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2009.09.07

米国オバマ大統領の人気低下原因としての医療保険改革

 米国オバマ大統領の人気がずるずると落ちている。識者には予想されていたことでもあり、驚きはない。いくつかの要因があるが、その一つは「極東ブログ:オバマの戦争」(参照)で触れたオバマの戦争ことアフガン戦争の行方が芳しくなく、米国民からの支持が落ちてきていることだ。オバマ政権としては同盟国から確たる支援が欲しいところだが、主要な同盟国はというと、現下微妙なことになってしまっていて心許ない。その他の要因には経済問題などもあるが、最大の下げ要因となっているのはオバマケアと呼ばれる医療保険改革問題だ。
 ごく簡単に言えば、日本のようによくできた医療皆保険を米国でも実現することだが、重税という負の側面が予想され国民から大きな反対にあっている。正確にいえば問題はもう少し複雑で、その複雑な側面に踏み込まないと、話題となっているペイリン前アラスカ州知事・共和党副大統領候補の言動も理解しづらいのだが、ここでは触れない。
 オバマ人気の低落と医療保険改革の関係について、まずメモ的に日本語で読める報道を拾っておく。まず象徴的なニュースとして、8月21日付けCNN「オバマ大統領支持率50%割れ、医療改革が不人気 フロリダ」(参照)より。


 米大学が20日に発表した世論調査によると、オバマ大統領のフロリダ州での支持率が、ついに50%を割り込んだ。
 調査は米キニピアック大学がフロリダ州の有権者を対象に実施。支持率は6月よりも10ポイント以上低い47%となり、不支持の48%に逆転された。
 支持率低下の原因は主に医療保険改革にあると見られる。オバマ大統領の医療保険改革を支持すると答えたのは38%のみ。同改革は制度の改悪になるとの見方が45%と多数を占めた。


 オバマ大統領の最近の支持率は、全国規模の世論調査でも50%台前半にまで落ち込んでいる。

 ワシントンポスト紙のネタをまとめた8月22日時事「「大統領判断正しい」5割切る=医療改革で不支持逆転-米世論調査」(参照)では、まだ支持率が多少高い。

米紙ワシントン・ポストは21日、ABCテレビとの合同世論調査の結果を報じた。それによると、オバマ大統領が「国のために正しい判断を下す」と答えた人は49%で、4月より11ポイントも下落した。
 オバマ大統領が目指す医療保険改革への反発などが影響しているとみられる。特に昨年の大統領選で勝敗を左右した無党派層の落ち込みが大きいという。
 また、「国が間違った方向に進んでいる」との回答は4月より7ポイント増え55%に達した。大統領支持率は同月のピーク時の69%から57%に下がった。
 世論を二分している医療保険改革に関しては、オバマ大統領の取り組み方を支持する人は4月より11ポイント低い46%で、不支持の50%に逆転された。

 医療保険改革で支持率を下げていることがわかる。
 現状、野党の米共和党との逆転までに落ち込んでいないことは、9月5日CNN「米政党の政策支持で民主党、共和党を依然上回る 世論調査」(参照)からもわかる。

 米国2大政党のうち、与党・民主党の政策が国を正しい方向に導いているとするのが52%、野党・共和党が43%を得たことが最新世論調査結果で4日分かった。CNNとオピニオン・リサーチ社が共同実施した。
 民主党の比率は今年5月に実施した類似調査から5ポイント減、共和党は4ポイント増となった。今年1月に就任したオバマ大統領の支持率は最近じり貧傾向を示しており、民主党の政策支持率の減少もこれと連動しているとみられる。
 ただ、共和党は大統領の支持率減少から大きな恩恵をまだ被っていない。

 口達者なオバマ大統領は事態打開のために異例の議会演説を9日に行うことになっている。これで不人気を乗り切ることになるのか見ものだが、難しいのではないか。ここで失点を重ねると来年の中間選挙にもひびく。
 医療保険改革が抱える問題は複雑で、また保険会社の仕組みも日本とは異なるのだが、大枠の問題としては明確だ。そこをワシントンポスト紙コラムニスト、ロバート・サミュエルソンが執拗に追求している。
 彼のコラムのいくつかは日本版ニューズウィークのサイトで日本語で直訳ではないが無料で読める。まず「オバマ医療「改革」の幻想」(参照)がわかりやすい。オリジナルは「Health ‘Reform’ That Isn’t」(参照)。

 バラク・オバマ大統領が描く改革プランには、みんなが満足するだろう。無保険者を減らす一方で、医療費の膨張を抑制し、未来の世代に財政赤字のツケを残さず、医療の質を高める......。こうした主張は人気取りのための誇張で、政治的な幻想にすぎない。そのばら色の約束が、真剣な国民的議論を封じ込めている。
 改革が抱える矛盾をオバマ政権は隠そうとしている。4~8年といった短期間で、無保険者を保険に入れて、なおかつ医療費の伸びを抑えることなど不可能だ。
 なんらかの抑制手段を取らない限り、保険加入者が増えれば当然、医療費は膨らむ。オバマは無駄をなくし医療費を抑える必要性をしきりに訴えているが、治療と医療費の仕組みを変えていくには何年もかかるし、痛みも伴う。
 例えば患者の負担が増えたり、医師や病院の選択肢が制限されかねない。しかし、オバマはこうした問題を軽くみている。実際には、どんな措置が有効かはっきりしないこともあり、なんら抑制策が取られないまま保険加入者の拡大が進むことになりそうだ。

 訳の対応が不明で「痛みも伴う」という変な表現もあるが、原文中"These claims are self-serving exaggerations and political fantasies. They have destroyed what should be a serious national discussion of health care."が重要だ。こと医療問題は、ばら色の理想を政治家が説きまくることで、国民が真剣に考えなくてはならない問題を破壊してしまうものだ。

 医療費の膨張がエスカレートすれば給与から天引きされる保険料が上がり、連邦政府や州・地方自治体の提供するその他の公共サービスの予算が圧迫される。税金は上がり、財政赤字は増える。
 オバマはこうした問題にも触れているが、その解決に真剣に取り組む気配はない。改革の幻想をばらまき口先でコスト抑制を唱えつつ、福祉を拡大するというお決まりのやり方を踏襲するばかりだ。メディアは改革という言葉をカギカッコ付きで使うべきだろう。この「改革」はむしろ事態を悪化させかねないからだ。

 国家支出についてのなんらかの抑制の仕組みに政治が取り組まないと、政治そのものが破壊されてしまうことへの懸念がある。
 なぜ医療費が膨れあがってしまうのか。これも米国ならではの医療費の積み上げ方式などいろいろ複雑な問題があるが、それでも大枠で見て最大要因となるのは、高齢者層の増加である。サミュエルソンの別コラム「ベビーブーマーという重荷」(参照)が扱っている。オリジナルは「Boomers Versus the Rest」(参照)。

 オバマ政権下で、世代間の緊張や対立が起きるのは避けられない。アメリカ社会は高齢化しつつあるからだ。65歳以上の高齢者は1960年には11人に1人だったが、現在は8人に1人。2030年までには5人に1人に増えると予想されている。
 だが高齢化社会では、若者より高齢者が政治的に優遇されるということは意外と認識されていない。アメリカ社会は今、未来ではなく過去に投資するというリスクを冒そうとしている。
 アメリカの自動車産業の窮状をみれば、それがいかに危険なことかがわかる。ビッグスリー(米自動車大手3社)は以前から、退職者にかなりの額の年金を支給し、その医療費の一部も負担してきた。だがこうしたコストは経営を圧迫し、若い労働者が犠牲に。退職者を守るために若い世代の賃金や福利厚生が減らされた。
 同じように、今後退職するベビーブーム世代に向けた公約をオバマが実行すれば、そのコストは社会を圧迫しかねない。増税が行われ、政府のプロジェクトの足を引っ張り、長期的な経済成長の鈍化を招く可能性もある。ここでもツケを払わされるのは若者だ。

 決めの言葉は、原文中の"What's less understood is that the political system favors the old over the young in this fateful transformation. We risk becoming a society that invests in its past."だろう。どの国家であれ、高齢者が優遇されるもので、その反動で若い人への投資がおろそかになり、国家的なリスクを招く。
 このコラムの結びはこうだ。

 高齢者は団結し、約束された権益を必死に守ろうとしている。一方で、政治に情熱はあるが焦点はばらばらの若者たち。どうやら若者の側に勝ち目はなさそうだ。

 しかし、常にそうであるとも限らないだろう。あるいは、米国のように出生率をある程度維持でき、かつ移民を受け入れて若い世代の人口を維持していく国家の場合は、それによってある均衡も維持できるだろう。
 日本のように早晩、高齢者と若い世代の均衡が大きく崩れると、国家の未来への投資の削減によるリスクより、もっと明白な社会的リスクが現れかねない。

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コメント

○○が描く改革プランには、みんなが満足するだろう。......。こうした主張は人気取りのための誇張で、政治的な幻想にすぎない。そのばら色の約束が、真剣な国民的議論を封じ込めている。
 改革が抱える矛盾を○○政権は隠そうとしている。なんらかの抑制手段を取らない限り、○○が増えれば当然、○○は膨らむ。○○は無駄をなくし○○を抑える必要性をしきりに訴えているが、○○の仕組みを変えていくには何年もかかるし、痛みも伴う。
*注:○○の中に勝手に日本国内の政党名や単語を当てはめてはいけません

投稿: | 2009.09.07 21:37

アメリカの保険制度もちょっとなぁ、というとこはありますが病みつつある日本の現状から見ると少しうらやましい。

民主党政権下で本当に社会保障分野の抜本的改革とやらが行われるとしたら、都市と地方間に世代間を大きく巻き込んだ所得再分配制度になるんですかね。

現在の社会保障と地方の制度の関係を考えると、必然的に地方も巻き込んでものすごい中央集権になりそうだし、それって昔の公共事業が国民のニーズに適合した結果に見えない事もない。

悲しい事ですが現役世代、特に若年層のフラストレーションは溜まる一方になるのでしょうねぇ・・・。

投稿: コーン | 2009.09.07 23:08

次回予告。もっと明白な社会的リスクが現れかねない。の巻

 こういう部分を言わずに放っておくから、時たま腐って残飯爺に、なる。たまには率先して言うと吉。

投稿: 野ぐそ | 2009.09.07 23:54

ちょっと付け加えると、オバマの支持率は無党派よりも民主党/リベラルの支持の低下に寄るものだと言える。

http://theplumline.whorunsgov.com/president-obama/major-factor-in-obamas-wapo-poll-slide-drop-among-dems-liberals/

リベラルからの視点ではオバマの医療保険制度のレトリックは共和党に妥協しすぎているとういう意見だ。元々リベラル達は医療皆保険が欲しいんで今の中途半端とされるpublic optionはぬるいと考えられる。コストに関しては、もちろん政府が養う分は高くなるが、国民一人当たりのコスト(世界でNo.1)はこれ以上は高くならないだろうと。最近のCBOの推計では逆にコスト削減になると報じてますね(もちろん予備調査だが)。

http://www.tnr.com/blog/the-treatment/exclusive-early-cbo-score-public-plan-its-good

でも一番リベラルにとって腹立たしいのがpublic optionさえも医療制度に含まないという恐れ。選挙前はあれだけ改革と叫びながらホワイトハウスに入るとコロッと変わる矛盾(とういうより何をするか全然明らかではない)。加えて、Senateの医療改革案は共和党のOlympia Snoweに任せてる。おいおいという話だ。

まぁ水曜日にオバマのスピーチがあるんで意向が少しはっきりするでしょう。

投稿: apeescape | 2009.09.08 05:57

マイケル・ムーア監督の"Sicko"?

日米だけでなく、ドイツでも、医療保険は社会問題なんだそうです。

故ピーター・ドラッカー教授は、医療保険制度がどの国も崩壊の危機にある最大の原因は、どの国でも19世紀の社会を前提に保険制度が構築されているからである、としています。

製薬産業が成熟産業になってしまった、という社会前提に立って、大学の化学系学問の学科と製薬会社と病院と医療行政のありかたを再検討すべきなのでしょう。いろいろな政治的駆け引きは避けがたいところなのだろうけれど。

投稿: enneagram | 2009.09.08 06:37

アメリカの軍事費は世界一ですから、
それを国民皆保険に回せば簡単なんですが、
すでに大昔にトルーマン大統領が指摘していたように、
軍産複合体という強大な敵と真正面から戦わなくてはなりません。

すでに国内製造業の多くが多国籍企業主導で海外に移転し、
残存する製造業の多くは軍関係の兵器製造業が多いことを、
考えるとかなり厳しいのではないでしょうか。

アメリカは既に構造的・会計的に常時戦争をして、
兵器の製造・消費を継続しなければお金が回らないような
特異な構造になってしまっているのです。
悪い意味でトルーマン大統領の懸念が当っている訳です。

オバマが真の改革者なら、海外の米軍を撤収させ、
第二次大戦前のモンロー主義にまで戻ればいい訳ですが、
そうなると軍産複合体やそれを資金的にバックアップしている
国際金融資本家が困るので、前ブッシュ大統領やチェイニ―を巻き込んで行われた自作自演のテロが911であったと言われています。

全ては金融と情報を自由に制御できるまでに肥大化した、
国際金融資本家の匙加減一つということです。
悲しいことですがこれが現実です。
そしてオバマ自身も選挙戦で様々な思惑を持つ団体から献金を受けて大統領になりました。そのような人物が本当に国民の為の政治を行うと考えるほうがファンタジーです。
膨大な資金を集められない人物しか大統領選に出れないような現在のアメリカのシステム自体が、そもそも間違っているのです。

日本人も以上のことを対岸の火事と思わず、よく考えてほしいと思います。

投稿: ポン太 | 2009.09.08 19:00

コメントの中で触れられていないのですが、アメリカの医療制度を崩壊させている元凶のひとつが、過度の懲罰的補償制度にあるんではないでしょうか。

医療側は、裁判で医療過誤と認定された場合、莫大な補償金を支払わなければならないため、必ず医療過誤保険に加入していますが、大抵のケースが医療側の過失と認定されるため保険料が年々高騰し、その保険料が医療費に転嫁されることで、医療費そのものが上昇しています。

アメリカでは、80%もの人が自宅で最後を迎えたい、と考えているにも関わらず実際には80%もの人が病院で最後を迎えているのは、最善の医療措置という極めてあいまいな基準に対して、遺族感情に付け込む裁判ゴロとも言うべき弁護士の跋扈を許すアメリカ法曹界も問題点でもあるはずです。

一方で、医療保険の会社は、高騰する医療費を可能な限りやすい保険料で出来る商品を作り出しますが、大抵の場合、保険料支払いに上限があったり、例外規定や、一度利用すると格段に保険料があがるなどの高リスク商品となっています。

一度の大病で、中産階級からホームレスにまで転落したケースも発生しています。

大本をたどると結局今日のアメリカ経済を支えている金融資本に行き着く訳ですから、医療制度改革という小手先の改革で、事態が収集することはないでしょう。

現在のアメリカの常識、アメリカの世界における位置全体を見直さない限り、破滅のふちに向かって爆走し続けるだけのような気がします。

投稿: はぐれ雲 | 2010.03.22 17:39

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