« 民主党政権で社会保険庁は存続だが日本年金機構は廃止の件 | トップページ | 民主党公約、高速道路の無料化案について »

2009.08.18

フィナンシャルタイムズ紙の民主党政権観

 海外では日本の衆院選をどう見ているだろうか。それほど広く見回したわけではないが、ワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙の社説ではまとまった意見を見ないように思うなか、フィナンシャルタイムズ紙社説は昨日発表の日本の国内総生産(GDP)に関連付けて、少し意外な言及をしていた。
 フィナンシャルタイムズ紙社説は日本の政治経済に言及することが多く、春頃から「総選挙すべきだ」「低所得者のポケットに現金をつっこめ」など、どちらかといえば民主党のような発言があった。しかし今回の社説「Japan’s recovery: not all it seems(日本の回復:期待とは違う)」(参照)では、民主党政権への期待と取れないこともないが、やや不吉な印象を与える予言のようだった。


 The DPJ is partly doing what opposition parties are supposed to do - promising the earth in order to get elected. But if it really is headed for victory, it will need to work quickly to persuade Japan’s public - and the markets - that its sums add up.
(民主党は野党がしそうなことをしている。つまり選挙に勝つためなら出来もしない約束をするということだ。しかし、同党が真に勝利したいなら、急ぎ日本国民と市場に向けて、帳簿の辻褄は合うと説得すべきだ。)

 If not, it risks an electoral backlash in upper house elections next year. Almost as bad, bond markets could wobble.
(できないなら、来年参議院選挙で逆風に遭うだろう。悪いことには、債券市場も不安定になるだろう。)

 That could further complicate a recovery that already is not all that it seems.
(そうなれば、現状ですら期待はずれの経済回復がいっそう混迷するだろう。)


 フィナンシャルタイムズとしては、曖昧に書かれてはいるが、民主党のバラマキ公約に裏付けはないと見ているようだ。いわゆる財源の問題では、短期的に埋蔵金など当てにできたとしても、恒常的な財源にはならないということなのだろう。特に社会保障の財源が問題になる。
 今回の選挙では、世論調査などを見ると、なぜなのか社会保障が一番の関心に上がっている(参照)。具体的には年金問題が焦点にもなりそうだが、これがなぜ問題なのかというと、端的に言えば、カネが足りないからだ。では、どのくらい足りないのか。
 「バカヤロー経済学」(参照)の先生によれば、300~400兆円で、率だとあと、7~8%増加ということらしい。強調部分本文ママ。

今の保険料率は一〇%ちょっとだと思うけど、あと七、八%必要。議論の中心は、この七、八%を上げられるかどうかなんだがけど、もし国力が十分だったら簡単に上げられる。でも、経済成長率は下がっているし、少子化も進んでいるでしょ。これは痛いんですよ。結論から言うと、経済成長を遂げるか少子化対策が進まないと、年金は大問題になるの。

 イメージとしては現状の社会保険料が二倍弱くらいになるということかと思う。払わない人が多いと言われている国民年金だと月額3万円くらいになるのではないか。そしてこれが民主党案だと実質国税化されることになり、徴収の問題は改善される。企業負担も増えるかとも思うが、年金システムは一元化されるので企業負担としては逆に減るのかもしれない。
 随分と重税感があるがそれが先進国の常態だとも言える。日本の社会保険負担率と租税負担率は2009年で38.9%だが、ドイツだと52%(2006年)、フランスだと62.4%(2006年)、スウェーデンだと66.2%(2006年)ということなので(参照)、欧州・北欧型の福祉国家を志向していくとなれば、社会保険の費用が7~8%アップするイメージとだいたい合う。安心できるがその分現状よりは重税をという国家のイメージになるだろう。しかも、経済成長が予想されない状況では重税感はきつい。
 それを国民が合意しているかどうか。また年金は先の「バカヤロー経済学」の先生も指摘しているが基本的に働く世代から高齢者への仕送りといった本質のもので、総体として見れば高齢者に富が偏在している日本でどの程度の理解が得られるかといった不安もあるだろう。
 フィナンシャルタイムズ紙社説に戻ると、そのあたりの日本国民の合意は得られていないだろうということだが、おそらくその指摘は正しいのではないか。
 問題はその先で、同社説の予言的な部分だ。民主党政権は来年7月の参院選挙で逆風に遭い、債券市場は不安定化(bond markets could wobble)するという指摘をどう見るかだ。私の直感的な印象としては、堪え性のない国民の現状では来年参院選挙ごろには経済政策面からの失墜感が可視になるのではないか。その波及としての債券市場の不安定化だが、これは端的に日本の国債の不安定化だろう。
 日本の国債は他国と異なり日本国内で購入されているので暴落による危機はないだろうが、不安定化によって長期金利上昇や円安になるかもしれない。円安になると、リフレと同質の効果が発生するので、輸出産業が盛り返し、それなりの経済に安定するかもしれない。冗談のようだがその意味で、民主党政権によって日本経済の評価がむしろ早急に下がるほうが、重税国家ではあれ産業打撃が少なく安定した衰退が期待できるかもしれないし、そうなると、来年の参院選での逆風は弱まるだろう。

|

« 民主党政権で社会保険庁は存続だが日本年金機構は廃止の件 | トップページ | 民主党公約、高速道路の無料化案について »

「経済」カテゴリの記事

コメント

世界的需要減が、今の不況のトリガーなので円安になっても輸出が復活するとは思えません。
それに今円安になったらスタグフレーションにもなりかねないと思います。

投稿: あかさたな | 2009.08.18 20:38

細かいことですみません。引用されているよりも前段、前々段にあるこのあたりからは、民主党政権への期待があるように見えませんでした。

Yet much of the DPJ’s economic programme remains sketchy, improbable or downright unrealistic.

The money it is promising to shower on low-income families, parents, farmers (and anyone else who might vote for it) is meant to come from pruning waste. But, with election pledges costing around 3.5 per cent of GDP, that is fantasy.

投稿: elg | 2009.08.19 16:11

細川内閣のときには、世界中、新政権大歓迎だったような気がします。

今度の政権交代は、外国も少しさめているわけですね。

日本が経済成長できるかどうかは、中国やインドネシアが経済成長できるかどうかに連動していると思われるので、一国の問題ではなく、東アジアの問題と捉えたいと思います。

経済成長の問題も、少子化の問題も、現時点では、地味に携帯電話の性能を向上させていくことくらいしか対策はないような気がします。まあ、ハードより、ケータイ向けコンテンツ配信(たとえば、辞書機能、計算機能)のほうをもっと高度化高級化すべきだとは思います。

投稿: enneagram | 2009.08.20 05:41

タイからです。
英字紙バンコクポスト紙では、ロイター電の記事を載せていて、民主党が政権を握るであろうと言う論調でした。ただ、そこで紹介された写真は、にこやかな笑顔で聴衆に手を振る麻生首相の写真で、それだけを見ると自民党が優勢であるような印象を受けました。しかも、写真の背後には日の丸の小旗を振る聴衆がアクセントとして写っていました。民主党の国旗切り裂き事件の後だけに、これは強烈な印象を受けました。
つまり、民主党は望まれて選ばれる分けではないのです。
そして、経済・金融系のブルームバーグの配信した写真を選んだことが、意味深長であるとも思いました。

投稿: gurigurimomonga | 2009.08.21 00:10

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: フィナンシャルタイムズ紙の民主党政権観:

« 民主党政権で社会保険庁は存続だが日本年金機構は廃止の件 | トップページ | 民主党公約、高速道路の無料化案について »