« [書評]新しい労働社会―雇用システムの再構築へ(濱口桂一郎) | トップページ | 民主党の行政改革は、ようするに小泉改革じゃないのか »

2009.08.05

北朝鮮支援によるミャンマー核施設疑惑メモ

 ミャンマーの核施設疑惑については国内で報道されていないわけでもないし、現状ソースは一つしかないので、確実なことは言えない。ただ北朝鮮を注視してきた経緯からすると、以前のシリアの核施設疑惑などからして、なるほどなと感慨が漏れるところでもある。簡単にメモだけはまとめておこう。
 国内報道はないわけではない。例えば、朝日新聞「ミャンマーに「極秘核施設」証言 北朝鮮協力 豪紙報道」(参照)より。


オーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙(電子版)は1日、ミャンマーからの亡命者の証言として、ミャンマー軍事政権が極秘に原子炉とプルトニウム抽出施設を北朝鮮の協力で建設している、と伝えた。北部の山中の地下にあるとされ、5年以内の原爆の開発を目指しているという。

 報道はシンガポールから。なぜシンガポールからというあたりのほうがニュースかもしれない。読売新聞「ミャンマー、北の支援で核施設建設…豪紙報道」(参照)は普通にシドニーからで、もう少し詳しい。

 ミャンマー陸軍の核関連部隊に所属していた元将校と、軍政の指示で北朝鮮との核関連物資の取引に関与していた企業の元幹部の2人が亡命先のタイで、豪州国立大の研究者らに証言したという。それによると、両国の協力開始は9年前にさかのぼり、秘密施設はミャンマー北部の山に掘ったトンネル内に建設されている。同紙は、北朝鮮には、今後寧辺(ヨンビョン)の核施設を完全閉鎖した後も、ミャンマーの秘密施設で核技術を温存する狙いもあると指摘している。

 日経新聞「ミャンマー、14年に核武装も 豪紙報道、北朝鮮が協力し核開発」(参照)もシドニーからでさらに補足がある。

 ミャンマーにはロシアから導入した実験用原子炉があるが、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けており、軍事転用はしにくい。軍事政権は地下にこの原子炉とほぼ同じ大きさの別の原子炉などを整備。ロシアの技術者が操作方法などを教えているという。

 東京新聞「『核爆弾保有へ建設』 ミャンマーが極秘施設か」(参照)はマニラからだがさらに記事は厚い。

 証言したのは、核関連部隊に所属していた軍将校と、軍事政権のビジネスや核取引にかかわった人物。二人からは個別に話を聞いており、調査にあたった同大学のデズモンド・ボール教授は「お互いに会ったこともなく、存在も知らない二人がほぼ同じ話をした」と強調し、信ぴょう性の高さを指摘した。
 タイの安全保障専門家は同紙に対し、「証拠を検証する必要があるものの、地域の安保体制を根本から変えてしまう可能性がある」と警告している。
 クリントン米国務長官は七月下旬、タイのアピシット首相と会談した後の記者会見で、北朝鮮からミャンマーへの核技術移転の可能性に強い懸念を表明。六月には、核関連物資を積載した疑いで米国が追跡した北朝鮮船舶「カンナム」がミャンマーに向かった後、引き返していた。

 「クリントン米国務長官は」以下の件は東京新聞の独自の記載のように見えるが、実は元記事に含まれている。
 中国はこれを韓国メディア経由で知ったと「<北朝鮮>ミャンマーに極秘で核施設を建設中-中国報道」(参照)は書いているが、やや不可解。

軍部の最高指導者・タン・シュエ将軍をはじめとした、ミャンマー軍権力者と極めて近い関係にあった亡命者2人の証言を得て、豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドが報じた。中国では、韓国メディアの報道を通じ、3日付で中国日報ネットが伝えた。

 韓国中央日報は社説「北・ミャンマーの核コネクション、強く警戒すべき」(参照)で扱っている。経緯を知るものとして冒頭で述べた感慨に近いものがあるようだ。

もちろん両国の核コネクションが最終的に確認されたわけではない。しかし北朝鮮の前歴を踏まえれば、可能性は高いとみられる。北朝鮮がイラン・パキスタンとミサイルや核開発のため協力してきたのはすでに確認済みの事実だ。
 またシリアの原子炉建設を支援したことも定説と受けとめられている。

 さらに当然の推察を加えている。

 北朝鮮が実験した核爆弾はプルトニウムの特性上、10年以上過ぎれば爆発の可能性を再検証しなければいけない問題が生じる。しかし北朝鮮は寧辺(ニョンビョン)の原子炉が老巧化しすぎて、プルトニウムを長期間にわたって安定的に生産するのは難しいものとされている。これをミャンマーを通じ補完する可能性がある。
 また製造も簡単で核実験が要らず、長期間保有できるウラン核爆弾を製造するため、ミャンマーと協力する可能性もある。この場合、韓国にとっては直接の脅威となる。またタイ、ラオス、中国、インド、バングラデシュに隣接した独裁国家、ミャンマーの核開発はアジア全体の安保を危険に陥らせる可能性がある。

 これは重要な推察で、「極東ブログ:第二回北朝鮮核実験、雑感」(参照)でも触れたことに関係する。
 このくらいの考察は日本のジャーナリズムもすべきかとは思うが、すでに見てきたように、報道はされただけマシという程度。
 ところでオリジナルはおそらくこれ、シドニー・モーニング・ヘラルドの1日付け記事「Burma’s nuclear secrets」(参照)だろう。インターネット時代なので、特段海外の特派員を使わなくてもオリジナルを読むことができる。
 現状ソースはこの一点のみなのだが、読むとわかるように、実際には誘導されたとは思いがたい二つのソースからなっているので信憑性は高いようだ。ただし、疑惑には背景もあったので、そのフレームから物語りが意味づけられたという可能性はないわけでもない。これは同記事にも含まれているが、今回の疑惑に先行するクリントン米国務長官のエピソードだ。ロサンゼルスタイムズ「concerned about suspected N. Korea-Myanmar military ties」(参照)などで読むことができる。

They have voiced growing concern recently over suspected military links between North Korea's reclusive communist government and the rulers of Myanmar, which is also known as Burma. Some in Washington suspect that the Pyongyang government may be selling Myanmar nuclear weapons systems as well as conventional arms.
(北朝鮮の秘密主義共産主義政府とミャンマー(旧ビルマ)支配者の間の軍事関連疑惑は最近さらに注視されていると語った。北朝鮮政府はミャンマーに通常兵器同様核兵器システムを売却するかもしれないとの疑惑が米国政府にはある。)

 現状大きな問題になっていないのは、まだそれほど差し迫る問題ではないこと、ミャンマーを支援している中国の扱いがめんどくさいからだろう。
 なお、最新のタイ側のニュースだが、時事「「トンネルは防空施設」=ミャンマー核開発問題で証言-タイ軍高官」(参照)より。

ミャンマーが核兵器製造施設を建設していると報じられた問題で、タイの英字紙バンコク・ポストは5日、核関連の貯蔵施設とされたトンネルについて、タイ軍高官が「米軍の空爆に備えた巨大な貯蔵庫であり、ミャンマーが核兵器を保有しようとしているとの確たる証拠はない」と語ったと伝えた。

 シリアのときもそうだが、公式に騒ぐ前に自主撤去みたいにする方向の合意がどっかにあるのかもしれない。もちろん、この疑惑がまったガセの可能性もないわけでもない。
 現実問題としては、アジア諸国が核化しないためには、中国様のご威光に仰ぐという路線もないわけではない。そもそもの北朝鮮と中国の関係を見ているだけでも、そのストーリーが浮かび上がる。例えば、 アン・アプルボームの「Shadow Boxing in Pyongyang」(参照)のような。

China has ambitions to replace the United States as the dominant power in East Asia.
中国は東アジア支配を米国に取って代わろうとする大望をもっている。

 「そして、中国の核の下で日本族は平和にすごしましたとさ」という未来があるのかもしれない。

|

« [書評]新しい労働社会―雇用システムの再構築へ(濱口桂一郎) | トップページ | 民主党の行政改革は、ようするに小泉改革じゃないのか »

「時事」カテゴリの記事

コメント

 日本の歴史に例えるなら、アメリカは鎌倉幕府型で中国は室町幕府型という感じ。

 各地の守護?を最後まで統制できなかった足利将軍の哀れな末路を思うに、中国さんも相当気合入れて事に臨まない限り、その轍を踏むであろうことは想像に難くないですね。

>「そして、中国の核の下で日本族は平和にすごしましたとさ」という未来があるのかもしれない。

 …は、あるかもしれないけど一時的なものかもしれませんよ。嘗ての中華帝国が中華以外を遂に統御できなかった歴史を、今またやり直すだけかもしれませんし。日本にも、中国の覇権には遂に従わなかった歴史がありますしね。

 すべては陛下がおわす限り…なのかも。

投稿: 野ぐそ | 2009.08.05 22:53

なんてすごい経過なんでしょう。いつもの事ながらですが、こういった情報のつながりをまとめてもらって楽チンしている私は、反省するようなレベルではないので、ただありがたいに尽きます。

日本の政治家の常識で中国や北朝鮮相手に一本とるような外交折衝なんてできないでしょうし。中国が日本には一番がつんとくる国だし、桑原桑原。

灯台下暗しでもって、暗い事をいいことに日本という国はボーっとしている感じがします。
核のことでは、中国の北朝鮮に対するこれまでの態度できな臭い感じもあるので、今後もこれは追って注意を払って見ておく必要があります。ボーっとニュースを聞いてちゃ駄目ですね、私も。

投稿: godmother | 2009.08.06 07:01

これが、クリントン元大統領が訪朝した真の原因というこころですか?

北朝鮮の船舶を徹底的に臨検する法案を廃案にした日本の民主党は、ミャンマーの現政権にも強い縁故があるの?

ミャンマーの経済というのは、何を売って外貨を稼いでいるのか?外貨も、ほとんど人民元なのか?

投稿: enneagram | 2009.08.06 10:04

逆に、漢民族が統治した少数民族の悲惨な状況を見てるとねえ…日本も日本人が少数派になる時代が来るんじゃないでしょうか

投稿: anho | 2009.11.28 06:55

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 北朝鮮支援によるミャンマー核施設疑惑メモ:

« [書評]新しい労働社会―雇用システムの再構築へ(濱口桂一郎) | トップページ | 民主党の行政改革は、ようするに小泉改革じゃないのか »