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2009.10.11

ノーベル平和賞先輩キッシンジャーはオバマに戦争のやり方を指南した

 米国オバマ大統領が今年のノーベル平和賞を受賞した。理由はこういうことらしい。「The Nobel Peace Prize for 2009」(参照)より。


The Norwegian Nobel Committee has decided that the Nobel Peace Prize for 2009 is to be awarded to President Barack Obama for his extraordinary efforts to strengthen international diplomacy and cooperation between peoples. The Committee has attached special importance to Obama's vision of and work for a world without nuclear weapons.

 ノルウェーのノーベル賞委員会がバラク・オバマ大統領に2009年のノーベル平和賞を授与すると決めたのは、国際外交と国民間協調を強化しようとする、彼のとてつもない努力に報いるためである。ノーベル委員会は、オバマ氏の核兵器なき世界に向けた展望と作業に特段の重要性を与えたことになる。

Obama has as President created a new climate in international politics. Multilateral diplomacy has regained a central position, with emphasis on the role that the United Nations and other international institutions can play. Dialogue and negotiations are preferred as instruments for resolving even the most difficult international conflicts. The vision of a world free from nuclear arms has powerfully stimulated disarmament and arms control negotiations. Thanks to Obama's initiative, the USA is now playing a more constructive role in meeting the great climatic challenges the world is confronting. Democracy and human rights are to be strengthened.

オバマ氏は大統領として国際政治に新環境をもたらしてきた。多国間外交を中心に置き直し、国連やその他の国際機関がなしうる役割を強調してきた。最も困難な国際紛争への対応ですら、対話と交渉を使うことが優先された。核兵器なき世界という展望によって、軍縮と武器管理交渉を力強く喚起してきた。オバマ氏の指導力によって、米国は世界が直面している重大な気候変動協議においてより建設的な役割を現在果たしている。民主主義と人権は強化されることだろう。

Only very rarely has a person to the same extent as Obama captured the world's attention and given its people hope for a better future. His diplomacy is founded in the concept that those who are to lead the world must do so on the basis of values and attitudes that are shared by the majority of the world's population.

オバマ氏ほどに世界中の耳目を集め、よりよき未来へ人々の希望を与えてきた人はごくまれである。彼の外交が基づく考え方は、世界の大半の人々が同意できる価値と態度を基礎としている。

For 108 years, the Norwegian Nobel Committee has sought to stimulate precisely that international policy and those attitudes for which Obama is now the world's leading spokesman. The Committee endorses Obama's appeal that "Now is the time for all of us to take our share of responsibility for a global response to global challenges."

108年もの間、ノルウェーに在するノーベル賞委員会は、世界の先頭に立つ広報官としての国際外交と態度をきちんと励まそうと求めてきたものだったが、それが今のオバマ氏に当てはまる。「今こそ私たちみんなが世界が直面する課題に世界規模で対応する責務を分担する時代だ」という彼の主張にノーベル委員会は保証人となろう。


 ちょっと意訳したが、こんな感じ。
 私が見てきたNHKなどの報道では、オバマ大統領が核無き世界を主張したのが理由だという感じだったが、こうして正式な理由を読んでみると、どっちかというとオバマさんを出汁にして、北の国ノルウェーのノーベル賞委員会が平和を主張してみました、といった趣向であって、核兵器無きことが特段に強調されているというものでもなさそうだ。
 ということで、これはこれから、オバマの戦争(参照)ことアフガニスタン戦争に増派・注力を行う矢先のオバマ大統領にしてみると、褒められちゃって、け、け、ケツが痒いぜ、みたいな話にもなりそうだ。
 立派な理想は理想として、現実は現実。その現実のほうには、もっと現実的な示唆がオバマ大統領には必要となる。そこでノーベル平和賞者の先達でもあり、泥沼のベトナム戦争のケツ拭いた経験を持つキッシンジャー氏がケツの拭き方をニューズウィーク「Deployments and Diplomacy」(参照)でたれていた。正確にいうと、ご教訓は3日付けなのでノーベル平和賞前のことだが、日本の民主党も賛同しているアフガニスタンのISAFにも関係するのが、滋味豊か。

The request for additional forces by the U.S. commander in Afghanistan, Gen. Stanley McChrystal, poses cruel dilemmas for President Obama. If he refuses the recommendation and General McChrystal's argument that his forces are inadequate for the mission, Obama will be blamed for the dramatic consequences. If he accepts the recommendation, his opponents may come to describe it, at least in part, as Obama's war. If he compromises, he may fall between all stools --- too little to make progress, too much to still controversy. And he must make the choice on the basis of assessments he cannot prove when he makes them.

米国マクリスタル国際治安支援部隊(ISAF)司令官による増派の要請は、オバマ大統領を残酷なジレンマに陥れている。もし彼が、この要請と、任務のためには軍事力が十分ではないとするマクリスタル司令官の議論を断るなら、オバマ氏は劇的な結果(敗戦)によって責めを負うこととなろう。もし彼が要請を受け入れるなら、すでに囁かれてもいるが彼の敵対者は「オバマの戦争」と大書するかもしれない。もしどっち付かずの妥協をすれば、椅子と椅子の合間に転げ落ちるだろう。進展するには武力は足りず、議論を収めるには話題が多すぎる。つまり、オバマ大統領は証明できっこない推測で決断をしなければならないのだ。


 現実、そういう時期に来ていることは、キッシンジャー先達のお諭しがなくても、米国で議論が沸騰していることでもわかる。どうすべきなのか。

This is the inextricable anguish of the presidency, for which Obama is entitled to respect from every side of the debate. Full disclosure compels me to state at the beginning that I favor fulfilling the commander's request and a modification of the strategy. But I also hope that the debate ahead of us avoids the demoralizing trajectory that characterized the previous controversies in wars against adversaries using guerrilla tactics, especially Vietnam and Iraq.

この難問はオバマ氏が大統領として逃れることができない苦悩ではあるが、だからこそ議論の賛否の両者からの尊敬に値する。十分な情報を得た私としては、第一に、マクリスタル司令官の要請を受け入れるべきだと、またオバマ氏の従来の戦略を変更すべきだと申し上げたい。しかし、同時に、私たちの眼前の議論によって、間違った道に進むことがないようにも望みたい。間違った道とは、ベトナム戦争やイラク戦争で見られたゲリラ戦の逆境における過去の論争を特徴付けた事柄だ。


 ベトナム戦争のケツを拭いたことでノーベル平和賞を受賞した先達キッシンジャー氏としては、オバマ大統領に増派はすべきだが、オバマが大統領選時代に熱弁していた戦略に固執するのはよしたほうがよいとしている。そして米国民にも、ゲリラ戦と国民世論の問題を提起している。ベトナム戦争を思えば、オバマ大統領の敵対勢力は世論となるだろう。
 この先もいろいろとキッシンジャー氏の議論が進むのだが、私が理解したかぎりでは、現状は増派しかありえないとしても、それによってオバマ氏が望んでいた理想の状態にはならないだろうし、その間、世論で出口戦略としての撤退の議論が起きるだろうが、それもまた大きな問題を起こすだろう、としている。つまり、アフガン戦争はイラク戦争以上の長期戦になるという腰を据えるしかないだろうし、長期戦としての体制を取るしかないということだ。短期の決戦は無理だろうという意味でもある。
 それにしても、そこまで重要な戦争なのだろうか。ノーベル平和賞的な美辞麗句でさらりとオバマ流に解決できないものか。

A sudden reversal of American policy would fundamentally affect domestic stability in Pakistan by freeing the Qaeda forces along the Afghan border for even deeper incursions into Pakistan, threatening domestic chaos.

アメリカの軍事方針が突然転換するとなれば、パキスタンの安定に影響を与えることになるだろう。つまり、アフガニスタン国境に沿ってアルカイダの武力を解き放ち、パキスタン国内にさえ進行し、パキスタンを混乱に陥れるだろう。


 キッシンジャー氏は仄めかしているだけだが、ようするにパキスタンの核兵器がアルカイダに渡るという意味だ。
 当然、これはインドにも影響する。そして玉突きのように生じる可能性のある危機に対して、近隣国やヨーロッパが中立を決め込む場合は、オバマ氏は単独でも自国の安全保障問題として突破しなくてはならないだろうと示唆しているようだ。

If cooperation cannot be achieved, the United States may have no choice but to reconsider its options and to gear its role in Afghanistan to goals directly relevant to threats to American security. In that eventuality, it will do so not as an abdication but as a strategic judgment. But it is premature to reach such a conclusion on present evidence.

もし(国際)協調が達成されないなら、米国には選択の余地はない。自国ができる可能性を再考することになり、米国の安全補償への脅威に直接関連する目標に向けて、アフガニスタンでの任務遂行に政策転換することになる。そうなれば事実上、放棄としてではなく、戦略的な判断としてなされるだろう。しかし現状のところ、その結論を出すのは速すぎる。


 単独行動による勝利というより、一種の撤退と読んでもよいが、それでも単独行動を取れということではありそうだ。
 そうした文脈でもういちど、北の国ノルウェーの平和主張の裏にある欧州の本音みたいなものを想定すると、なんとも、大人のほろ苦さがある。

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コメント

 誰かが何か言ったら尻馬に乗っていい恰好するのは自分で、結果が良ければそれで自分の株も上がるし悪ければ言わんこっちゃない(←何か言ったか?)で見捨てりゃいいだけですから、楽な仕事ですよ。欧州にとっては。

 まぁ、そういうやり方に煽られて下手に自分を見失わんことですね。あっそうフーンでやり過ごせれば、それに越したことは無いんですけどね。そこで思わず乗っちゃうと、下手こいた時に死ぬほど恥を掻くから。そんでもって思いっきり自己責任ですから。世の中そんなもんですから。

 まぁ、オバマさん的にどうするんだか知らんですけど、述べ~る賞の類は取り敢えず辞退しておくのが賢明かと思いますけどね。漫画で言うところの『アカギ』に出てくる浦部さん状態に成りかねませんから。そんなんなって指詰められてもアホなだけですから。

 人生釣り頃釣られ頃って、まさか国レベルで勃発するとは思いませんわなぁ。日本の阿呆とは比較に成らん、世界規模の阿呆が欧州には居るってか。そんな感じで御座いますね。

 世界は、思った以上に詰まらん論理で動いてんのね。

投稿: 野ぐそ | 2009.10.12 00:41

アメリカの兵隊さんたちは、カブール以外の場所で、きちんと機能しているんですか。

アフガンの夏や冬なんて、アメリカの兵隊たちが野営して忍耐できるのかね。2日もキャンプでテントで寝たら、みんな病気になるんじゃないの。カブールの、建物に住めて、上水道が完備しているところじゃないと、やわなアメリカ人は耐えられないのではないかと思います。

結局、ある程度有効なのは、定期的な空爆なのではないかしら。

投稿: enneagram | 2009.10.13 08:55

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