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2009.09.25

オバマ大統領の言う、核兵器なき世界の実現にともなう困難に幻想を抱かないということ

 米国時間の24日、国連安全保障理事会議長国である米国のオバマ大統領が提案した首脳級特別会合で、核兵器のない世界を目指す決議案が全会一致で採択された。演説冒頭、オバマ大統領は「核兵器なき世界の実現にともなう困難については、なんら幻想を抱いていない(We harbor no illusions about the difficulty of bringing about a world without nuclear weapons.)」と述べた(参照)。核兵器なき世界に幻想を持つべきでもないし、それは非常な困難を伴うらしい。さて、どんだけ?
 ニューズウィーク国際版副編集長ジョナサン・テッパーマン(Jonathan Tepperman)氏の記事「Why Obama Should Learn to Love the Bomb(オバマはなぜ爆弾を愛するべきなのか)」(参照)が参考になる。同記事は日本版9・30日「核兵器廃絶は世界の平和を崩壊させる」にも微妙に掲載された。微妙な話はあとで。
 今回の安保理会合の採択のように核兵器廃絶は世界の人々の願いであり、その廃絶までは無理であるとしてもせめて核の拡散防止は重要ではないか、と普通考えるものだ。しかし、同記事では、その前提は違うかもしれないとしている。突飛な疑念ではない。


 核兵器が世界を危険なものにしているとは限らない---今ではそう示唆する研究が増えている。むしろ核兵器は世界をより安全な場所にしている可能性がある。
 (中略)
 オバマの理想主義的な訴えが実現する可能性は低い。本気で世界をもっと安全にしたいのなら、米政府にはもっと重要で実行可能な(あるいは実行すべき)措置がある。「核なき世界」という理想論は非現実的であり、ことによると望ましい目標でもない。

 核兵器の存在が世界の平和に役立つという研究は、2つの経験則に基づいている。(1)1945年以降一度も使用されていない、(2)核兵器保有国間では通常の戦争すらなかった。
 この経験則、あるいは歴史はどのように説明付けられるのか。核兵器が世界和平和に貢献しているとみなす学者にそれほど難しい理屈があるわけではない。核兵器を持つ双方の国はそれによって勝利する見込みもないし、そのわりに被害や失うものが大きすぎる、という、よく言われてきた程度のお話にすぎない。しかしそうはいっても、インドとパキスタンが核を保有するようになってから両国がそれなりに平和的な関係になったという事実は、多分にそのお話に真実味を与えてしまう。
 狂気の独裁者に支配された核保有国はどうか。同記事では、それでも最終的に理性が働くだろうとしている。そこまでくるとホントかねとは思うし、オバマ大統領の理想論と同程度の非現実性が感じられなくもない。
 核拡散やテロリストに核兵器が渡る危険性はどうか。同記事はあっさりとそれも少ないとしている。保有国にしてみれば、核兵器は国の宝であり、しかも核兵器というものは扱いづらいからだというのだ。その話も、私などは疑問符が付くが、まったく不合理な説明というものでもないだろう。
 結局、核兵器と世界の現実というのはどうなのか。
 同記事の議論は楽観的に過ぎるとしても、「オバマは世界に核廃絶を訴えているが、この試みが挫折するのは目に見えている(Still, it's worth keeping in mind as Obama coaxes the world toward nuclear disarmament—especially because he's destined to fail.)」という同記事の指摘は、残念ながら、ただの現実だろう。というのも、米国の口舌はさておくとしても、ロシアも中国も核放棄の意思なんかない。むしろ非核兵器によって軍事的優位が保てるという米国の戦略上の演出者であるオバマ大統領に対して、「それなら旧兵器の核兵器でがんばるしかないよ」という態度だ。近く天安門広場でもその手の核兵器を全世界の人が品評することになる。それに加えて北朝鮮を初め、疑惑のミャンマーを含め、途上国も核兵器による武装を望んでいる。
 現実問題として途上国に核兵器保有の意思をもたせないようにしないなら、「核の傘」を提示するしかない。オバマ政権の外交を担うクリントン米国務長官は7月、タイ、プーケットで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で、イランが核保有するなら、米国は中東地域に「核の傘」を提供し、湾岸域の軍事力を増強すると言明している(参照)。核兵器廃絶をうたいあげるオバマ大統領と、核の傘を提供してもよとするクリントン米国務長官に矛盾はないはずで、一体全体、どう矛盾がないのかを理解することが米国を理解するということだし、現実の世界を認識することだ。
 ところで。
 米国による「核の傘」の話は、ニューズウィークの記事でも言及されている。日本版の翻訳はこう。

しかし、急激な核拡散は考えにくい。ヒラリー・クリントン米国務長官は最近、イランが核保有国になれば、アメリカの「核の傘」を中東に広げると示唆したばかりだ。

 該当するオリジナル記事は、たぶん、ここなんだろう。

But the risks of a rapid spread are low, especially given Secretary of State Hillary Clinton's recent suggestion that the United States would extend a nuclear umbrella over the region, as Washington has over South Korea and Japan, if Iran does complete a bomb.

米国政府が韓国と日本を「核の傘」で覆っているように、米国がこの地域に「核の傘」を延長するとヒラリー・クリントン米国務長官が示唆していることを特段に考慮するなら、イランが核爆弾を完成させたとしても、急速な核拡散のリスクは低い。


 日本版ニューズウィークの記事では、日本と韓国を覆う米国による「核の傘」の部分の訳が抜けている。ちょっとした訳抜けをしてしまうという点で人を責められたものではないが、日本版で日本の話がうまい具合に微妙に抜けているのは、どうなんだろうか。Newsweek本誌編集部も日本版の記事については、もう少しモニターしたほうがいいかもと思えるような記事が増えた印象もあるし。

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コメント

「どう矛盾がないのかを理解することが米国を理解するということだし、現実の世界を認識することだ。」とあるので、ここで思惑を言うのも憚れますが、「曖昧な表現」などと揶揄が飛ぶような部分かもしれませんね。この先を書かない理由も分かるります。極めてデリケートな問題だということだと思うので、今後を見守りたいです。(それでも、ここまでよく書いてくれたと思います。)

投稿: godmother | 2009.09.25 18:11

 アレなんでないの? 核武装を国外の敵(仮想敵)に対する抑止力にするんじゃなくて、国内の不穏分子を統制・抑止するためのスーパーパワーとしてご利用するなら、有効ってことなんでないの?

 外向きに使って揉め事の種にするんじゃなくて、内向きに使って自浄作用力としなさいな? と。そんな感じ。

投稿: 野ぐそ | 2009.09.25 23:53

故ピーター・ドラッカー教授が、経済の(再分配の)平等について話をしています。

最初の著書「経済人の終わり」なのだけれど、宗教が社会にとって最大の重要事でなくなって初めて信教の自由の獲得が可能となり、政治権力の取得が社会にとって最大の重要事でなくなって初めて、参政権の平等の確立が可能となった。経済における再分配の平等が確立達成できるためには、なんらか別の分野での自由と平等のほうが社会にとって経済より重要な関心事になって、はじめて、経済における再分配の平等は可能になる、とのことです。

核兵器が、抑止力として最高の実力行使でなくなって、はじめて、おそらく核廃絶も可能となるのだろうと思います。

酸素と窒素とケイ素と水素と塩素とナトリウムさえあれば、核化学技術を用いてどんな元素でも自由に作り出せる、そして、ガンマ線もエックス線も中性子も高効率で吸収できる素材も開発される、さらに、ウラニウムもプルトニウムも核化学技術でヘリウムにまで分解できる、まあ、そういう社会になって、核兵器が無力化すれば、核兵器廃絶も可能かもしれません。でも、そういう時代には、そういう技術がまた新たな厄介な問題をたくさん生み出すはずです。

投稿: enneagram | 2009.09.26 10:27

そのニューズウィークの日本語版の記事読みました。けっこう説得されてしまった。(マジでもうちょっと核拡散が進んだ方が世界が平和になるのかも?とか)

『狂気の独裁者に支配された核保有国はどうか。(中略)そこまでくるとホントかねとは思うし、オバマ大統領の理想論と同程度の非現実性が感じられなくもない』

についても、これ僕には妙に説得的だった:

『しかし金正日とアハマディネジャドは、かつてのソ連や中国の指導者よりも恐ろしい暴君なのか。フルシチョフはアメリカを葬り去ると脅した。中国の毛沢東は57年にアメリカとの核戦争について、「人類の半分が死んでも……世界全体が社会主義になる」から悪い事ではないと言い放った。
 北朝鮮とイランはテロを支援しているが、ソ連と中国もそうだった。自己破壊願望について言えば、ソ連のスターリンと毛沢東は約2000万人の自国民を死に追いやった張本人だと、ノートルダム大学のマイケル・デシュは語る。
 しかしソ連も中国も、最終的には「核による自殺」をおもいとどまった。おそらく現代のならず者国家も同じだ。アハマディネジャドは危険な道化師だが、イランはイスラム体制の存続に関わる問題では常に理性的で現実的な判断を下してきた。
 79年の革命後、イランは1度も戦争を仕掛けていない。必要ならアメリカやイスラエルとの取引にも応じ、サダム・フセインが始めたイラクとの戦争に勝てないと悟ると、和平を受け入れた。
 一方、北朝鮮は小さく貧しい「家族経営」の国で、侵略された過去がある。彼らにとっては体制の存続が最優先であり、好戦的な姿勢を強めても、やがて必ず態度を変えてくる。イランも北朝鮮もひどい圧政国家だが、自己破壊願望があるようには見えない。』

 まぁこの記事も、まがりなりにも選挙が機能しているのイランと北朝鮮を同一視してアハマディネジャドを「独裁者」よばわりするのは粗雑なんじゃないの、とも思いますが。(なんとなくだが北朝鮮は同様の独裁国家だった中国と比べてももっと危険な香りがする気が。中国は毛沢東から世襲してないし。)

投稿: odakin | 2009.09.27 11:35

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