなうと思っています。

投稿: ななし | 2009.10.16 21:50

欧州の話から、日本が何を学べるのかよくわかりませんが、ヨーロッパ諸国がドイツをすごく怖がっているのはよくわかります。

日本も、中国やロシアやアメリカや、南北朝鮮からたぶんすごく怖がられているのだろうと思います。

大体、わたしなんて、韓国がイージス艦を1隻(「セジョンテワン(世宗大王)」)保有しているだけで、不気味に思っているわけだから、イージス艦を世界でアメリカに次いでたくさん保有している(確か現在8隻)日本を、近隣諸国が怖くないわけがないんです。

やっぱり、日本の首相は、靖国神社に参拝するべきではなく、後で分捕られることはほぼ自明でも、サハリン3の開発には参加すべきであるということなのでしょう。たぶん、そういう譲歩は不可欠ではないまでも、必要なのでしょう。

投稿: enneagram | 2009.10.17 09:31


 イージス艦=怖いというイメージ持つこと自体が「なんだかなぁ。」と言う気がします。
 イージス=女神の盾、強力な"防"空システムを持つ軍艦が「イージス艦」と呼ばれてるんですけどね。
 「MD」、ミサイル防衛システムを整備すると、諸外国に脅威を与える。と"煽る"人たちと同じ理屈なのだと思います。
 
 偏見自体は大なり小なりあるけれど、「それは無いだろう。」という突っ込みドコロが…。
 

投稿: にこべん | 2009.10.18 15:22

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受信: 2009.10.17 07:37

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