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2009.09.12

蛮勇なる鳩山氏の一手とフィナンシャルタイムズは称賛する

 政権交代という希代のギャンブルを勧めていた英国高級紙フィナンシャルタイムズだが、ご指導どおりの鉄火場となった日本にご満足してか、鳩山次期総理による温室効果ガス排出削減政策(2020年までに30%削減)も絶賛していた。いわく、蛮勇なる鳩山氏の一手(the Bravery of Mr Hatoyama's Move)を打ったというのだ。9日付けの社説「Japan’s green gift to Copenhagen(コペンハーゲンへ日本からの緑の贈答品」(参照)より。


But the toughness of such cuts serves to emphasise the bravery of Mr Hatoyama’s move. To criticise the DPJ for lacking a detailed roadmap is unfair when their man is not yet premier. That Japan is raising its game ahead of Copenhagen is to be applauded; other countries must now follow suit.

しかしこのような削減が困難であること自体、蛮勇なる鳩山氏の一手を強調するなによりもの証拠なのだ。鳩山氏が首相に就任していない時点で、具体案の欠落をあげつらうのは公正ではない。デンマークのコペンハーゲンで開催される第15回気候変動枠組条約締約国会議に先立ち、ゲームの醍醐味というものをトランプゲームのように釣り上げたことは称賛されるべきだ。今や他国も鳩山が出したトランプの絵柄に合わせなくてはならない。


 国際政治というのがトランプゲームのブリッジみたいなものだという感覚は、政権交代をギャンブルと見なすように英国流の感覚なのかもしれない。日本としては、二階俊博経済産業相による「極めて難しい」というコメントに賛同する人も少なくないだろう。また温室効果ガス排出削減を2020年までに30%削減することは1世帯につき年間最低でも36万円程度の経済負担になると、その意味を知ってから驚く人が大半だろう。NHKのニュースでは太陽光発電を現在の55倍に普及させ、次世代車は新車販売の90%、保有台数の40%にする必要があると報道していた。そう聞くと普通は無理なんじゃないのと思うのではないか。グリーンニューディールのような新産業が起きるとしても、実質国内総生産(GDP)を3.2%、失業率を1.3%押し下げるという試算もきついなと感じる。
 しかし、そうした困難こそが鳩山氏の蛮勇を輝かせるのである、というわけだ。フィナンシャルタイムズとしても困難がわかってないわけでもない。

Given Japan’s existing energy efficiency – far greater than the US – further cuts could be painful. Some business leaders, but not all, warn that growth could be crushed, with political consequences for the DPJ.

日本が現状すでに、米国とは比較にならないほどの高エネルギー効率を達成していることを考えると、これ以上の削減は社会的な痛みを伴ことになる。産業界の指導者は、全員がそうだというわけではないが、経済成長は破壊され、民主党にとっても政権維持は終わるだろう警告している。


 そこまでして日本の沈没を英国が望む、とかいうわけではない。よくわからないとも言えるが、フィナンシャルタイムズはコペンハーゲンで開催される第15回気候変動枠組条約締約国会議の成否に必死になっているようだ。しかし、なぜそこまでして地球を救いたいのか。地球を救うのは24時間分の愛だけでは足りないのか。

More importantly, Japan’s move will boost faltering momentum for a meaningful outcome to the Copenhagen climate summit in December, and remove an excuse for other nations, including developing ones, still dragging their feet on emissions’ targets.

より重要なのは、コペンハーゲン環境サミットの結果を有意義にする上で、現状のずるずるとしたダメダメ感を日本のこの一手がシャッキーンと立ち直させることだ。この一手を打てば、開発途上国を含め排出量基準について曖昧な態度を引きずっている諸国の弁解を封じることができる。

Two weeks ago, Jairem Ramesh, India’s environment minister dared the developed world to call his country’s bluff by offering more substantial emissions’ cuts. Mr Hatoyama’s pledge, while less than the 40 per cent demanded by China and India, and the conditional 30 per cent offered by Europe, is a welcome riposte.

二週間前のことだが、インドのジャイラム・ラメシュ環境相は、先進諸国の世界に向けて、インドならより多くの実質的な削減をするいうブラフ(はったり)をかましてきた。鳩山氏の宣誓は、中国やインドが求める40%削減や、欧州連合による条件付き30%削減より少ないとはいえ、好ましいしっぺ返しになっている。


 なるほどね。そういうことか。MD(ミサイル防衛)と同じだ。昔はスターウォーズ計画というばかばかしい冷戦戦略があったが、あれを真に受けてソ連が失墜したように、現下、資源国有化や資源囲い込みに武器をばらまいている開発途上国対、自由貿易によって立国しようとする先進諸国との冷戦における、ファンタジックなグリーン作戦というわけか。それならわからないではないな。さすが鳩山氏、視点がグローバルだ。
 しかし、だというなら、「極東ブログ:民主党公約、高速道路の無料化案について」(参照)でも触れたが、二酸化炭素を増やす民主党の高速道路の無料化案はどうよ、と思うが、いやあれはまずいよいねと、フィナンシャルタイムズも3日付け「Road to nowhere(何処へも通じない道)」(参照)で一応述べている。

“And the future is certain, give us time to work it out,” sang the Talking Heads in Road to Nowhere, a lyric that fits the Democratic Party of Japan well. After its crushing victory at the polls last Sunday, the DPJ deserves some time to work out how to turn a populist manifesto into a coherent plan for government, but in doing so it should modify at least one ill-conceived policy: the elimination of Japan’s highway tolls.

「未来は確かにある、僕らに実現させる時間をくれ」と「何処へも通じない道」で歌ったのはトーキング・ヘッズだが、この歌詞は日本民主党にふさわしい。先週日曜日の破壊的な勝利の後だから、ウケ狙いの政権公約を施策として一貫性もたせるべくねじ曲げるのには民主党とて時間がかかる。その過程で、最低でも、間違った政策は変更すべきだろう。つまり、日本の高速道路の無料化がそれだ。


 フィナンシャルタイムズは、高速道路無料化を断念すべき理由を4つも上げている。(1)現状より多くの人が利用するにはコストがともなう(先進国ではむしろ有料化の流れなんだぞKY)、(2)どうせ国債化するつもりんだろうが赤字をちゃんと見ておけ、(3)鉄道など他の輸送機関に悪影響が出る。そして4番目は。

Finally, there is the environmental cost. The DPJ’s manifesto promises to “strongly promote measures to prevent global warming”; unrestrained road use achieves the precise opposite.

最後は環境コストだ。民主党のマニフェストでは「世界の温暖化防止を強く推進する」と公約している。無制限の高速道路利用は公約とは真逆だ。


 フィナンシャルタイムズはどちらかというと英国視点なのでこの程度だが、米国的なフォーブスとなるともうちょっときびしい。11日付け「Japan's Carbon Conundrum(日本の二酸化炭素難問」(参照)では、前半でごく普通に、民主党の高速道路無料化案が温室効果ガス排出削減政策にそぐわないと説明した後、後半は下品な内容になっていく。

And then there’s a potential public relations time bomb ticking under Hatoyama. Rubber has financially underpinned the new prime minister’s political career, or more precisely tires. He owns perhaps as much as $70 million of shares in Bridgestone, the world’s leading tire maker and owner of Firestone in the U.S. His mother, Yasuko Hatoyama, daughter of the company’s founder, owns more.

鳩山氏はマスコミがばか騒ぎしそうな時限爆弾を抱えている。ゴム産業のカネが新首相の経歴を支えてきた。ゴムというのは、つまり自動車のタイヤだ。鳩山氏は推定では60億円相当のブリジストン社の株を保有している。ブリジストン社は世界の主要タイヤメーカーであり、米国ファイアストンのオーナーでもある。鳩山氏の母、鳩山安子は同社の創業者の娘であり、さらに多くの株を保有している。

The math is simple: more cars driving more miles burns more rubber. That Bridgestone stands to benefit would seem an obvious conclusion. There is no suggestion that the DPJ or Hatoyama is motivated by a need to help out the tire maker, but the Bridgestone connection has already become a murmur among the nation’s bloggers.

単純な算数がここにある。多くの自動車が長距離走ればタイヤは擦り切れる。儲かるのがブリジストン社だというのは明白な結論だろう。もちろん、民主党や鳩山氏がタイヤ産業への支援という動機を持っていると言いたいわけではない。しかし、ブリジストン社と鳩山氏のコネクションは日本のブロガーで間で噂になっている。


 あー、そうか? 鳩山氏の背景とブリジストンの関係は知っているが、日本のブロガーである私はそれが話題になっているなんて知らないな。この手の政界ゴシップ好きのどっかのブログかなんかで噂されているのだろうか。
 問題はしかし、その手のありがちな噂より、この手の話がフォーブスなんかに、ファイアストンの文脈で掲載されていることなんだが。

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コメント

EUは元々努力目標30%削減(本気で出来るとは誰も思っておらず単に環境産業振興しますよという話)なわけですから、「え、環境ビジネスに中国とアメリカ巻き込んでくれんの?日本が?ふーん、まあ頑張ってね」くらいの認識でしかないです
むしろ「経済度外視で不退転の決意で30%削減!!日本オワタ!!」みたいに騒いでることが斜め上とも

投稿: | 2009.09.12 12:22

鳩山兄はORが専門。その息子(現在ロシアで教鞭とってる)の研究テーマが交通と言われてるけど、これも多分OR。
何れにせよ親子とも交通と縁が深いのは、やはり…という話は2chでは出てます。

「目標」と「公約」の、日本と海外での言葉の重みは逆転してるのかもしれない。

投稿: ■□ Neon □■ | 2009.09.12 18:06

高速道路無料化により下道の渋滞解消で二酸化炭素排出量は減る、という試算もあるようですが(国交省)。まぁ推定にどこまで副次的な効果を取り入れるかによって結論は変わってくると思いますが、いずれにせよ高速無料→二酸化炭素増、というのは脊髄反射に過ぎるのでは。

投稿: 欣 | 2009.09.12 22:36

>地球を救うのは24時間分の愛だけでは足りないのか。

 足りないから24年分の愛を寄越せって言ってんでしょ、ポッポちゃんは。瀬戸際のポッポちゃんにならないうちに、どうにかせんと拙いんでないかな? 私は、どうでもいいですけど。

投稿: 野ぐそ | 2009.09.12 23:07

>高速道路無料化により下道の渋滞解消で二酸化炭素排出量は減る、という試算もあるようですが(国交省)。

都会はそうかもしれませんが、民主党は除外してますよ?

地方のロクに渋滞しない下道と、それなりにスイスイ走れる高速の両方がタダなら、普段車にあまり乗らない面々も乗り出すだろうし長距離走行も増えるだろう…というのは十分あり得る話だと思いますね。
事実、1000円で増えたんですし。

投稿: 亀ですが | 2009.09.21 16:24

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