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2009.09.03

[書評]命の値段が高すぎる! - 医療の貧困(永田宏)

 倫理的に考えれば命に値段が付くわけもないのだから当然、書名の「命の値段が高すぎる! - 医療の貧困」(参照)は比喩である。実際はというと、後期高齢者医療制度にかかる費用が莫大で日本は高齢者医療を維持できるのだろうかという問題だ。

cover
命の値段が高すぎる!
医療の貧困
 本書の趣旨にかかわらず、この問題は非常に深刻でこれからの政治に大きな影を投げかけるはずだった。

 高齢者医療費が高すぎて、もはや国民には払えない。高齢者も現役世代も、これ以上の負担には耐えられそうにない。だからいって、このままじっとしていては何も解決しない。
 ではいったいどうすればいいのか。
 いくつかの選択肢がすでに用意されている。(中略)
 しかしその前に、医療制度の「抜本的解決」はありえないことを理解しておいていただきたい。
 どの政党も医療制度の「抜本的解決」を訴えている。ところが中身はお粗末なものばかりで、具体的な解決案はほとんど示されていない。国民は待てど暮らせど具体策が出てこないため、イライラを募らせている。
 しかし最初から「抜本的解決」などありえない。政治家はそのことを熟知している。だからこそ、どの政党も具体案を提示しないのである。

 国民はイライラに耐えられず、堪え性なく、民主党が示す「抜本的な解決」を選んでしまった。
 民主党政権の成立により、後期高齢者医療制度は廃止される。民主党のマニフェストにはこうある。

後期高齢者医療制度の廃止と医療保険の一元化
 後期高齢者医療制度は廃止し、廃止に伴う国民健康保険の財政負担増は国が支援します。国民健康保険の地域間の格差を是正します。国民健康保険、被用者保険などの負担の不公平を是正します。
 被用者保険と国民健康保険を段階的に統合し、将来、地域医療保険として、医療保険制度の一元的運用を図り、国民皆保険制度を守ります。

 後期高齢者医療制度は廃止される。かくして「後期高齢者医療制度」という問題も消失する。これ以上の「抜本的な解決」はない。
 しかし、対応する現実が消えたわけではない。高齢者の医療は、若い人の医療とは異なり短期に治療して終わる種類のものではなく、特に統計的に見て75歳以上の場合、慢性型疾患で長期にわたって支出が続く。その現実はどうなるのか。
 現実への対応は本書が指摘するように、四通りしかない。(1)最低福祉・低負担、(2)低負担・中福祉、(3)中福祉・高負担、(4)高福祉・超高負担である。
 麻生総理は、中福祉・中負担と言ったがそのチョイスは存在しないと国民に見抜かれて否定された。
 民主党のマニフェストを普通に読むと、高齢者医療は「保険」として国民健康保険に組み込まれ、その財源には公費を充てるということのようだ。
 もともと高齢者医療費をどう負担するかというのは、本書も指摘しているように、三つの選択しかない。(1)公費、(2)曲がりなりにも公的保険、(3)自由診療・混合診断の拡大、である。小泉改革では2番の公的保険維持が選ばれた。民主党政権下でも、「保険」の枠組みは保たれているかのようだが、実質は1番目の公費ということになる。
 その結果到達する未来は、(4)高福祉・超高負担になるだろう。現状ですら、負担のなすり合いだったのに、それがさらに重くなる。

 増え続ける高齢者医療費を負担するのは誰だって嫌なのである。高齢者本人たちもそう思っている。負担のなすりあいは、結局のところ誰も納得できないところで決着したが、現役世代により強く負担を強いる形となった。

 その納得も破局し、さらに公費に裏付けられることで、さらに現役世代により強く負担を強いる形になる。
 民主党政権により「後期高齢者医療制度」の廃止後、高齢者医療はあくまで「保険」制度の枠組みの国民健康保険となりる。そして、それではカネは足りないからどぼどぼと公費、つまり税金をつぎ込んでいく。
 現在でも公費をつぎ込んでいるのだが、それではあまりに無理なことになる、というので小泉改革の一環として後期高齢者医療制度が検討されたものだった。
 しかしもし、民主党政権が現実にぶちあたって、この問題が国民に重税ではなく、再考という形で戻されるならどうするのだろうか。本書はそのときに大きな指針となるだろう。

 足掛け五年にわたって医療費について、とりわけその負担の配分について、あらゆる議論が徹底的に行われた。したがって誰が政権をとろうとも、小泉時代に提案された案のどれかに類似した医療政策に収束してしまうだろう。しかも選択肢がごく限られていることも、ご理解いただけたはずだ。

 問題を現実的に理解するなら、選択肢はそれほどない。

 政党の中には今でも高齢者の保険料を下げ、自己負担率も下げ、さらに介護と年金を充実させるといった夢のような政策を掲げているところもある。よほど勉強不足で状況認識ができていないか、さもなければ所詮はマニフェストと割り切っているかのどちらかであろう。その点ではむしろ小泉内閣のほうが、はるかに現実的だった。

 国民は負担の痛みから現実に直面して、小泉内閣のほうが、はるかに現実的だったなと向き合うときが来るのだろうか。

 結論としては、元に戻すよりも新しい制度を考える方が簡単だし、無駄も少ない。政党の中には世論に迎合して「後期医療制度を廃止して元に戻す」と宣言してしまったころもあるようだが、あまり意地を張らず、現実的な解決策を模索するほうがよさそうだ。

 新しい制度を考えるほうがよいことになるとしても、大筋では小泉改革の継承となるだろう。その時代に誰がきびしい政治を率いるだろうか。

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コメント

>その時代に誰がきびしい政治を率いるのだろうか。

 そんな都合のいいヤツは居ないし誰も率いないので、銘々勝手にやってください。特に、弁当翁さんはリバタリアニズムさんですから、どうぞご自由に。お金は、持ってるんでしょ? わしゃ知らん。

 …って誰かに言われて終了なんじゃないですかね?

 まぁ、私(野ぐそ)の場合は、言っても反感買うだけで影響力は無いし、言わなければ尚のことどうでもいいので、どうでもいいしどっちでもいいんですけどね。

 拙宅でチマチマやってる「ねこ福祉(笑)」くらいが、ベストなんじゃないですか(笑)? 月2000円で生きてください。後は、自己責任。

投稿: 野ぐそ | 2009.09.03 22:43

>小泉改革では2番の公的保険維持が選ばれた。
小泉さんは、むしろ、3番の"自由診療・混合診断の拡大"を目指していたような気がしますが、どうなんでしょう。
麻生さんあたりだと、2番でもしっくりくるんですが・・・。

投稿: kym | 2009.09.03 23:44

75歳で切っちゃったのが上手くなかったんじゃないですかねえ
65歳以上を高齢者医療制度ってことにして定年後はみんなそこに入るってすればこんなにハレーションはなかったんじゃないかなあ、と

投稿: fs | 2009.09.04 00:35

>(1)最低福祉・低負担、(2)低負担・中福祉、(3)中福祉・高負担、(4)高福祉・超高負担である。

基本的に 福祉<負担 となるわけですか。
2だけ逆転しているのはどうしてでしょう?

投稿: red-sun | 2009.09.04 03:59

病院等医療機関の外来と、調剤薬局での支払いは、5000円までは、SuicaやPASMOなどを使えるようにして、さらに、ポイントも使えるようにするように、医療関係機関に、助成して、設備投資させることで、何パーセントかくらいは、医療の効率化はできませんかね。

それから、規制緩和して、研修制度を充実させて、看護士や介護士でも、ある程度までの医療行為を許すこともできませんかね。

それと、大学病院と総合病院は、全部、統一情報ネットワークに組み込めませんかね。

ついでに、厚生労働省主導で、主要医家向け製薬会社のさらなる大合併もできないものですかね。

保険制度以外の仕組みも、まだまだいろいろいじる余地はあると思います。

投稿: enneagram | 2009.09.04 08:40

この本読みました。日本は西側先進国ではないですね。メディアと医療に関する限り、完全な利権談合独裁共産主義国ですね。いずれ財政破綻してしまうでしょう。

次世代は医者とマスコミと団塊老人だけは絶対許さないでしょうね。

投稿: 氷河期世代 | 2009.09.04 09:57

「低福祉-中負担」へとチョットづつ切りつめて行くしかないと思うし、それが日本風な有り様だったと思う。取り敢えず先に「中-高福祉」へとばらまくのもひとつの手では有ると思うけど、その後無駄に逆ブレするんだから、無駄なコストを国民に強いることになる。

そういう変化を国民が望んだと思えばしょうがないけど。
今なお日本が長寿国更新してるのに、もったいない様な気がする。

投稿: nao_cw2 | 2009.09.04 12:25

そういえば、公費で社会保障を賄う場合の問題は、保険方式に比べて抑制圧力に屈しやすい、というのがありましたね。
イギリスなんてまさにそうで、抑制されまくったあげく、医師の逃散が相次ぎ、現場は崩壊。結局、更なる公費がつぎ込まれてたけど、元の状態には戻らないようで。
アメリカの二の舞を避けて、イギリスの二の舞になるという、冗談にもならない状況ですかね。

投稿: kym | 2009.09.04 21:15

上の氷河期世代さんへ。
医者は恨まないでやってもらえませんか?医療の最前線で戦う医師の方々だと、過労死寸前どころか本当に過労死が出るのも日常茶飯事です。(特に田舎の公立病院)
死ぬような、どころか死人が出てまで働き続けて、恨みまで買われたのは報われなさ過ぎます。
もっとも、私もマスコミと団塊老人に対しては恨み骨髄ですが。

投稿: 別の氷河期世代 | 2009.09.06 16:23

団塊の世代の方が後期高齢者になることには日本人の死生感自体が変わっていきそうな気がします。だって今ですら入院ベッドは90%以上の満床率なのに、そのころそもそも入院できるベッドなんて足りないでしょう。

投稿: no-surrender | 2009.09.07 15:04

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» ない袖は振れない:命の値段が高すぎる!―医療の貧困 [本読みの記録]
命の値段が高すぎる!―医療の貧困 (ちくま新書)作者: 永田 宏出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2009/07メディア: 新書 今の医療の問題は一つ。 高齢化で医療費が増えていく一方で、健康保険料・税収の伸びは限界に来ている。 収入と支出がバランスしていないのだ。 ... [続きを読む]

受信: 2011.01.05 23:02

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