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2009.08.10

リオ・ティント社事件、雑感

 ブログは生成されつつある歴史の同時代人証言でもあり、この間書こうと思って書き落としていたこといえばリオ・ティント社事件だった。私はこの分野に詳しいわけでもないが、いずれ日本が向き合う大きな問題の象徴でもあるように思えるし、率直に言って昨今の衆院選騒ぎを見ているとそれは手ひどく向き合うことになるようにも思えるので、雑感を記しておきたい。
 当面の問題は先月の5日に遡る。世界第二位の鉄鋼石会社でもある、英豪系の資源大手リオ・ティント社の上海事務所従業員4人 --- 価格交渉に当たる豪州籍スタン・フー(Stern Hu)氏ほか部下の中国籍の3人 --- を中国公安当局がスパイ容疑で拘束した。当局側での容疑は、国家機密に相当する鉄鉱石の価格交渉の機密情報を盗むことで中国に経済的な損害を与えたことと、中国鉄鋼関係者に賄賂を渡した汚職というものだ。当局はフー氏が交渉相手だった中国鉄鋼メーカーから数名の身柄も押さえた。
 どのような機密情報であったか、また賄賂はどのようなものであったが当然問われる。報道されているところでは、フー氏率いるリオ・ティント社が鉄鉱石価格交渉のために関連者に賄賂を渡し秘密文書を得たとのことだ。それには交渉の上限価格、全中国の鉄鋼メーカーの在庫量、生産コストなどが記されていたとも言われる。
 リオ・ティント社を含め国際社会は納得していない。特にこの問題に深く関わることになったオーストラリアの外相は、容疑の証拠は提示されていないと強く反発している。現状の見通しでは、この問題は解明されることはないだろう。今日のロイター「リオ・ティントは6年間スパイ行為働いた=中国国家機密保護局」(参照)の報道でもまったく進展は見られないというか、悪化している。
 問題が中国国家の中枢が関連する国家性を帯びていることから、別の理由が噂され、通常なら陰謀論的な説明と言われそうなものだが、そちらのほうが通説になりそうだ。「NHKアジアを読む」の「リオ・ティント社員拘束 中国政府の意図は」(参照)でも取り上げられていたが、背景には中国が世界第二位の鉄鋼会社リオ・ティント社を資源囲い込み世界構想の上からも獲得したいとする意図がある。中国がスーダンなどのアフリカの石油を囲い込むのと同様、鉄鉱石も安値で中国国内に安定調達したいのだ。
 リオ・ティント社は昨年までその株の9%を中国国有資源会社中国アルミ(チャイナルコ)が保有していたが、世界経済危機もあり、さらに18%までの引き上げを要請していた。これを受けて、チャイナルコへは中国四大国有銀行が融資することになっていた。端的に言えば、実質中国政府が英豪系の資源大手リオ・ティント社の筆頭株主となれば、経営を欲しいままにすることができる。
 親中と見られるオーストラリアのラッド政権のことだから、リオ・ティント社を実質に中国に売り渡すだろうとも見られていたが、意外にもというべきか、政権交代で左派的なシフトをしたかに見えたオーストラリア国内で与野党からリオ・ティント社を国益の点から売り渡すべきではないとの反対の声があがり、世論としてもオーストラリア国民9割以上もの反対に会った。結果、リオ・ティント社株主総会で最高幹部が更迭され、中国資本受け入れはお流れになり、代わりに英豪系資源大手のBHPビリトン社と提携することになった。当然、中国は怒った。そこで、今回のリオ・ティント社の社員拘束はその報復であると見られるようにもなった。
 もっともこの手のことでへこたれる中国様ではないわけで、産経新聞「中国が豪資源獲得へ再び触手、政治的揺さぶりも」(参照)が伝えるようにオーストラリア資源獲得への投資は活発に継続されそうだ。また、リオ・ティント社出資破談後に判明した主な買収・出資案件だけで10件にのぼり買収額は3兆円超に及んでいる(参照)。資源の乏しい日本はこうした問題に免れていてよかったと安堵するようでは日本が持つ資源のなんたるかについての認識がたりないといえるかもしれない。
 話はむしろ逆に考えてもよい。今後もオーストラリア資源を確保したいと中国政府が望むなら、世界から敵視されるようなスパイ事件を仕立て上げるのは愚かなことではないのか? リベラルな立場と見られるニューヨークタイムズも社説「Bad Business in China」(参照)も筋の悪さを指摘していた。


Beijing should not assume that it will pay no price for its thuggish behavior. It increases the cost of doing business in China, making foreign businesses more cautious about investing and deploying executives there, and it may fuel resistance to investments by Chinese state-owned firms in other countries. That could ultimately prove expensive.
(中国政府はヤクザまがいの行為をしてただですむと思うな。外国企業は投資や幹部職員の現地派遣に警戒することで、ビジネスコストが増大する。さらに海外の中国国営企業による投資への反感に火をつけることになる。とてつもなく高い代償となるかもしれない。)

 それがわからない中国でもあるまいと言いたいところだが、特に中国派遣の職員が突然逮捕されるといった話はニューズウィーク「Risky Business」(参照)を見ると珍しいことではない。
 それにしてもリオ・ティント社員拘束は国際社会を騒がす大きなニュースになり、この手の中国国内の大騒ぎはたいていは内部の権力闘争を暗示していることが多いが今回はどうか。当然ながらそういう視点での読みも出てくるのだが、こちらの筋はまだ見えてこない。見えてくると怖すぎな代物だったりするかもしれないし、日本も影響を受けざるを得ないかもしれない。

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コメント

在庫良は、在庫量のtypoですか?

投稿: hoge | 2009.08.11 01:58

鉄鉱石なんていう資源は、今後、どんどん戦略性の低い市況商品中の市況商品になる資源だろうと思われます。

リオ・ティント社を相手に揉め事を起こすことが中国にとって、政治的に重要な問題であるということが、まだまだ、中国は、後進国の部分を多分に残していることの証明であるような気がします。

今後の政治的に戦略性が高い高機能商品は、きっと、ガリウム-砒素タイプの半導体ではないかと思われます。それも、超伝導体ジョセフソン素子が実用化してしまえば、シリコン型半導体と同様、市況商品化してしまうと思われます。

中国が、ガリウムやビスマスで国際的事件を起こしたら、そのときこそ、アメリカにとっても、ロシアにとっても、もちろん日本にとっても、中国は巨大な真の脅威であろうと思われます。

投稿: enneagram | 2009.08.11 08:19

hogeさん、ご指摘ありがとうございます。修正しました。

投稿: finalvent | 2009.08.11 08:51

中央「アジア」は、ヨーロッパなんだって。
今やアジアは巨大なガザ地区。
白人に押し込められても、内部抗争をするパレスティナ人のよう。内部構造も白人の仕掛けだったりして。

投稿: PK | 2009.08.11 13:13

自分の商売ですから、この件については色々書けます。

中国が、今現在、それこそ資源を買い漁ってますけど、総額三兆円といわれるどの案件を見ても高値掴みです。私は、一体どうやったらあれで採算が合うんだろうと、唖然としながら眺めるしかないですね。特に今回の鉄鉱石にまつわる一件は馬鹿げています。いや逮捕したことじゃなくて、株を取得すること自体についてです。いまや過剰投資によってそれこそドバイ並みに傾きかけているリオ・ティントに出資するって一体なんです?逆にオーストラリアが反対したからという名目で出資を取りやめたほうがよいのに、何であそこでああいう行動に出るかなというのが、相場を知らないバカ資源ナショナリストらしいところでしょうか。

投稿: F.Nakajima | 2009.08.11 22:59

 中国同様膨大な人口を抱えるインドでは、斯様な事件は起きませんね。カースト制度が徹底しているからですかね? 民度や文化の違いですかね?

 日本の中小企業の店主(…の中でも筋の悪い人)も似たようなもんだから中国だけがアレとは言いませんけど、単純に人口規模が多い分だけ「日本では成り立たない商法が成り立っちゃう」土台があるだけに、日本で色々問題視されがちな「扱いにくい巨大個人商店」の更に強烈版が、跋扈しやすいんですよね…。傍目で見ててもそう思えるくらいだから、内実凄いことになっているんでしょうね。

 中国政府の国際的な対応が色々アレなのは、「そういう連中が下部組織や庶民界にやたら居るから」が、要因としてありそうな感じ。上がどんなに頑張っても、国として更生するのは無理なんじゃないか。それがカントリーリスクですか。

 翻って日本でも、昨今のお祭り騒ぎで民主党さん優勢のようですけど…今さら疑似中国になるのは嫌だなぁ…という感じ。「おっちゃん、このパンなんぼ?」「30万円…だけど特別に300円(←30円じゃないの?)に負けてやろう。有り難いと思え。今後も末永く付き合え。裏切ったら殺す」…を地で逝かれたら、堪らんですよ。

 剣呑剣呑。

投稿: 野ぐそ | 2009.08.11 23:47

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