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2009.08.27

「日本よ、キリギリスになれ」の前提がわからない

 ピーター・タスカさんの時事コラムは共感して読むことが多いのだが、日本版ニューズウィーク9・2に掲載された「日本よ、キリギリスになれ」は、奇妙な違和感が残った。タスカさんってこういう考えの人だったっけ。
 標題の「日本よ、キリギリスになれ」は、イソップ寓話の「アリとキリギリス」の連想から、アリ型貯蓄志向の日本とドイツに、キリギリス型消費志向のアメリカやイギリスを対比させ、現下の世界的景気後退では、キリギリス型の消費志向が望ましく、アリ型貯蓄志向の日本とドイツは経済的なダメージを受けるという話だ。リードも「いま必要なのは『アリ型』を捨てる新たな国家戦略だ」となっている。英語の標題は「The Penalty for Saving (貯蓄の罰)」とより直裁だ。
 日本経済の活性に必要なのは、内需だ、というよくある話なのだが、これが民主党政権への期待に結びつけられている展開になって、え?と驚いた。タスカさん、民主党に経済発展の期待をしていたの?、まさか、いつもの悪いジョークでしょ? と思ったが、そうでもない。けっこうマジっぽい。
 そんなことあるんだろうか。民主党政権だよ。現状公開されている公約を見ても、重税で日本経済ボロボロにするとしか想定できないのだが……いやいや、そういうときこそ、多様な意見を聞くべきだな。
 とはいえ、民主党政権のバラマキによって内需が喚起させられるというベタな展開はないよね、と思って読み進めると、ベタ。


 民主党は出生率を上げるために子供1人当たり月額2万6000円の手当を支給する公約を発表した(フランスではこうした政策が功を奏し出生率の高さはヨーロッパで1位になった)。これは良案だ。長期的には高齢化が住宅価格と一般的な経済的信頼感の行方に悪影響を及ぼしているからだ。

 私もこの民主党のバラマキ案には賛成だが、それほどには出生率の向上にはつながらないだろうと思う。平均的な収入の若者夫婦を想定し、30万円づつ年収で区切って見て、その区切りに子供の数が対応する、とまでシンプルな話ではないにせよ、30万円ほど収入アップしても子供の数には大した影響はないだろう。
 それに、「金がねぇで結婚はしねぇ方がいい」を一生懸命批判する人たちだったとて、バイト同士で結婚して子供ができて夫婦合わせて年収400万円なんとかという場合、民主党政権下では国民年金だけで年間60万円しょっぴかれるんだよ。収入アップじゃなくて、逆になるとしか思えないのだが。
 という以前に、少子化のネックはカネの問題というよりも、ネックになっているのは、育児補助全体の体制の不備だろうと思うが。あと、「高齢化が住宅価格と一般的な経済的信頼感の行方に悪影響」というのと、子供手当の関係はよくわからない。
 どうしちゃったんだろ、タスカさん、というのが率直な気持ちなのだが、民主党への期待を述べたところで唸ってしまった。結論からいうと、正しい期待だと思うのだけど。

 次期政権の課題は多い。まず日本銀行を味方に付けてインフレ目標を設定し、金融緩和を行わなければならない。

 いやまったくそう思う。そう目立ったインタゲなくてもいい、2%でいいんじゃないかとリフレ派でもない私は控え目に思うのだが、その政策を掲げる政党が皆無。ラーメン食いたいのにイタリアンレストランのテーブルに座らされている感じだ。どうでもいいよ、この衆院選挙という感じをぐっと抑えるのだけど、タスカさん、それが可能だと思っているのだろうか。
 あるいは、マイルドインタゲの意識を持つ市民が根気よく民主党に問い掛けるべきだろうか。それは、もう、あれ、日銀総裁選びの民主党の振る舞いといった過去の話はすっかり水に流して……。
 もう一点も賛成なのだが。

また2%未満の国債利回りが長年示してきた事実、つまり財政赤字は民間貯蓄で相殺されるから問題にはならないという点を国民に訴えるべきだ。

 そう思う。ただ、ちょっと懸念もあるにはある。でも、大筋でそう思う。ところが、この話、民主党鳩山代表はまるでわかってないようなのだ。日経新聞「民主・鳩山氏、新規国債「増やさない」」(参照)で、民主党政権では、補正予算を含めて44兆円超に膨らんだ新規国債発行額を、今年度より削減するらしい。ダメだよ、全然、お話にならない。せめてリーマンショック以降、麻生総理が持ちこたえて財政政策して、政権交代ギャンブルもいいかな、なんてようやく暢気なことが言えるご時世になったというのに。
 なんくせ付けているみたいだが、一番考えこんだのは、でもそんな話ではなかった。こんな話だ。民主党政権に対して。

 税負担の比重を不況の一番の犠牲者である一般家庭から企業に移し、信頼性の高いセーフティーネットを用意して国民の生活不安に対応する仕事も待っている。

 セーフティーネットはそうだと思うが、企業にもっと課税しろという主張はどうなんだろ。いや欧州と比較するとそうかもしれないとわからないでもないし、どっかの本物の野党も永遠に主張しそうなことなんだが、これは現下の日本で正論なんだろうか。もちろん、中小企業ではないだろう。日本の大企業について、もっと課税すべきということなんだろうか。
 と、エントリ書いてみると当初の思惑とは違い、タスカさんのこの意見でもよいのかも知れないなという気になってきたので、おしまい。

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コメント

懐の痛まないのは、国会議員の皆様だけですか??
子作りを期待されている若い世代の給与から税金引かれまくり、子育て資金が貯められないんですが。何だかんだアリのDNAなんで、外食や消費財の購入を我慢し貯蓄するんです。

結局、派遣の人や低賃金者は貧乏なままじゃないですか??

投稿: menekiotoko | 2009.08.27 21:13

インタゲはみんなの党が物価安定目標を設けると公約に記載してますよ

投稿: 若月圭太 | 2009.08.27 22:37

出生率を上げるのは簡単ですよ。

日本を第二次世界大戦終了時のように焼け野原にすれば良いのです(笑)まあ、実際に戦争することは、今の時代、想定できないので、経済的に焼け野原にすれば良いか...
あと、日本の進学率をおもいっきり下げる。

そうすれば、出生率はどこかで反転して上がり始める。

投稿: あり | 2009.08.27 23:00

たとえば子供1人あたり月々10万の補助が出るとしても、それが理由で成立するカップルなんて想像できないな-。
既に存在しているカップルを結婚へ後押しする効果はあるでしょうけど、一人身の男女にはどうなんでしょうかね。
国の補助があるからその気になっても、先ず相手が必要で、且つその気になってもらわないとどうしようもないわけで。

「稼ぎが無い→少子化」という世論は、一人身で仕方ない根拠になっており、むしろ「積極的未婚者」を強力にバックアップしている側面の方が強いんじゃないですかね。負のスパイラルを引き起こしているような気がする。

投稿: 39old | 2009.08.27 23:28

>そう目立ったインタゲなくてもいい、2%でいいんじゃないかとリフレ派でもない私は控え目に思うのだが、その政策を掲げる政党が皆無。

みんなの党の政策には、物価安定目標の導入が含まれています。
>> 5. 物価安定目標を設定し、危機脱出後の成長軌道を確保。

投稿: das licht | 2009.08.27 23:33

ミクロな(マクロもですが・・)政治経済用語や概況に疎いので、こうしたとこでコメントするのは控えがちなんですが、でも国民一般はむしろそういうものかもしれないと思い感覚的に。
民主党に政策面で自民との差を見つけるのはほとんど難しいとは思っていて、でもそれでも政権交替に期待するのはほとんど政治家の既得権益や特定企業との癒着に嫌気がさしたとも言えるし、逆に言えばもうそうした手法が通らない世の中になってしまったというより絶望的な観測もある気がします。だからいずれにしても変わらないなら変わらないまでも変化を望むのではないでしょうか?
話がスレから遠いように思えますが、民主党のマニフェストにはいろいろ不透明なところがあり、具体策の難点以上に、実際何をやるのかわからないといったところが率直な気持ちではあります。
だから、今の格差の中で年収400万円家庭が60万円負担というのはむしろ現実的にすら思えるのですが、しかしならばなぜ消費税の段階的運用とか、高級消費税を別格にして食料品の課税を抑えるとかいうプランはできないのかと素人考えでは思ってしまいます

投稿: Tattaka | 2009.08.28 01:30

みんなの党(と新党日本)は、経済が判ってるっぽいですけど、
それゆえに究極的には
「政治が直接国民に出来ることってあんまりないから! 規制緩和でパイを
でかくするのは政治で頑張るけど、収入増えても格差はなくならないかもね!」
という主張(マニフェストではいろいろ取り繕ってますが)なので、
今後とも選挙で伸びることは無いでしょう。民主の前原氏や自民党の
中川(秀)氏も近い考え方だと思いますが、この手の考え方は特定層への
利益誘導が行えない(あえていえば財界に有利かな?)政策なので、
国民全員が経済学部出身にでもならない限り、永遠に泡沫でしょうね。

投稿: 通りすがり | 2009.08.28 01:35

よーするに老人が壊滅すればいいんじゃねとかずっと思ってるんですけど駄目ですかね

投稿: rabi | 2009.08.28 02:33

投票日は目前ですけど、最後の最後までこうして情報をもらってありがたいことです。ここの読者は選挙結果がどう出ても、どのような日本になっても人のせいにだけはしないのではないかと思います。選挙の結果はもう見えたも同然なので今まで示唆されてきたことを念頭に、わかりきっていたことで人と対立しない自分でいたいです。

投稿: godmother | 2009.08.28 04:24

法人税は
日本>アメリカ>欧州諸国
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=90003008&refer=jp_politics&sid=as2VI04NwIUI
地方税も含めた法人実効税率だが、日本は40.69%(東京)と、ドイツの29.83 %、フランスの33.33%、韓国の27.5%、中国の25%などと比べ飛び抜けて高い水準にある。

投稿: どらどら | 2009.08.28 07:33

インフレターゲットみたいな金融政策で急場しのぎではなく、インフラの話をしてほしいなあ。

私なんかは、首都圏の三環状(首都高環状線、外環道、圏央道)とか、第二東名・名神とか、東京大阪間のリニア新幹線とか、羽田空港の埋め立てと拡充・新滑走路建設、北海道新幹線と九州新幹線の完成とか、そういう話のほうが関心があるのだけれど。

経済浮揚の最大対策は、経済的に有意義なインフラ整備に投資することだと思います。これは、政権を担当するのが自民党でも、民主党でもおなじこと。

投稿: enneagram | 2009.08.29 07:54

>そう目立ったインタゲなくてもいい、2%でいいんじゃないかとリフレ派でもない私は控え目に思うのだが、その政策を掲げる政党が皆無。

幸福実現党の政策にインフレ目標・量的緩和・0金利が明記してありますよ。
http://www.hr-party.jp/inauguration/agenda2.html
■金融政策として、3%程度のインフレ目標値を設定します。ゼロ金利の導入や、さらなる量的緩和を速やかに進め、潤沢な資金を市場に供給します。

投稿: 飯馬太郎 | 2009.08.29 16:08

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